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第百四十話 そしてラスボスになった君は

 耳に馴染んだ鳥のさえずりが、俺が世界で初めて聞いた音になった。

 体がほどよく沈み込む寝床は岩崖住居の簡素なベッドではない。見た目は質素ながら使い心地と耐久性は一級品のヴァンサンカン屋敷の備品だ。


 帰ってきたのはもう何日か前。むこうにすっかり馴染みすぎて、こっちの方に未だに違和感があるとは。

 そんな苦笑を胸の内に巡らせつつ、俺はようやく神経の通ったまぶたを持ち上げる――。


「パ・パ」

「ホ!?」


 ぎょっとした拍子に、半分くらい残っていた眠気は完全に飛び去った。

 体が何か重いのはまだ目覚め切っていないからかと思ったが……違う。


 俺の腹の上に学生服のスノーカインが乗っている。

 白を基調とした清楚なジャケットは黒のラインで引き締められ、ところどころにゴージャスな金糸の意匠も見られる。キャメル色のプリーツスカートは可愛らしいチェック柄だ。


 王国最高峰の教育機関、ユングラント魔導学園の女子制服。


 知性と清純さ、そして国の威信を示す規律的な衣装を身に纏った少女はしかし、俺に大胆にまたがったまま妙に艶めかしい目を向けてきていた。


「ど、どうしたスノーカイン……」


 朝とは思えない意味深な空気の中、何とか絞り出した声に彼女は妖艶な微笑を浮かべ、


「パパ。いけない子でごめんなさい……」

「な!?」


 そっと顔を近づけてきて――。


「ど、どこでそんな危険な言葉を覚えた!?」

「危険? Φx廿」


 ぴたっと止まるスノーカイン。主犯は彼女の口からすぐに語られた。


「メイド長が、わたしが言ったらきっと可愛いって……」

「あのロリショタ元陛下ぁ!」


 新しい屋敷のメンバーを見るとすぐこれだ! 実習生に王宮流のメイド教育だけしてくれてばいいものを、うちの子に変なことまで吹き込むとはぁ……!


「……効いた?」


 そんな俺の懊悩を気にもせず、小首を傾げるようにしながら聞いてくるスノーカイン。ぼんやりとした目は相変わらずだが、瞳の奥にどこか期待するような光がある。俺は小さく息をついた。


「……ああ。とても可愛かったよ」

「やった」


 満足したのか、俺の上から体をどかす。白ソックスまでバッチリ学校指定で揃えられているのが自然と目に入った。褐色の肌に白の対比がまぶしい。


「……オホン。ただ、今後はそういうのはナシな。意味もわからずやっていいようなことじゃないから」

「意味? Φx廿」


 再び首を傾げるスノーカイン。


「意味ならわかってる」

「えっ……」

「パパはわたしを幸せにしてくれる。わたしの家族を増やしてくれる。やり方は多分知ってる。…………じゃあね、ごはんだよパパ」


 少し頬を赤くして囁くように言い、彼女は少し足早に部屋を出ていった。


「…………」


 俺はしばしベッドの上で上体を起こしたまま呆然としていた。

 何という……前途多難な目覚めであろうか……。


 もちろん、スノーカインに幸せにしたい、幸せになってほしいという気持ちに揺らぎはない。

 だが、ええと、その……スノーカインの見た目上の年齢はアークエンデと同じくらいしかないわけで……。


 と、とにかく起きよう。今日の朝当番が来る前でよかったよ、うん……。


 その時だ。ぎいと音を立てて、開けっ放しにされていた部屋の扉がゆっくりと閉じた。


「……(じとーっ)」

「おわあ!?」


 俺は危うくベッドから転げ落ちるところだった。部屋側に開いた扉の陰に、トモエが立っていたのだ。滅茶苦茶不満そうな仏頂面で。


「…………おはようございます。ご主人様」

「お、おはよう。どうしてそんなところに……」


 俺は急に雨の日の湿度となった室内に声を吐き出す。


「今朝、ご主人様を起こす当番はわたしでした」

「そ、そうだったんですね。ありがとう……」

「次からはわたしも今のと同じ起こし方をします。それでは失礼します」

「ま、待って、待ってください!」


 トモエは本日用の着替えをベッドの端に置くと、つかつかと部屋を出ていってしまった。

 アカン……。これは途方もなくアカン……。本気になったトモエはやるといったらやるスゴ味があるっ……!


 ひ、ひとまず、身支度を済ませて部屋を出よう。すでに体力を二、三割は減らされた気分だ。


「おはようございます、セルガイア様」

「はい、おはよう」

「おはようございます。今日も一日、我らを見守りください」

「うむ。そなたらの安全を祈っている」


 食堂に向かう途中、エントランスでそんなやり取りを目にした。

 玄関に飾られた小さなセルガイア像と、それに挨拶をするメイド実習生たち。


 ええ。そう。いるんです。セルガイア様が。


 アイオーンを道連れにしようとして、その途中で完全に石になってしまったセルガイア。かと思いきや、実はまだかすかに意識が残っていた。


 何を隠そうアイオーン戦後、〈リバースヘブン〉最下層から俺たちが無事地上に帰ってこられたのは彼の助けがあってこそだ。


 生首にされたのは攻撃を受けたからではなく、そもそも地天使の最期は花のように首が落ち、顔――すなわち個を失った姿になるのだという。

 それに加え、今回は奇跡的に意識が残った。煉界の毒にやられつつも生き残っていた、恐らくは最後の地天使だ。そういう特別な生命力があったのだろう。


 現在、ヴァンサンカン屋敷のエントランスには、こけしくらいの大きさのセルガイア像が置かれている。これは、生首だった彼の意識がどうやら頭部の奥の方に集中しているということが判明し、彫刻もできるというアイゼン団長に彫り直してもらったからだった。


 木彫りの仏像を作るのは、木材の中に隠れている仏の姿を掘り出す行為なのだという。


 それに通じるものがあったのかどうかはわからないが、セルガイア自身からアドバイスを受けながら不要分を削っていたら、綺麗にセルガイア像が出来上がった、という運びだ。


 これで本人は話しやすくなり、シノホルンも絶対に持ち帰ると言って聞かなかったので、エントランスに置いてみたのだが……。


「……なんか、校門の前で挨拶してる校長先生っぽいんだよな……」


 となるとメイド学校の校長先生ということになるが……。盟主にゆかりのある者にこんなことさせて許されるのだろうか。まあ、セルガイアもイヨルたちとたくさん話ができて嬉しそうだから、いいか。


 そしてもうそれに適応しているメイドさんたちよ。いやぁ、若者の順応性って本当にすごいな。若者は常識がなってないと言うが、逆にそれは非常識にも即対応できる武器なのではないだろうか……。

 

 食堂に入ると、皆が既に待っていた。

 アークエンデにオーメルン、ソラにルーガ、タマネにタガネ。ロウレールたちエルフの皆さんは、俺たちが帰ってくるまでバスティーユと共に屋敷を守ってくれていたという。そして――スノーカイン。


「ややっ、今朝のはタガネの好物でござる。拙者のを半分わけてやるでござーる」

「い、いらぬタマネ……。それがしは自分の分で十分だから……ゴクリ……」

「ピーマンいらない。オーメルン、あげる」

「わたしのも…… Φx廿」

「二人して同じもの残してんじゃねーよ。ちゃんと食え」


 仲良く好きなものを融通してやる猫たちとは対照的に、ソラとスノーカインのお残しをオーメルンがきっちり叱ってやっている。


「いらないならわたしがもらうぞ。もったいない」

「おい勝手に食うなルーガ! こいつらのためになんねーだろ!」

「ちょっとあなたたち、静かになさって! わたくしとお父様がゆっくりお話できないでしょ!」


 大変にぎやかだ。取るに足らない、だがかけがえのない、俺たちが守り抜いた日常。

 それが何気なく過ぎ去っていくのがもったいない。


 いや……去ってはいかない。積み重なっていく。未来へ。


「体が戻ってもっと味がわかるようになったけど、これは知らなくてもよかった……(ΦxT」

「緑の許されざる苦渋……。伯爵、朝贄の円卓からこの罪人を取り除くことをこい願う……(TxT」


 二人並んで訴えかけてくる顔に思わずふっと吹き出しつつ、


「ちゃんと食べるんだ。嫌いなものがあってもいいが、食べられないものはないようにしないとな」

「はぁい……」


 スノーカインは人の体を完全に取り戻している。食器を握る手も、しっかりと自分のものだ。

 箱舟の中である程度の教育は受けていたのだろう。マナーや素行に関しては野生児上がりのルーガの方が怪しかったくらいで何の心配もいらなかった。


 肉体を得て空を飛び回ることはできなくなったが、巫女として駆使していた魔力は健在。現代ではまったく独立した魔力系統である操霊術の使い手となり、これから出会う多くの人々を驚かせることになるだろう。


 あの日、アイオーンに勝利し、彼女が人間に戻った日。

 彼女は正式にヴァンサンカン家の家族(メンバー)となった。


 煉界にはもう戻れないし、あそこにはもう誰もいない。彼女の部屋は残っているが……そこに置かれた思い出にスノーカインは未練を見せなかった。


 俺たちと共に生きる。与えられた“命”で精一杯幸せになる。それが今の彼女の――そして去っていった人間たちの願い。


 このへんのややこしい事情は、さすがに部外者たちには内緒だ。アイオーンだのセルガイアの集団だの人間だのイヨルだの、迂闊に口にすれば異端待ったなしで、教団からエージェントが送られてきてしまう。仮に真実だと証明できても国内の混乱は必至。それなら、直に立ち会った俺たちが忘れなければいい。


 だから変わらず――俺たちは“人間”を名乗っている。


 これはスノーカインにも相談したことだ。

 どうしてイヨルたちは洪水後の世界で人間を名乗ったのか。理由はきっと同じ。


 人間という、忘れ得ない人々がいたことを、後世に引き継ぎたかった。

 神話は綻び、歴史は選別される。だが自らが人間を名乗り続ける限り、その名が消えていくことはない。

 人間は終わらない。絶えず続いていく。


 食後、まだ食堂に皆が残っている段階で、バスティーユが俺の元に手紙を運んできた。どうやら全員に関係のあるものらしい。


「ヨハン様からです」


 それを聞くなり、子供たちが席を蹴って俺の元へ駆け寄ってきた。


「あいつか……!」


 死後に届く手紙なんてオシャンティなものじゃない。

 そう……。生き残ったんだ、あいつ。


 いや、わかるよ。気持ちはすごいわかる。

 言い方は激烈に悪いが、綺麗に終わっとけよ、ということだろう?


 アイオーンに毒を仕込み、地上種族最高峰のトリックスターとして満足しながら退場した。あれ以上の幕引きはない。


 最後に会った時、ヨハンの命はどう見ても尽きかけていた。もってあと数日。それくらにすべてを出し切っていた。

 ただ、あそこで別れた時点で、実は生存ルートが一つだけ開かれていたんだ。


 遺跡外にいた、竜の血を半分だけ引くテポーン老師と、竜血の蘇生薬のレシピを完全に暗記していたシノホルン司祭という二人の人物によって――。


 手紙の冒頭は、ようやく筆を取れるまで回復したことと、蛇足にも生き残ってしまった自分の不遇を愚痴りまくる内容で埋められていた。本人はまあそうだろうな……。


 だがそれを言うとアンサーは大マジな顔で否定したらしい。生きてろと。だから、第二の人生を探す気になった。憔悴しきったまま謁見した際、マリスミシェルが椅子から腰を浮かせるほど狼狽したという戦利品も、彼をそんな気にさせた理由の一つのようだ。


 それから……宣言通り王宮に出向いたことで、アンサーは取っ捕まった。

 裏切者には重い処分が下される。ましてや規律と忠義を重んじる“王様の泥棒”たちには、安楽な最期さえ与えられない。


 だがヨハンを守り抜いたこと、例の一冊――ロンギヌス写本の功績、そして母后の申し添えもあって処刑だけは免れたらしい。

 どんな形になるのかは知らないが、アンサーは「ケツを拭く」とだけ告げてヨハンと別れたという。


 俺は手紙を読み終え、それを丁寧にたたんだ。

 どっちも最善のフィナーレには程遠いのだろう。悪役二人、華麗な散り際さえ用意できなかった。


 けどさ。つまんなくていい。かっこ悪くていいよ。悪くないよ。俺には。

 ダサかろうと何だろうと、友達が生きてるだけでこんなに嬉しいんだから。


「それからもう一通。こちらはユングラント魔導学園からです」

「え?」


 あまりにも意外な差し出し主に、俺たちは少しの間目が点になった。

 学園? 何で今さら?

 早速内容を(あらた)めてみると――。


「ユングラント魔導学園の……体験入学だって?」

『ええっ!』


 子供たちが驚愕の叫びを上げる。


「バスティーユ。あの学園は、模試はまだしも体験入学まであるのか?」

「いいえ、普通は。露骨な囲い込みですよ」


 バスティーユはさしたる嫌味もなくそう返してきた。


「どこかからお嬢様の活躍を聞きつけ、是が非でも学園に招きたいのでしょう。入学前に誰かとの婚約が決まったり、どこかにの貴族に嫁いだとなれば、領地から出なくなってしまう可能性が高いですからね」


 確かに貴族の中には女性に経歴を求めない者もいる。さっさと領地に入って跡取りを産んでくれればそれでいいのだ。


「ただあまり露骨な贔屓はしたくないのか、他の将来有望な子供たちにも同様の書状を送っているようです。例えば模試で次期受験者顔負けの成績を残したパンネッタ様にカグヨ様――」


 アークエンデがぴくりと肩を揺らす。そうか、あの二人もか。


「それから、模試には参加していませんでしたが、サンシード家のアルカナ様……」

「アルカナ!? アルカナも来ますの!?」


 今度こそアークエンデはバスティーユに激しく食いついた。手紙では頻繁にやり取りしている親友だが、直に会うことは極めて稀だ。考えてみればハエで飛んでいけば日帰りできる距離だったのに、彼女は私用で騎翅を使うことを遠慮していた節がある。こういうところは慎み深い子なんだよなぁ。


「体験期間はひと月かふた月ほど。そこで学びの楽しさを知ってもらい、あわよくば次回の受験にでも参加してもらおうという魂胆でしょう。なおお二人分の制服は別便でこちらに届くそうです」

「そうか、そういうことだったのか……!」


 と、ここで横から口を挟んできたのは、食器の片づけを見守っていたユングレリオメイド長だった。


「屋敷に届いた学園の制服……てっきり、ボクが学生服風メイド服のデザインのために取り寄せた品だと思っていたのだが……!」


 おいそういう理由であれをスノーカインに着せていたのか? 何てもの考案しようとしてるんだ陛下。わーくにの男子たちの(ヘキ)をどこまで破壊する気だ……。


「なぜか頼んでいない男子の制服もあったのだ……。とりあえずルーガに着せてメイドたちの反応を見てみたが、あれはオーメルンのものだったか……」


 どうやら手違いで入学案内よりも制服の方が先に届いてしまい、陛下が勘違いしたらしい。それにしても、一旦女子が袖を通したものをオーメルンは着るのか。色々難儀だな、あいつも……。


「ひと月かふた月……。みんなと学園生活……。う、うう、でも、それだけの期間、お父様と離れ離れになるなんて……」


 俺のそばには、いじらしくチラチラとこちらを見てくるアークエンデがいた。同じく招待を受けているオーメルンも似たような葛藤を抱いているようだ。


 二人が俺を愛してくれているのがよくわかる。胸にじーんと来る。が、ここは促すべきかもしれない。変わらぬ日々は美しい。それでも子供たちはどこかで新たな一歩を踏み出す。


 最近になってふと気づいたことだが、アークエンデは前ほど俺と一緒の洗濯をせがまなくなった。

 彼女自身の友好関係や行動範囲が増えて忙しくなったというのはあるが、俺は別の理由を考えている。


 思い出が一つではなくなったから。


 悪役公女のアークエンデは、洗濯で褒められたことが家族との唯一楽しい思い出だった。だからそれを想い続けることになってしまった。

 でも今の彼女は違う。食事も、散歩も、他愛もないおしゃべりも、楽しい思い出はいくつでもある。楽しいことは何だってできる。だから洗濯だけにこだわる必要がなくなった。


 今でもアークエンデは暇を見つけては俺の部屋にやって来て、仕事の邪魔をしないように隅っこの椅子で本を読んだりこっちを見つめていたりする。そんな時は俺も仕事の手を止めて、彼女とのおしゃべりに興じる。


 その時間はきっと、アークエンデの心の一部となって、ずっと彼女を支え続けてくれるに違いない。

 安心していい。君は俺に愛されてる。みんなから愛されてる。どこにいたって、どれだけ離れたって。

 だからここは勇気を出して――。


「ああ、その心配なら不要です。体験入学の生徒には保護者の同伴が認められていますので、旦那様が直に行けばよろしいかと」

「ぽおっ!?」

「ほ、本当ですのバスティーユ!」

「もちろんです。バスティーユはウソをつきません」


 やたら優しげに微笑むバスティーユ。あ、怪しい。この男の聖人ぶった笑顔は死ぬほど怪しい!


「わかりました。わたくし、お父様と一緒にユングラント魔導学園に行きますわ!」


 どさっ、と何かが床に落ちる音がした。アークエンデが首都行きを宣言した正にそのタイミングでだった。


 見れば、食堂の入口のところにシノホルンが立っている。足元には何かの本。少し早いが、朝のお勤めとして屋敷にやって来たのだろうが――。


「ザ、ザイゴール、首都に行ってしまうのですか……!?」


 彼女は血相を変えて俺に掴みかかると、前後にがくがくと揺らしながら苛烈な尋問を開始した。


「え、ええ。ユングラント魔導学園から子供たちの体験入学案内が届いたので、ひと月かふた月……」

「そんなに長い間……!? そんな、そんな……」


 ドオオオオン……と神が死んだかのごとく、床に手と膝をついて絶望するシノホルン。


 それを同タイミングでやって来たのかベルゼヴィータやタマネたちが何だ何だと野次馬根性で見つめる。


 多分、彼女たちは余裕でついてくる気満々だろうが、シノホルンはそうはいかない。今度ばかりは分霊の巡礼という言い訳も通じない。その落ち込みようは俺からもひどく気の毒に思えた。しかしさすがに、教団のお膝元にお忍びで潜入ってわけにもいかないし……。


 ところが。


「シノホルン司祭。これをどうぞ」


 バスティーユが突然、糸綴じされたバインダーみたいなものを彼女に差し出した。


「? バスティーユさん、これは……?」

「旦那様を治療した時に発見した新薬のレシピ数種と、先の土地で遭遇したという文様病のレポートをまとめました。これをユングラント魔導学園の研究部会に持ち込めば、しばらくは臨時の研究員として在籍が許されるでしょう。医療の発展は教団も特に力を入れている分野ですので、これを理由に領地を離れても咎められることはないでしょう」


 .。.:*・'(*°∇°*)'・*:.。.パアアアアア……。


 ひ、光が……部屋に満ちて……!


「ザ、ザイゴール! ザイゴール! わたしやりました! わたしもあなたと一緒に行けます!」

「そ、そうですね。それはよかった……」


 俺の返答がどもり気味なのは決してイヤだからではなく……シノホルン司祭が俺に抱き着いたまま飛び跳ねているせいで、とにかくセンシティブな部分が何度もぶつかりまくっているからだ。


 そしてバスティーユ。その「計画通り」の顔やめろ。まだ早い。笑うんじゃない。

 領政と教会の責任者がいなくなれば後は自分の思うがまま……。俺たちがロンギヌス高地に行っている間、さぞ楽しかったのだろう。だけど、まあ。


「ありがとな、バスティーユ」


 俺はこっそり彼にそう打ち明ける。


「はて……。毎日メソメソ泣かれて屋敷にカビを生やされても困りますので」


 そうそっけなく言いつつも、口の端に少し優しい笑みがあるのを、俺はちゃんと見ているぞ。

 というわけで……。

 えっ、マジで? これ最終回じゃないの?

 新たな明日へゴーッ! とかじゃなく、続く!?


 ええいならばやっていく! どう考えても学校なんか行っていいレベルじゃないメンバーだけど、オマケのエピソードを始めますよやまとさん!


 ――『解説は任せろーバリバリ!』


最終回じゃないぞよ。もうちょっと、クリア後のエクストラモードがあるのじゃ。

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