第4話 ユリセントさんを返せだと? ならぬ。彼女は俺の専属メイドだぞ
ユリセント・カフェテリア。十八禁ゲー『ダーク・イリュージョンエローライフ』の登場キャラにして、人気ヒロインの1人だ。
聖属性が得意で王族に連なる血筋であり、とある貴族の事情でシュラハン公爵家の長男。悪ガキで有名な、悪役リーンの側付きメイドとして働き。リーンからの性的な嫌がらせや虐めを、《《12歳の頃から》》受け始めた。
それが原因で、彼女はリーン本人とシュラハン公爵家に深い恨みを抱くようになり。リーンを裏切り主人公を求める展開になっていく。
そしてゲームの最終場面で、リーンは元メイドのユリセントの目の前で主人公に倒されて死ぬ。その時のユリセントさんの愉悦したときたら……ホラーだったのを覚えているな。
「…………何か? 私の顔になにか付いてるのですか?」
「いや。ユリセントさんは今日も可愛いと思っただけだ」
「か、可愛い!? ば、馬鹿なんじゃないですか! リーン様は全くもうっ!」
まぁ、そんな話。悪役貴族の役を放棄した俺には関係ないのだが。というか、ユリセントさんは『ダーク・イリュージョンエローライフ』のエッチなヒロインキャラでも推しキャラの1人だぞ。なんで虐める必要がある。
むしろ褒めたい。その成長を見守り見続けていたいまである。それくらい俺はユリセント・カフェテリアという女の子を前世で推していた。
「まぁ、俺のレベルアップは合間合間にやりまして。最優先事項はユリセントさん一択ということか。というわけで、俺がこれからも君を大切に見守っていこう。推しの子よ」
「また。変なこと言ってますね。リーン様。まったく、そうやって毎度毎度、私の気持ちの意識をずらすの止めてもらえませんか。だいたい、私はリーン様のことを……」
「うむ。大切に思っているぞ! ユリセントさん!」
俺は、彼女の両肩に両手を置き。真っ直ぐ見つめてそう告げた。うむ。ヤンデレではないユリセントさんの目は新鮮だな。ハハハ。
「……それじゃあ、なんで昨日の夜は手を出してくれなかったんですか。……リーン様が手を出してくれなかったから、昨日は1人で済ませたんですからね」
「ん? なにをだ?」
「な、なんでもありません! それよりも、早くシュラハン公爵領地を出ましょう。リーン様の弟方がリーン様を狙って、追いかけて来てるんですよね?」
「ん? あぁ、反応はあるな。だいぶ近い……というかもう少しで追いつかれるはずだ」
「……え?」
あぁ、ちなみに前世の記憶を取り戻してからは、自分にできる鍛練というものを積んできた。そのお陰なのか。大抵の小さいトラブルはまだまだ未熟な「黑色」魔法で解決できる。
それとこのエロゲー世界には、簡易的だがステータスオープンと念じると。あら不思議、自身の現在ステータスを確認できる。簡易だけだ表示してみよう。2年間それなりに鍛えた結果がこれだ。
リーン・シュラハン
攻撃力999
守備力999
魔法力999
体力 999
高いと思うが、勘違いだ。この世界の最大数値は9999なんだ。まぁ、それには限界突破できるチートアイテムを入手しないといけないのだが。今はそれをする必要もない、ステータス能力値999もあれば大概のことはなんとかなる。
それよりも今は、ユリセントさんのために彼女と一緒に住む場所を確保しないといけない。
『あそこから気配が、ルイス様。やはり、情報屋の言った通り。リーン様は、あの宿の中にいるようです』
『トチ狂った馬鹿兄貴を様付けするんじゃねえよ。それよりも、今は、ユリセントだっ! オレの奴隷メイドのユリセントを取り返すぞ。準備しろ。お前等』
『『『はっ!』』』
宿屋の外から元気な弟の声がするな。どうやら、この宿を取り囲んで俺たちを包囲する気のようだな。
「この声は……ルイス様の声? そんな。振り切ったと思ったのに」
「ふむ。…………外が騒がしくなってきたな。ユリセントさん。唐突に聞くが、君は屋敷を止めた後だが。これからの人生なにをしたい?」
俺は、突然彼女の将来について聞いた。突然だったが。これは、とても大切なことだ。俺の未来にも関係する大切な岐路だ。
「え? えっと。……リーン様。こんな状況でなにを言っているんですか? 早く逃げないと。リーン様が、ルイス様に殺されてしまうんですよ」
「そんな些細なことよりも。君のこれからの事の方が大切だよ。君はこの先なにをしたい? 俺の専属メイドになっていなければ何になりたかったんだ?」
この質問は大事なプロセスだ。俺と彼女の……ユリセントさんの《《進路》》が決まるプロセス。
「私は……学園に……」
「ほう。学園……続けたまえ。ユリセント」
「は、はい! 私は学園に……シュヘレント魔法学園で、リーン様と魔法を……一緒の机で学びたいです」
「うむ。その答え、しかと引き受けた」
ヒロイン。ユリセント・カフェテリアは、ゲーム中では、俺の元を去った後、なんとか王都へと向かい。ゲームの主人公キャラ。カンナと出会い。紆余曲折を経てシュヘレント魔法学園の生徒として活躍していき、強くなっていく。
「では、こんな序盤でゲームオーバーになるわけにはいかんな。王都へと向かおうか。ユリセントさん」
「へ?……リーン様の背中に黒い翼が生え……てる?」
「うむ。「黑色」魔法の黒耀だ。今回は上手く発動できたようだ。……俺も研鑽を積まないといけないな。マスター、良い宿であったっ! 匿って頂き感謝する」
「え?……ありがとうございます。マスターさん」
「ん?……おぉ、またのご来店をお待ちしてるよ。坊っちゃん。お嬢ちゃん」
俺は、カウンターでグラスを磨くマスターに礼の言葉を告げると。姿を消した状態で、宿屋の窓から外へと飛び立った。
◇
ふむ。分かりやすい場所に警戒もせずに立っているとは、流石は俺の弟だな。ルイスよ。
「探せえぇ!! さっさとオレの前にユリセントを……オレの女を連れてこいよっ! 無能共がぁっ!」
「は、はいっ!」
「し、失礼しました」
慌てた様子で、ルイスから離れていく。これはチャンスだな。
「ヒヒヒ。馬鹿兄貴が。大人しく家の言うことを聞いていれば。当主を継いで、財産も権力も好きに手に入ったろうに。王政側なんかにチクるから、追い出されるんだ」
そうでもない。実家から追い出されたお陰で、どこまでも行ける自由を手に入れたのだからな。
「……兄貴を……リーンを早く殺して、ユリセントを抱かねえとな。今日の夜は寝かせねえからな。ユリセントオォ!! めちゃくちゃにしてやるぜ」
鼻の下を伸ばして、気持ち悪い笑みを浮かべているなルイスめ。俺に抱っこされているユリセントさんがドン引きした顔をしているぞ。
「リーン様。あの方、気持ち悪いです」
「うむ。激しく同意だな。……悪いが。ルイスよ。ユリセントさんは《《お前程度》》には勿体なさすぎる。俺が貰う」
「……リーン様?」
「これからは自由に動けないように、お前の関節の駆動箇所を空けるとしよう。〈黑妖蝶〉」
俺は、右手の小指から黑紫色の魔法蝶を造り出し、ルイスへと放つ。
「綺麗。……リーン様。あの蝶って?」
不思議そうな顔で俺へと質問する。ユリセントさん。
「あぁ、あれは〈黑妖蝶〉。触れた対象の身体の数箇所に穴を空け。その穴を封印する技だよ。相手の身動きを奪う時に使う技だな。今のように」
放った黑妖蝶がルイスの頭へと辿り付き触れた。その瞬間。ルイスの身体は、突然地面へと転げ落ちた。
「あ?……なんだ? 身体に力が入らな……がぁああ!? なんだ? 関節が曲がらねえぇ!!」
「ルイス様? どうされましたか?」
「ルイス様!?」
「うるせえぇ!! オレを見下ろすな!! 早くユリセントをオレの元に連れてこい!! 無能の馬鹿共がぁああ!!」
ルイスはそう叫びながら、屋敷から連れてきた部下に罵声を浴びせ始める。
そして、俺の手元には、ルイスの関節部位だった物が入った黒い箱が現れる。
「……お前が改心するまで、俺がお前の関節を〈黑箱〉で管理しておいてやろう。ルイス、じゃあな」
俺は泣き叫ぶルイスを見下ろしながら、シュラハン公爵領地をユリセントさんと共に後にした。




