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竜国の姫らしいですが、田舎で静かに暮らしたい  作者: コフク
第三章 光の国へ――闇を解くために

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第7話 アルカルキス連邦へ

 朝の会議が終わると、私とセレフィナ、コフクはさっそくアルカルキス連邦へ向かうことになった。

 ただ、光の国までは遠い。門の近くまでは送ってもらえることになり、私はマックスの白い一角獣ユニコーンに、セレフィナは護衛騎士ウィルの戦麓獣ヴァルク・ムースに乗って、先導するコフクの後を飛んでいく。


「しっかり捕まって」

 マックスがそう言って、私の手の上から手綱を取る。背中がほとんど触れそうな近さに、心臓が落ち着かない。


(竜になれば、私も飛べるんだけど……セレフィナにはまだ言ってないもんね)


『ふふ。心臓、ばくばくじゃない』

 一角獣のルーシアが面白そうに言った。今、その言葉が分かるのは私とコフクだけだ。

 わざとらしく少し揺れて、思わず身をこわばらせると、マックスの腕が前に回って支えた。

「大丈夫?」

 耳元で囁かれて、余計に顔が熱くなる。


「人で楽しまないでください」

『私は相棒として、マックスが嬉しいようにしてるだけよ』


 そうこうするうちに、南へ下る道の先に白い城壁が見えてきた。

 高い壁だった。だが、ただの壁ではないとすぐ分かる。陽の光の角度によって、その手前の空気がごく薄く揺れている。見えない結界が、さらに外側を包んでいるのだ。


 少し手前で、ルーシアと戦麓獣から降りる。


「帰りはコフクに連絡させて」

 マックスが言い、私は頷いた。

「じゃあ、気をつけて」

 セレフィナも、乗せてもらっていた戦麓獣の首をそっと撫でた。


 私はもう一度だけマックスを見る。

 すぐに会える距離じゃない。だからこそ、胸の奥が少しだけ熱くなった。

「行ってきます」

「ああ。待ってる」

 その言葉を背に、私は門へ向き直った。


 ◇


 門前では、人も荷馬車も一組ずつ止められ、検問官と兵に用向きを尋ねられていた。やがて順番が来る。

「ご用件を」

 門番に言われ、私は紹介状を差し出した。

 相手は慣れた手つきで封を確かめ、まず事務的に尋ねる。

「金庫のお取り出しですか?」

「いえ」

 私は首を振った。

「光の浄化の力について、お力を借りられないかと思って来ました」

 門番の眉がわずかに動く。紹介状を見直し、隣の検問官と短く視線を交わした。

「……風の国のご紹介。担当官をお呼びします」


 しばらくして現れたのは、白金の髪を後ろで結んだ若いハイエルフだった。衣は簡素だが上質で、胸元には黄色と金の細い徽章が留められている。

「フィオラ様担当のエセルです」

 穏やかだが、目はよく動いていた。

「詳細を伺います。内容によっては七色会議預かりになります」


 エセルに促され、私たちは門の内側へ通された。

 見えない結界をくぐった瞬間、空気が少し変わる。冷たいわけではない。けれど澄みすぎていて、胸の中まで見透かされるような気がした。

「……不思議」

 セレフィナが小さく言う。

「空気が、感じたことがないくらい澄みきってる」

 私も同じことを感じていた。風の国の風は懐かしくやわらかかったが、ここはもっと輪郭のはっきりした清らかさがある。


 白い石造りの回廊を少し進み、中庭に面した小さな応接室へ案内される。

広くはないが、とても整った部屋だった。磨かれた床、薄い色の木の机、高窓から差し込む光。飾りは少ないのに、ひとつひとつが丁寧に置かれている。壁際には小さな金庫の模型と、精巧な歯車仕掛けの時計が並んでいた。

 セレフィナが思わず呟くと、エセルがわずかに微笑んだ。

「連邦国の名産品のひとつです」

 私はもう一方を見る。

「金庫……」

「ええ。私も主に金庫を担当しております」

 エセルは私たちの向かいに腰を下ろした。私の肩には、コフクが大人しく乗っている。


「では、改めて。光の浄化の力が必要とのことでしたね」

 私は深く息を吸った。

「はい。闇魔法をかけられてコルドミリティ帝国に連れて行かれた象たちを助けたいんです。それから……父も囚われているかもしれなくて。闇魔法を解く力、闇魔法に対抗する力を得たくて、来ました」

 エセルは机の上で指を組む。

「軽い案件ではありませんね。アルカルキス連邦は七つの領から成り、重要事項はその七つの領の長が集まる七色会議の合議で決まります。光の浄化の力の譲渡は、その扱いになります」

「七色会議……」

 セレフィナが静かに口を開く。

「私はフィシエーラ王国の王女なので、王族の教育で七つの領が集まっているとは聞いていました。でも、七色会議のことは初めてです」 

エセルが少し驚いた表情を見せる。

「お連れ様は、フィシエーラ王国の王女様でしたか」


 コフクが横から低く言う。

『七人の長が集まるんでしょ。すぐ開けるのかな』

 私はそのまま口にした。

「七色会議って、開く日が決まっているんですか?」

 エセルは静かにうなずいた。

「ええ。通常は週一回で、昨日開きました。ただ――

そこで私たちを順に見た。

「今回は風の国のフィオラ様からのご紹介です。しかも重要案件ですから、臨時招集が可能か掛け合いましょう」

「……母は、信頼されているんですね」

 私が言うと、エセルは少しだけ目を和らげた。

「お嬢様でしたか。言われてみると、髪や目の色は違いますが、よく似ていらっしゃる。お母様のいくつも前の代から、金庫をご利用いただいております」

 ハイエルフは長命だと聞く。エセルさんはいくつくらいなのだろう、と思って見ていると、彼は静かに続けた。

「ただし、会議を開くことはできても、思うような結果を得られるかは分かりません」

 私は思わず背筋を伸ばす。セレフィナも隣で小さく息をついた。ただ力をくださいと言えば済む話ではないのだと、ようやく本当の意味で分かった気がした。


 エセルはちらりと時計を見ると、立ち上がる。

「七色会議の臨時招集を願い出ます。こちらでお待ちください」

「どれくらいかかりますか?」

 セレフィナが聞くと、エセルは扉のところで振り返った。

「今日明日中に返答は出るはずです。風の国のお得意筋からの紹介は、軽く扱えませんから」

 そう言い残して、静かに部屋を出ていく。


 扉が閉まると、部屋の中に一瞬だけ沈黙が落ちた。

 私は膝の上で手を握る。


 紹介状はある。光の国の中には入れた。けれど、まだほんの入り口。

「……緊張してきた」

 ぽつりと呟くと、セレフィナが小さく笑った。

「まだ会議も始まってないのに」

「うん……でも、始まるかもって思ったら、余計に」

 私も少しだけ笑い返す。


 窓の外では、白い壁の向こうに、さらに高い塔がいくつも見えた。整っていて、静かで、美しい。けれどその静けさの奥に、何が待っているのだろう。

 今分かっているのは、七色会議次第だということだけだった。


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