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竜国の姫らしいですが、田舎で静かに暮らしたい  作者: コフク
第三章 光の国へ――闇を解くために

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第1話 ビュートゥの探し物

「まずはわしとリリア様で、光の国への伝手があるか確かめに行きましょう」


 ビュートゥは昨日の夜、そう言っていた。

 そして今朝も、伝手への「心当たりがある」と言って、部屋で何かを探していて、まだ出てこない。


 私は、闇魔法に支配されている象たちの夫を助けたい、帝国に囚われているという父も救いたい、そう思っていた。

 闇魔法を解けるかも知れないのは、光魔法の力。そしてその力を持つのは、光の国――アルカルキス連邦。しかし、アルカルキス連邦には、伝手でもないと入れない、とアンドロメダは言った。


 そういう訳で、私を含む出張所メンバーは今、出張所の食堂でビュートゥを待っている。


 窓の外は朝の光が柔らかい。昨日までの慌ただしさが嘘みたいに、村はいつも通り静かだ。だけど、私の胸の中ではまだ、象妻たちの鳴く声がおさまらないままだった。


「……遅いですね。手伝えると良いのですが」

 ココットが、お茶の入ったポットを空になったものと入れ替えながら言った。働き者のココットは、いつも何かしている。

「古いものを探すと言っていたからね。本人しか分からない奥の方にしまっているんじゃないかな」

 マックスが、少しだけ笑う。

 みんな、ビュートゥさんが持ってくる「心当たり」を待つしかない。それだけ、光の国への伝手は無いのだな、と私は思う。


 私は、湯気の立つお茶の杯を両手で包んだ。

「光の国、行けるといいですね」

 ぽつりと出た声は、自分で思っていたより小さかった。

 アンドロメダが、卓の向こう側から私を見て言う。

「光の国は、ジーナ師匠でも行ったことがないんですもの。難しいけど、ビュートゥは信頼できるわ」

 その言葉に、私はうなずいた。 


 昨日までのことが頭をよぎる。

 象の森で見た、妻象エレティンたちの涙。

 セレフィナの受け取った手紙に書かれていた、塔に囚われているという父の噂。

 落ち着かない気持ちになる。

 全部、奪われたままでは終わらせたくなかった。


「行きたいです」

 小さく言う。

「決意表明だね」

 マックスが、ふっと笑う。

「今のリリちゃん、ちょっとかっこよく見えた」

 少しだけ頬が熱くなる。

 そんなやり取りをしている時だった。


 食堂の扉が開いた。

 みんなの視線がそちらへ向く。

 そして次の瞬間、食堂の入り口に立った姿を見て、私は目を瞬かせた。

「……え?」

 戻ってきたのは、もちろんビュートゥだ。

 ただし、いつもと少し違っていた。


 首元に、淡い蜂蜜色の薄絹のスカーフが巻かれている。繊細な銀糸の刺繍が入っていて、どう見ても、普段のビュートゥさんの服装からは浮いている。

 ビュートゥさんは、私たちの視線を一身に受けながら、少し顎を上げた。

「どうですかな。おしゃれでしょう?」


 マックスは息を呑んで言葉を失い、ココットが眼鏡の位置を直し、アンドロメダが頭を傾け、おばあちゃんも眉を少し寄せて固まる。コフクも珍しく黙っている。


 私は、あわてて口にした。

「……おしゃれ、な、スカーフですね」

 スカーフは、たぶんおしゃれ。でも、ビュートゥがしていると、違和感がある。ご機嫌な本人に、そこまでは、言えない。


「それが、探し物ですか?」

 私が聞くと、ビュートゥは首元の布をそっと撫でた。

「昔、いただいたものです」

 それ以上は、まだ言わない。

 でも、その手つきは少しだけ優しくて、ただの布ではないのだと分かった。


 何だかよく分からないけれど、会いに行く相手は女の人なのかもしれない、と私は思った。しかも、ちょっとだけ、おしゃれして行きたい相手。

 そう思うと、急に自分の格好が気になってくる。

「私、この服で良いのかな?」

 ビュートゥさんは、そんな私を見て、少しだけ目尻を下げた。

「リリア様は、そのままで大丈夫です」

「え?」

「いつものままのリリア様が、よろしいのです」

 ますます意味が分からない。

 私は自分の服を見下ろした。

 今日誰か大事な人に会いに行くのかも、と思ったが、元々それほど良い服は持っていないので、特別にきれいでもなく普通だ。

 これでいいならいいのだろうけど、余計に気になる。


 マックスが咳払いを一つする。

「……それで、どこへ?」

 ビュートゥさんは、当然のように答えた。

「この辺で、一番近い市場は、隣町ですな――隣町グリューネマルクトの市場へ行きましょう」

「市場?」

 思わず、みんなで聞き返した。

 光の国へ行く、伝手を探す話だったはずだ。どうして市場なのか、私にはまるで分からない。


 けれどビュートゥさんは、もうその先を見ているような顔をしていた。

「ええ。まずは、市場です」


 そう言って、くるりと踵を返す。

 首元の布が、ふわりと揺れた。

 布の片端に、銀糸で猫の横顔の模様が刺されているのが、目に残った。


 私は思わず、マックスさんたちと顔を見合わせる。


 どうして市場なのか。

 どうして私も一緒に行かないといけないのか。

 その答えが、あの布にあるのだろうか。


 光の国への道は、思わぬところから始まるらしかった。


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