京極道中記
─1年前─
パンデミック後、自動制御で発電所や工場、物流が昨日しているものの、物資は乏しい状態だった。
「小舟で川下りなんて、ハックルベリーフィンの冒険みたいね。」
不知火燎里は遠足気分だ。
「人気も避けられるし、歩くより速いしね。」
深麓は現実的だ。
ガソリンは手に入らず、電気自動車も買えない。主要な公共交通機関は生きているが、その先の交通手段はなし。地元の方の小舟を借りて移動している。
「岐阜って、川が多くて京都に近いから、戦国時代の主舞台なったと考えるとロマンがある。」
深麓はやや歴史マニアだ。
「ダイダラボッチが琵琶湖のあたりの土を掘って、富士山を盛り土したって伝承だっけ?ダイダラボッチは日本を広く移動していて、今は琵琶湖周辺に向かっていると。」
鳴神鵺は到着前に確認した。
川で下っている間、各々弓矢を自作している。
矢に高密度のオドを乗せて発射すれば、身体能力で劣る巨人に対抗できるからだ。
「燎里がこの世界に転移して1年かぁ。そういえば、どうしてそうなったんだっけ?」
鳴神鵺が尋ねると、
「下校途中で死神に追われて、偶然こっちの世界の裂け目が見えて逃げ込んだの。」
「ふーん。コンヒュージョンホールからきた訳ではないんだ。あれから死神は現れてないね。」
(死神ってのは、蝶花が放った式神ね。時空系だから狙われたか?)
鵺は直感する。
「こっちにきてすぐ感染して、その時介抱してくれた黒猫の女の子が、私の存在を書き換えて見つからなくしたって言ってたわ。」
鳴神に緊張が走る。
(伊吹御影!?姿を変える能力は聞いたことがあるけど、存在を書き換えるなんてできるの!?)
罹患時、燎里の最高血圧は200、脈は120、血中酸素濃度は80%。頑張って呼吸をしているが酸素が取り込めない状況で、肺炎を起こしていた。
伊吹御影は、燎里の肺炎の患部を書き換えて治療した。
ダイダラボッチは人間に有効的だった。
しかし、人間と競う性格で、結局一戦交えた。弓矢で距離を取った闘いが功を奏し、両者互角て幕を閉じる。
往路では、滋賀県で鉄鼠(石の身体と鉄の牙を持つ)と対峙したが、帰路でも、琵琶湖にゴミを捨てた深麓がだくらい様(猿の顔、狸の胴体、虎の手足、尾は蛇。身長70mで天狗に似ている。羽団扇で火災を起こす)に襲われたり、三上山に絡み付いたとされるオオムカデ(1億od)と遭遇した際は、国際親善部全員がバラバラになり、1週間ほど野山をさまよった。
「無人島物の気分。鳥を捕まえたり、洞穴を探したり(河内の風穴?)、のろしを立てたり、春だからマルベリーや山菜が採れたわ。」
都会に住んでいた不知火燎里にとって、新鮮だった様だ。
───現在
「琵琶湖遠征で燎里の過去を聞いたんだったね。」
京都から戻った鵺は、燎里に向かって語りかける。
「成功の可能性はゼロに近いんだよね?それに、私じゃ蝶花って人の相手にならないよ?」
燎里は四次元装置使用に反対する。
「蝶花に対抗するには、土御門和奏と天音瑠流を救出する必要がある。そのためには、時空系能力者が必要なんだ。蝶花を倒さないと全員犠牲になる。」
不知火燎里は伊吹御影の厚意を思い出す。
「あの女の子も。」
迷いつつ、
「私やる!」
燎里は決心する。




