第5話 ふむ。旅をしながらやること多し
ここは、リーンの元住まい。シュラハン公爵邸。現在、新たな次期当主となるはずのルイス・シュラハンの帰宅により屋敷内は大慌てになっていた。
ルイスは、部下に身体を抱きかかえられながら、現当主ミュラハンドに会いに行ったからである。
「何? リーンに逃げられただと? ふざけるなっ! 領外にシュラハン家のことを喧伝されたらどうするつもりだ? ルイス!!」
「も、申し訳ありません。父上。……あ、あの、それよりもオレは身体が動かなくなってしまいました。助けて下さい。父上」
「ふんっ! 知るか。何かの呪いにでもかけられたのだろう。使えない愚息などいらん。……クラウス。ルイスは離れの屋敷に連れていけ。こんな状態では社交界にも連れていけないからな」
「はっ! 旦那様」
「離れの屋敷!? 隔離部屋ではないですか! 嫌だ! あんな暗くて汚い部屋なんて嫌だ。考え直して下さい。父上!! 父上!! 嫌だあああぁ!!」
「………参りますよ。ルイスお坊ちゃん」
「嫌だあぁぁ!! 離せ! 普通の分際で!! オレに触るんじゃねえぇ!! 父上!! 父上!! オレには、ユリセントが必要なんです!! 父上!!」
ミュラハンドの側近、クラウスに担がれたルイスは抵抗むなしく屋敷のペットが住む動物屋敷へと連れてかれてしまった。
「醜い……まったく。長男のリーンといい、次男のルイスまで。我が息子達ながら異常者共が。女などに欲情しおって。あんなものは世代を次に繋ぐ存在だろうに。というわけだ。馬鹿息子は失敗した。処刑人・リンドバーグよ。依頼を頼みたい」
「おおぉ!! やっとその気になってくれましたか。待ったかいがありましたよ。旦那様」
「ァゥ…………ハァ………ハァ……ハァ……ハァ……ァァゥ」
ミュラハンドが話しかけた人物達は、可笑しな格好をしていた。片方は長身で顔には髑髏の仮面を付け、怪しいフードを被っている。左の片手には、鎖を巻き付かせて。右手に先端に紫の宝石を付けた杖を持っている。
もう片方は……右の片腕、左の片足がない状態で、首には鎖が繋がられ、《《全身傷だらけの猿ぐつわを強制的に咥えさせられた》》少女だった。
「金は欲しいだけ提示していい、リーンの奴が我が家のことを外に言いふらす前に殺してくれ。リンドバーグ」
「ご承知賜り申します……シュラハン公爵殿。行くぞ。奴隷娘イリス。さっさと来いっ!」
「…ハァー……ハァー…ゥゥゥアァ………ゥゥゥ……」
リンドバーグは鎖をおもいっきり引っ張ると、奴隷娘イリスを引きずりながら部屋を後にした。
「……まったく。いつ見てもおぞましい者だな。この世界の男異常者の性癖というものは」
◇◇◇
「ふむ。そろそろ、俺の魔力も限界に近づいているか。いったん地上へと降りよう。ユリセントさん」
「……そうですね//// いつまでもこの体勢は恥ずかしいですし。降ろして下さい。後、おトイレにも行きたいです」
「む? 空ですればいいのではないか?」
「抱っこされながら、お空の上からできるわけないじゃないですか! 変態鬼畜なリーン様!!」
「ふむ。それでは仕方ないな。降りるとしよう」
シュラハン公爵を飛び立って、3時間ほど経った。俺たちは王都へと向かうべく北上中だ。
そして俺は、ここら辺にあると思われる隠し財宝を見つけるため、ヘレサの森へと降り立った。
「…………あの……近すぎでは?」
「ふむ。気にするな。ユリセントさん。私は一切きにしない」
「わ、私が気にするんです! おし……トイレをしたいので、遠くを見つめておいて下さいっ!」
「いや、推し活をしなくては……いや、分かった。分かったから。冗談だから。聖魔法を俺に向かって放とうとしないでくれ。ユリセントさん」
……ユリセントさんが無防備になる時、トイレ中に護衛をしてやるつもりだったのだが。怒られてしまった。何故だろうか?
「まぁ、ユリセントさんがトイレ中でも話はできるか。いいかね。ユリセントさん。俺たちがシュヘレント魔法学園に入学するまでの1年間で準備を急がねばならない」
「……………あの、私。この格好でリーン様の話を聞かないといけないんですか? 恥ずかしいんですけど」
「ふむ。慣れたまえ」
「…………一生無理です。恥ずかしい過ぎて…………天然ド変態」
ユリセントさんの近くの地面から湯気が出ているな。なんだろうか?
「うむ。そうか。ならばその状態で聞いてくれ。まず俺たちに最優先は、ユリセントさんの安全確保だ。そのために俺も君も強くなる必要がある。あぁ、いや。……俺は今の段階でもかなり強いので、ステータスの限界突破が必要か」
「……自慢話にしか聞こえませんけど。それと木の根元で何を掘ってるですか? リーン様」
チョロチョロと音がユリセントさんの方から聞こえてくる。いったい何が流れているのだろうか?
「その他にも、魔法学園の入学のための資金集め。王都での拠点作り。……俺に差し向けられる敵の排除だな。おお! あったあった。早速、役にたったな。前世のゲーム知識。ヘレサの森の隠し財宝を手に入れたぞ。ユリセントさん」
ふむ。……"魔力回復液”と“体力限界突破の実“か。ここにあると思って立ち寄ったが。正解だったな。早速飲まねば。でなければ魔力枯渇している今なら簡単に殺される。
「?……リーン様。また前世とかわけの分からないことを言って……足音? リーン様! 誰か来ます」
「ゴクンっと……うむ、了解した。ユリセントさん。隠れていてくれ。〈黑盧結界〉」
「え?……待って下さい。リーン様! 私は今、おしっ……」
俺はユリセントさんの安全を最優先するために、問答無用で〈黑盧結界〉の中へと詰め込んだ。
「それで? 君たちは愚かな親父殿が俺へと放った刺客か? 意外に早く来たのだな」
「えぇ、急いで殺せと言っておられましたよ。実の息子を追放し、さっさと殺せとなど。……それ程までに、シュラハン公爵家の闇は深いのですね」
「………ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……」
茂みの奥から現れたのは、仮面の男と……四つん這いの欠損少女?……どんな趣味だ?
「ヘドロのようにな。……おや? その娘は? 身体は欠損しているようだが。どこで手に入れた?」
「これ? ですかな?……これは奴隷市場で廃棄される所を譲り受けた欠陥人間ですが。なにか? ねぇ? ゴミ女」
「………ゥゥゥ……アゥゥ……」
「黙れ。今は戦いに集中する時ですよ。お仕置きされたいのですかな?」
「………ウゥゥゥゥ………」
仮面男の言葉を聞いて大人しくなる。欠陥娘。両目からは涙を流し、悲痛な表情を浮かべていた。
「ほう、そうか。……ならば、お前を倒して、その娘は俺が譲り受けよう。大切なこの世界の登場人物なのでな」
いや、本当にヘレサの森へと立ち寄って良かった。人体のあらゆる欠損すら治す秘薬を手に入れられた。この世界の大切な主人公を救う羽目になるとは思いもしなかったぞ。




