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僕と俺の異世界漫遊記  作者: P・W
第二部 建国と変貌編
108/285

第3話 迷宮都市にて 柚希


 柚希は今、ビフレスト王国の主要都市の一つ――迷宮都市で情報収集をしている。収集している情報の内容は、もちろん翔太の所在である。

 加えて、この世界についての情報も収集している。地球に帰るにしても、この世界で過ごすにしても、今後この世界の事情を知る必要があるからである。


 今現在、喫茶店で、雪、蒼、丹野を待っている。この喫茶店お茶菓子はどれも想像以上に不味い。翔太がいれば作らせるものをと内心で毒づきながらもお茶を飲み、菓子を食べる。


 まだ、雪達は来ない。この暇な時間を利用し柚希はこのアースガルズ大陸に召喚されてからの事を振り返る事にした。


 まず、聖法教国アグレシアの首都で1日程情報収集を試みたが、情報収集自体ができなかった。その理由は市民に柚希達が異世界人であることがばれているようで、協力が得られなかったからだ。

 聖法教国アグレシアは勇者の召喚に成功したとの声明を国内外へ発表した。その際にご丁寧に召喚された者達の容姿、背格好まで公表したのだ。柚希達が異世界人であると広まるのにはそう時間はかからなかった。

 結果、聖法教国アグレシアの市民達は『なぜ勇者なのに協力しないのだ』という理論構成を構築し、柚希達の問に口を堅く閉ざしたのである。

 勝手な事をと内心で憤りつつも、アグレシア教国の影響下になく、一番近隣国であるビフレスト王国へ向かう。4日程でビフレスト王国の主要都市へ着く。

柚希達は非常に運が良かった。その主要都市こそ、アースガルズ大陸有数の冒険者達の夢の国であり、強力な魔物の巣窟である迷宮都市だったのである。


 柚希達は直ぐに、冒険者ギルドに登録し、レベル上げを開始する。最も優先順位が高い事はこの世界で死なないことだ。死んでしまっては翔太に会う事すらできないのだから。

 最初は、ひたすらレベル上げだけに日々を費やした。結果、柚希達のステータスは跳ね上がり、魔軍全軍とドンパチやれる程の力を短期間で有することとなった。具体的には以下の通りとなる。

 柚希の能力値は才能が500。現在のレベルは30だ。だからステータスは、平均600程度。ギルドカード上は以下のようになった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――

ステータス   ユズキ タミヤ

レベル        30

才能         ――

体力        602

筋力        612

反射神経      604

魔力        601

魔力の強さ     603

知能        615

EXP  27895/50000

―――――――――――――――――――――――――――――――――――


 雪と蒼には当初、ギルドカードを見せてもらっていたが、そのうち面倒になり、レベルだけを聞くようになった。【才能値】が柚希とほぼ変わらない事もあり、柚希と力の強さは大して変わらないと考えられるからである。それだけで十分戦略は立てられる。

 今は、雪の才能値が【450】でレベル29。蒼が【才能400】でレベルが28である。

 丹野はへらへら笑っているだけで教えない。まあ、丹野一人のステータスがわからなくても戦略は練りに練れる。

 

 この短期間にレベル上昇の理由はもちろん迷宮都市に存在する迷宮だ。この迷宮はビフレスト王国にある3つの魔物の巣窟の一つであり、途轍もない強さの魔物がウジャウジャ湧いて出る。

 この迷宮の各階層にはフロアボスがおり、これが非常識に強い反面、多量の経験値を持つ。そこに目を付けた柚希達は、レベル上げを理由に迷宮攻略に乗り出したのである。

 100層まではあっという間に制覇できた。確かに、フロアボスは強かったが、雑魚魔物はそれほど強くはなく、迷宮探索自体は非常にスムーズだったからである。

 もっとも、100階を過ぎてから急に迷宮内を彷徨う雑魚魔物が強くなり、探索速度が頭打ちとなった。

 もともと、柚希達の目的は翔太の捜索であり、迷宮のクリアにはない。それに、100層に到達した時点で、レベルも相当上昇していたし、そのレベルの上昇に応じてステータスも跳ね上がっており、もうある程度の存在に襲われても十分撃退出来る強さになっていた。

 しかも、100層までの各フロアにあった武具やアイテムから凄まじい額の活動資金を得ることができたのである。

 だから、105階に到達した時点で一体迷宮攻略を中止し、翔太の所在とこの世界の事についての情報収集をすることに決めたのである。


               ◆

               ◆

               ◆


 柚希が情報収集を開始すると、いろいろな噂が耳に入って来た。

 まず、アームレスリング大会で優勝したのがショウタ・タミヤという一見パッとしない少年であること。これは、エルドベルグに訪れていた商人達が意気揚々に話していたから間違いはない。

 次は、メガラニカオーク殲滅戦でかなりの功績を示したこと。メガラニカの市民の間では英雄扱いとなっていた。この世界の狂ったレベリングシステムならば、翔太の馬鹿げた力も説明がつく。


 『また調子にのって! 見つけたらお仕置きだ』と思いながらも、柚希の心は躍る。やっと見つけたのだ。柚希にとって異世界だろうと、地球だろうとどうでもよい。要は翔太さえいればいいのだ。これが異常な感情だとは自分でも十分でもわかってはいる。だが、抑えられないし、もう抑えるつもりもない。これほど、長期間翔太と離れたのは幼少期以来……だと思う。少しここの所の記憶がなぜかはっきりしないが、そう記憶している。

 

 初めて異性として意識したのは、幼少期に翔太と柚希の血がつながっていないことを母から聞いたときだ。翔太は柚希の祖父の親友の忘れ形見らしく、祖父の命令で田宮家の子供として預かっていた。もちろん、翔太はそんな事は知らない。それから、一々翔太を気にしていたら、いつの間にか段々翔太が柚希の特別な位置を占めるようになっていた。この恋慕はひっそりと、タンスの中にでも仕舞っておこうと何度となく考えた。だが、逆に思いは強くなるばかりでそれは一向に成功しなかった。

 もっとも、柚希は天邪鬼だ。思いが募るにつれ、翔太に対し厳しい態度をとる様になる。そのせいもあり、翔太は柚希に対し苦手意識を持ってしまったようである。いつも、柚希を見るとビクビクしている。最終的には条件反射的に柚希を恐怖するようになってしまった。だが、それでも翔太と一緒にいられて柚希は幸せだった。だが、幸せなんて言うものは長くは続かないのが世の常である。新たな登場人物の登場で呆気なくこの柚希の幸せは崩れ去った。

 月宮日葵の登場である。柚希は月宮日葵が昔から苦手だった。彼女は何もかも見透かしたような目をして柚希と翔太を見る。おそらく、柚希が翔太に恋心がある事をもかなり前から知っていたことだろう。この月宮日葵という人物は女の柚希でも惚れ惚れする程の美貌の持ち主だ。性格は自分とは異なり穏やかで、優しい。柚希が勝てているのは腕っぷしの強さぐらいだ。

 予定調和のように翔太は日葵を好きになった。翔太自身それが恋心だとは自覚してはいなかっただろう。だが、視線を見ていればわかる。翔太の視線の先にはずっと、日葵がいたのだから。柚希がずっと得たい位置を日葵は簡単に獲得し、翔太の最も大切な人になっていく。当時それがただただ歯がゆかった。

 翔太は元々とんでもなく綺麗な顔をしている。中学に上がるときにメガネをプレゼンした。元々、翔太は眼など悪くない。それなのにこんなプレゼントをした理由は姉として翔太に悪い虫が付かないようにだと勝手に当時考えていた。だが、それは間違いだ。どんどん、男らしくなっていう翔太に向き合うことができなくなっていたからだ。自分勝手な行為だと思う。だが柚希にとって、それが最後の防波堤のようなものだった。このままいけば、翔太に思いを打ち明けてしまうかもしれない。そうすれば今までのような関係ではなくなってしまう。それがどうしょうもなく怖かったのだ。


 次に柚希が中学3年の頃親友の雪という登場人物が現れる。雪も日葵同様、反則的なスペックを持つ完璧超人だ。雪と柚希が意気投合したのは、雪も柚希と同様の家庭環境にあったからだ。具体的には子供のころから血反吐を吐くような修行という名の拷問を受けてきたということだろう。

 雪は物事の本質を見抜くのにずば抜けた人物でもある。翔太の本質も直ぐに見分けてしまうだろう。だから合わせたくはなかった。一番合わせたくはなかったのに、よりにもよって家に遊びに来たときに態々部屋までお茶菓子を持ってきたのだ。柚希の家には友達を頻繁に連れて来るが、こんな事は年に数回しかない。どうあっても柚希の籤運は最悪のようである。例のごとく、雪も翔太を気に入ってしまい、何度も詳しく聞いてきた。

 雪は最初妙に形式ばった事ばかり聞いてきた。だが、それも最初だけだ。時が経つごとにその質問に徐々に熱が籠って行く。それがどうしょうもなく不安だった。


 そして柚希が高校一年、翔太が中学3年の頃、翔太が妙にお洒落に気を配るようになる。おそらく日葵に気があるのだろう。この頃になると、柚希も日葵と翔太が付き合うようになっても仕方ない、柚希は翔太の姉なのだと考えられるようになっていた。それが分別がある年頃になったせいかそれとも、諦めのせいかはわからない。だが、確かにこのとき日葵と翔太の仲を柚希は認めたのだ。もうそろそろ、メガネを外すように伝えようと思った矢先に事件は起きた。

 日葵が翔太を振ったらしい。もっとも、翔太は詳しい事は何も言わないから状況証拠でしかないのだが……翔太は夏休みであることもあり、落ち込んで数日間部屋から出て来ない。

 日葵がさらにわからなくなった。あれほど、散々思わせぶりな態度をとっていた。一体彼女は何を考えているのだろうか。翔太は只の男避けだとでもいうのだろうか。そんな事許されていいのか?

 柚希は土台にすら上がる事が許されないのに――。

 思いすら伝える事も許されないのに――。

 急に、日葵に対し例えようもない怒りが湧き上がる。これが身勝手なものというのは十分承知している。だが心の中でそう思うくらい許されるだろう。奥歯を固く噛みしめ、剣術の修行に励んだ。

 

 ついに柚希と翔太との間に決定的な事が起こる。やはり、原因は日葵だった。翔太がクラスで虐められたのだ。理由は翔太の日葵に対するストーカー行為らしい。笑いが込み上げてきた。あまりにも馬鹿馬鹿しかったから……。

 そんな馬鹿な事をいう奴らが許せなかったし、それを否定もしない日葵が憎かった。だが、当時背後関係がわからないので動きようもない。

 ついに翔太は柚希とすら話さなくなる。もう限界だ。柚希と翔太の接点は姉と弟という一点でしかない。それすらも否定するのかと思うとどうしょうもなく日葵が許せなくなった。考えないように過去に捨ててきたことが柚希を攻め上げる。

 全ての関係者を締め上げてやろう。柚希はそう考え始めていた。翔太は柚希の強さを理解していない。柚希がその気になればそこらにいるチンピラ等、物の数にも入らない。勿論注意はいる。それは殺さないように気を付けると言った点だ。

 そんな時に翔太のクラスの友人達が直談判をして来て、やっと背後関係が分かった。柚希の思った通り、日葵が原因だった。柚希の見立てでは、日葵が翔太に気になる態度をとり、それに嫉妬した馬鹿どもが根も葉もない噂を流したのだろう。

 だが、これでやる事は決まった。

 日葵は柚希を『柚希お姉ちゃん』と言い慕っている様子はある。それが本心かは検討もつかないが……。兎に角、このときの柚希には日葵に対する疑心しかなかった。

 すぐに、日葵に翔太から離れるようにいうべきだろう。それが嫌なら転校という手もある。翔太は知らないが、田宮家は日本でも有数の名家だ。特に玄斎は、政界財界に顔が聞く。翔太の転校先など吐いて捨てるほど見つけられる。

 それに今回の事を玄斎が知ればタダではすむまい。玄斎は翔太を殊の外、可愛がっている。それがこのような目に遭ったと知れば、すぐにそれなりの手を打つだろう。

 その旨を心菜に伝えに行くと、心菜は最初、思いとどまるように柚希を説得してきた。

 田宮家が動く事はそれだけ影響が大きく、面倒事を容易に引き起こすからだろう。それにこれはあくまで未成年者同士のイザコザだ。それに大人が、それも権力を持つ者が介入するべきではない。そう主張し中々首を縦には振ってくれなかった。柚希も子供ではない。そんな事は柚希にも十分すぎる程わかる。だが、柚希は翔太がそんな建前よりずっと大事だったのだ。

 だが、その次の日職員会議で、翔太の退学の話が持ち上がってから状況は一変する。有馬議員が直接校長にストーカー行為をする生徒を退学にするように進言してきたらしい。その話を聞き、心菜が激怒し職員会議は一時騒然となった。心菜は終始イライラしており、玄斎にもその職員会議の内容を伝えた。

 予想に反せず、退学にしろといった校長は昼に緊急に開かれた会議で翔太の退学を否定した。校長は顔面蒼白であったらしい。加えて、有馬市議会議員にもそれなりのペナルティーが課せられるだろうとのことだ。子供の喧嘩で終わらせておけばよいものをと心菜はボッソと呟いた。

 その日の昼に、同じく生徒会役員の丹野(たんの)(わたる)に翔太が今後クラスでやって行けそうか聞くが、彼はそれを否定した。どうやらかなり根が深いらしい。もう答えは決まりだろう。

 もう翔太にとってこの学校は害悪以外の何者でもないというのが心菜と柚希の共通の見解だった。前日に翔太と会って心配していた雪も行きたいというので連れて行く。勿論翔太の説得に使えるとふんだからだ。そして、その先で柚希達は、黒い床に吸い込まれ、アースガルズ大陸という異世界に召喚されてしまう。


               ◆

               ◆

               ◆



 そこまで考えていると、雪が対面の席に座った。思考が遮られる。


「柚希、またそれ飲んでるの? ホント好きね」


「うん。でも本当は珈琲が一番いいのだけれど……」


「珈琲……翔太君も珈琲好きだったよね。流石は姉弟。似てるなぁ」


 柚希は雪の言葉に苦笑いをする。あまり、翔太と似ていると言われたくはない。だから話題を逸らす。


「それより、雪の方はどうだった? 何か進展あった?」


「う~ん。あれ以上の情報はちょっとないかな。エルドベルグって結構今ホットな話題が多いらしくてね。なんでも、先のオーク殲滅戦で新たな英雄が誕生したらしいよ……」


「新たな英雄? それ翔太のこと?」


 確かに翔太もメガラニカの一部の市民から今回の事件において英雄扱いはされているらしいが、それは翔太だけではない。冒険者ギルドには十数人名前が挙がっていた。どちらかというと、功労賞的賛辞だと思われる。だが雪の言い回しはそれとはどことなく違うようだ。


「ううん、違うよ。殲滅姫がオークをやっつけたとか何とか……」


「殲滅姫? 何それ?」


「冒険者ギルドで、皆口をそろえてそう言うのよ。オークキングを含めた1000匹ものオークを一瞬で焼き殺したとか。拳一つで地面を割ったとか……」


 正直、今の柚希達なら拳で地面を割るくらいは造作もない。でもさすがに、オークキング含めた1000匹を一瞬で殺し尽くす事は至難の技だろう。勿論時間をかければ容易いことではあるのだが……。

 何よりも、この世界にそれほどの力のあるものがいることに驚いていた。


「へ~、私達並かそれ以上という事か……世界は広いわね」


「う……ん。それでね――」


 温和な雪が心底不愉快そうな顔をしている。雪のこんな表情は年に数回だ。何か嫌な予感がする。


「ど、どうしたの?」


「それでね。その殲滅姫と翔太君が今同じパーティーを組んでいるんだって」


(あの朴念仁! 次から次へと――)


 大体どうなっているか想像がつく。翔太にはふざけた魅力がある。馬鹿で、阿呆で、お調子者なところが母性本能を刺激するのだろうか。絶対、お仕置きを強化してやる。そう心に誓って、雪と一緒に悪い笑顔を張り付かせながら、邪悪なオーラを撒き散らしていると、蒼と丹野が近づいて来て席に着く。二人ともドン引き気味だった。


「柚希さん……? 雪さん……?」


 蒼は完全に顔を強張らせており、丹野はいつものニヤけた笑顔を絶やしてはいないが、少し頬が引き攣っている様子だ。


「会長どうしたんや? いつにも増して人の悪い顔してまんねんよ」


 一々、腹の立つ事を言う奴である。何時にも増してはないだろう。何時にも増しては!


「別に、たいしたことじゃあないわ。それで貴方達の方は?」


「俺の方は翔ちゃんが今エルドベルグにいるというくらいしか掴めませんでした。ごめんなさい」


「いえ、私達も同じ程度よ。気にしないで」


 すまなそうにする蒼の肩を優しく叩く。


「俺の方は結構わかりましたんよ。主にこの世界の事情についてやけど。田宮君の事については会長達の機嫌が悪くなりそうやのでケツに話します」


 やはり、この手の情報取集についてはとにかく使える奴だ。翔太がエルドベルグにいる情報を最初に見つけてきたのも結局は丹野だった。

 それにしても、翔太の事について柚希が機嫌が悪くなるというと、例の殲滅姫とパーティーを組んでいる事だろう。そう信じたい。翔太……これ以上はもう勘弁して……。


「わかったわ。話して」


「はい。ほなら――」


 丹野はどこで手に入れたのか不明な情報を柚希達に一つずつ伝えてくれる。

 まずは、この世界の勢力分布である。

 人間の国は三大強国とその他の小国から成る。

 三大強国とはビフレスト王国、聖法教国アグレシア、イリオス帝国のことである。他の小国とは経済・軍事力ともに規模が極端に違う。そして、人間族同士にもかかわらず、この三大強国同士は同盟関係にも不可侵条約関係にもない。


 ビフレスト王国は武術と魔法に特化した国家であり、存在する冒険者の数がもっとも多い国でもある。その理由は簡単だ。ビフレスト王国は、迷宮都市、魔の森、古代遺跡という三大魔物の巣窟を有するからだ。この国は獣王国と同盟関係にあり、竜人国、ドワーフ国とは不可侵条約を結んでいる。異世界人でありいかれた知識と技術を有する七賢人――『武術王』が存在する。


 次が、聖法教国アグレシアである。この国は三大強国のなかでは最弱だ。確かにアイリス神の強い加護があり、聖属性の魔法等でその恩恵が強く得られる。だが、それだけだ。それ以外に、軍事力・経済共に目ぼしい所もない。七賢人も存在しない。

 獣王国とのみ同盟関係を持ち、ドワーフ国と不可侵条約を結んでいる。現在、魔国と交戦中である。戦況は劣勢とされる。


 イリオス帝国は他の周辺小国を吸収し巨大化した国だ。三大強国の中で最も広大な面積と人口を有するにも関わらず、最も裕福な国でもある。これは、七賢人『統治王』の存在のせいと予想される。獣王国、竜人国、ドワーフ国と同盟関係。魔国と不可侵条約を結んでいる。

 

 魔国サタナヘイムは、魔人族の国である。伝承では魔人族は人間族の姫と闇の神との混血児を祖とするとされ、魔人族達はその伝承を信じているらしい。魔国の王、魔王は全ての国の王の中で最強の力を有する。また、魔軍もアースガルズ大陸最強とされる。

 獣王国、エルフ国と同盟関係、竜人国、帝国、ドワーフと不可侵条約を結んでいる。七賢人として『呪術王』がいる。現在、聖法教国アグレシアに侵攻中である。魔軍優勢らしい。

 

 アルフヘイムは、エルフの国である。伝承では人間の姫と風の精霊王との混血児が祖とされる。人間種で最も魔法に秀でており、七賢人である『魔法王』も存在することから、魔法でこの国に勝る事は事実不可能である。人間族とは敵対関係にあるが、交戦状態にまではない。だが、少しの火種で戦争状態に突入するだろう。獣王国、竜人国と魔国とは同盟関係、ドワーフ国とは不可侵条約を結んでいる。


 ドヴェルグはドワーフの国だ。巨大鍛冶国家であり、全ての国の中で最も、強力な武具を産生することが可能な国であり、敵対する国家は皆無とされる。七賢人の『技能王』がいる。

 獣王国、イリオス帝国と同盟関係にあり、他全ての国と不可侵条約を結んでいる。


 ギャラルホルンは竜人の国。全ての種族のなかで個体の身体能力は最強とされる。魔軍には数で及ばないものの、軍事力は魔国に次ぎ獣王国に匹敵すると言われている。七賢人に『知識王』がいる。

 獣王国、魔国、エルフ国、イリオス帝国と同盟関係にある。ビフレスト王国、魔国、ドワーフ国と不可侵条約を結んでいる。


 ヤルンヴィドは獣人の国だ。非常に豊かな国であり、横の繋がりが異常に強い国でもある。魔国に次ぎ竜人国に匹敵する軍事力を持つと言われている。七賢人の一人として『発明王』がいる。全ての国と同盟関係にある。


 以上だ。もうお腹がいっぱいだ。これ以上情勢を知っても意味はない。次に移ってもらおう。

 次が、今ホットな話題で持ち切りのエルドベルグだ。

 エルドベルグに多量の特質級(ユニーク)や、希少級(レア)が安価で販売されているらしい。しかも、その武器の名が【日本刀】というらしい。間違いなく、翔太であろう。相変わらずお調子者の弟である。


 ここまではたいした情報はなかった。だが、次の情報は一味違った。

 現在エルドベルグにビフレスト王がいて、数日後にエルドベルグを離れる。そして、数人の冒険者が護衛に着く。その中にギルドクラスが極端に低い者が一人混ざっているらしい。 

 聞き終わったとき、柚希の第六感は全力でこれだと叫んでいた。一人だけギルドクラスが低い者を王の護衛に等通常はつけない。とすれば、それは通常ではない場合、すなわち、凄まじい戦闘能力を有すると判断された場合のみだ。そして、異世界人のこの世界における優遇はまさに異常である。ギルドクラスの低い者は翔太に間違いはあるまい。

 柚希達が召喚されてからほんの数日で、エルドベルグでいろいろ事が起こり過ぎている。そこでのビフレスト王のエルドベルグの訪問と帰還だ。つまり、愚弟――翔太は厄介ごとに巻き込まれている可能性が極めて高いということだろう。すぐに合流する必要がある。

 それにしても一体、丹野はどうやってこれを調べたのだろうか。どう考えても機密情報のようにしか思えないのだが……。


 兎に角、翔太がビフレスト王国の王都に行く可能性が高い以上、王都に向かうべきだろう。今、エルドベルグに行けばすれ違いになる可能性が高い。

 この柚希の結論に全員異論はない様子だ。ビフレスト王国王都周辺で情報収集後、見つからない場合にエルドベルグに行く事で全員の意見の一致をみた。


「それで、柚希さん達が機嫌悪くなる事とは?」


 翔太の名前を聞いてから、今までの重要な話を聞いていたのかどうかすら怪しい蒼が丹野をせかす。丹野は肩を竦めて話始める。


「いや~、あまり言いたくはないんやけどね。絶対会長俺に八つ当たりするし――」


「いいから丹野早く話せ!」


 蒼が腰の刀の柄に手を当てる。相変わらず短気な娘だ。慌てて、丹野が話始める。


「エルドベルグの冒険者の間で、受付嬢との仲が噂になっとるとか。あと、宿屋の一階、しかも公衆の面前でエルフの少女に抱き付いたやらなんやら……まだまだあるんやが、これ以上話ま――ヒッ!」


 氷のような笑顔を浮かべる柚希。蒼は無表情。雪はニコニコしている。その三者三様の様子をみて丹野はニヤけた顔を初めて恐怖に引き攣らせた。額から大量の汗が出ている。


「う、うん。そうや。お、俺、また情報収取してきまんねんね。では、これで!」


 シュタッと片手を上げて、席を立とうとするが、逃がすはずもない。柚希は丹野の胸倉を捕まえ、席に固定する。


「丹野君、もっとその話詳しく教えてくれるかな?」


「は、はい。あまり痛くせんでね……」


 そんな訳が分からない冗談を言うくらいなら今からの尋問もとい、質問は耐えられるだろう。こうして、4人の異世界漫遊は続く。


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