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僕と俺の異世界漫遊記  作者: P・W
第二部 建国と変貌編
106/285

第1話 十二神祖 カイト・ヘイズウッド

 

 真っ赤に狂ったようなローブを身に纏い、180cmを優に超える黒髪長身の青年――カイト・ヘイズウッドは目の前の監視者兼案内役――ジョーカーの後を付いて歩いて行く。向かう場所は会議の場所である『神界』の中心――バビロンの最上階。

 会議の内容は不明だが、急に連行されたのだ。経験則上、このようなときは碌なものであったためしはない。また、ゴミ掃除なのは間違いないだろう。

 それにこうも強制的に呼びだされた事は今回が初めてだ。通常は数日前に連絡があり呼び出される。今回のように、大学構内まで監視者兼案内役が来るなど前代未聞だ。つまり、今回は真の非常事態という事なのかもしれない。深く考えると胃が痛くなる。目の前の監視者と話して気を紛らわせる事にしよう。


「ジョーカー。今日は随分と真剣じゃないか?」


 ジョーカーは立ち止まり、くるりと振り返りカイトに視線を受けてきた。

 ジョーカーは黒髪で顔は比較的整っているが、目が線のように細い。というかジョーカーが目を見開いているところをカイトは今まで見たこともない。体格は中肉中背、さほど、筋肉がついているように見えない。黒を基調するだぶだぶのローブを着ており、典型的な現代魔術師という服装だ。 

 未だかつていない程のジョーカーの真剣な表情から、嫌な予感が的中した事がわかる。


「カイト、今度の仕事だけは受けるな。いいな! 絶対だぞ!」


 そもそも、仕事を拒否できない事はジョーカーが一番分かっているだろうに……。


「それができれば世話ないさ。お前もわかってるだろ? 」


 カイトは所詮あの(ひと)達の飼い犬だ。歯向かえばカイトどころかカイトの大切なものが壊される。どうせ拒否などできないのだ。


「……そうだな」


 諦めたように無表情、無言となりジョーカーは歩き出す。

 エレベーターのようなものに乗る。もっとも、機械仕掛けで動いているのでは断じてない。おそらく、とんでもない奇蹟を体現したマジックアイテムの類だろう。このような【神話級(ゴッズ)】以上のマジックアイテムがそこら中で見られる。ところどころで、【超越級(トランセンデンス)】のマジックアイテムが使われているのを見てげんなりするカイト。

 気を取り直して、今度は周囲の警備員らしき(ひと)を注視するが、出鱈目すぎて《解析》スキルを発動させる気すら起きない。


(もういやだ。この場所……早くお家に帰りたい)


 そんなのんきなことを心の中で考えていると、遂に地獄の一丁目に到着してしまう。ドアが開けられると、凄まじい覇気と神気が辺りに充満する。


(マ、マジかよ~! この気配の数……まさか全柱(ぜんいん)集合ってか? ありえねぇ~~!)


 この先にいる存在は全ての強さの頂点。強さだけを追い求めた者達。この世、あの世に君臨する絶対的超越者達。敵対した時点で全てが終わる破壊と恐怖の具現。そして、この『始まりの世界』の管理者達。カイトはこの先にいる者達の組織に入ったときに教えられた事を思い出していた。


 カイトがいる世界――地球が存在する世界は別名、『始まりの世界』ともいわれる。人間が住む世界であると同時に全ての神々を生みだした唯一の世界。

 『始まりの世界』は全ての神々の生みの親のような世界である。したがって、全ての神話系統の神々にとってこの『始まりの世界』は聖地に近い意味を持つ。だからこの『始まりの世界』の覇権を握る事は、すべての神の頂点となることを意味し、自らの神聖を絶対的なものとして証明することにも繋がる。そしてその神の神聖が大幅に上昇すれば、それは自らの力の強化にも繋がる。加えて『始まりの世界』では物理抵抗力、魔力抵抗力がとてつもなく高い。これは人間でいえば数十キロ重りを背負って生活するのと同じである。だから単にそこで生活するのみで、人間種でさえも、神に匹敵するものが生まれるという事態が起こりうる。そんな世界で神が存在すれば、それは神力の大幅な上昇となる。だから神々は過去に何度も大戦を繰り返した。その度に『始まりの世界』は焼けただれ、無残な廃墟と化すことになる。

 当然神々からは以下のような主張が数多く見られるようになる。『始まりの世界』は、神々にとって聖地ともいえる世界なのだ。何度も焦土や廃墟と化してよいわけがない。やりたければ、自ら創造した世界で行えばよい。それならば自由だ。好きに支配するのもよし、恩恵をあたえるのもよし、破壊するのだって構わないだろう。だが『始まりの世界』は神々にとって親も同然の世界である。それを一部の神が好き勝手に振舞ってよいはずがない。

そこで9割近くにも及ぶ数多くの神々はある一つの提案をした。神々の『始まりの世界』への顕現を神々が行う儀式や会議以外今後永遠に禁ずることとしたのである。

 だがこれには一つの問題があった。『始まりの世界』の管理をどうするのかである。すなわち聖地に勝手に抜け駆けし侵入する神が今後現れるとも限らない。『始まりの世界』は神々が顕現し存在するだけで出鱈目な神聖が得られるという世界だ。そして一度得られた神聖はなくなることはない。急にある神が強力な神聖をもつことは今までの神々の世界のパワーバランスを根底から覆すことにもなるだろう。だからそのような愚か者を排除するための管理者が必要となった。もっともその管理者はまさしく今後増えると予想される愚か者を排除するための精鋭中の精鋭でなければならない。神々のなかでも最強を誇る者でなければならない。こうして、数多くの神々は自らの神話体系の中でも最強のものを選りすぐり、一つの組織を形成した。それが『12神祖』である。この神々の試みはある意味成功し、ある意味失敗した。

 まず成功の方である。確かに『始まりの世界』への神々の顕現は激減した。管理者達の力があまりにも圧倒的だったからである。そしてこれは、北欧の一部の神が12神祖に対し戦線布告をしたことにより決定的なものとなる。確かにこのときまでは、12神祖もただの強力な神々の一組織という位置づけに過ぎなかった。だが、この戦いで、神々は12神祖の桁外れの戦闘能力を知ることになる。その結果、もはや戦いとは呼べない程の圧倒的な力で戦争は終結し、12神祖は世界にその名を示すことになった。そして数万年というときを経て『始まりの世界』において神々は姿を消すことになる。

 では、次に失敗の方である。それは神々が人間種というものを甘く見過ぎていたということだろう。神々が過度に『始まりの世界』を保護する結果、人間種は独自の進化を遂げることとなる。もっとも、いかに進化をしようとも人間種は神々にとっては全くと言ってよいほど脅威にはなりえない。所詮、猿から進化した者達だ。いかに進化しようとも大した力も持つことはないだろう。そう考えていた。

 しかし、ある怪物が『始まりの世界』に突如として出現した。その人間種は末席とはいえ12神祖の一柱を消滅させることに成功する。

その結果大いに慌てた神々が行ったのは『始まりの世界』における管理の強化と、その末席を打倒した人間種を12神祖に組み込むことである。それらは成功し、その結果その後千年間、世界に強い影響を与えると思われるものが次々と排除されていくことになる。特に強烈な排除の対象となったのはエルフ、ドワーフ、獣人等の人間種、人間種に比較的近い妖精種、人間種と交流があり最強種であった龍種であった。

 特にエルフは12神祖の一柱を屠った種族として過剰なまでの排除がなされた。その結果、エルフ、ドワーフ、獣人はほぼ『始まりの世界』において絶滅し、妖精種と龍種は自らの作る小さな世界で細々と暮らす結果となった。人間が生き残ったのはおそらく肉体的な強さも魔力敵性も人間種の中では最低ランクに過ぎず、保護の対象とはなっても、世界に強い影響を与えるとは考えられないからだったのであろう。こうして再び『始まりの世界』は長い間安定期を迎えることになるかに思われた。

 しかし、この安定期もものの千年ですぐに破られることになる。末席を破ったエルフどころではない『真の怪物』が世界に生み出されることによって……。


               ◆

               ◆

               ◆


 これはカイトがこの組織――『12神祖』の末席に入るに際し得た情報だ。まず真っ先に教えられた。そして聞いても二度と教えてはくれなかった。『12神祖』の面子にとってこの話題はタブー中のタブーらしい。特に序列7位まではこの『真の怪物』について強く思うところあるらしく、口を堅く閉ざしている。

そして、今回のジョーカーの態度と12神祖全柱の招集。特に12神祖の序列7位以下は2位と4位以外殆ど会議で見たこともない。ここから導かれる結論は、十中八九、件の『真の怪物』の件だろう。12神祖がここまで動揺するのはその理由以外考えられない。


 キリキリ痛む胃を押さえたいのを我慢しつつ、むせ返るような覇気と神気の中を突き進む。カイト眼前には巨大な円卓があり、11(にん)の超越者達が座していた。


「カイト・ヘイズウッド、馳せ参じました。遅れて申し訳ありません」


 全くすまないとは思っていなかったので、『馳せ参じた』と嫌みを混ぜる。だが、そんな嫌味を気にするような心が細い柱等(ひとなど)いるはずもない。案の定、全柱(ぜんいん)、嫌みに気付いてすらいないようだ。


「よく来てくれました。どうぞお席についてください」


 女性とも男性とも判別つかない声で、丁度部屋の入り口の反対側の円卓に座る白い衣服を全身に纏ったこの世のものとは思えない美しい存在がカイトに席に着くように進める。『美しい存在』としたのは性別が不明だからだ。この存在こそが12神祖序列1位――「ヤハウェ」、「GOD」、「聖書の神」と様々な異名で呼ばれる最強の神であり、絶対にして神聖不可侵な存在。

 この方の姿を会議で見たのは、カイトがこの組織に入ったときと、その後、堕天使の一部が反乱を起こしたときだけだ。この方が姿を見せること自体、どれ程異常な事態が進行中であるかがわかる。


 カイトは円卓の丁度序列1位の対面の末席が座る席に座す。ここから先は気を抜けば下手をすれば殺されかねない。そんな会議だ。胃も痛くなるというものだ。カイトは視線を他の(ひと)達に向ける。


 円卓の第1位の左脇に座るオレンジの服に身を纏っている上半身がほぼ裸の中年の方(おっさん)が序列第2位ゼウスだ。この方はギリシア神話の主神たる全知全能の存在。強さは……。まあ、他の神がミジンコに思える程の強さだろう。だが、比較的会議に顔を出すし、比較的とっつきやすい柱だ。


 円卓の一位の右に座る4本の手を持つ美しいが怖い青年が序列第3位シヴァ。ヒンドゥー教の最高神の一柱。破壊神でもあり、出鱈目な強さを誇る柱だ。2位と3位が喧嘩したら世界等吹き飛んでしまうことだろう。マジでやめてほしい。会議にはほとんど顔をみせない。兎に角、短気な(ひと)だ。怒らせては絶対にならない。


 円卓のゼウスの隣に座る蒼い服を着た爺さんが序列第4位オーディン。

会議に毎回顔を出す気の良い爺さんだ。カイトがこの12神祖の中で気を許している数少ない存在でもある。他はほとんどが脳筋ばかりだ。少し対応を間違えば殺される。

 もっとも、その強さはとんでもない。なんでもこの方が、この神が一度天候を操れば、世界の天候を容易に改変する。稲妻が山々を削り取り、数百メートルにもなる津波が世界を襲い、竜巻が国を亡ぼす。一度腕を振るえば、海を真っ二つに割る。槍を投げれば巨大なアルプスが砕ける。そんな冗談にもならないような力を持つ北欧最強の超越者(イモータル)である。


 円卓のシヴァの隣に座る目の細い温和そうな青い髪、銀の甲冑に身を包んでいる美青年が序列第五位――帝釈天。

 仏教の守護神である天部の一つであり、バラモン教・ヒンドゥー教・ゾロアスター教の武神――インドラともいわれる。ちなみに、温和そうに見えるのは見かけだけで、短気、脳筋の筆頭だ。かつて会議で発言を間違えただけで殺されかけたことがある。


 円卓のオーディンの隣に座る美丈夫が序列第六位――『須佐能乎命(スサノオノミコト)』、別名スサノオだ。煌びやかな紺の着物を着ていても判断可能なくらいの強靭な肉体。およそ、カイトの1.5倍はあるのではないかと思う程の巨躯。そして人間離れをした整った顔に、彼の蓄えている髭がその魅力を一層深めている。この方はカイトに最も関わりの深い柱だ。

 正直、あまりうれしくはない。理由は、短気、脳筋の権化であり、対応を少しでも違えば即消滅だ。カイトも何度も殺されかけた事がある。自身の強さも桁違いだが配下も強く、トールのオッサンとドンパチやったとか何とか。もう想像するのも震えが来る(ひと)である。


 円卓の帝釈天の隣に座る骸骨の御方が序列第七位――ハデス。死の神であり、頭が切れ、策謀が殊の外お好きな方だ。単純だが、筋を通すのを好むスサノオとは犬猿の仲でもある。強さは言うまでもなく非常識・理不尽だ。

 カイトも会議でハデスに度々突っ込まれて、右往左往し、帝釈天とスサノオに折檻を受けた事が度々ある。あの二柱(ふたり)は軽く殴っているつもりなのだろうが、十分致死量のダメージだ。それを見ていたジョーカーが悲鳴を上げていたあの頃が懐かしい。頭が変形するくらい何度も殴られたので、遂にジョーカーも顔色一つ変えなくなってしまった。悲しいものだ……。


 円卓のスサノオの隣に座る龍の顔の御仁が序列第8位――バハムートである。武人気質の方であり、数少ない短気・脳筋ではない(ひと)だ。もっとも、下手に話を誤魔化したりすると死ぬほど怒るのだが……温和なスサノオという所だろう。この方は、元々、大魚型であり、天使とともに序列1位が作った大地を守護する任務を持った神でもあった。この大型魚神が進化してプラチナ色の強力な力を持った神龍となった。自他とも認める最強の龍神である。


 円卓のハデスの隣に座る猿顔の(ひと)が序列第9位――斉天大聖である。どこからどう見てもただの猿にしか見えないが、強さは言うまでもなく非常識の一言だ。この方も、オーディンと同様温和な性格をしており、怒った所など見たことがない。会議では幾度となくカイトを救ってくれた方だ。だが、会議にほとんど出席なされないのであまり意味はないのだが……。


 円卓のバハムートの隣に座る美しい女性が序列第10位――ティアマトである。美しいのは外見だけで、短気・脳筋だ。加えて、何かにつけてカイトに絡んで来る柱。正直、この柱は大の苦手だ。その綺麗な顔を見るだけで胃がキリキリと痛む。


 円卓の斉天大聖の隣に座す人の良い六本腕の中年の柱が序列第十二位――阿修羅。この方は鬼神の長であり、その強さに反して非常に温和で優しい方だ。カイトを除けば末席に当たるため、あまり会議では発言しない柱でもある。もっとも、12神祖は全柱(ぜんいん)理不尽な強さを持つ。末席も糞もないと思うのだが……。


「それで会議の内容は何なんです? 全ての御方が出席なさるとはめったにない事ですよね? それに――」


 通常ならこのようなカイトの無礼とも言える態度に、帝釈天やスサノオから拳骨の一つでも飛びそうなところである。だが、今回はそうはならない。特に序列7位以下は腕を組んでいる者。目を瞑り思考の海に呑まれているもの。イライラと指で円卓を叩いている者。貧乏揺すりをしている者等など様々であった。カイトの行為、いや、存在自体さほど、気にも留めていないようだ。それほど余裕がないという事かもしれない。

 それに、序列1位の隣には3(にん)の美しい女神がいた。一度だけ見たことがある。途轍もなく不吉な予感がする。この女神は運命を司る(ひと)であり、召集されるときは大抵最悪の状況一歩手前の場合だと聞く。

現在を司る女神――ヴェルダンディ、過去を司る女神――ウルド、未来を司る女神――スクルド。


「……カイト、貴方にもかつて話しましたよね? 『真の怪物』の存在を……」


 序列1位の『真の怪物』の名前が出された途端、序列7位以下のほぼ全員の顔に緊張が走った。こんなこの世とあの世の理不尽を具現化させたような存在をここまで警戒させる存在など聞いた事もないし、考えたくもない。あのいつもは口を挟むハデスでさえも、今日は妙に大人しい。


「はい。確か丁度61年前に第2次ラグナロクを起し、滅ぼされたと聞きましたが……」


 ゼウスとシヴァが苦い顔をし、オーディンが固く目を瞑る。その仕草を見て全身を虫が這いあがるような強烈な悪寒がカイトを襲った。


(滅ぼされていないのか……。大体、第2次ラグナロク自体、とんでもない高レベルの情報統制がされていて本当にあったのかさえ不明なんだ)


「『真の怪物』は滅ぼされていません」


 これ以上序列1位は発言するつもりはない様子だ。だが、さすがに詳しく話してもらわなければ困る。今回ばかりは事が事だ。間違いなくカイトに掃除の命が下されるだろう。そのための末席。使い捨ての駒なのだから。だが、いくら使い捨ての駒でもカイトは生きているし、死ぬわけにはいかないわけもある。


「詳しく話してもらえませんか? 今回はそれほどの事なのでしょう。俺にも聞く権利くらいあると思います」


 意外にもこのカイトの言葉には誰も異論がない様子だ。無言で序列1位を促す。そんな他の柱の様子を見て序列1位はため息を大きくついた。


「わかりました。お話いたしましょう。ヴェルダンディ、貴方達は奥の部屋へ控えていてください。話が終わればすぐにお呼びいたします」


 ウルドが何か言いたげだったが、それをヴェルダンディが制する。


「わかりました。話が終わりましたらお呼びください」


(他の神にも聞かせられないことか……悪巧み決定だ。しかも、今まで神話の歴史の根幹を揺るがすほどの)


「何から話しましょうか。そうですね。『真の怪物』の誕生からですね。疑問があればその都度、話の途中でも質問していただいて結構です。

 凡そ、61年程前、人間の歴史では2025年に12神祖の末席のエルフが消滅しました」


 話を遮らせてもらおう。今回はカイトも妥協をするわけにはいかない。自らの命がかかっているのだから。


「末席のエルフとは、12神祖の末席の神を屠って後釜についた(ひと)ですか?」


 この末席のエルフにはカイト自身会った事はない。だがある因縁がカイトにはある。話をスルーするわけにはいかなかった。


「そうです。そのエルフを屠ったのが『真の怪物』。その後消息は消えましたが、1年後に姿を突如現し、我々12神祖に宣戦を布告しました。その結果……」


 珍しく序列1位が言い淀んでいるようだ。こんな姿は初めて見る。中々口を開かない序列1位の代わりに序列2位――ゼウスが応える。


「戦場になったこの『神界』は6割が焦土と化した。12神祖も序列4位、8位、10位、11位が消滅。途轍もない数の神々が滅ぼされた」


 シヴァが奥歯をかみしめる。おそらく配下の者でも消滅させられたのだろう。だが、心臓が飛び出る程驚いていたカイトにはそんな事に構ってはいられなかった。


(この馬鹿みたいに硬い『神界』の6割が焦土化した? 12神祖の4柱が消滅? たった1匹の怪物に?)


 『神界』とは、様々な神話体系の神々が住む世界であり、今カイトがいる世界でもある。『始まりの世界』において神々が存在する事が禁止された。それは様々な神話体系の神々の交流の場がなくなってしまう事を意味した。その代替手段として創造された世界。それが『神界』だ。

 もっとも、『神界』に住むことができるのは各神話体系でも一定の力を有する高位の神々だけだ。つまり、人間社会で言えば、各国の大統領や王族だけ集まる都市と言うイメージが一番しっくりくると思われる。とすれば、この『神界』の防衛システムは非常識に高性能であるし、それを防衛している『神軍』は最強の者達であることは想像に容易いだろう。

 それが6割焦土化される。おそらく、『神軍』は全滅したのだろう。そうでもなければ6割も焦土化するはずもない。

 なぜ、序列1位がここまでその情報を隠そうとするのがわかった。これが広まれば、12神祖の信用失墜程度ではすむまい。下手をすれば暴動が起きかねない。どうでもよいが、あまりにも話が大きくなり過ぎだ。


「あれは地獄じゃった。あそこまで地獄は見たことない程になぁ~」


 序列4位――オーディンがボソリと呟く。この発言に同意するように、スサノオが重い口を開く。


「ああ、『真の怪物』も出鱈目な強さだったが、その配下の者の強さも想像を絶した。特に側近は思い出すだけで鳥肌が立つぜ」


 スサノオの理不尽さを知っているカイトは、その言葉に戦慄する。この存在に鳥肌を立たせるなど冗談にもならない。

 スサノオは急に口を閉ざす。この御仁がこのような態度をとるときは、決ってスサノオにとって気に食わない事があるときだ。スサノオの代わりに帝釈天が話を続ける。

「やっとの事で側近の1(ひとり)を滅ぼしたのさ。だが、さらに怒り狂った『真の怪物』についに当時12神祖最強ともいわれた序列4位の龍神まで滅ぼされた。そこで……」


 帝釈天は言い淀む。このような帝釈天など見たのは初めてだ。いつもは自信の塊であり、自らの行為はすべて正しいと思っているような柱だから。帝釈天だけではなく、他の柱も同様だ。ゼウスは顔を苦渋に歪め、シヴァとオーディンは顔に悔恨の色が表れている。


「なぜ、はっきり仰らないのです? 人質をとって『真の怪物』を捕えたと」


 このハデスの言葉に、スサノオは額に青筋を張らせ、目じりを吊り上げ、唇をひん曲げる。


「ふざけんな!! 全て手前ぇの仕組んだことじゃねぇか! あれは戦争だった。手前ぇの行為がなされる前まではな! 確かに、こちらは想像絶する被害はくらったさ。だがなぁ、宣戦布告はなされたんだ。それをあんな汚ねぇ手で終わらせやがって!」


 その言葉にハデスは何も動じたふうもなく答える。


「それでも、戦争は我々の勝利で終わりましたよ。『真の怪物』は上手く生け捕りにでましたしね。側近達の半数は逃がしましたが、半数は捕えることができました。全て計算通りでしょう?」


「それは結果論だぁ! 勝てば何してもいいと思ってんのか手前ぇは?」


 スサノオは腰の自らの剣の柄にまで伸ばしている。ハデスも骸骨の目の中に禍々しい赤い光が灯る。

 その様子を見て、ティアマトと斉天大聖が頬を引き攣らせた。序列7位以下は正真正銘、超越的な力を有する神々なのだ。こんな所で、戦闘にでも入れば自らも巻き込まれて消滅することも十分あり得る。当然の反応といえた。


二柱(ふたり)ともおやめなさい! ここで12神祖同士で争ってどうします!」


 序列1位の言葉にスサノオは腕組みをして目を瞑ってしまった。ハデスも肩を竦める仕草をする。どうやら話がやっと前にすすむらしい。


「『真の怪物』との取引により、捕えた配下のものは厳重な封印を施し異世界に封印。『真の怪物』は全ての記憶を消去して力の全てを封じました。それで監視者を付けて見守っていたというわけです」


(監視者……。俺と同じか。とすると、『真の怪物』は元人間? ……馬鹿馬鹿しい。12神祖を一人で圧倒できる人間などいてたまるものか!)


「それでなぜ、そんな回りくどいことしたのです? 殺せば良かったのでは? その方が実に楽にすむ」


(もちろん、慈悲のはずがないさ。12神祖はそんな甘い存在ではない。仮にも、この世とあの世の頂点に牙をむいたんだ。コキュートス送り程度は決してすむまい。

ここで考えられるのは、『真の怪物』を操っている者がいると踏んだ。これか……)


「『真の怪物』の行動には不自然な点が多々ありました。なぜ、ようやっと12神祖の末席を屠れる程度の力しか有しなかった者がたった1年で12神祖全てと真正面から戦える程の力を得たのか。なぜ、12神祖に牙をむいたのか。なぜ、そもそも、『真の怪物』は生まれたのか。

 その謎を解き明かしていくうちに、『真の怪物』の裏に潜む者がいる。そういう推論に到達したわけです」


(やはりな。『真の怪物』はあくまで囮という事か……相変わらず抜け目がない。だが、非常に効果的だ。もし、黒幕を逃せば、第二、第三の『真の怪物』が生まれてもおかしくはないし。

 だが今回はその抜け目なさが裏目に出たという訳か。十中八九、記憶が戻った『真の怪物』に逃げられたな)


「なるほど。それで『真の怪物』に逃げられたというわけですか?」


「…………」


(ん? 違うのか?)


「違うので?」


「今から56年前――2030年にこの『始まりの世界』から突如として姿を消しました。監視者と共にです。同時に、『真の怪物』の配下の者達を異世界に封印した次元の神も姿を消しました。その結果、『真の怪物』の配下の者達が封印された異世界も特定が不可能となり、現在に至ります」


(いや、いや、いや、あり得ないだろう。そんな危険分子が56年も姿を消して今まで指を銜えて黙って見ていたってわけか? いくらで戦力を増強されまくりだ。

 大体なぜ今召集される? もっと早くても良いはずだろう? いつも序列1位のやる事は訳が分からないが、今回はいつにもまして理解できない)


「なぜ、今なのです? もっと早く手を打つべきだったのでは?」


 ゼウスが苦虫を噛み潰したような顔をカイトに向ける。


「カイトの坊主に言われなくても『真の怪物』の姿が消失した当初、すぐに12神祖は招集された。我等の全力をもって調査したが、いくら探しても見つからなかったのだ。それで、今に至るというわけだ」


(完璧に後手後手というわけか……。だが、今召集されたという事は見つかったのか?)


「『真の怪物』が見つかったんですね?」


「はい。私は『真の怪物』に13枚の護符の封印を施しました。そのうち、11枚の封印が解かれたのです。その際に凡その時と場所はある程度特定できました。今探してもらっていますので、見つかるのも時間の問題でしょう」


(13枚の内の11枚? ほとんどじゃねぇか! 

 だが、これでわかった。運命の女神達が呼ばれたのも、俺がここに呼ばれた理由も。掃除の依頼だ。間違いはない。

 俺には……俺には大切な者達がいる。拒否は出来ねぇよ)


 カイトの心の叫びが聞こえたのか序列1位はにこやかにほほ笑む。


「大丈夫ですよ。封印は13枚全てが剥がれなければ決して解けません。正確には力の制限の護符が取れない限り問題はありません。力の封印は他の12枚の護符が全て取れないと決して解除できない仕組みになっています。

 ですので、安心してください。封印されている状態なら『真の怪物』もあなたの敵ではない」


(ふ、ふざけんなよ! それを裏っかえせば、力の封印が解かれれば俺でも手に負えないという事じゃねぇか.大体、世の中の非常識と理不尽の塊のような12神祖の4柱を滅ぼすなど、どんなふざけた戦力だよ。なら、せめて殺させてくれ! その方がまだ楽でいい!)


「殺しては駄目なので?」


「駄目だ。奴にはまだ聞きたいことがある」


 ゼウスがカイトの言葉に即座に返答する。その言葉を聞いて、憂鬱で絶望的な気分が胃の底から頭まで広がった。どうやらそれは序列7位以下全ての総意らしい。それに序列8以上は口を挟む気はない様子だ。つまり、これは決定事項なのだろう。


(くそ! くそ! くそ! くそ! なぜ俺がそんな怪物の討伐をせにゃあならん? もっと相応しい(やつ)などいくらでもいるだろうに!)


 悪態をつきながら、最後に疑問に思った事を聞くことにする。


「力の制限の護符の外れる可能性は?」


 この問に対する答えを聞くか聞かないかでカイトの未来の生死の運命が決定する。


「護符は記憶の封印と力の封印の護符です。記憶の封印が解かれれば、力の封印も連動して解かれる仕組みです。ですが、記憶の封印はまず解かれる事はないでしょう。記憶の封印の解除には、『真の怪物』の配下の者や大切な者と出会う必要があります。ですが、それはあり得ない。なぜなら、もうすでにこの世には存在しないからです」


(なるほど。そういうことか。えげつない封印するもんだ。確かに、死んだ者と出会う事が封印の解除の鍵となるなら、封印など絶対に解けるわけがねぇ)


「それで俺の力の制限の解放は認めていただけるので?」


 カイトの力は普段、12神祖によって99.9%封じられている。勿論それは番犬の鎖を握って置くためだ。飼い主に噛みつかない様に。暴走をしない様に。


「勿論です。12神祖序列第1位の名でカイト・ヘイズウッドの全ての能力の解放を認めます。皆さんもそれでよろしいですね」


 他の12神祖達にも異論はないようだ。寧ろ異論を言って謹慎処分にでもしてほしかったカイトは、気持ちが暗然とする。

 ジョーカーが複雑な表情で、カイトに視線を送って来た。相変わらず心配性な奴である。だが、大丈夫だ。カイトにも大切な者がいる。こんなところで死ぬわけには行かないのだ。相手がどれ程、強大な存在であったとしても――。



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