第7話 魔の森中域の王達の頼みを聞こう(1)
翔太達は魔の森――浅域に入った。浅域は比較的何事もなく済んだ。それもレイナが大人しくしていたからだ。エンカウントしたスライム、ゴブリン、大蜥蜴も無難に【小狐丸】で切り刻んでいた。その結果新たに判明した事が3つ程事ある。
第一が、【進化の賽子】の能力の詳細だ。スキルを持たないスライムとゴブリンを倒しても何も起きなかったが、大蜥蜴をレイナが【小狐丸】で縦断したとき、空中に小さな賽子が出現し地面に落ちた。出た目は一。案の定、何のスキルも取得はできなかった様子だ。レイナは存外悔しがっていたが、仕組みはわかった。
賽子の出現は精神感応金属であるオリハルコンによって為していると推測される。すぐに賽子が煙のように消滅したのもこの金属の特性だろう。もっとも、武器を作った翔太自身、賽子と進化の関連性のメカニズムは不明である。
第二が、【不死賽子】の能力だ。これはフィオンが【村正】でゴブリンを横一文字に薙ぎ払ったときに起きた。
【進化の賽子】のときと同様、空中に賽子が出現し地面に落ちる。ダイスの目は六を示す。すると、二つに横断されたゴブリンの上半身と下半身が突如くっついて立ち上がる。
横断されて死んだはずの魔物がまるでビデオの巻き戻しのようにくっついて立ち上がる姿を見るのは正直心臓に悪い。恥ずかしながら、小さな悲鳴を上げてしまった。フィオンも同じらしく幽鬼のような青白い顔をしていた。
一応アンデッドゴブリンを《解析》スキルで解析してみる。
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ステータス ゴブリン
レベル 62
才能 62
体力 64
筋力 61
反射神経 59
魔力 0
魔力の強さ 0
知能 32
EXP
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(…………チ、チート過ぎる。何このゴブリンの強さ? 大体、アンデッドなのに知能があるの? 自分の意思を持っているという事かな? 駄目だ。訳が分からないよ)
この【不死賽子】は【進化の賽子】とは異なり消えなかった。フィオンに頼んで、いろいろ試してもらった結果、賽子を【村正】で切ると、どうやら死体に戻るらしいことが判明する。いわば賽子は作成されたアンデッドのコントローラーというところなのだろう。
アンデッドに誤った命令をした結果、大惨事になっても困る。だからこの機能ばかりは、フィオンに正確に伝えた。フィオンは嫌な汗をブアッと流していたが、このときばかりは、フィオンの気持ちが嫌というほどわかった。だって、このゴブリンだけで、小さな町なら壊滅できそうだし……。
【不死賽子】の機能をレイナが羨ましそうに見ていたが、レイナはまだ子供だ。【村正】は子供の教育上大層よろしくない。どれほどねだられても、絶対にレイナに【村正】は作らない。そう心に誓う翔太であった。
第三の事は、すでに示されていた事の確認だ。複数の武器を装備しても、ステータスの能力値は加算されず、一番強力な上昇をする武器の値に固定されるということだ。これはレイナが【小狐丸】を使っていても上昇しなかった事から予想はしていたが、フィオンにも【雷切】と【村正】の二刀流をしてもらって確認してもらい、確定事項と相成った。
暫らくして中域に着いた。フィオンが『一応、気を引き締めろ!』と注意が飛ぶ。全員がフィオンの言葉に頷く。
中域で最初にエンカウントしたのは、ビッグベアーだった。レイナにとって因縁のある魔物だ。過去に一人で倒すことができず、傷を負って翔太に助けられたことが思いのほかレイナの記憶に深く刻まれていたのかもしれない。何時になく真剣だ。その真剣さは通常ならば、良い方向い転ぶ。だが今回は真逆に転んだ。
レイナにとっては、いつもより気合いを入れて戦闘に臨んだのだと思われる。フィオン曰く、レイナが本気のときは、幼少期から獣王直々に教え込まれてきた《拳術》を使って対処するらしい。
レイナは右拳でビックベアーの頭部を殴った。通常ならば、ビックベアーの頭が爆砕して終わりだ。だが、レイナはいつになく気合が入って殴ってしまったらしい。
レイナの右拳がビックベアーに到達すると、劈くような爆音とともに、暴風が吹き荒れる。空気がビリビリと震え、十数メートル四方が樹木もろとも消し飛び、巨大なクレーターが発生していた。まさにぺんぺん草一本すらない。無論、5匹程群れていたビックベアーも跡形もなく消滅していた。
翔太とフィオンは顔を引き攣らせながらも、慌てて、周囲を確認し魔の森――中域を探索している冒険者等の二次災害の有無を確認する。運よくいなかったらしい。多分だが……。
「レイナ!! やり過ぎ! 他人を巻き込んだらどうするの?」
思わず、翔太はレイナを諌める。
「だ、大丈夫よ。一応人がいないか索敵はかけているから――」
気まずそうにも、レイナは口を尖らせながら反論をする。だが、フィオンが烈火のごとく叱りつける。
「そういうこといっているんじゃない! レイナ、お前にはこの数日、毎日のように力の使い方について解いて来たはずだぞ。大いなる力にはその責任も付き纏うものだと! 先ほどお前に、その責任が欠片でもあったか? 悪いが俺には全く感じられなかった。
今のような事が続くようなら、お前に危険な玩具を持たせることはできない。【フラゲルム・デイ】は封印させてもらう」
このフィオンの言葉については翔太も賛成だった。レイナは即急に力の使い方を覚えなければならない。もし、もし力の使い方がわからず、手加減を誤ればレイナの最も大切な人をレイナの手で奪ってしまう事にもなりかねないのだから。
それに万が一、【フラゲルム・デイ】を封印しても、【才能】が500もあるのだ。レベル30程で人外となり、レイナの身に危険が迫っても、武器に頼らずとも打破する事は可能となるだろう。
「ご、ごめんさない。フィオン、ショウタ。今後気を付けるわ……」
冗談ではないフィオンの【フラゲルム・デイ】の封印宣告には、お気楽レイナも相当答えたらしい。かなり落ち込んでいる様子だ。
今のフィオンの言葉はレイナとは別の方向でやり過ぎてしまう翔太にとってもかなり耳が痛かった。
(大いなる力には責任も付き纏うか……。僕にはその自覚は全くなかったな。確かに、僕には世界平和や世界の均衡などに興味はない。そんなものは勇者さんや英雄さん達が考えれば良い事だ。単なる魔法使いの役に過ぎない僕には縁がない話だ。
だけど……僕は今まで行き当たりばったりで身にある力を好きなように使い行動してきた。慎重に行動したつもりでも、不用意な行動が目立っていた。その結果僕はどうなった? 自分の不用意な行動で簡単にあの下種悪魔の玩具になってしまった。僕の強者遭遇率を鑑みればあの時はギルドハウスの探索などせずに一度態勢を整えるべきだったんだ。結果としてアドルフさん達は助かった。だが、あくまでそれは結果論だ。しかも、奇蹟とすらいえないような不可思議な偶然によって。
僕もレイナのように力の使い方には慎重になるべきなのかもしれない。もう二度と、幻覚といえどもラシェルを失う事がない様に!)
そのような翔太らしくない事を考えていると、ズーンと落ち込んでいたレイナの顔が急に真剣なものとなった。
「あそこに、誰かいる!」
レイナはクレーターの向こう側の魔の森の奥に指先を向ける。レイナの人差指の先には圧倒的な威圧感を醸し出している三体の魔物がこちらを観察していた。
3体の魔物はその威圧感、佇まいなど明らかに通常の魔物とは一線を画している。翔太はすぐに、《解析》スキルによって分析を開始する。
まずは猿の顔に白色法衣を着ている魔物からだ。
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○白猿王
■種族:エイプ(魔物)
■クラス:ハイエイプ
■称号:【高位魔導士】
■スキル:
【演唱短縮】、【魔術威力倍化】
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ステータス ハクエンオウ
レベル 66
才能 134
体力 72
筋力 63
反射神経 55
魔力 188
魔力の強さ 184
知能 100
EXP 44483/800000
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(魔法攻撃がメインの魔物だ。このアースガルズ大陸の魔法の稚拙さからすれば魔法攻撃についてはたいした事ないんじゃないかな。
もっとも、身に纏う雰囲気からして唯ではすみそうもない気もする。十分注意は払うべきだよね。だけど、ステータス上もスキル上も僕達の敵ではない)
次は狗の顔をした魔物だ。蒼い鎧に身を包み日本刀らしき刀を腰に下げている。
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○オルトロス
■種族:コボルト(魔物)
■クラス:ハイコボルト
■称号:【侍】
■スキル:
【破斬】、【十文字斬り】、【連撃】、【牙突】、【剣術】
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ステータス オストロス
レベル 70
才能 137
体力 202
筋力 209
反射神経 221
魔力 0
魔力の強さ 0
知能 80
EXP 89000/1000000
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(この魔物はある程度の注意は必要だ。体力と筋力、反射神経が飛びぬけている。それに、様々な剣術スキルを持っている。
もっとも、スキルの多様さや強力さなどの点で、実際に戦えばバジリスクキングにさえ遠く及ばない。気を抜かなければ、僕らの敵ではない)
最後が、赤色のローブを着ている線の細い美しい青年である。二本の角が生えてなければ人間にしか見えない。
この世界では魔物もイケメンなのかと、言いようもない敗北感を感じ、世の中の不条理さを嘆きながらもスキル《解析》で分析する。
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○炎鬼
■種族:ゴブリン(魔物)
■クラス:ハイゴブリン
■称号:【剣王】、【超位魔導士】
■スキル:
【炎操作】、【炎刃乱舞】、【演唱短縮】、【連続魔法】、【剣術】
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ステータス エンキ
レベル 71
才能 152
体力 168
筋力 171
反射神経 174
魔力 170
魔力の強さ 177
知能 166
EXP 99224/1050000
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(この魔物が一番倒すのに苦労しそうだ。すべてのステータス値が平均以上。剣術、魔術の双方を使いこなす。その双方とも『白猿王』と『オストロス』という魔物と同等クラスの力をもつ。しかも知能も高い。これは厄介だよ。
それにしても、魔の森って一体、何なんだろう? どう見ても、人間種と比べて強すぎるよ。魔軍の少将クラスで【才能】が100でステータスの平均値80程度がせいぜいだったはずだよね。どう考えてもそれを軽く超えているような……)
翔太は腰から愛刀である黒刀を抜き構える。そして戦闘に適するように精神を針のように鋭く尖らせていく。無意識に全身から人外の闘気が漏れる。
そんな翔太の様子をみて、フィオンも軽いため息をつき、【村正】を鞘から抜く。
レイナは肉食獣のような濃い殺気を纏い、拳を固く握る。ディートは闘気を全身から迸らせる。
翔太が丁度右足に力を入れたとき、『炎鬼』が突然両手を上げた。
「は~~い。降参! 降参! 完全に俺っち達の負けでさぁ。剣を収めてくだせぇ」
まるでチェスのような軽いノリに翔太達は完璧に面食らっていた。このような予想外な展開には弱いのだ。翔太は混乱してフィオンを見る。
フィオンは翔太の視線に気付くと肩を竦めてみせる。流石はフィオンだ。翔太程動揺はしておらず、焼け付く様な威圧感がなくなっている。どうやら相手が危害を加える気がないと判断したようだ。警戒を半分解いていた。
「レイナ、まだ攻撃をするな!」
「で、でも――」
「いいから、俺が話をつける。構えを解け! おそらく、相手は俺達との対話をご所望だ」
今にも相手に齧りつきそうなレイナをフィオンは諌める。レイナは渋々、戦闘態勢を解く。
フィオンの行動から翔太も急速に頭が冷えて来た。確かに翔太達に敵対するつもりなら、態々観察するまでもなく攻撃して来ているはずだ。フィオンは最初からそれを見抜いていたと思われる。あの肌がひりひりするような圧迫感は万が一に備え戦闘態勢を備えていたに過ぎなかったのかもしれない。
やはり、ステータスがいくら上昇しても戦闘技術では遠くフィオンに及ばない。そして、それは何とも埋めがたい壁として現在、翔太とフィオンの間に横たわっているように翔太には思えた。
「ディート、不穏な動きをしたらあの魔物達を攻撃しろ! 多分大丈夫だと思うがな。万が一のためだ」
「ウォン!」
ディートがそれに答える。
取り敢えず、フィオンと翔太が魔物の傍に赴くことになった。レイナは自分も行くときかなかったが、ディートの傍にいるように指示する。無論、あの魔物達がレイナに傷をつけられるとはフィオンも翔太も露にも思っていない。ただ、爆発寸前のレイナが暴れて話が途轍もなくややこしい事になる事を防ぐためだ。
ふくれっ面で睨み付けて来るレイナを尻目に翔太とフィオンは魔物達に近づいて行く。
「お初にお目にかかりやす。俺っちは『炎鬼』、中域のゴブリン達の総大将をしてまさぁ」
赤色のローブの青年が大袈裟に右腕を胸に当てながら挨拶をする。その姿はあまりに優雅でとても浅域にいるゴブリンと同じ種族には見えない。実際に違う生きものと考えた方が正解なのかもしれない。
「儂は『白猿王』じゃ。猿の王をしておる。よろしゅうな!」
猿顔の法衣に身を包んだ魔物――白猿王が手を差し出してくるので、少し戸惑いつつも翔太は握り返した。フィオンも外面の良い笑顔を浮かべながら握り返す。
「俺は、オストロス。コボルトの王だ。よろしく頼む」
続いて、狗顔を持つ魔物は軽く会釈をする。この魔物も何処となく気品にあふれている。皮肉な事に、エルドベルグにいる人間族の王侯貴族よりも、目の前の魔物達の方がよほど思慮深く見える。
「フィオン・ダブリン。獣人族だ。よろしく頼む」
「ショウタ・タミヤです。一応、人間族だと思います。どうぞよろしくお願いします」
このような意味不明な自己紹介になったのも、この頃、怪物認定される事が多くアースガルズ大陸でいう人間族であることに若干自信が持てなくなっていたからだ。
確かに、翔太は異世界人であり人間族に姿形が似ているにすぎない。地球人がこの世界の人間族と同じであるとは言い切れはしないのだ。
この翔太の紹介に初めてゴブリンの王――炎鬼の表情が微かではあるが変化した。
「詳しい話は俺っちの根城でしましょうぜぃ。招待しますぜぇ」
炎鬼は右手を挙げてついてこいというジェスチャーをする。フィオンもどうやらついて行くことに異論はないらしい。
翔太も同感だ。先ほどの礼儀と節度を知る態度からだまし討ちをするような魔物にはとても見えない。加えていえば、ステータス以上に高い知性が認められる。翔太達との実力差を把握できない程愚かではないだろう。
レイナとディートについてくるように合図をすると、やや不満気味であったが少し離れてついて来た。英雄志向の強いレイナからすると魔物は人間種にとって倒すべき敵であり、話し合う必要などないと考えているのかもしれない。




