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竜国の姫らしいですが、田舎で静かに暮らしたい~指輪をはめたら竜になって、魔獣好きの第二王子に溺愛されています~  作者: コフク
第三章 光の国へ――闇を解くために

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第18話 帰還と、七つの光の行き先

 光の国から出張所へ戻ると、慣れた空気がとても懐かしく感じられた。出発したのがほんの一週間前でしかなかったことが嘘のように思えた。


 入口の戸が開くとすぐにコフクは先に飛び込んでいった。出発前と同じ玄関、同じ牧草の匂い。一角獣から降ろされた瞬間、私はようやく肩の力が抜けるのを感じた。勝手に顔がほころぶのをやっと抑える。隣のセレフィナも、少し気を抜いた表情をしている。


「おかえりなさい」

 玄関の戸を開けて最初に迎えたのはココットだった。続いて、食堂の方から椅子を引く音がして、おばあちゃん、ビュートゥ、アンドロメダたちが顔を見せる。

「戻ったね」

 いつものおばあちゃんの声。言葉は短いけれど、声色と表情に安堵があった。

「よく戻られました」

「無事でよかった」

 ビュートゥとアンドロメダも、いつもより落ち着いた声で続いた。


 おばあちゃんは、私を優しく抱きしめた。

「結構長くかかったけど、よう無事で帰ってきたね。疲れたろ」

 その一言に、私は急に疲れを自覚して笑った。

「元気なつもりだったけど……疲れてたかも」

「七日もかかってしまいましたしね」

 セレフィナが言うと、コフクがすかさず翼を広げた。

『お腹空いた。美味しいもの食べたい!』

「あ、確かに、美味しい物は足りなかったかも。おばあちゃんの料理、早く食べたい」

 私がコフクに応えたのを聞いて、セレフィナも少し笑う。


 広間には既に食事の支度が整っていて、おばあちゃんの料理の匂いにまた一段と気持ちが落ち着いた。


 ◇


 食事を終えた後、会議室で、私は胸の前で抱えていた白い小箱を卓の中央へ置き、そっと蓋を開いた。

 途端に、その場の視線が中央の箱へ集まる。

 中に収められていたのは、もらった時と同じく、七つの小さな飴。

「これは……?」

 マックスが、静かに問う。

 私は口を開いた。

「浄化の力の元になる、飴です」

 皆、箱の中の七つの色の小さな飴玉を、身を乗り出して覗き込むようにしている。


 それから私は光の国でのことを順番に話した。セレフィナも、都度補足してくれた。

 マックス達と見た白い門を入った後。最初の七色会議での決定による、七つの課題。最終課題と再びの七色会議での最後の菓子。そして、合格。

「一人で担わせるには強すぎる力だから、七つに分けるということに決まったと言われて。この飴を、七人それぞれが食べると、浄化の力が得られるみたい」


 七色の飴玉は、淡く光を放って見えた。

「……きれいだねえ」

 おばあちゃんがぽつりと呟く。

 アンドロメダが箱を覗き込みながら言う。

「七つに分けても、結構力を感じるわね」

 私は黙ってうなずく。

そして、光の国でそれぞれの色が何を意味していたかを、一つずつ皆へ伝えていく。


 赤は怒りと情熱。

 橙は救いたい気持ち。

 黄は守る心。

 緑は生命の喜び、楽しみ。

 青は悲しみと癒し。

 藍は敵への不安と見極め。

 紫は知識と、それらを束ねる力。

「最後は、人は幸せになるために生まれてきたこと、自分も人も幸せにすることが正解なのだと言われました」


「……なるほどね。それで、君たちは合格したんだね」

 マックスが腕を組み、少し考え込む。

「さすが、リリア様です」

 ビュートゥも髭を撫でながら、深くうなずいていた。

「さすれば次は、誰がそれぞれの色の力にふさわしいか、考えねばならないということですな」

 その言葉に、皆の視線が自然と卓の中央へ戻る。


「赤は、リリちゃんでしょう」

 マックスがほとんど迷いなく言う。

 私は少し驚いて顔を上げると、アンドロメダもすぐにうなずいた。

「そうね。今回活躍した二人はまず入る。その点赤はリリちゃんの火魔法の力とも合うわ」

 私はすうっと息を吸い、赤の飴を見つめる。少しだけ熱を残しているようなその色。赤の領で竜になった時のことも思い出して、たしかにそれがしっくりくると思えた。


 橙は、セレフィナに決まった。

「助けたい気持ちと、支える力と言えば、セレフィナさね」

 おばあちゃんがそう言うと、セレフィナは少しだけ目を丸くしてから、静かにうなずいた。

「……確かに。私もそう思いました」


「残りもできるだけリリちゃんとセレフィナの意見を重視したいね」

 マックスが言い、黄の飴を見ていた後、私は自然とおばあちゃんに目がいった。

「黄は……おばあちゃん、かな」

 そう言うと、セレフィナもすぐにうなずいた。

「守ること、戻れる場所を支える力。確かにいちばん似合うと思う」

 おばあちゃん――ジーナは、少しだけ目を細めた。

「あたしかい」

 そう言ってから、ふっと小さく笑う。

「もっと若い人が良いかと思ってたけど、守る色、預かるよ」


 次は緑だ。

「マックスさんも合うと思うけど……」

 私は緑色の飴を見つめてから、マックスの緑色の目を見た。

 けれど、マックスはゆっくり首を振った。

「ありがたいけれど、ここは辞退するよ。……助けに行くなら、象の妻たちも力を持っていた方がいいと思う」

 私は、その言葉に納得する。

「じゃあ、緑は、エレティンに渡したい」

 アンドロメダが静かにうなずいた。

「……ええ。光の力を持っていれば闇魔法の影響は受けにくくなるし、生命を表す色としても、それが良さそうね」


 青については、セレフィナが少し考えてから口を開いた。

「水と癒しなら、妹にお願いしたいわ」

 私はうなずく。たしかに、水魔法を使った癒しの魔法を使うセレフィナの妹ミリエルが持つのが一番しっくりくる。

「じゃあ、藍はお姉さん?」

「そうね」

 セレフィナは迷いなく答える。

「不安や敵に理性を持って立ち向かうといったことであれば、姉のエリシアが向いてると思う」

「エリシアもミリエルも、今アグラールに亡命中だから、すぐに呼べるね」

 マックスも笑顔で同意した。


 そして最後に、紫の飴を前にして、場が少しだけ静まった。

 七つをまとめる最後の役目。


 私は、そっと紫の飴を見た。

「……紫は、アンドロメダさんがいいと思う」

 アンドロメダが顔を上げる。

「私?」

「うん。闇のことも知ってるし、でもこちらの味方。全体を見て決められるのは、アンドロメダさんだと思う」

「知識なら、ビュートゥも良いかもしれないけれど」

 アンドロメダが言うと、ビュートゥさんが髭を撫でながら、ゆっくり言う。

「ここまで女性ばかりなら、女性で揃えた方が力も合わせ易いかもしれませんな」

 おばあちゃんも、「なるほどねえ」とうなずく。

「たしかに、まずは波長を揃えた方が扱いやすいんかもしれんさね」


 しばらくの沈黙のあと、アンドロメダはほんの少しだけ目を伏せた。

「……重い役ね」

 私は素直に答える。

「でも、だからこそお願いしたい」

 アンドロメダは、ゆっくりと手を伸ばした。

「分かった。預かるわ」


 これで、七つの色、それぞれの行き先が決まった。

 赤は私。橙はセレフィナ。黄はおばあちゃん。緑はエレティン。青はミリエル。藍はエリシア。紫はアンドロメダ。


 マックスが、箱を見つめたまま言う。

「これで、誰が持つかは、決まったね」

「うん。でも、どう合わせるのかは、まだ分からない」

 私は、そう言いながら、小箱の中に並ぶ飴を見た。

 セレフィナも、少し考えてから言った。

「たぶん、今回は一人ずつの強さより、合わせた時の馴染み方の方も大事なんでしょうね」

 おばあちゃんも静かに湯呑みを置いた。

「そもそも、七色をいかに合わせて、本来の力を出すか、なんだろうねえ」

 アンドロメダが、小さく言う。

「まずは……象の森に皆で集まる必要がありそうね。エレティンを他に呼ぶわけにはいかなそうだから」


 そこまで話したところで、ココットが新しい茶を注ぎ足してくれる。

「鏡もまだあと三週間ほど使えませんし、今日は、ここまでですね。お二人とも、お疲れさまでした」

 それから私とセレフィナは、テーブルに、光の国でもらったり、自分たちで買ったりした土産物を並べた。それぞれにお土産を渡して、いつの間にか皆の表情が笑顔に変わっていた。


 誰がどの色を持つのかは決まった。

 その先、どう合わせるかも、どこでどう使うかも、まだこれからだ。

 けれど、私たちは一人ずつでは進まない。

 信頼できる仲間たちと、力を合わせること。それだけは、はっきりしていた。


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