表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜国の姫らしいですが、田舎で静かに暮らしたい  作者: コフク
第三章 光の国へ――闇を解くために

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

50/51

第6話 手鏡の中の象たち

「他に報告や、決めることはある?」

 マックスにそう聞かれて、私は思い出した。

「あ、あと一つ。母にもらったこの手鏡のことも、相談したくて」

 私は、手に持っていた手鏡を皆に見えるように前に出した。

「風の国の古い魔道具で、見たい人の今の姿を見られるそうなんです」

 そう言って卓の上へ置くと、皆の視線が集まった。

「ただ、一度使うと、次に使えるまでひと月かかるそうです。なので、何を見るか決められればと」


 アンドロメダが腕を組む。

「なるほどね」

 マックスがそっと顔を上げる。

「リリちゃんは、何を見たいの?」

「正直、父か、象たちの夫か、迷っています」

 私は鏡を見下ろし、静かに言った。

「だけど先に、象たちの夫を見たいです」

 ビュートゥも何も言わない。

アンドロメダだけが、じっと私を見た。

「お父上ではなく?」

「父も気になります。でも、ずっといるから一か月後でも変わらない。象たちの夫は、少し前に囚われて、今助けが必要な気がするんです。象たちとも約束したから。まずそっちを見て、助ける方法を考えたい」

 少しの沈黙のあと、アンドロメダがうなずく。

「ええ。筋は通ってるわ」

 ビュートゥも静かに言う。

「では、これも決まりですかな。お茶とお菓子をいただいて、少し休みますか」

 

 その一声で、会議が試食会の時間に切り替わった。皆がそれぞれのペースで好きなお菓子をつまみ、和やかに感想を伝える。フルールとセレフィナは微笑みながらも真剣に意見を聞き取っていた。


 卓の上の銀の鏡は、灯りを受けて小さく光っていた。


 ◇


 翌朝、出張所の会議室は、静かだった。


 卓の真ん中に、銀の小さな手鏡が置かれ、皆の意識がそこに集まっている。

(手鏡で、どの程度見えるものなのか、分からないけど)

 私はその前に座り、両手でそっと鏡を持ち上げた。

「帝国に囚われている、象たちの夫を、見せて」

 手鏡をぎゅっと握り、風の魔力を込める。


 鏡面は最初、ただ白く曇ったように揺れた。

「あれ……」

 うまくいかないのかと思った時、ビュートゥが静かに言う。

「確か、想いが強いほど、はっきり見えると言おられましたな」

 私はうなずくと、母に教わった通り、想いを込める。象の妻たちの嘆きを思い出しながら。

すると次第に、その奥に景色が浮かび上がってくる。

「……見えた」


 鏡の中には、広い岩場のような場所が映っていた。

 切り立った崖。むき出しの地面。

 そして、その中央で、象たちの夫が数頭、鎖に繋がれたまま走らされていた。


 命はある。それは、良かった。

 けれど、自由はない。黒い靄のようなものが、身体のあちこちにまとわりついている。心の奥で抗っているのか、時おり苦しそうに首を振る仕草が見えた。


「訓練……させられてる?」

 セレフィナが低く呟く。

 鏡の中では、兵たちが怒鳴り声を上げ、象たちに何かを強いている。

 戦うための訓練。そう見えた。


 その時、画面の端に、一人の男が映り込んだ。

 長い衣。細い体。濃い紫色の髪。象たちを少し離れて見て、兵士に何か指示を出しているように見えた。


 アンドロメダが、はっと息を呑んだ。

「……あの人」

 皆の視線がそちらへ向く。

「知ってるの?」

 マックスの問いに、アンドロメダは眉を寄せたまま答えた。

「帝国技術院長。間違いないわ。私が一番嫌いな人」

 会議室の空気が変わった。

「技術院長……帝国の皇帝直下四人のうちの一人じゃないか?」

 マックスが低く繰り返す。

「周りを。もう少し周りを見せて」

 アンドロメダが言う。

 私はうなずき、鏡へ意識を集中した。

 鏡の映像が少し揺れ、崖の向こう側が映る。

 尖った山。切れ目のような谷。岩肌の色。アンドロメダが食い入るように見つめる。

「地図を」

 ココットがすぐに卓に地図を浮かび上がらせる。

 その一か所に、アンドロメダが指を置いた。

「多分……この崖がここ。遠景の山がこれなら、位置はこの辺」

 指先が止まったのは、象の森から少し進んだ先、帝国の険しい山岳地帯付近だった。

「象の森の近く……」

 私は呟く。

「近いわけじゃない。でも、思ったより遠くもない」

 アンドロメダの声は低かった。


 やがて、鏡の光がふっと弱まる。次の瞬間、ただの銀の鏡面に戻った。

「……終わったのね」

 セレフィナが言う。

 マックスが、あごの下に片手を置いて少し考える風にする。

「なるほどね。風魔力で像を結ぶけど、意味づけは見る側の知識に左右されるんだね」

 私はゆっくりとうなずいた。

「知らない場所は、見えても分からないね」


「次に使えるのは、ひと月後ですな」

 ビュートゥが静かに言う。

 父を見ることは、まだできない。

 その事実が、胸に重く沈んだ。けれど今は、それよりもまず、象たちの夫が確かに生きていて、苦しみながらも囚われていることが分かった。助けに行かなければならない。


 私が顔を上げると、セレフィナがまっすぐこちらを見ていた。コフクも窓辺から、私の肩の上へ飛んできた。


「行こう」

 私は短く言った。

 紹介状と使い終えた手鏡を手に、立ち上がる。


 こうして、私、セレフィナ、そしてコフクは、光の国アルカルキス連邦へ向けて出発することになった。

 闇を解く光の力を得るために。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ