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僕と俺の異世界漫遊記  作者: P・W
第一部 覚醒編
103/285

第93話 『七つの迷宮』を訪問しよう


 眩い光に翔太は包まれ、思わず目を固く閉じる。ゆっくりと目を開けるとそこは地球だった。

 アスファルト舗装がされた道路、電柱、住宅などが存在する翔太の住んでいた懐かしい冬戸市の風景。

 嫌な思い出しかないと思っていた地球も翔太にとってはやはり故郷なのだろう。急に胸が締め付けられる。だが、ここが地球ではない事は明らかだ。理由は簡単。人の気配が全くしないからだ。それが翔太にはどうしょうもなく悲しかった。どうやら、久々の冬戸市を見てホームシックにかかってしまっているらしい。


 キュィ~~ン!


 突如、前方からエンジン音がして、向こうから自動車がこちらに走って来て、翔太の目の前に止まる。

 その真っ黒の車の後部座席部分の構造は細長く通常の車とくらべ延長している。どこからどう見てもリムジンだろう。無論、翔太はリムジンなど乗った事がない。特に祖父――田宮(たみや)(げん)(さい)は質素を旨とする人物であり、高級と名のつくモノ等買う事を許容するわけがない。

 もっとも、田宮家は一般家庭であり、田宮玄斎(たみやげんさい)がたとえ買おうとしても買えるはずもないのであろうが……。

 

 バン!

 

 ドアがゆっくり開き、龍執事――テューポが下りてくる。テューポは会ったときと同様に優雅に右膝をアスファルトに着き、右腕を胸に当てる。


「主よ。この度はこの『七つの迷宮(セブンラビリンス)』にお越しいただき我等住人一同、その慈悲に深く感謝いたします」


 いつにもましてオーバーな(ひと)である。どうにかならないものだろうか。翔太としてはもっと気軽な態度をとってもらった方が助かる。


「テューポさん。できれば、もっと楽な態度で僕に接してほしいです。あと、敬語は止めてね」


「主よ。それは主の頼みでもできません」


 テューポは当惑気味にも答える。鉄仮面のように柔らかな笑顔を常に絶やさないテューポが表情を崩すのは付き合いの短い翔太にとっても違和感がある。

 だが、今回は翔太も譲れない。毎回、テューポが出てくるたびに臣下の礼をされたのでは人目に付いてたまらない。それに、敬語を普段使われたこともない翔太にとって、途轍もなく身体がむず痒いのだ。


「そうおしゃらずに、お願いできませんか。この通りです」


 翔太はペコリと頭を深く下げた。このようにすれば、すんなり聞いてくれるかと思たからである。だが、それは大きな間違いであることがすぐにわかる。


「嫌でございます。断固拒否させていただきます」


 テューポは笑顔を張り付かせたまま拒否の態度をとる。もっとも、笑っているのは表情だけで、全く目が笑っていない。そのテューポの肉食獣のごとき眼光は小動物――翔太を過剰に恐怖させる。


(こ、怖い……こ、これ以上その話題に触れるなという事だよね。それに、なんだか、子供みたいな口調になってるよ! テューポさん――)


 テューポの張り付いた笑顔に負けて翔太はこの話題を強制的に終了させる。


「あ、あの、それで僕はどこに行くのでしょうか?」


「はい。ご案内いたします。主よ」


 テューポの表情がいつもの柔らかな笑顔に戻り、ほっと胸を撫で下ろす翔太。

テューポがリムジンのドアを一遍の隙もない優雅な動作で開けたので、恐る恐る車内に入る。

 車内は広く、青白色のライトが照らしている。長細い座席に、氷に沈められている飲み物とグラス。御叮嚀にテレビもついている。


(うわ~、テレビなどで見た通りだ。実際、僕が乗る事になるとは夢にも思わなかったけどさ)


 テューポに緑色の液体の上にアイスの乗ったグラスを渡されて口に含むと、炭酸のシュワッという風味とアイスの甘味が口の中に広がった。それは翔太にとってとても懐かしい切ない味。


(これって、クリームソーダ? これは僕が一番大好きな飲み物。これは僕が昔……あれ? 何で好きだったんだろ? 大きな理由があったような気がしたんだけど……また気のせいか……僕この頃こんなの多いよね。疲れてるのかな……)


 翔太は僅かな引っかかりを覚えたが、疲れからくるものだと結論づけ、深い郷愁を感じながらも窓の景色を眺めながらクリームソーダを飲み干した。


               ◆

               ◆

               ◆


 車が止まり、テューポが恭しく開けたドアから外に出て絶句する。


(な、何これ、庭? 庭にしては巨大すぎるような。それに、あの馬鹿でかい建物は一体? 城にしては高すぎるし、ビルにしては装飾品が豪華すぎる。僕、ヤバそうな場所に足を突っ込んでいる気がする)


 頬を引き攣らせながら、巨大な建物の巨大な扉が自動的に開かれて、翔太はテューポの後に続きそろりそろりと中へ入る。

 中は外以上に出鱈目だった。エレナ邸やオットー邸など比較にならない程の絢爛豪華な作りとなっていた。しかも、建物の内部は現代科学の粋をこらして建造されていると思われる。色とりどりの装飾がなされたエレベータや大理石でできているエスカレーター、自動で動く床など、明らかに過剰であると断言できものが数多くあった。

 もっとも一番異常だったのは、翔太に恭しく頭を下げる執事とメイドの集団である。


(あ、あの(ひと)達、精霊……のわけないね。一柱(ひとり)でマンティコアより圧倒的に強いよ。駄目だ。もう頭が痛い。深く考えるのは止めよう。発明王がアホすぎるという事で結論付けるのが一番だよ。うん。会ったら盛大に文句の一つでも言っておこう)


 まさに怪物としか言いようがない力を持つ執事とメイドの集団の中をまるでモーゼのように歩むテューポの後をちょこちょこと草食動物――翔太が歩く様は翔太本人から見ても喜劇にしか見えない。


 テューポの後を暫らくついていくと一際大きな部屋の前に連れてこられた。テューポがドアに設置されている縦20cm横10cm程の長方形の装置に右手の掌を当てるとピッという電子音がして巨大なドアがゆっくりと開いて行く。

 その部屋の内部は一言で表せば玉座の間だった。ただし、翔太が想像するよりもずっと絢爛豪華であった。

 天井に一定の距離設置された豪華なシャンデリアから照らされる明るい光によって曇り一つない程ピカピカに磨き上げられた床が反射し、幻想的な雰囲気を醸し出している。丁度部屋の真中には真っ赤な絨毯が敷かれ階段の上の玉座まで続いていた。


 テューポは玉座まで歩を進める。

 玉座の右傍に長い金色の髪を持つメイド服を着た女性が佇んでいた。人というにはあまりに顔の作りが整い過ぎており、上空のシャンデリアの照らす光が彼女の金髪にキラキラと反射しまるで女神のような神秘的な美しさを体現していた。

 

 玉座の左には黒色のスーツにサングラスをかけた赤髪の大男が控えている。2メートルを軽く超える筋骨隆々の体躯に口から覗かせる独特の犬歯。

 その存在するだけで自然に発生する出鱈目な威圧感はマンティコアなど比較にすらならない。さらに腰のホルダーに掛けられたゴツイ漆黒の銃からは可視できる程の魔力が滲み溢れ出している。


(あ、あの女性もあのお兄さんも普通じゃない。ははは……フィオンに聞いても教えてくれないわけだ。こんな無茶苦茶、言葉で表しようがないもの)


 テューポが玉座に近づくにつれ、翔太は猛烈に嫌な予感に襲われていた。


(ちょ、ちょっと待ってよ。この恥ずかしい玉座に座れとか言わないよね)


 昔からそうだ。翔太の予想はいつも最悪な事だけは必ずといって良いほど当たる。テューポは、玉座の前まで行くと、片膝をついて右手を胸に当てる。所謂、臣下の礼という奴だ。メイドの女性も、巨躯の大男も同様の仕草をとる。


(当たりか……正直、もう逃げ出したいんだけど)


 心の中で泣きべそをかきながらも座らない事には話が進まない事も翔太にはわかっていた。

 絢爛豪華な玉座に恐る恐る腰をかけると、女性と大男が自己紹介をしてくれた。

 まず女性の方はマイリーキーといいメイド長らしい。『絶対嘘だ!』と翔太は心の中で絶叫していた。こんな神々しいメイド長などどこの御伽話の世界だ。いや、御伽話でも今時のものは幼児向でも、もっと真面な論理構成をしてくる。どの角度からみても、翔太とマイリーキーが並べば、女王と女王に仕える召使いにしか見えない。

 彼女は『七つの迷宮(セブンラビリンス)』の5階層の管理を担っているそうだ。是非、5階層にも遊びに来てほしいと言われた。だが、正直、5階層を見たときの精神的ショックが大きい事が予想され、軽く頷くに留めておいた。

 

 次の赤髪の巨躯の大男が近衛師団長――『ベヒモス』。確かに、この城のような建物には幾多のスーツを着用した(ひと)がいた。その柱達(ひとたち)が近衛兵なのだろう。あのバケモノのような兵士達を従える長が師団長――『ベヒモス』というわけだ。


(でも、こんな出鱈目な(ひと)達がいるのに近衛兵なんてそもそもいるの? マンティコア程度が何十匹忍び込もうが先ほどの沢山いたメイドさんや執事さんの一柱(ひとり)に瞬殺されそうだしさ……)


 ちなみに、『ベヒモス』は『七つの迷宮(セブンラビリンス)』の第4階層を管理しているらしい。


 玉座に座っての気まずい自己紹介が終了した。玉座の間で、明日作成する予定の翔太の専用武器についてテューポにある事を頼むと喜んで引き受けてくれた。良かった。これで、新しい実験が行える。


 テューポ、マイリーキー、ベヒモス以外の『七つの迷宮(セブンラビリンス)』の幹部達の紹介を簡単にされてた後、巨大な食堂で食べた事もないような豪勢な夕食をとった。もっとも、あまりも場違いすぎて味など殆どしなかったのだが……。

 是非泊まって行けと言われる。翔太としては全力で宿屋キャメロンに帰りたかったが、テューポ達のあまりに真剣な様子に断り切れず、泊まる事にする。

 最上階が翔太の寝室らしい。その事実に翔太は開いた口が塞がらない。建物の一つの階層自体がとんでもなく広いのだ。それをたった一人の寝室に使う等、正気とは思えない。驚きを通り越して逆に冷静になったくらいだ。

 テューポに案内されエレベーターで最上階に上がる。この際だから、ディートバルトの能力の向上について良い案はないか駄目元でテューポに聞いてみた。すると、かなりためになるアドバイスがもらえたのだ。これは使えるかもしれない。


 最上階の寝室に着く。着いて早々、あまりの馬鹿馬鹿しさに絶句する。王族が寝るような巨大で豪華なベッド。塵一つないような水洗便所。超巨大な大浴場。すべての設備が、煌びやかな装飾品で飾り立てられていた。

 無言で頬をヒクヒクさせていると、テューポは一礼をして部屋を出て行った。部屋の外には、近衛師団長の『ベヒモス』が直々に警備してくれるらしい。

 呆けていても意味もない。フラフラと巨大なベッドへいき仰向けになり、天井を見上げる。巨人も住めるように設計してあるのか、天井は遥か遠くに見える。天井の木目を見て考え事をする翔太にとってこれは少々不都合であった。

 やはり、翔太には昔の田宮邸が一番である。今度、テューポに相談してみよう。この建物は儀式用や今後誰かが訪れたときの宿泊施設に使うのが一番良いと思われる。実際にその機会があるかはわからないが……。

 それにしても、本当にこれは『七つの迷宮(セブンラビリンス)』の世界なのだろうか。説明書を読んだ翔太にはとてもそうは思えなかった。

 認識による小世界の形成では、こんな不思議の国のアリスの世界にでも迷い込んだような摩訶不思議な世界が出来上がる。

 精霊生成では高位悪魔を一瞬で屠れるような(ドラゴン)などの高位の生命体が生成される。

 この世界について知る度に驚いてばかりであるが、さすがにこれは異常であろう。あまりに、翔太にとって都合が良すぎる世界――それがこのアースガルズ大陸なのかもしれない。

 もっとも、この頃肌で感じている事であるが、一見翔太自身に都合が良いようにも見えるが、必ずしもそれは翔太のためとは言えない様にも思えるのだ。なぜなら、翔太の目的はこの世界で強くなる事でも成り上がる事でもない。ただ、日葵、柚希、雪、心菜と共に、地球に帰ることだ。

 だが、彼女達には一向に会えず、異世界帰還の情報の一つも手に入らない。その反面、度重なる異常とも思える強者とのエンカウント。道端の少女と知り合うという偶然の結果、『七つの迷宮(セブンラビリンス)』を獲得する。鍛冶を偶々見学した結果、神々の武器を産生する。この事象は果たしてすべて偶然なのだろうか。ありえない。決してありえはしないが。それがすべて必然のような気もまたするのだ。そしてもしそうなら…………。


(止めよう。そんな事あるはずがないし、考えても意味はないよ)


 翔太は重くなってきた瞼をゆっくりと閉じてゆく。今日こそは良い夢が見れますように。昔の懐かしも恋しい夢が――――。



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