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とある郎人、斯く語りき。

「いつしか夢見るものものがあらわれた。帰れない故郷だからこそ、強く希い夢想して、近くに手繰り引き寄り添うものものが増えだした。

 それはきっと闇だった。明るい虚ろが満ち満ちた温かな虚闇でなく、深く空虚で冷たい、真っ暗な常闇だった。

 けれどわれわれはもうわからなかった。失くした故郷のかたちがわからなかった。虚闇の幻想は、郷心を締め上げ奈辺の深みへ沈める、夜の雫だった。

 いつしかひとりはかたちを喪った。いつしかことばはひとつになった。ひとつのことばが、いのちになった。新しい故郷の欠片となった。

 それはきっと闇だった。虚闇ではない常闇で、昏く沈んだ永き微睡を呼ぶものだった。ひとびとの伸ばした手が触れたそれは、きっと幸福だった。意味を喪ったことが、幸福だった。」

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