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僕と俺の異世界漫遊記  作者: P・W
第一部 覚醒編
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第94話 俺がやらねばならぬこと(1)

 『俺』――ショウは夢を見ていた。それは二度と思い出したくもないショウが全てを失ったときの夢。ショウにとって世界がつまらないガラクタに変わった瞬間の夢。

 傷つき横たわる巨躯の男をショウは抱きかかえていた。男はショウの生涯唯一の親友にして兄の様な存在であったような気がする。

 強大な敵にも背中を任せて共に戦ってきた。共に馬鹿な事も散々やった。男はショウの無茶にいつも振り回されつつも文句を言いながらもついて来てくれた。最後の最後までショウの無謀で子供じみた最終目的を遂げるのに付き合ってくれると誓ってくれた。そんな奴だった。そんな馬鹿な奴だった。本人には口が裂けても言えはしないが、既に失ってばかりのショウにとって命より大切な存在だったのだろう。

 だが、ショウはどうしょうもなく愚かだ。いつも、全て失おうとする直前にそれに気付く。この世で最も大切なあいつを失ったあの日のように……。

 男の存在が光の粒子となって徐々に消えていく。ショウは只叫んでいた。咽喉が潰れんばかりに叫んでいた。言葉は忘れた。その状況もだ。

 そして、抱き上げていた腕の温もりが完全になくなったときショウは全てを失った事を実感したのだ。


               ◆

               ◆

               ◆


 ショウはベッドから何かを叫びながら飛び起きる。どうやら、叫びながら泣いていたらしく、顔が涙でグシャグシャであり大変みっともない。

もっとも、泣く等という人間らしい感情がまだあった事にショウ自身が一番驚いていたのだが。

 ショウは夢の内容について考える。だが、全く経験した記憶がない。


(俺は……まあいい。考えてもわからねぇものはわからねぇ)


 辺りを確認すると宿屋キャメロンの一室ではなかった。やたら豪華なベッド上にショウは寝ていたようだ。翔太からのパスで『七つの迷宮(セブンラビリンス)』の7階層に来ていることは理解できた。だが、情報として理解できるとのと、現実で見て実感するのとはまた別の話だ。


(くくく……翔太って奴はどうしてこうも無茶苦茶ばかりしやがる)


 思わず漏れた乾いた笑いを飲み込みながら立ち上がる。一応寝るためにメガネを外していたらしい。一々外す手間が省けた。アイテムボックスから紐を取り出し、髪を縛る。

 立ち上がり、当たりを見渡し、部屋の外へと続くドアの近くに歩いて行く。翔太の知識ではドアの前には翔太の配下の赤髪の大男がいたはずだ。

ショウは翔太の配下を一目見たかった。なにせ、翔太の知識からではただ強いとしか情報が入って来ないのだ。

 敵とみなされて排除されることも十分に考えられるが、今のショウなら魔神ベルゼブブからでも逃げ切れる自信はある。問題はあるまい。

 

 ドアを開けるとサングラスをした巨漢の男が佇んでおり、ショウに一礼してくる。

 ショウは赤髪の男を注視する。


(な、なんだぁ? この出鱈目な存在は? この圧力、下手すりゃあ此奴(こいつ)一柱(ひとり)で俺と同格か……《解析》スキルを使いたいのは山々なんだがなぁ……)


 ショウが《解析》スキルを発動すればやたら勘の良さそうな目の前の怪物の事だ。十中八九、察知するだろう。

 確かに此奴(こいつ)らは翔太に忠誠を誓っている。だが、ショウと翔太はもはや肉体が同じだけの別人だ。当然にショウにまで忠誠を誓うと考える程ショウは頭がお花畑ではない。

 仮に此奴(こいつ)が翔太とショウを別人と解せば、そのショウの《解析》スキルの発動自体を敵対行動ととる可能性もないとは言い切れない。

 そうなれば此奴(こいつ)一柱(ひとり)でショウと互角なのだ。さらに翔太の記憶からすれば、まだ、テューポとマイリーキーがいる。さらに、執事とメイド、さらには近衛兵の御代わりも嫌というほどあるだろう。この化物屋敷からの脱出の可能性は限りなく零となる。だから今はできる限り敵とみなされる行動は避けたかった。

 指輪の効果で直ちに逃げる事も考えたが、おそらく指輪の機能を支配しているテューポ当たりに阻まれるだろう。

 全く、こんな化物の巣窟でよくもまあ眠る気になる。翔太という人物は思いのほか大物なのかもしれない。


 右手を胸に当て微動だにしない赤髪の男に何と声を掛けようかと考えていると、より厄介な怪物が現れた。テューポである。テューポはショウに臣下の礼をとる。


お初に(・・・)お目にかかります。主よ」


 このテューポ達の言葉に怪訝な顔をするショウ。


お初に(・・・)お目にかかります? 主? どういうことだ? 此奴等には俺と翔太の状態がわかってんのかぁ? 

 まあ、確かに冷静に考えれば、翔太が説明しなくともテューポ達は翔太についてある程度熟知していた。フィオンやレイナ、ディートを接待したのもそうでなければ説明がつかねぇ。唯一それがなくなったのは、指輪をフィオンに渡したときだけ。そのときは、翔太が拷問された事すら知らなかった。つまり、指輪をしている限り、俺と翔太の状態はテューポ達に筒抜けという事か……)


「テメエらは俺と翔太の状態について知ってんのか?」


 面倒になり単刀直入に聞くショウ。これ以上、深く考えても仮説の積み重ねに過ぎない。本人に聞いた方が速い。どうやら、テューポ達はショウに敵対するつもりはないらしい。話は成立するだろう。


「はい。『七つの迷宮(セブンラビリンス)』の指輪をしている限り、翔太様、ショウ様の意識と我等――このテューポ、マイリーキー、ベヒモスの意識は繋がっておりますので、状態も把握しております」


「い、意識がつながる?」


 意識まで繋がっているとは想定外だ。とすれば、先ほど考えていたことも全てテューポ達に筒抜けだったのだろうか。ショウにはテューポの意識は全く入って来ないのだ。それではあまりに一方的ではないか。まるで、主従が逆だ。そんなショウの考えを呼んだのかテューポが訂正する。


「意識が繋がっていると言いましたが、詳細な情報まで入るわけではありません。ショウ様と翔太様が強く心に残られた事を知識として認識すると言いましょうか」


(なるほどなぁ。要は俺と翔太との関係のようなものか。ならば何の問題もねぇ。俺も翔太という人物のすべてを知っているわけじゃあねぇからな)


「わかった。臣下の礼をとってるという事はテメエらも俺の配下と考えて構わねぇのか」


「はい。勿論でございます。ショウ様、我等、従者一同お傍に控える事をお許していただきたく存じまず」


「ああ。ショウだ。よろしく頼む」


 その言葉を待っていたかのようにテューポは再び玉座の間にショウを案内した。玉座の間に移動中、ある事をテューポに尋ねる。ショウの予想した通りだった。翔太の阿呆は一度死んだほうが良い。翔太の存在こそがこの世界の癌なのかもしれない。


 玉座の間に足を踏み入れたときショウの心は著しく揺さぶられる。それは実に奇妙な既視感。最初デジャヴかとも思ったが、この既視感を単なる思い違いとみなしてはならないと、ショウの本能が警鐘(けいしょう)を鳴らす。

 目覚めて早々、ショウを混乱させる事が次から次へと起きる。もう限界だった。思考を放棄してしまいたかったが、自らの中の何かがそれを決して許さない。


(……ここはなんだ? この場所を俺は知って……いる? わからねぇ。考察するには材料が不足しすぎている。今のままでは全てが証明不可)


 マイリーキーにも挨拶をされ素っ気無く返答する。マイリーキーは僅かに表情を悲しみに歪めたが今のショウはこの不可解な現象の解明の方が優先課題だった。思考の渦にのみ込まれているショウをテューポが玉座に優雅に促す。


「主よ。どうぞ。玉座に」


 言われるがまま、まるで亡霊のような様子で玉座に座るショウ。マイリーキーもショウの様子からその異常に気付いたのか、その顔に出ていた悲しみの表情を心配そうな表情に変える。ベヒモスもそれは同様で、不安そうにショウを見つめる。

 テューポだけが冷静にいつもの暖かな笑顔を顔に浮かべながらショウを眺めていた。もしかしたら、テューポはショウの今の悩みをある程度把握しているのかもしれない。だが、教えてくれる様子は微塵もない。これはショウ自身が見つけるべき事だからだろう。

 テューポは気を利かしたのか、マイリーキー達を促し席を外す。

そこでショウは考える。この不可解でかつ、辿り着かなければならない解を。


               ◆

               ◆

               ◆


 暫らく思考の海の中からショウが得たものは、過去にこの『七つの迷宮(セブンラビリンス)』の玉座の間に似た場所を訪れたことがある。そして、それは決して忘れてはいけない場所。それだけだ。 

この場所がショウにとって大切な場所なのか、それとも悲劇の演劇の舞台上なのかは分からない。ただ、それを見つける事がこの世界でラシェルを守る事以外にショウが『やらねばならぬこと』のような気がしていた。

テューポ達が入って来る。


「テメエがマイリーキーか。俺はショウだ。よろしく頼む」


「はい。主様。ありがたき……お言葉……」


マイリーキーに改めて挨拶をすると、彼女は感激で眼に涙を溜めていた。僅かに頬を引き攣らせるショウ。どうもこのようなオーバーリアクションの対応は苦手だ。だから――。


「テメエらに一つだけ命じていいか?」


「「「勿論です(わ) 何なりと御命じください!」」」

 

「俺に敬語は止めろ。やるなら翔太だけにしな。性に合わん」


 翔太には散々煮え湯を飲まされている。精々、ショウの分まで身を悶えてもらおう。


「「「お断りいたします」」」


 ほぼ全員に拒否の態度をとられ思わず、目を見張る。


(テメエらさっき何なりと御命じくださいと言ったばかりじゃねぇか。自身の言ったことくらい責任持ちやがれ!)


 テューポも表情は崩していないが、眼が笑っていない。というか目が据わっている。

 マイリーキーは視線すら合わせず、ふくれっ面でそっぽを向いている。

 ベヒモスが唯一すまなそうな顔をしていたが譲るつもりはない様子だ。

 これがテューポ達の譲れない一線なのかもしれない。

 これ以上、この議論をしても無駄であろう。それよりも、今後の計画を立てるべきであろう。

 翔太の阿呆のせいで戦力は著しく増強された。戦力を正確に把握するためには《解析》スキルを使う必要があるが先ほどのショウの発言で、テューポとマイリーキーはへそを曲げている。機嫌のよいときに改めて、《解析》させてくれるように頼むべきだ。配下の信頼を失い戦力を失うには、余りに失う戦力が巨大すぎる。

 おそらくこの中で最強はテューポだろう。次いでベヒモス、マイリーキーという強さの序列だ。そのショウの配下最強のテューポも本気になったベルゼブブに僅かに及ばないと思われる。そして、実際の強者同士の戦闘ではその僅かな差が致命的なのだ。敵側最強のベルゼブブを倒す手段がない以上、今のショウ達にはまだベルゼブブを降す力はないと言える。

 この判断はショウの完全な予測に過ぎないが間違いはないと確信している。そしてこの確信こそが一番異常なのだ。

 ショウはベルゼブブの力をなぜこうも詳細に把握しているのだろうか? 確かに、当初はベルゼブブが出てくれば厄介極まりない事になる程度の認識を持つに過ぎなかった。いや、そう考えていた。

 だが、よくよく考えればショウの発言自体にはいくつもの矛盾が数多くあった。ショウはアントンとの会話で無意識に、ショウの今のステータスはベルゼブブのステータスよりも1ランク程低いと発言している。だが、この発言はそもそも、ベルゼブブの詳細な力を知らなければ判断不可能なはずなのだ。ショウとベルゼブブの間に過去に何かがあったのはほぼ間違いはあるまい。その解を紐解くことこそが、玉座の間の真実につながる事なのかもしれない。

 

 もうこの場所にいる理由もない。テューポ達に軽い挨拶をして指輪の外に出る。テューポはいつもの柔らかな笑顔で送り出してくれたがマイリーキー、ベヒモスはショウが『七つの迷宮(セブンラビリンス)』から出ることに心底残念そうであった。

 マイリーキーにおいては次にいつ訪れるのを必死の形相で聞いて来たくらいだ。マイリーキーに頻繁に訪れることを約束させられ、指輪の力で外に出る。




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