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S級パーティが決死の覚悟でダンジョン最深部に到達したら、作業服のおっさんが蛍光灯を換えていた  作者: ざわん
第四章

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第51話「字」

写真は、九枚あった。


◇


夜。本部棟の三階。保全本部の、記録の机。灯りは、堀の机の上の、一本だけだ。ほかの机は、暗い。

堀は、九枚を、机に並べた。順番は、撮った順だ。

一枚目。細い通路の、口。暗い。ヘッドライトの輪の中に、壁の切れ目だけが、白く出ている。輪の外は、何も写っていない。写っていないところも、現況だ。暗い、と書く。

二枚目から五枚目。扉。札。鍵穴。非常灯。非常灯の写真は、白く、飛んでいる。灯りの近くで、撮ったからだ。点いていることは、分かる。それ以上は、分からない。

六枚目。木の箱。

七枚目。綴り。

八枚目。綴りの、一枚目。

九枚目。折れ目。

プリンターの、出口の紙が、まだ、温かい。九枚、二組。一組は、課へ、持っていく。

堀は、写真を、見た。本部の、同行確認の記録。様式は、本部の様式。

——第五十五層の二 以奥。未確認区画。現況確認。

——同行者、1名。記録係。

——写真、9枚。別添。

別添、と書いて、堀は、ペンを置いた。

写真を、一枚ずつ、持ち上げた。戻した。灰田は、綴りを、持ち上げなかった。堀は、写真を、持ち上げる。写しは、持ち上げてよい。

そう決めたのは、堀だ。誰も、教えなかった。決めてから、手が、少し、重くなった。決めたことは、記録に、書かない。


◇


八枚目。綴りの、一枚目。

場所の欄。機械室。

種別の欄。定期。

点検日の欄。年と、月と、日。

灰田は、上から、読んだ。堀は、横で、見ていた。目が、折れ目で、止まった。どこまで読んだかは、堀には、見えない。目の、止まった場所しか、見えない。

写真は、全部を、見せる。折れ目の上の欄を、全部。堀は、見る。

結果の欄。字が、一つ。良。

点検者の欄。

字がある。

堀は、顔を、写真に、寄せた。机の灯りが、写真の面で、光った。顔を、ずらした。

短い。二つか、三つ。右上がりで、最後の一画が、長い。鉛筆だ。薄い。薄いのに、画の太さが、そろっている。何度も、同じ字を、書いてきた人の字だ。

判ではない。手で書いた字だ。

読める。

目が、一字目に、引かれた。引かれたところで、止めた。

読まなかった。

……ぼくは、見たことだけを、書く。

ペンを取った。

——点検者の欄。手書きの字。判読は、本記録の範囲外。

範囲外、と、書いた。仮詰所跡の壁の紙で、灰田が読み上げた、規程の言葉だ。借りた。借りたことは、書かなかった。


◇


九枚目。折れ目。

しゃがんで、顔の高さで、撮った。灰田に、折れ目も、と言われたからだ。言われたとおりに、撮った。

垂れた紙の、面が、写っていた。箱のふちから、前へ、折れて、箱の前面に、垂れた面だ。上からは、字の頭しか、見えなかった面。

しゃがんで、顔の高さで撮ると、その面が、まっすぐ、カメラを向く。いちばん下の欄。次回点検日の欄。字が、まっすぐに、写っている。灰田は、持ち上げなかった。カメラは、しゃがんだ。

読める。

堀は、写真を、伏せた。

伏せてから、気づいた。伏せる理由は、ない。別添だ。

もう一度、表に返した。表に返して、読まなかった。読まないまま、別添の九枚目の欄に、書いた。

——点検票の折れ目(低位置より撮影)。垂れた面に記入あり。

記入あり。字が何かは、書かない。


◇


翌朝。

詰所に、堀は、九枚の写しを、持っていった。革靴だ。安全靴は、本部の靴箱に、ひもを、二重に結んだまま、置いてある。

灰田は、机にいた。伝票を書いていた。今日の伝票だ。南野は、黒板の前で、今日の予定を、手帳に、書き写していた。課長の席は、あいている。湯のみだけが、ある。

「写しです。九枚」

「はい」

灰田は、伝票を、書き終えてから、写しを受け取った。

一枚ずつ、見た。見かたが、堀と同じだった。持ち上げて、戻す。

八枚目で、灰田の手が、一度、止まった。

点検者の欄を、見ている。堀は、灰田の目を、見た。目は、欄の上で、動かなかった。

「……古い字だ」

それから、九枚目を、見た。折れ目の写真。垂れた面の字。

灰田は、九枚目を、八枚目の下に、戻した。見た時間は、八枚目より、短かった。読んだのか、読まなかったのか、堀には、分からなかった。

南野が、黒板の前から、こちらを見ていた。何も、訊かなかった。

灰田の引き出しは、開かなかった。

「本部に、原本があります」

「はい」

灰田は、九枚を、そろえて、伝票の下に、置いた。写しの上に、今日の伝票。

「堀さん」

「はい」

「折れ目を、撮ってくれて、ありがとうございます」

堀は、頭を下げた。下げてから、上げた。灰田は、もう、伝票を見ていた。

詰所を、出た。革靴の音が、廊下に、響いた。響いた音を、堀は、気にしなかった。

本部棟に戻って、記録を、綴じた。別添、九枚。九枚目の、垂れた面の字は、綴じた紙の中に、ある。読んだ人がいるかは、堀は、知らない。

ぼくは、見たことだけを、書く。


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