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竜国の姫らしいですが、田舎で静かに暮らしたい~指輪をはめたら竜になって、魔獣好きの第二王子に溺愛されています~  作者: コフク
第三章 光の国へ――闇を解くために

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第17話 再びの七色会議

 七日目の朝、私とセレフィナは、再び七色会議の間へ呼ばれた。


 白い石の広間には、高い天井近くの細長い窓から淡い光が射し、澄んだ空気が静かに満ちている。

 広間の中央には円卓が置かれ、その真ん中には丸い穴が開いていた。その周囲に、赤、橙、黄、緑、青、藍、紫の見知った顔の長が揃って座っている。

 空気は静かなのに、今日が最後の試練なのだと、肌の上にひりつくように伝わってくる。


 私の手にしている箱の中に、赤、橙、黄、青、藍、緑、そして紫の糖がある。ここまで集めた七つの素材が、今日これから、ひとつの形になる。


 ルミエルがゆるやかに口を開いた。

「始めなさい」


 私とセレフィナは小さくうなずき合い、深呼吸をして心を静めると、円卓の手前へ進み出た。用意された清潔な台の上には、菓子作りのための器や棒などと、七枚の白い皿が置かれている。


 セレフィナが身体の前に皿を整え、最初の糖をひとつ、そっと上から下げるように持ち上げた。

 赤の火糖だ。


 私がその端へ指先を向け、ごく小さな火を灯すと、結晶の先がとろりと溶けた。


 セレフィナは手首を滑らかに返しながら、その溶けた糖を素早く細く引いていく。

 糸のように細くなったところへ、私が風を送った。


 ふわっ、と。


 下に落ちていこうとした糖の糸が、風を受けて軽く踊る。

 セレフィナはもう片方の手に持っていた棒へ、それを絡めとるようにまとめていった。


 次に橙の糖を手に取る。

 やわらかな蜜の香りを帯びた橙の糖が、火で溶け、風でほどけ、ふわりと赤の上に重なる。


 黄。

 青。

 藍。

 緑。

 最後に、紫の糖を細く引いて、まとめた。


 セレフィナが手を止め、私の風も止んだ時、棒の先には、丸くふわりと膨らんだ菓子ができあがっていた。

 七色にやわらかく光る、人の頭ほどの大きさの雲のようなかたまり。

 細い糖の糸が幾重にも重なり、動かすと朝の光に色が移ろう。あの塊からできていると思えないほど、軽やかな見た目だった。


 広間の静けさの中で、誰かが小さく呟いた。

「ほう……」


 それが合図になったように、私とセレフィナは顔を見合わせた。

「もう六つ、作るわよ」

「うん」


 そこからは、最初よりも少しだけ緊張が解けて息がしやすくなった。二人の動きも滑らかになる。

 セレフィナが糖を溶かし、細く引き、私が風でふわりと巻き上げる。色がひとつ増えるごとに、棒の先に雲が育っていく。


 七つの長の前に、七本の棒に刺さった七色の雲の菓子が並んだ。


 セレフィナが一礼する。

「課題で皆様からいただいた七つの糖のみで作りました、七色のくも菓子です」

 私も、少し緊張しながら頭を下げた。

「私たちの知識と力を合わせて作りました。どうぞ、お召し上がりください」


 最初に手を伸ばしたのは、赤の長ラディエルだった。

「赤い雲からいただこう」

 大きな手で菓子を取り上げ、迷いなく一口かじる。ほとんど音がせず、口に含んですぐに表情がわずかに変わった。

「……軽いな」

 短く言って、もう一口食べる。

「だが、ほのかに熱がある。これが、我々の味か」


 橙の長オランシアは、菓子の棒を持つと、持ち上げて光に透かしてから口にした。そして、やわらかく目を細める。

「うん。橙は、蜜の優しい味がするわ。棒で持つのも食べやすい」


 黄の長ヘリオヴェンは、慎重に持ち上げ、静かに食べた。一口、二口。少しの間のあと、淡々と告げる。

「口に入れるまで溶けず、やわらかいのに崩れにくい。不思議なお菓子ですね」

 落ち着いているが、良い評価なのだろうと分かった。


 青の長アズレインは、口に含んでしばらく黙っていた。やがて、静かに言う。

「我々の青は、澄んだ味がします。塩の風味も良いですね。癒されます」


 藍の長インディゴールは、藍の部分をじっと見てからかじった。そして、低く唸るように言う。

「ううむ、藍は、チョコレートか」

 それから、ぼそりと付け足す。

「やわらかいが、上手い……この技術、再現したい」


 緑の長ヴェルデリアは、ひと口食べると、小さく息をついた。

「見た目も楽しいですし、緑は……木の実の香りと、森の風を思わせる食感ですね。領の皆と食べたい」

 その声はとても柔らかかった。


 最後に、ルミエルが菓子を取り上げる。色々角度を変えながら、しばらくのあいだ、ふわりとした菓子を見つめていた。

 そして、静かに一口。目を閉じて、また別の一口。目を開き、黙って違う色を食していく。


 広間はまだ静かだった。

 だが七人がそれぞれ、ちゃんと満足して、七種類を良く味わっている静けさだった。


 全て食べ終わって、ルミエルが口を開く。

「これより、最終合議に入ります。控室で待ちなさい」

 ようやく、現実味を帯びた緊張が押し寄せてきた。


 ◇


 案内された控室で、私とセレフィナは並んで座り、卓の上にコフクが乗った。

無言でいたが、なんとなく皆落ち着かない。


「……どうかな。良い雰囲気ではあったよね」

 私はぽつりと呟く。

「皆満足してくれている感じだったから、大丈夫だよね。練習通り上手くできたし」

 セレフィナも、そう返しながら膝の上で指を組む。

 コフクが二人の間で忙しなく羽や首を動かした。

『この緊張感辛い』

「コフク、落ち着いて」

 私とセレフィナは思わず笑って、張りつめていた空気が少しだけほどけた。


 長い時間に感じた。

 やがて扉が開き、案内役のエルフに呼ばれた。

「どうぞ。七色会議の間へ」


 再び広間へ戻ると、七人の長は前と同じように席についていた。

 私たちが円卓の前へ並んで立つと、中央の議長席に座したルミエルが立ち上がった。

「これより、判定を行う」

 その声に、広間の空気がぴんと張る。


「リリア・イシュルンとセレフィナ・フィシエーラは、光の浄化の力を託すに足るか」

 ルミエルは、円卓の中央を右の手のひらで示して告げる。

「同意は光の票を、卓の中央へ――合議」

卓上のそれぞれの長の前に置かれた丸い光が、ほのかに輝きを増す。


 最初に立ち上がったのは、赤の長ラディエルだった。

「同意」

 赤い光をひとつ手に取り、中央へ投じる。


 橙の長オランシアが、やわらかな橙の光を両手で落とす。

「同意」


 次に、黄の長ヘリオヴェン。

「同意」


 続いて、青の長アズレイン。

「同意」


 低く、藍の長インディゴール。

「同意」


 穏やかに微笑みながら、緑の長ヴェルデリア。

「同意」


 最後に、ルミエル自身が静かに紫の光を中央へ投じた。

「同意」


 最後の一つが穴へ落ちた瞬間、七つの光が円卓の中央でひとつに集まり、淡い白い光となって天井へ向かって走る。

「――合意」


 白い光は空中で丸くまとまり、白い小箱となって現れて、ルミエルの手元に降りてきた。

 

 ルミエルがそれを両手で受け取り、ゆっくりと私たちの方歩み寄る。穏やかな笑顔だった。

「……たいへん良い出来でした」

 私は、思わずふうっと息を吐く。

 隣に立つセレフィナも、わずかに肩の力を抜いた。

「正直に言えば、食の種類が少ない我が国で、何か新しいものを見せてもらえないかと思って課した面もありました」

 オランシアがそれを聞いてくすくすと笑う。

 インディゴールはまだ腕を組んで考え込んでいる。

「ですが、それ以上でした。

あなたたちは、感情と願いを宿した七つの糖の色と味を活かし、知恵と力でひとつの形にしました。新しく、皆が満足できる形に」

 私の胸が、少し熱くなる。私たち二人の作った物を受け止めてもらえた。


 ルミエルは続けた。

「二人とも、仲間を思い、平和のために力を使おうとする者たちだと分かりました」

 その言葉は、静かだった。でもここまでのすべてをちゃんと見てきた重みがあった。

「七色会議は、あなたたちを光の浄化の力に値する者と認めます」


 セレフィナが、小さく目を見開く。

 私も、すぐには実感が追いつかなかった。


 ルミエルは私に小箱を差し出した。

「受け取りなさい」

 私は両手でそれを受け取る。

 箱は軽かった。けれど、その軽さとは裏腹に、受け取った瞬間、胸に確かな重みを感じていた。


 ルミエルの声は静かだった。

「合格です。ただし、光の浄化の力は、一人で担わせるには強すぎる。よって先ほどの審議の中で、分けて与えることに決まりました」

 私はルミエルに手で促され、小箱を開けてみる。

「中には、七色会議が認めた浄化の飴が入っています」

 ルミエルがそう告げる。

 中をのぞくと、先ほどの糖と同じく七つの色の、七つの小さな飴が収まっていた。

「あなた方と、あなた方が認めた者たち、合わせて七人で、それぞれこの飴を一つずつ食べなさい」


 少しの沈黙のあと、オランシアがぱっと明るい声を出した。

「それにしても、さっきのお菓子、本当に良かった」

 ラディエルも短くうなずく。

「うむ。力が湧くな」

 インディゴールが腕を組んだまま言う。

「機械化したい」

 私は思わず瞬く。

「え?」

「できれば、光の国の新しい銘菓にしたいと話していたのですよ」

 ヴェルデリアが楽しそうに言った。

「藍の領で機械を作り、それぞれの領で味の素材を出し合って作ろうと。作り方を教えてくれませんか?」

 セレフィナは目を丸くしたあと、少しだけ頬を染める。

「……はい。喜んで」


 一旦会議室を出ると、私はもうこらえきれなかった。

 セレフィナと顔を見合わせる。

「やった!」

「ええ、やったわ!」

 二人で思わず、ぱん、と手を合わせた。

 コフクも翼を広げて跳ねる。

『やった! やった!』


 ◇


 そのあと、私とセレフィナとで藍の領長インディゴールと副長ネレイスに作り方を説明するあいだ、コフクは急ぎ、アグラールの出張所へ連絡のため飛んでいった。


 私たちが門の傍へ着く頃には、ちょうど迎えの準備も整っていた。

 光の国の人々の見送りは、整然としていたけれど、どこか少しだけ最初会った時より柔らかい顔をしていた。


 オランシアが軽く、ラディエルが力強く手を振り、ヘリオヴェンはきちんとした姿勢で軽く会釈をする。

 ヴェルデリアは静かに微笑み、アズレインはほんのわずかに目を和らげる。

 インディゴールは相変わらず無口で、新しい機械について頭の中で考えていそうだった。

 ルミエルが最後に言う。

「よい旅を」


 私は小箱を大事に抱え、一度深く頭を下げた。

「ありがとうございました」

 セレフィナも、続いてきちんとした礼をする。


 迎えの魔獣へ乗り込み、光の国の白い門を振り返る。

 七日間という短い時間だったが、そこで自分たちは目的以上のものを得て、残してもこれたのだと思えた。


 セレフィナが、小さく息をつく。

「……終わったわね」

 私もうなずいた。

「うん。でも、ここからでもある」

 セレフィナは少しだけ黙って、それから穏やかに笑った。

「……リリと一緒にこの国に来られて良かったわ」

 私は思わず、セレフィナを見る。

「私も。お菓子の課題は、セレフィナと一緒でないと無理だったし」

 セレフィナがくすりと笑う。

「それは、私も」

 白い門の向こうで、光の国の山並みが静かにきらめいて見えた。

「……また来たいな」

「ええ。今度はもう少しゆっくり、お茶もしたいわ」


 マックス達も、そんな私たちを黙って見守っていた。


 光の国を背にして、私は帰路についた。

 手にしている小箱は、静かに温かく感じられた。

 何のために、誰のために、この力を使うのか。

 それを決めるのは、帰ってからだ。


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