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竜国の姫らしいですが、田舎で静かに暮らしたい~指輪をはめたら竜になって、魔獣好きの第二王子に溺愛されています~  作者: コフク
第三章 光の国へ――闇を解くために

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第20話 七つの力を合わせるために(第三章完)

 出張所の会議が終わり、皆が持ち場に戻ろうとしている中、セレフィナが私を呼び止めた。

「マックスと、リリ、ちょっと相談があるから残って。……イオネさんの件」

「ああ、イオネさん……アンドロメダさんにも残ってもらう? 帝国の事情に詳しそう」

 私、セレフィナ、マックスとアンドロメダの四人がその場に残った。


 セレフィナが、改めて話始める。

「光の国で、イオネさんという方にお会いしました。帝国の辺境伯、カシアン・プロメシア氏の夫人です」

「イオネ、知ってるわ。私、若い頃、ご夫婦にお世話になったの。とても良い人たちよ」

 アンドロメダが、柔らかい笑みを浮かべた。

「それであれば、話が早いですけれど、残念なこともお伝えしないといけません」

 セレフィナは、カシアンがアグラールとの戦争に反対して拘束され、処刑されたというイオネから聞いたこと、イオネはカシアンに光の国へ行くよう言われ、今はそこで預かってもらっていることを話した。

 アンドロメダは絶句した。

「それで、アグラールか、フィシエーラで彼女を受け入れる準備ができたら迎えに行く約束をしているの」

 セレフィナが続けた。

「それは……辛い話だね。アグラールとの戦争を止めてくれていた人ならなおさら助けないと。父と兄に早速相談してみるよ」

 マックスがうなずきながら言う。

「王城へ行くなら、私も連れて行って。姉と妹にも、光の力を預ける件を伝えたいわ」

 セレフィナはマックスと共に建物の外へ出ると、マックスの呼んだ一角獣のルーシアに一緒に乗って飛び去った。


 ◇


 翌日、昼前に太陽がだいぶ上に昇った頃、私はようやく二階の自室から下りた。

 階下の居間ではおばあちゃんが湯を沸かし、椅子に座ってお茶の準備をしていた。テーブルの上の既に少し時間の経った朝食には布がかけられている。

「おはよう」

「おはよう。ゆっくり寝られたかいね」

「うん。久しぶりの自分のベッド、よく眠れた」

 おばあちゃんは立ち上がり、お茶を淹れ始める。ふわりと茶の香りが広がった。

「ああ、この香り。もしかして、緑の領の……」

「そうさ。光の国のお茶、きれいな力が入ってるね」

 おばあちゃんには分かるらしい。おばあちゃんへのお土産には、緑の領でもらったお茶と世界樹の葉、青の領の塩を渡していた。

「世界樹の精に会った時、コフクも感動してたな」

「葉は本当に貴重なものさね。お茶も試しに飲んでみるけど、あとは大事な時に取っておくよ」

 もうお昼。私はおばあちゃんと、大好きな温かい野菜たっぷりのシチューとパンをいただく。こうしていると、誕生日の前に戻ったような感覚にもなる。この一週間の事も、夢だったかのような。

 けれど、確かに、お茶の味は緑の領で飲んだ時と同じ味だった。


 ◇


 夕方遅く、セレフィナとマックスが出張所に戻ってきた。

 マックスの一角獣の後ろにはエリシア、ウィルともう一人の騎士の魔獣の後ろにそれぞれセレフィナと、ミリエルが乗っている。二人の髪色は青系で、目の光り方や立ち姿も少しずつ違っているが、顔立ちや声、雰囲気はセレフィナと似ている。

「やっぱり、姉妹って似ているね」

 挨拶をしたあと私が思わず言うと、セレフィナが少しだけ笑う。

「そうかしら。性格は全然違うのよ」


 藍の光を持つ予定の姉エリシアは、ぴんと背筋を伸ばしてこちらを見ていた。理知的で、自信が溢れている感じがする。

 青の光を託す予定のミリエルは、やわらかな目をしていた。まだあどけなさも残るが、落ち着いた水面のような静けさがある。

 どちらも、セレフィナが選んだ理由が分かる気がした。


「あれ、リリ、髪が少し濡れてる?」

 セレフィナが首をかしげた。

 彼らを迎えた私の髪はまだ少しだけ湿っていて、顔も赤くなっていた。光の国で買ったバスソルトを、出張所の大きいお風呂でさっそく使ってみたのだ。緑の香りが湯気と一緒に立ち昇り、青の塩で温まる湯は、思っていたよりもずっと気持ちが落ち着いた。

「アンドロメダさんやココットさんと一緒に、先にお湯をいただいたの」

「わ、良いな。私たちも入らせてもらおう」

 セレフィナがエリシアとルミエルを見て言う。

「男性用のお風呂にも、入れてありますよ」

 私がマックスに一歩近づいて言うと、マックスはちょっと視線をそらした。

「それは、ありがたいな」

「マックス、お風呂上がりのリリさんを見て、照れていますね」

 エリシアが目を細める。

「エリシア、余計な事言わないで。……確かに、良い香りはする」 

 マックスに言われて、私も頭に血が上った。


 その後お風呂から上がってきたセレフィナの姉妹たちを、広間で光の国から持ち帰ったお茶やお菓子を並べて迎えた。


 緑の領のお茶と、藍の領のチョコレート。

 ココットがお茶を淹れ、皆で少しずつ飲む。淡く澄んだ香りが広がった。チョコレートは藍の国らしく、深い苦味と甘さがあって、心や身体の緊張を緩めてくれる。


「これが光の国のお茶……あっさりして、癒されますね」

 ミリエルが驚いたように湯呑みを見下ろす。

「きれいな味ね。澄んでる感じ」

 エリシアが余韻を楽しむように言う。


「入浴剤、お土産用に買ってきて正解だったわね」

 セレフィナが言う。

「うん。一瓶、象の村にも持っていこうかな」

 私が答えると、セレフィナがふっと笑う。

「それ、喜ばれるかも」


 いつまでこの穏やかな時間が続くかは分からない。だからこそ、その夜の湯の温かさやお茶の香りは私たちの心に残った。


 ◇


 翌朝、出張所の会議室に再度全員で集まった。

 出張所の所員に加え、セレフィナ、エリシア、ミリエル、そして、おばあちゃんも。私の前には、七つの飴の入った箱が置かれている。窓から見える空には雲が多く浮かび、朝の光を遮っていた。


 マックスはすぐに本題へ入った。

「今日は光の力を分けることになった七名のうち、象のエレティンを除く六名に集まってもらった。まずはイオネさんの件から報告したい」


 広間の空気が少し引き締まる。

「父上と兄上に話を通してきた。アグラール側で受け入れの準備は進められそうだ」

「早い。良かった」

 ほっとした私が言うと、マックスは続けた。

「辺境伯の件が本当なら、国の恩人でもあるし、帝国を良く知る重要人物でもあるからね」

 セレフィナもうなずいた。

「迎えに行くなら、私が一緒に行くわ。光の国の札を持っているし、話も早いはず」

「そうだね」

 マックスは素直に同意した。

「護衛も必要だ。ウィルたち騎士数名に頼む」


 これで、イオネさんを迎える道がひとつ整った。


「じゃあその間、私たちは先に象の森へ向かうってことかな」

 私が確認する。エレティンは森の外まで呼ぶことができない。力を合わせるなら、こちらが象の森へ行くしかない。

「ええ。そうなるわね」

 セレフィナが答える。

「まず私はマックス、騎士たちとイオネさんを迎えに光の国へ行く。そのあと、こちらへ戻って、森の皆に合流するわ」

「分かった」

「エリシアとミリエルにも、事情はもう話してある」

 二人の姉妹も、静かにうなずいた。


 私は前に置いた箱に目をやる。

「飴を食べるのも、象の森へ行ってからかな」

「そうね」

 アンドロメダが静かに言う。

「セレフィナさんは、先に飴を食べてから光の国へ向かうのでも良いかもしれないけど。帝国から亡命する人を迎えに行くなら、危険もなくは無いし」

 その一言に、全員息をのむ。

「もし何かありそうなら……飴は食べずに行って、何かあったら他の人が食べるのが良いかも」

 セレフィナがぽつりと言う。

「ううん、橙は、セレフィナしかいない。食べて行って、必ず無事で帰って、一緒に練習するの」

 私はセレフィナの肩に、手を置いた。

 セレフィナは一瞬目を見開いて私と目を合わせたあと、ふっと笑い、うなずいた。


「セレフィナ以外の私たちはまずエレティンのところへ集まって、どう合わせるか、そこで考えたい」

 私はそう言い終えて、小さく息をついた。

 まだ本当の形は見えていない。けれど、光の国で課題を越えた時と同じように、きっとまた少しずつ形になると思えた。

「力の合わせ方を決めたら、練習も始めてみんとだね」

 おばあちゃんがお茶を吞みながら遠い目をする。

「どう合わせるかを先に決めておいて、セレフィナ殿も象の森に戻ったら、試すのですな」

 ビュートゥが低くうなずいた。

「そして、その先で象の夫たちを迎えに行く」

 マックスが続ける。


 私の胸が、少しだけ強く打つ。

 鏡で見た象の夫たち。

 森で泣いていた象の妻たち。

 その姿を思い出す。

「……うん」

 私ははっきりうなずいた。

「まずは、象の夫たちを助けたい」


 セレフィナが私を見る。その目は静かだったけれど、ちゃんと熱があった。

「そのあと、お父様ね」

「うん」

 父は、まだ三週間待たなければ手鏡で見ることができない。でも、待っているだけではない。それまでに準備を整えないといけない。

「三週間を目標に、練習をするというところかいね」

 おばあちゃんが確かめるように口にした。

「わしらも、別で準備をしておかんといけませぬな」

 ビュートゥも、静かに両腕を組んだ。


 象の森に集まり、力を重ねる方法を探し、象の夫たちを助ける。そこから先へつなぐ。

 やることは多い。帝国に乗込むには、いくら時間があっても足りないかも知れない。無謀かも知れない。けれど光の国から戻った今は、不思議と前よりも乗り越えられそうな気がしていた。


 コフクが飴の入った卓の上の小箱を覗きこんで、翼をふるわせる。

『じゃあ、次は森だね』

 私は、その白い頭をそっと撫でた。

「うん。次は象の森。コフクも一緒に行くよ」


 会議が終わり、席を立つ。窓の外の雲はいつの間にか去り、日の光が広がっていた。

 私は飴の入った箱を両手で持ち上げた。その小さな重みは、もう私とセレフィナだけのものではない。


 こうして、私たちは次の場所、象の森へ向かうことになった。

 七つの力を合わせて、一つにするために。


ここまでお読みいただきまして、ありがとうございます。

第三章は当初もっと先まで進めよう、と思っていたのですが、書いていたら光の国の課題がどんどん膨らんでしまい、光の国で終わってしまいました。

恋愛要素も入れ込みたい、と思っていたら、それもまたとんでもない方向へ行ってしまいました……。

リリもなかなかのんびりできませんが、

引き続きお楽しみいただけますと幸いです。


宜しければブクマ、評価、感想などいただけますと嬉しいです。

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