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S級パーティが決死の覚悟でダンジョン最深部に到達したら、作業服のおっさんが蛍光灯を換えていた  作者: ざわん
第四章

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第46話「八つ目」

十四、のまま、鳴らない。


◇


非常灯の下。10人。

灯りの輪から、肩が二つ、出ている。盾の人と、弓の人。寄せても、出る。

年上の技術員が、足首を、押さえている。押さえて、離す。三度目で、若いほうの技術員が、その手を、見た。何も、言わなかった。

鷲尾は、手帳を開いたまま、書いていない。堀は、帳面を、胸に当てている。カメラは、下げたままだ。

時計、11時05分。

剣崎が、言った。

「経路とは、何だ。今、答えろ」

待てない人だ。待てないのを、知っている。それでも、一度だけ、待たせる。

「数え終わってから」

「何を数えてる」

「灯りを」

退出路の奥。灯りが、1本、2本、3本。3本目の下が、二つ目の箱だ。箱の、さらに先で、通路は曲がる。音は、曲がりの向こうから来た。箱の、向こうだ。耳が、そう覚えている。遠い音だった。近い音ではなかった。

箱の角の、細い通路。ここからは、見えない。通ったとき、見た。見て、数えた。奥まで、六つ。点いていた。

箱の、こちら側で、分かれる道だ。音は、箱の向こうから来た。

手順は、七つ。七つのどれも、鳴った側へ戻れ、とは書いていない。鳴っていない側へ行け、とも書いていない。

書いていないところを、誰かが、知っている。

今日は、おれだ。

知らないまま、書く。間違っていれば、十で、間違う。


◇


胸のポケットの、ボタンを外した。

附則の写し。方眼紙の裏に、おれの字で、附則が七つ。

裏を、表にする。方眼紙の、表。何も、書いていない。あいている。

ヘッドライトを、紙に向けた。南野が、横から、自分のヘッドライトも向けた。灯りが、二つ、重なった。

ボールペン。作業着の、胸の。朝、伝票を書いたのと、同じ一本だ。

下敷きが、ない。宙の紙には、書けない。

盾の人が、黙って、盾の裏を、こちらへ向けた。紙を、当てた。

八、と書いて、ペン先が、止まった。

ます目に、八だけがある。八の下に、何を置くかで、10人の、戻る道が決まる。ペン先が、ます目の線に、乗ったままだ。

……書いた。

——八。退出路で鳴ったら、鳴っていない灯りの側へ、灯りを数えて進む。

一行だ。

書いてから、読み上げた。

「八。退出路で鳴ったら、鳴っていない灯りの側へ、灯りを、数えて、進む」

南野が、手帳を開いた。開いて、書いた。今日は、書いた。

「……書きました」

「書くと、おまえの字になるぞ」

「おれの字でいいです。おれが、書き取ったので」

鷲尾が、言った。

「それは、規程ですか」

「手順です。課の」

「協会は、課の手順に、縛られません」

「はい。縛りません。書いたものを、見せるだけです」

鷲尾は、黙った。手帳を見て、おれの紙を見て、もう一度、手帳を見た。見てから、書いた。同じ一行だ。字は、おれの字より、小さい。

「協会の記録です。居合わせましたので」

「はい」

欄が、ひとつ、増えた。鷲尾の手帳の、その行だけ、字が、少し、傾いていた。

堀が、撮った。方眼紙の、八の字。1枚。


◇


剣崎が、まだ、見ていた。

「数え終わったか」

「終わりました」

「なら、答えろ。経路とは、何だ」

通用口の脇の、消火器の横で、受けた質問だ。あのときは、答えなかった。持っていなかった。

深いところで、お話しします、と、言った。ここが、深いところだ。

「経路は、行く道ではありません」

「……」

「帰る道です。灯りが、数えられる道」

「数えられなかったら」

「数えられないところで、止まります。進みません」

剣崎は、黙った。退出路の奥を見た。見てから、おれを見た。

「灯りが点いている、ってだけで、道になるのか」

「点いている灯りは、誰かが、球を替えている灯りです。替えに来る人は、どこかから、来ています。来た道は、戻れます」

剣崎は、しばらく、何も言わなかった。

「……あんたの職場を、俺たちが、歩くんだな」

「はい。歩幅で」

剣崎は、うなずいた。隊の3人に、言った。

「聞いたな。歩幅で。走るな。前の奴の、後ろを」

3人が、うなずいた。盾の人が、年上の技術員の腕を、取った。

「肩、貸します」

「……助かります」


◇


手順の、四。

「先頭は、入口の喚呼をした者。南野。作業員は、最後。おれだ」

「はい」

「五。走らない。歩幅で。灯りを、ひとつ、通るごとに、声を出す。……八。鳴っていない灯りの側へ」

南野が、先頭に立った。立って、退出路の、奥を見た。

「箱までは、音のほうへ、歩く。箱の手前までだ」

「はい」

「三つだ。箱で、折れる」

南野は、うなずいた。口の中で、三つ、と言った。六つ、とは、言わなかった。先に、三つがある。

鷲尾が、手帳を、胸に入れた。堀が、帳面を、胸から下ろして、脇に抱えた。剣崎の隊が、並んだ。盾の人と、技術員が、ひとつの影になった。

おれは、最後に立った。

時計。11時18分。

「出ます」

南野が、歩き出した。9つの背中が、順に、動いた。

最初の灯りの下で、声が来た。

「——一」

折り返しの時刻まで、52分。音のほうへ、三つ。箱で、折れる。折れてから、六つ。


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