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竜国の姫らしいですが、田舎で静かに暮らしたい~指輪をはめたら竜になって、魔獣好きの第二王子に溺愛されています~  作者: コフク
第四章 集う光と竜――決戦前夜

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第11話 手鏡に映る父

 象の森での数日間の練習の後、私たちは夜にエルント村へ戻った。

 そして翌朝、私はおばあちゃんと畑仕事をしてから、久しぶりに出張所へ向かった。村の風景は変わらずのどかで、出張所に着くと入口に森からの贈り物の薬草が置かれていた。私とおばあちゃんはそれを見て、ふっと笑顔で顔を見合わせる。

 変わらない、いつもの日常があった。


 ココットやビュートゥたちに挨拶をしながら会議室へ入る。

 お茶やお菓子の準備を手伝いながら全員が揃うのを待っていると、最後にマックスがイオネを連れて現れた。ウィルが会議室の扉を閉める。


「揃われましたな。では、始めますか」

 ビュートゥが全員を見回して、マックスに目配せする。

「では今日は最初に、皆さんに僕から報告を。

 マックスがイオネの席の隣に立つ。

「国王と謁見して、イオネさんを正式にアグラール王国で預かることになった。ご本人の希望で、エルント村に滞在する」

 アンドロメダが小さく拍手をした。

「わあ、また一緒にいられるのね」

 イオネも彼女に笑顔でうなずく。

 マックスが続ける。

「昨日領主に会ってきて、当面は今使っていないという領主の別邸に住むことになった」

 ココットがテーブルのくぼみに魔石を差し込むと、投影盤に村の地図と、別邸の場所が映し出された。

(これ、私が初めて竜になって、フルールを助けに行ったところだ)

 私が思わず顔をしかめて、マックスが小さく「どうしたの?」と言う。

「いえ……湖もある、良い場所ですね」

 私は咄嗟に取り繕う。

「うん。広いから、アンドロメダと、村にいる時は僕とウィルも一緒に住む。護衛も置く」

 アンドロメダがイオネと目を見合わせて、二人で静かにうなずき合う。

「今は宿を使っているエリシアやミリエルも良ければ」

 エリシアは、セレフィナを見る。

「じゃあ、私とミリエルはそちらへ移るわ。練習、まだかかりそうだし」

 マックスが続ける。

「ビュートゥとココットは、出張所のままかな」

 二人がうなずく。

「じゃあ、最初の議題はそれで終わり」

 マックスがビュートゥを見る。


「では、いよいよ、今回の本題ですな。リリア様、こちらへ」

 ビュートゥが、私を手招きし、そちらへ移動する。

 手にはもちろん、手鏡を持っている。

「今日は前に象の夫たちを見てから、三週間が経ちました」

 席に座り、前に銀の小さな手鏡を置く。

 皆の視線が集まる。

 唾をごくり、と飲み込む。


 私は両手で手鏡を持ち上げ、ぎゅっと握って、風の魔力を込めた。

「帝国に囚われている……父を見せて」

 手鏡がふっと光り、鏡面が、白く揺れ始める。

(強い思いを込めて……)

 生まれたときに会ったかも知れないけれど、記憶にない父。

 生きているかも分からなかった。それが、最近、塔に囚われていると聞いた。


 父も、私のことを覚えているだろうか。

 いや、きっと、覚えている。

 長く囚われているが、元気だろうか。

 助けたい。

 会いたい。

 そして、声を聞きたい。

 竜のこと、竜国のこと、他にも色々、聞きたい。


 ぶわっと、風の力が増した。

 皆、思わず顔を手で庇った。

「見えた」

「え?」


 手鏡の中に、白の混じった黒く長い髪と、黒い髭が映っていた。

 石壁の狭い部屋。

 低い簡素なベッドに腰かけた男は、両手を鎖で繋がれたまま、固そうなパンをかじっていた。

 それを、コップの水で流し込む。


 食べ終えて、男が顔を上げた。

 赤い、燃えるような鋭い目が、暗闇に光る。

(心は、死んでいない……)

 身体も痩せ細ってはいない。

 むしろ、鍛え上げられた、がっしりした身体つきだった。


「リリちゃんと同じ目と髪の色だね。場所は……牢かな」

 マックスが言った。

「これだけじゃ……イオネは分かる?」

 アンドロメダが、イオネを見る。彼女も黙って首を横に振った。

「あ、誰かに呼ばれたみたいだ」


 男は立ち上がり、兵士の開けた鉄格子の扉を出る。

 前後を兵士に挟まれ、両手、両足に枷を付け、鎖を引きずり、石の回廊を歩いて行く。

 それから、窓のない馬車に乗り込んだ。


「外が少しでも見えれば……手がかりが欲しいわね」

 

 馬車に乗った父の目線だろうか。

 暗く、景色も見えない。車輪と馬の走る音だけが響く。

 

 しばらくそれが続いた。


 そして、扉が開き、光が射しこんだ。


 目の前に、石造りの建物があった。

 壁の曲線を辿り、目線が斜め上にずれる。

 そこには、青い空と、高い塔があった。


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