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竜国の姫らしいですが、田舎で静かに暮らしたい~指輪をはめたら竜になって、魔獣好きの第二王子に溺愛されています~  作者: コフク
第四章 集う光と竜――決戦前夜

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第1話 旅立ちへ向けて

 象の森へ行くと決めた会議のあと、アンドロメダが森に隣接するシュッツドルフ村へ受け入れを頼む手紙を書き、コフクがそれを持って飛んでいった。そして準備のため、私たちは一日余裕を持つことになった。


 今日は象の森へ行く前日。

 私は軽く準備を済ませると、お昼過ぎに出張所へ行き、マタタキ牛たちのお世話をしていた。

『あら、久しぶりに来てくれたのね』

「あなたたちのお陰で、光の国の課題を上手く乗り越えられたよ」

『良く分からないけど、それは良かったわ』

 マタタキ牛が、私が汲んできた水を飲みながら、穏やかに目を細める。


 ◇ 


 ココットも、これからまた忙しくなるので今日はゆっくりしていて良いと言ってくれていた。気が向いたら報告書を書いてくれれば良い、とも。

(忘れないうちに、書いておかないと)

 私が執務室へ入ると、先にマックスがいて書類仕事をしていた。横でココットが見張るように、サインの必要な書類を順々にマックスへ渡している。


 私も傍らの机に向かい、別の紙に下書きのメモを書いてみる。これまではいつも他の人が書いてくれていたのだ。

「魔獣研究所の経費を貰うための報告書だから、やっぱり魔獣のことを書かないとなのかな」


 橙の領で救助のために働く犬型魔獣たち。

 緑の領のお茶を摘むトレントたち。

 藍の領で口数少ない主人の話を補足してくれたカーバンクル。

 ルミエルを乗せて去ったグリフォンもいた。


「でも、元々の目的が、象の夫たちを助ける力を得るためだったから、それを書くのでも十分そうだね」

 主な目的として、象の夫たちを助ける浄化の力を得るためということを書き、そのあとに光の国で会った魔獣たちの事を箇条書きで付け足した。


 ざっと書き上げたところで、ココットに渡す。

「どうかな? 足りないところは言ってもらえれば追加する」

「はじめてにしては、というより、とても良いです」

 ココットは目を通しながら、淡々と続ける。

「マックス殿下は余計な魔獣への愛とか込めてしまいますし、ビュートさんは古語とか混ぜてきますし、アンドロメダさんは詩みたいになりますから。それに比べて、簡潔です」

 私は他の人のように怒られたら、と思っていたのでほっとする。

「良かった」

 その場にいたマックスが、少しだけ眉を寄せた。

「余計、とは心外だな」

「事実ですから」

 ココットが即答する。

 マックスは小さく息をついてから、私の手元の紙を見る。

「じゃあ、僕もあとで読ませてもらおうかな」

 私は思わず手元の紙を引き寄せた。

「読まれるのは、光の国からお戻りになってからでお願いします」

 ココットがさらりと言う。

「寄り道されても困りますし」

「信用ないなあ。でも、なかなか行けないところへ行くのだし、ちゃんと魔獣も見てきた方が良くない?」

「ほらやっぱり。今回は魔獣研究所としてではなく、外国の要人を預かる目的です。経費も王城から出るので、魔獣の調査は不要です」

 マックスが苦笑いして諦めたのを見て、ココットが私に向き直った。

「あとは持って行ったお金の使い道教えてください。事務的な所は私が追加しておきます」

「ありがとう。セレフィナも材料メモしてたと思うから後でもらっておくね」


 ◇ 


 そうこうしているうちに、セレフィナが出張所へ到着し、執務室に入ってきた。

「ちょうどココットと光の国に行った経費の話をしてたところ」

「ああ、渡さなきゃと思って、持ち歩いていたの」

 セレフィナが鞄から取り出したメモをココットに渡すと、ココットはマックスの隣の机へ向かった。


 セレフィナと向き合い、私は飴の入った箱を取り出した。

「先に、渡しておかないとね。はい」

 蓋を開けた箱を、セレフィナの前に差し出すと、セレフィナが少し震える指先で橙の飴をつまんだ。私まで緊張が移りそうになる。

「じゃあ、遠慮なくいただくわね」

 一息置いて、そのまま口にふくんだ。

 ゆっくり、味わいながら舐めている。しばらくの間、沈黙が流れた。

 飴を少しずつ溶かして、時折飲み込む。その度に彼女の周囲に、橙色がかったふわふわとした淡い光が現れては消え、段々と光が濃くなって、そしてまた静かに薄れた。

「うん。全部舐め終わった」

「どう?」

「やっぱり、甘かった」

「力とか、感じる?」

 私が聞くと、セレフィナは斜め上を見て少し考えた。

「うーん、飲み込むとき、ふっと力が増した気がしたけど……今は前と同じかな。でも、気分はすっきりしてるかも。気のせいかもだけど」

 少し心もとない答えが返ってきた。


 そこへエリシアがやってきた。

「光の国へ行く部隊は今日これから出発だったかしら?」

「ええ」

 セレフィナがうなずく。

「ウィルが王都から騎士たちを連れて戻り次第、出発になると聞いています」

「そう」

 エリシアが、セレフィナをまっすぐに見る。

「くれぐれも、気をつけて」

「ええ。お姉さまと、ミリエルも」

 エリシアはセレフィナを優しく抱きしめた。セレフィナも抱き返す。


 それから間もなく、出張所の入口のベルが鳴り、ウィルがマックスとセレフィナを呼びに入ってきた。

 出張所にいた皆で入口の前に出て、マックスとセレフィナ、ウィル達数名の騎士たちを見送る。

「闇の守りの歌魔法を、皆様に贈るわ」

 アンドロメダが一歩前に進み出て、目を閉じ、静かに歌い始めた。


 最初は小さく、低い、地面に沈むような響き。

 一瞬、ふわっと闇の匂いが広がり、子守歌のようなどこか懐かしい旋律に変わる。

 歌が終わると、周囲の皆が、静まり返っていた。


「じゃあ、気を付けて」

 私がマックスやセレフィナたちを順に見ながら言うと、マックスがまっすぐ私を見て言った。

「リリちゃんたちも、上手くいくことを祈ってるよ」

 私は深くうなずいた。

 一団が空の向こうへ消えていくまで見送り、私たちは建物の中へ戻った。


 ◇


 翌朝、今度は私たちが出張所の前に揃った。

 私、おばあちゃん、アンドロメダ、エリシア、ミリエルの五名と、コフク、村から迎えに来た案内人と馬車が揃い、ビュートゥとココットに見送られる。


「いってらっしゃい。お気をつけて」

「皆様ご無理はなさらず」


 皆で素朴な村の馬車へ乗り込んだ。

 雑談をして笑い合いながら馬車に揺られる穏やかな旅路の後、お昼ごろにシュッツドルフ村へ着く。

 今回はまず全員の顔合わせをして、どう合わせるかを探るつもりだ。できれば訓練も始めたい。一週間程度の滞在を予定していた。

 村長やミルナを始めとした懐かしい村の人々が迎えてくれて挨拶を交わしたあと、村長宅に荷を下ろし、お昼をいただいた。


「では、早速象の森へ行きましょう」

 食べ終わって一息つくとアンドロメダがそう言って立ち上がり、私たちもうなずいて立ち上がった。


 私は肩からかけた小さな鞄に手をやる。その中には、あの飴の入った小箱が入っている。

 

 いよいよ、象の森へ行く。

 どう力を合わせるか。それはまだ、私には分からなかった。


 けれど、胸の中には少しの不安と、新しい世界が開ける高まりが生まれ始めていた。


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