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竜国の姫らしいですが、田舎で静かに暮らしたい~指輪をはめたら竜になって、魔獣好きの第二王子に溺愛されています~  作者: コフク
第四章 集う光と竜――決戦前夜

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第3話 イオネとの再会

 私たちが象の森へ向かったその半日前。

 セレフィナたちは、マックスの一角獣ユニコーンルーシアや、ウィルたち騎士の駆る戦麓獣バルクムースで光の国へ向かっていた。セレフィナはマックスの後ろに乗り、腰に捕まっている。晴れた空を風に乗るように南下していくと、やがて前回行った時と同様、白く高い壁と淡く光る塔が見えてくる。城壁が陽の光を眩しく跳ね返している。奥には雪をたたえ高く連なる山並みも見えた。


 一団は門の少し前で地面に降りると、ルーシアたちの手綱を曳いてそのまま門へ向かった。光の国は、今日も変わらず静かだ。門前では前と同じように、人や荷馬車も一組ずつ止められ、検問官や兵が確認をしている。列はざわめき一つなく、整然と進んでゆく。

 番が来たところで、セレフィナは懐に手をやった。リラハープを取り出し、結びつけていた薄い金色の札を門番へ見せる。前に黄の領でもらった、証だ。

「黄の領でお預かりされているイオネ様を迎えに参りました。ヘリオヴェン様へお伝えいただけますか」

 門番の表情が、すぐに改まった。証を確かめると深く一礼し、一行をそのまま中へ通す。待たされることもなく、案内は驚くほど滑らかだった。ウィル以外の騎士たちはルーシアや戦麓獣たちと一緒に、入り口近くの待機所に残ることにした。

 セレフィナとマックス、ウィルは案内人に続き、白い回廊をいくつも抜けて、黄の領の客間へと導かれていく。

 案内人に促され、二人は部屋の奥側の椅子へ腰かけた。ウィルはマックスの傍らに立つ。ほどなくして白茶と茶菓子の金の延べ棒型チョコレートが運ばれてきた。

 案内人が去ると、マックスはウィルに隣の席に座るよう目で示しながら、小さく感心したように言った。

「ちゃんと認められてるんだね。あの短期間で」

「前はリリと一緒だったもの」

 セレフィナは静かに答える。

「二人の成果よ」

 そう返しながらも、胸の奥には少し緊張があった。

 前にイオネと向き合えたのは、リリがいたからだ。パピの様子や反応を拾い、黙り込むイオネの奥にある本心へ、どうにか辿り着けた。

 今回は違う。リリはいない。

 それでも、前よりは信用してもらっているはずだと、自分に言い聞かせる。警戒心の強いあの人を、今度は自分がちゃんとアグラールへ連れて帰らなくてはいけない。


 しばらくして別の案内人に伴われ、イオネが入ってきた。疲れは見える。けれど姿勢は崩れていない。

 足元には、蝶の羽を思わせる大きな耳を持つ小さな犬――パピが、ぴたりと寄り添っていた。

「お迎えに参りました」

 セレフィナは、立ち上がり、できるだけ静かに言った。

「アグラールで、受け入れの準備ができました。こちらは、アグラール王国の第二王子、マクシミリアンです」

 マックスも穏やかな笑顔で立ち上がり、礼をする。

「初めまして。マックスと呼んでください」

 イオネは礼を返した。だが、それきりまた口を閉ざしてしまう。

 足元で、パピが心配そうに主人を見上げ、小さく「コフ」と鳴いた。

 やはり簡単ではない。セレフィナはそう思いながらも、顔に出さないように息を整える。口を開こうとするが、言葉が続かないまま、立ち尽くす。


 そのとき。

 隣にいたマックスが一歩前に出ると、自然な動作でしゃがみ込み、パピの頭をそっと撫でた。

「蝶耳犬ですね。珍しい」

 穏やかな声だった。

「しかも、かなり長生きしている子だ」

 パピは少しだけ耳を揺らしたが、逃げなかった。

 マックスはそのまま、イオネへ視線を向ける。

「アンドロメダさんも、リリちゃんも、僕のアグラールの魔獣研究所の仲間です」

 イオネのまなざしが揺れた。

「アンドロメダさんが、あなた方ご夫婦に、昔とてもお世話になったと言っていました」

 イオネの目が、初めてはっきりとマックスを捉えた。


「……会いたいわ」

 イオネが、静かに息を吐くように、呟いた。

 その声はかすかに震えていた。

 けれど、そこで確かに、張りつめていたものが少しだけほどけた。


 次の瞬間、彼女は自分でも驚いたように目を見開き、口元へ手をやる。

「……あ」


「アグラール王も、あなたがたが戦争に反対されたと知って、ぜひ受け入れたいと言っています」

 マックスは、穏やかな笑顔を崩さないまま、落ち着いた口調で続ける。

「でも、まだお気持ちが固まらないのであれば、まずはアンドロメダさんに会いに行きませんか」


 その言葉に、イオネは小さく頷いた。

 いつの間にかマックスに抱き上げられていたパピも、大人しく抱かれたまま、穏やかな目で主人を見ていた。


 セレフィナはそこでようやく、自分の顔が思っていた以上に強張っていたことに気づいた。こういうふうに、人の気持ちを無理なく動かすのは、従兄弟ながらマックスの上手いところだと思う。


「支度の時間、必要ですよね。お待ちします」

 マックスが柔らかく言う。


 イオネは一度だけ目を伏せ、それから静かに首を振った。

「荷物は少ないです。すぐ、行けます」


 けれど、今から光の国を発てば、帰りは夜になる。

 セレフィナがどう切り出そうかと考えたところで、ちょうど黄の領の長ヘリオヴェンが挨拶に訪れた。セレフィナはマックスを紹介し、イオネを預かってもらっていたことへの礼を述べる。そのうえで、今夜一晩、このまま黄の領に滞在させてもらえないかと願い出た。


 ヘリオヴェンは静かにうなずいた。

「もちろんです。客人を夜道へ送り出すべきではありません」

その夜は、セレフィナたちも黄の領に一泊することになった。


 そして翌朝、セレフィナたちは帰路に着いた。


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