シュバレクラン
シュバルグランは関係ないです。意識もしてないです。ホントだよ。嘘じゃよ。
ジャンバ帝国は入国税と出国税が周辺国と較べて安い。そのため、私たちのような行商人はこぞってジャンバ帝国を通る。
商いに対しての税も安いのでジャンバ帝国に固定の店を構える者も多い。
結果ジャンバ帝国は内陸国というのに貿易が盛んになり、物価が安い。
「ティエリー商会長、タンスは向こうの部屋で良かったですか」
「ユゴー、今は元商会長だ。引っ越しの手伝いに元部下を使っておきながら言うのもどうかと思うが」
私は40歳という節目を機に、妻と共にジャンバ帝国に定住、こじんまりとした雑貨屋を営むことに決めた。
ジャンバ帝国を定住先に選んだ理由はインフラと税、物価の安さなどだ。定住地にこれほど適した国を私は知らない。
この国には国籍というシステムが存在し、毎年住民税を支払うことで、様々な保障を受けることができるらしい。
他所の国には無いシステムなので、当然これが初めての発行になる。
正式に国民になったと言われたような、ようこそと歓迎されていると感じて明るい気分になる。「戸建てを買うのが安くなる」と言われたから登録したのだとしてもだ。
国籍を登録するとシュバレクランという謎の金属製の板を貰った。国民には略されてクランと呼ばれているらしい。クランは無料配布のもので、新規購入や修理からの料金は自己負担と説明された。
融かしたりすれば金になりそうだが、身分証や財布の代わりになるようなので、売値以上の技術が詰まっていそうだ。失くさないようにしなくては。
使い方の説明会が毎週土曜に町役場向かいの店であるそうだが、元部下のユゴーがジャンバ出身でよくこの板をポチポチしていたので、ユゴーに教えて貰えばいいかと思い、役所職員にその旨を伝えた。
この国を語る上で絶対に外せないのは馬のことだろう。騎馬のみならず、乗馬、競走馬、馬車馬、農耕馬なんかも覚醒させるらしい。
馬車馬買うならジャンバ帝国産馬が良いとよく言われたもんだ。覚醒の分の値は張るが質が良い。
特に初代タッケ皇帝が普及させたという競馬という国営ギャンブル······失礼、国営スポーツは多くの店を七日間のうち二日を定休日にするくらいの影響力がある。税が安いのは競馬で儲かっているからなんて噂もあったな。眉唾だと思っていた。
〔他の国がA級冒険者の数で競う中、ジャンバ帝国の皇帝はジョッキーの質を自慢した〕なんて笑い話もあるくらいだ。強ち冗談では無さそうだがな。
帰宅し、ユゴーにクランの使い方を教えて欲しいと頼むと、嫌な顔せず二つ返事で了承してくれた。
ここの四角い、アイコンと呼ばれてるモノを押すと過去のレース映像が観れて······当たり前のように説明される一つ一つに私は待ったを掛けざるを得ない。過去映像?生映像?クラン通貨?掲示板?
音は出せないようだが、遠くの戦場の様子を観ながら、司令官が指示を文字で出すことが技術的に可能ということだ。
そんな技術を全て馬に使っていると言われたのだから笑ってしまう。
まあ、帝国は数十年戦争を挑まれていない。この技術力と騎馬の質からすると当たり前の結果かもしれない。
馬愛が強い国。いや、馬に狂った国。
私は競馬に明るくないが、この国は馬と共に生きているのだろう。
今日もどこかから嘶きが聴こえる。
◇
イロンデル牧場に来て数日が経った。
泊まらせて貰う代わりにと、僕はプース以外の馬の面倒も手伝っている。
実家での馬当番の日と同じような日常だ。
実家で手伝わされている時とは異なり、しっかりとした指導や褒め言葉があるので、作業のやり甲斐がある。
プースの方はというと馴致訓練が始まったようだ。
訓練と言ってもハミを噛ませたり、鞍を背中に乗っけたりして、馬具を慣れさせるものだ。
人から伝え聞いた話だとプースは良い子で、すぐにでも騎乗馴致に入れるだそうだ。嫌だなぁ。
トレーニング以外での話では、給餌の度に他の馬を威圧して栄養価の高い飼い葉を貪り、プースがここのボス馬になってしまったようだ。
牧場で一番とは言わないが下から数えた方が早いくらい身体の小さいプースがボスになるのはとても珍しいことのようだ。
プースは思いがけずボスになってしまうくらい食いしん坊なのかというと、それは違う。
食べる量は平均より気持ち多いくらい。
プースは本能的に強くなろうとしているのかもしれない。なってどうするつもりなのか、いつものぬぼーっとした姿からはそんな競争心を感じないのに。
そんな日々を繰り返していたら、親父から手紙が届いた。
配達員さんに会釈し、馬で走り去るのを見送る。
ちょうど餌やりが一段落着いたところだったので、椅子に座り内容を確認する。
{今度そっちに俺の知り合いの調教師が行くからよろしくしとけ。ガタイがよくて背中に馬のタトゥーが、見えないか。変わってなきゃ茶色いレンズのサングラスを掛けてる。まあ、会えばたぶん分かるさ}
どんな調教師だよ。大剣が似合う剛力冒険者かよ。
僕は実家を発ってから吐き方も忘れていたため息を一つ漏らした。
「どうした。ため息なんか吐いて」
「えあ、なんでもないですよ。気にしなくて良いです」
牧場スタッフの人に対して左右に細かく首を震わせる。
この人は新入りの俺によく気に掛けてくれる気さくな人だ。名前は知らない。
スタッフさんが僕の横に腰掛ける。
「あっそうだ。ため息とは関係無いですが、ちょっと馬のことで質問しても良いですか」
「おう、俺に分かることなら」
「うちの親父がプースをレースに出そうとしてるんですけど、そもそも出走できるんですか?プースって軽種と中間種の子供で、見た目には中間種が色濃く出てますけど」
僕はあまりレースを観る方ではないが、中間種やその子供がレースに出ているところを見たことがない。
「結論から言えば可能だな」
「そうなんですか。僕は見たことなかったです」
「可能だが、普通は出ない。軽種のレースは軽種に適した内容になっている。国はそれでも一着になる自信があるならばどうぞというスタンスだ。普通にやってもまず勝てないし、無理矢理改造しようとすれば馬が壊れる。適材適所、中間種は中間種の役割がある。まあ、無理して中間種を出すこともないだろうな」
規則的には可能なのか。どうせ出ても勝てないなら出禁にすれば良いのに。
ふと、幼い頃から気になっていた疑問が頭に浮かんできた。
「もう一つ良いですか」
ポケットからクランを取り出し、掲示板を開く。
「よく〔速さの加護〕が一番強いって言われますけど、〔速さの加護〕って結局何なんですか。〔力の加護〕は筋肉の強化って感じはしますけど、それとは別なんですよね」
「ああ、それな······」
スタッフさんは顎に手を添え、少し間を取った。
答えが分からないという訳ではなく、どう話せば伝わり易いか、と説明を噛み砕いているようだ。
「馬のシンボルは俺たちの〔飼育の加護〕みたいに行動に補正が掛かるものじゃなくて、〔力の加護〕だったら〔力〕っていう能力パラメーターに+1%される感じ。具体的な数字は知らないから仮で1%と置いたが」
「うーん、分かるような分からないような」
今一イメージができない。能力を数値化というのがピンと来ない。
「そうだな······名前はラッジ。男。腕力5、脚力7、体力3、コミュニケーション20+1、魔力2。みたいな感じか」
微妙に数字が低いのが気になるが、なんとなくイメージが沸いて来たかもしれない。
「通常〔力の加護〕なら力のパラメーターが1%上がるものとする。しかし、〔速さの加護〕の場合少し違うらしい。力やら反射神経やらの全てのパラメーターが0.1%上がる。つまりパラメーターの数だけ0.1%上がるからパラメーターが10項目以上あれば単純計算で1%を越えることになる」
「計算テキトーすぎませんか」
「まあ、30項目くらいあるらしいしな。神官は覚醒の儀式でそのパラメーターを視ることができるとかなんとか」
すぐに理解できない話をなんとか反芻して飲み込む。
「つまりうちのプースは回復という項目に補正が掛かっていると。回復なんて聞いたことがなかったんですけど」
「俺もだ。見た感じ全力で走ってもすぐに息を入れているし、加護の適性が高いんじゃないか」
「適性ですか」
また知らないワードが出てきた。そろそろ糖分が欲しい。
「ほら、同じくらいの速さの馬を覚醒させて、どっちも〔力の加護〕貰ったのに覚醒後には速さに差が出たって話があるだろ」
「はい」
「片方が5%、もう片方が2%の補正、と馬によって上昇率には差がある。この上昇率が大きいほど適正が高い馬って表現するんだ」
「知らなかったです」
加護ってあまり能力に関わらないって話じゃなかったっけ。まあ、田舎知識だし、まあ。
「と言っても、元々の馬の能力に比べれば覚醒の補正値が総合値に与える影響なんて微々たるものだ。それに、俺たちには馬を見て数値が分かるわけでもない。総合的な強さを走りから判断すれば良いのさ」
「そうですね。教えていただきありがとうございました。さすが、ジャンバが誇るホースマンですね」
そろそろ仕事に戻らないと。
「頑張れよ」
「えっ、ちょっ、うぉ、はい!」
パシンと良い音を立てて尻を叩かれる。ちょっと揉まれた。
いい人だったけど、少し苦手な雰囲気がある。なんか妙に距離近いし。
別のスタッフの話によると彼には彼氏がいるらしい。
異世界転生作品って基本的に主人公に都合が良い世界の場合が多いですが、この作品は作者に都合が良い世界となっております。
競馬ものは掲示板あった方が楽しいからね。




