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S級パーティが決死の覚悟でダンジョン最深部に到達したら、作業服のおっさんが蛍光灯を換えていた  作者: ざわん
第四章

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45/52

第45話「十四」

10時58分。


◇


本日の作業伝票、番号3401。第五十五層の二、その先。現況確認、合同。二日目。1件。

合同の、二日目だ。仮詰所跡の日は、本部の紙の日で、数に入れない。

作業員、2名。同行者、8名。

朝、詰所。引き出しから、附則の写しを出した。方眼紙の裏の、写しだ。おとといの夜、ポケットから、引き出しに、戻していた。紙の日の道具を、坑の日に、胸のポケットに入れた。ボタンを留めた。欄には、書かない。

通用口、9時30分。10人。顔は、初日のまま。

「装備よし。——声、出してください」

9の声。堀は、頭を下げた。高さは、ばらばらだ。4つは、きょうは、遅れなかった。

「——経路よし」

南野が差した。7人が、同じ先を差した。堀は、見ていた。おれも、見ていた。


◇


箱、40分。箱のなかで、剣崎が、言った。

「音は」

「十三のままです」

「鳴ったら」

「数えます。数え終わるまで、動かない」

剣崎は、うなずいた。うなずいて、天井を見た。

業者口。非常灯。仮詰所跡。

枠の前を、通る。盾の人が、枠を、見た。見て、通った。中は、見なかった。

その先。六十歩。

非常灯が、頭の上を通る。1本、2本。5メートルに1本。通路が、一度、曲がる。

二つ目の箱。鉄の。公社の印。

箱の角で、細い通路が、分かれている。奥に、灯りが、点いている。六つ。数えた。伝票に、ない。通らない。

箱の前を、通る。鉄の中で、何かが、間をおいて、打っている。小さい音だ。朝の、分岐の箱と、同じ。今日の伝票に、箱は、ない。協会の鍵も、今日は、出なかった。若いほうの技術員が、箱を見た。見て、鷲尾を見た。鷲尾は、首を、横にふった。書くだけだ。

箱の先。灯りが、二つ。通路が、狭くなる。天井が、少し、低くなる。床に、わずかな段。またぐ。10人が、またぐ。

行程(案)、二日目の、終点。

壁だ。行き止まりの、手前。壁の前に、非常灯が、1本。28年、伝票に出なかった場所の灯りが、点いている。

堀が、撮った。壁。灯り。床。3枚。

剣崎の隊が、壁を見た。弓の人が、壁に、手を伸ばした。伸ばして、止めた。おれを見た。おれは、首を、横にふった。手は、戻った。

「ここまでです」

「ここまで、ですか」

鷲尾が、手帳を開いた。開いて、壁を、見た。壁には、何もない。扉も、札も、箱も。

「現況。通路、行き止まり。壁、コンクリート。異常——」

鳴った。

鷲尾の口が、途中で止まった。おれは、時計を見た。10時58分。


◇


低い。長い。床から、来る。

おれの口が、動く。体は、動かない。

一。二。三。

南野の口も、動いている。

四。五。六。七。

剣崎が、手を、背中の柄に、かけた。かけて、止めた。おれを見た。おれは、数えていた。剣崎の手が、柄から、離れた。

八。九。十。

鷲尾の、鉛筆が、紙の上で、止まっている。書いていない。

十一。十二。十三。

いちばん長い。第12層の、十三より、長い。

十四。

やんだ。

非常灯が、細かく、ふるえた。消えなかった。ふるえも、やんだ。

手順の、一。数え終わるまで、動かない。数え終わった。

「……十四」

南野が、言った。おれも、十四だった。

「方向は」

南野は、答えなかった。おれも、言わなかった。

耳は、覚えている。音の、終わりは、壁からではなかった。背中から、来た。壁に向いた、10人の、背中の側から。

戻る側からだ。おれたちが、歩いてきた道。業者口の、側。

「……退出路で、鳴った」

おれが、言った。言ったことは、全員が、聞いた。


◇


規程第5章第2条。

「規程に定めのない事象に遭遇した場合、直ちに作業を中止し退出、報告書を提出すること」

口に出した。条文は、五度目だ。五度とも、同じ条文だ。四度は、条文のとおりに、動けた。

出して、言葉が、口の先で、床に落ちた。退出、の字が、床で、止まった。

退出。退出の道は、ひとつだ。歩いてきた道。音が、鳴った道。細い通路は、退出の道ではない。伝票にない道だ。

行き止まりの壁と、音の鳴った通路のあいだに、おれたちは、10人、立っている。

剣崎が、言った。

「どっちへ行く」

おれは、答えなかった。

「手順の、二」

声は、出た。いつもの声では、なかった。

「灯りの下に、集まる。灯りは、非常灯。……ここの、1本」

10人が、動いた。

年上の技術員が、動いて、足を、くじいた。床の、わずかな段だ。来るときに、またいだ段だ。倒れなかった。倒れる前に、盾の人が、腕を、取った。取った盾の人の、盾の縁が、壁に当たって、音を立てた。音は、一つで、やんだ。全員が、その音を、聞いた。

「立てますか」

「……立てます。歩けます。多分」

多分は、数に入れない。

「手順の、三。人数」

南野が、数えた。

「十。全員」

「十」

鷲尾が、手帳に、書いた。書く手が、ふるえていた。字は、読めた。

時計を見た。11時00分。

折り返しの時刻は、12時10分。1時間10分、ある。

非常灯の下に、10人、立っている。1本の灯りに、10人は、入りきらない。盾の人と、弓の人の肩が、灯りの外に出ている。出ているほうの肩を、二人とも、内側に寄せた。寄せても、出た。

誰も、しゃべらない。盾の音の、あとだ。次の音を、全員が、待っている。待っているのは、おれもだ。鳴らない。鳴らないことも、数えられない。

年上の技術員が、足首を、手で押さえた。押さえて、離した。離した手が、またすぐ、足首に行った。

胸のポケットに、手を当てた。附則の写しが、ある。ボタンの上から、紙の、かどが分かった。附則は、七回、変わった。七回とも、終わったあとで、変わった。

壁の方眼紙の、七つを、頭でなぞった。一から、七まで。七つのどれも、ここから先を、書いていない。

灯りは、点いている。

退出路の、奥を見た。灯りが、点いている。1本、2本、3本。先は、曲がっていて、数えられない。鳴ったのは、あの曲がりの、向こうだ。

規程に、ないことは、あった。足りないことも、あった。足りないところは、書いて、足した。規程が言うことと、できることが、違ったことは、なかった。

規程は、退出しろ、と言っている。退出する道で、音が、鳴った。

……規程が、はじめて、黙った。


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