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竜国の姫らしいですが、田舎で静かに暮らしたい~指輪をはめたら竜になって、魔獣好きの第二王子に溺愛されています~  作者: コフク
第四章 集う光と竜――決戦前夜

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第10話 王との謁見と歌詞のお披露目

 アグラール王国の王城、王の間の大きな扉の前に、マックスとイオネは立っていた。イオネの足元にはパピが寄り添う。

 ウィルが扉に手をかけると、マックスは緊張した面持ちのイオネを振り返り、黙って微笑みながらうなずいた。


 扉を開くとその先の玉座に、アグラール王がいた。

「コルドミリティ帝国元辺境伯夫人、イオネ・プロメシア様をお連れしました」

 イオネはマックスに促されて前へ進むと、黙って深く礼をし、片膝を付いた。パピも神妙な面持ちでその後ろに付いている。


 アグラール王が玉座を降りてイオネの前に立った。

「アグラール王グラディオだ。よく、参られた。途中追手にも会われたと伺っている。お疲れでしょう」

 グラディオの手が差し出された。

 イオネが顔を上げると、グラディオの深い茶色の目が真っ直ぐ見つめているのが目に入った。温かく静かな微笑みをたたえている。

 イオネは手を借り立ち上がる。

「今日夫人に会ったのは、今後について話すためと、聞きたいことがあるためだ。この国との戦に反対されたと伺っている。アグラール王国で、丁重にお迎えしたい」

 イオネは黙って、グラディオを見る。紫の瞳が僅かに揺れている。

「好きなだけいていただいて良い。以前の土地の広さには遠く及ばないが、王都に屋敷も用意する」

 グラディオが続ける。

「父上、そんなに一気に詰めないで、イオネさんの希望も聞いてください」

 マックスが微笑みながら口を出した。

「おお、そうだな。夫人は、いかがか」

 グラディオが長い茶色の髭を撫でながら聞く。

「私の希望など……」

 イオネは小さく口を開く。

「希望に添えるかは分かりません。ですが、この国で過ごすなら、どんな暮らしを望まれますか」

 マックスが補った。

「元々、辺境で残る余生を、好きなことをして、好きな人たちと、のんびり送るつもりでおりました。望むことは多くありません」

 イオネの答えを聞いて、グラディオの髭を撫でる手が止まる。

「好きなこと、とは?」

「……歌や、弓を」

 イオネの言葉を、マックスが拾う。

「では、それを楽しめるところが良いですね」

 黙っているが、イオネの顔が少し明るくなる。

「ある程度の広さがあるところか」

「アンドロメダさんたちともすぐに会える方が良いでしょうか」

 マックスが尋ねると、イオネが静かにうなずいた。

「そうなると……また、おまえの最近よく滞在しているエルント村辺りか?」

「エルント村の少し町寄りなどですかね。あちらの領主にも聞いてみます。用意できるまでは、王都で過ごしていただきましょう」

「私も一度、村に行ってみるかな。おまえがこだわる、竜を呼べる娘にも会ってみたいしな」

 グラディオの口元が緩む。

「来なくて良いです」

 マックスが即座に返した。

「王が行ったら大事になります。彼女は……いずれ、紹介できればと思っています」

「それは楽しみだ」

 グラディオは、マックスの顔を覗き込むようにして言った。

 

「滞在先が決まったが、夫人にはもう一つ伺いたい」

 グラディオが片手を軽く上げ、壁際に立つ騎士に合図をした。騎士が車の付いた台に何かを乗せて現れる。上に掛けられた布を取ると、人工黒烏の残骸があった。

「襲撃の際、夫人が射落とされたと聞いている。これが何か、伺いたい」

 グラディオに言われ、イオネが台に近づく。

「監視の、黒烏です」

「監視? 誰が差し向けたかはご存じか」

「……恐らく、技術院長のもの」

「帝国の命か?」

「彼個人の執着かも知れません。面識はほとんどないのですが……」

「執着……」

 グラディオが顔をしかめる。

「それは分からんが、話を聞いた限りでは我が国に攻め入る方針の先鋒の者ということだし、夫人の元の領土は我が国に隣接している。共通の敵だな」

「この黒烏について、魔獣研究所でも確認中です。ケイル、こちらへ」

「はい」

 残骸を持ってきた騎士と一緒に入ってきた男が台に近づく。王と同じ位の年頃と思われ、金の刺繍の入った濃い茶色の帽子とローブを着ている。目にはモノクルをはめ、胸元には研究員のバッジが、帽子には猫型魔獣の耳のようなものが付いていた。

 すれ違いざまにケイルがパピをじっと見ると、パピは思わず目を逸らした。

「いつも思うが、その魔獣研究所の制服は独特だな。帽子の形は複数あるのだったか」

 グラディオが小さく首をかしげる。

「王都の研究所では、皆喜んで着ています。出張所では誰も着てくれませんが……と、話が逸れました。ケイル、報告を」

「はい。結論としては、この国の知識ではほとんど分かりませんので、ぜひ夫人のお力をお借りしたいと思っております」

 イオネがケイルの目を見る。

「私も技術の知識はなく……ただ、黒烏は技術院長の目であり耳であると、夫から聞いたことがあります」

 ケイルはモノクルで残骸の頭部を確かめる。

「ああ、これはそういう、目で見たものなどを伝えるものだと」

「攻撃などは?」

 マックスが横から問う。

「攻撃と言うよりは……支配、でしょうか」

 イオネが静かに言う。

「支配?」

 グラディオが拾う。

「闇の魔力を扱います。人や、魔獣を支配する力です」

 それからイオネは聞かれるままに、人工黒烏の闇の魔力について説明した。

「今後も何かあれば協力してほしい。夫人の追っ手に対処する必要も出るかも知れぬ」

 

 イオネとマックスは王の間を出た。

「しばらく王都に用意した屋敷で過ごしてください。すぐに案内の者が来ます。村の方の準備が出来たらそちらにお連れします」

 マックスの言葉に、イオネが静かにうなずいた。ほっとしたのか、小さく微笑んで見えた。

 

 ◇

 

 一方、私はビュートゥと密かに竜の訓練を行った次の日からまた、象の森にいた。

 前の七人のメンバーの中で、おばあちゃんだけは畑があるので少し遅れて合流する。前の滞在は一週間、ご近所さんに畑を見てもらっていたが、「またそこまで空けるとさすがに畑に良くないんさ」と言って、合わせる時だけの必要最低限になった。

 

 今日はエレティンの歌詞を初めてお披露目する日。

 いつもの森の開けた場所で、エレティンが皆の前に進み出る。その横に、私も立った。私も初めて聞くが、通訳しないといけない。重要な役目に少し緊張する。

『では、歌うわ。まだ完成とは言えないから、感想や意見が欲しいわ。用意は良い?』

「うん。精一杯訳す」

 エレティンがすうーっと大きく息を吸い、仮の音階で歌い出す。いつものようになんとなく、踊りも付いている。


『森 わたしたちの森 陽の光いっぱいの森

 わたしたちはそこで いつも幸せに暮らしていた


 わたしがいて あなたがいて 大好きななかまたちがいて

 そして 何より大切な わたしたちの こどもたちがいる』


「あれ?」

 私はそこまで聞きながら訳して、思わず声を出してしまった。

『何?』

 エレティンも止まる。

「あ、ごめん。“子供たち”も……いたの?」

『いるわ。外から来た人たちには会わせないようにしていたけど……会う?』

 エレティンはちらりと、奥の方で見ている仲間の象たちを見る。

 コフクがそちらの方に飛んで行った。

「ううん、今は大丈夫。続けて」

 私はちょっと気になりながらも気持ちを直す。


『森 わたしたちの森 緑の葉いっぱいの森

 わたしたちはそこで 命の歌を歌い踊る


 だけど

 よろこびあふれる歌は あなたがいないと歌えない

 もどってきて 

 わたしたちの森へ わたしたちの元へ

 よろこびの歌を またともに歌いましょう』


 一区切りついて、エレティンが歌い終え、小首をかしげる。

『こんな感じでどう?』

 私も少しして訳し終えた。

「うん。悪くないと思う。みんなは?」

「戻ってきて欲しい気持ちは伝わった」

 セレフィナが言った。他の皆もうなずく。

 アンドロメダも続く。

「そうね。悪くないわ。あとは、私がジーナ師匠と、音階を決めながら、少し調整かしら。主線と、各々のパートと」

 私がそれをエレティンにも伝える。

『うふ、良かった。初めてのことだから、緊張しちゃった』

 ほっとして、明るい笑顔を見せる。

『あ、子供達がきたわ。紹介するわね!』

 奥からコフクに続いて、大小さまざまな象たちがやってきた。


「わあ、小さい子も大きい子もいるんだね!」

 私は駆け寄りたくなる気持ちを抑える。

 それからエレティンが子象たちを紹介してくれて、場が一気に和んだ。


 私は小さな子象の鼻と握手した。

(マックスさんに言ったら、飛んでくるだろうな。今、どうしてるかな)

 そんなことを思いながら。

 

 そして数日の練習の後、私たちは出張所に戻った。

 前に象の夫たちを手鏡で見てから三週間が経った。

 いよいよ、手鏡で父を見る時が近づいていた。


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