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とある郎人、斯く語りき。
「ひとはことばによってひとになり、ことばはひとの世界となった。ことばで分かたれたひとは、ひとびとになった。
ひとびとはひとりになった。分かれたからこそ、ひとりひとりになった。ひとりとひとりは同じ方を見る。けれど、見ているものは同じもの?
われわれはいつしかわからなくなった。ひとひとりでいのちが生きていることを。ひとひとりでこころが動いていることを。ひとひとりでたましいが震えていることを。
ひとがことばになった。ことばは意味になった。意味は小さくなった。小さくなったものが、世界を埋めた。
埋められた世界は、自分のかたちがわからなくなった。もとの虚闇に、戻れなくなった。虚闇は幻になった。幻は、帰れない故郷だった。
故郷は遠く、幽かに、細く世界と繋がっている。けれどそれは、ひとには見えないものだった。けものたちだけが、故郷を見ていた。
われわれは、帰る場所を喪ったことを知ったのだ。」




