↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
S級パーティが決死の覚悟でダンジョン最深部に到達したら、作業服のおっさんが蛍光灯を換えていた  作者: ざわん
第四章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
42/52

第42話「名簿」

——第三年 六月。設備点検第三課。椋田。

紙の、上から七行目に、そう書いてあった。


◇


翌日の、午前。

協会の会議室。机の向こうに、鷲尾。机のこちらに、おれと、南野。剣崎は、座らない。壁ぎわに、立っている。消火器は、ない。

本日の作業伝票、番号3397。場所、探索者協会。種別、資料の確認、立会。1件。坑内には、入らない。今日は、紙の日だ。

鷲尾が、紙を2枚、机に置いた。両手ではなかった。1枚ずつ、片手で。

「午後、本部と、協議です。その前に、お見せします。……協会から、公社に、求めました。先週です。業者口の、先の、過去の事故報告を出すこと。回答が、これです」

1枚目。公社の紙。判がある。右上。

——個人情報につき、提供を差し控える。

出したのは、保全本部。名前はない。

「差し控える、と」

「差し控える、と、来ました」

鷲尾は、紙を見ないで言った。おれも、見た紙を、二度は見なかった。

「それで、こちらを出します」

2枚目。協会の紙だ。古い。紙の色が、書庫の、3箱目の紙の色をしている。

「協会の、古い記録です。坑内で人が亡くなった日は、協会が、探索者の入坑を止めます。止めた日の記録に、公社から、課と姓だけ、聞いて書いてあります。……暦の年を、規程の年に、直しました。きのうの夜、私が」

通知。八件。

年と、月と、課と、姓。四つの欄の表だ。理由の欄は、ない。

おれは、読んだ。上から。

第一年、十一月。第二年、三月。第二年、八月。第二年、十二月。第三年、二月。第三年、二月。第三年、六月。第四年、一月。

八つ。第三年二月が、二つ。同じ月だ。

第二年、八月。そこで、目が、一度、止まった。止まって、次へ行った。

南野が、横で、手帳を開いた。開いて、書かなかった。


◇


「灰田さん。お持ちですか」

「何を」

「附則を。規程の、改訂の記録です。きのう、仮詰所跡で、第四版、とおっしゃいました」

持っている。おれの引き出しから、今朝、出してきた。方眼紙の裏の、写しだ。

机に、置いた。手は、紙の端に、残した。見せる。渡さない。公社の文書だ。

鷲尾は、受けなかった。おれの手の下の紙を、読んだ。読んで、名簿を、その横に、寄せた。

2枚の紙が、並んだ。

附則。第二版、第一年十一月。第三版、第二年三月。第四版、第二年八月。第五版、第二年十二月。第六版、第三年二月。第七版、第三年六月。第八版、第四年一月。

名簿は、さっき読んだ八つだ。

鷲尾の指が、附則の行を、上から、押さえた。押さえて、名簿の行へ、横に動いた。年月を見ずに、行だけを、数えて。一行。次の行。

七回、動いた。

八行目に、附則の行は、なかった。指が、名簿の八人目の上で、止まった。

「改訂は、七回。名簿は、八人です」

「第六版が、二人です」

おれが言った。鷲尾が、おれを見た。

「第三年二月は、二つ、あります。同じ月です。改訂は、ひとつ」

鷲尾は、名簿の第三年二月を、二度、押さえた。

「……規程の改訂は、人が亡くなった月に、行われています。全部」

言ってから、鷲尾は、紙から手を離した。離した手を、机の下に、下ろした。

剣崎が、壁から、言った。

「全部か」

「全部です。第二版から、第八版まで」

会議室が、静かになった。協会の会議室は、うちの詰所より、静かだ。鍋がない。


◇


第七版。第三年、六月。

名簿の、七行目。

——設備点検第三課。椋田。

おれは、読んだ。読んで、言った。

「知っている名前です」

鷲尾が、顔を上げた。

「伝票の、検印の。……確認の判子を押す、欄です」

鷲尾が、言った。

「検印」

「古い伝票です。書庫の。判子の、前の時代です。第一年から、第三年の途中まで、検印の欄に、この姓が書いてあります。手書きで」

言って、口を、閉じた。

鷲尾は、待った。待ってから、訊かなかった。

第三年の途中で、検印の姓が変わった。おれは、書庫で、それを見た。見て、年表に入れなかった。

第三年。おれが、この課に来た年だ。六月には、まだ、いなかった。来たとき、その名前は、もう、どこにもなかった。誰も、言わなかった。

第四年、一月。おれが、この課にいた年だ。別の課の、姓だ。その月、坑が二日、止まったのは、覚えている。名前は、回ってこなかった。

南野が、手帳に、何か書いた。一行。おれは、見なかった。


◇


剣崎が、机に来た。

来て、名簿を、上から、読んだ。長く、読んだ。

「……俺たちの事故報告は、どこに行ってる」

「協会が、受けています」

「受けて、どこに行く」

鷲尾は、答える前に、少しだけ、黙った。

「……綴じて、保管します。それだけです」

剣崎は、うなずいた。

「決めごとを、8つ、書いた。7つは、しくじった日に。8つ目は、教わった日に」

言って、名簿から、目を離さなかった。

おれは、答えなかった。

剣崎は、それ以上、言わなかった。壁に、戻った。

鷲尾が、名簿を、しまった。おれは、写しを、胸のポケットに入れた。

「協会は、この表を、公表しません。遺族の了解が要ります」

鷲尾は、それ以上、言わなかった。


◇


詰所。午後。

点呼板の札を、裏に返す。2枚。坑内に入らない日も、札は、返す。

壁の方眼紙を、見た。七つ。

きのう、仮詰所跡で、第3章第4条の、案、を見た。鉛筆で、二度、重ねた字。あの字も、誰かの字だ。表に、課の名前はあって、字の癖は、ない。

おれの方眼紙は、課の手順だ。規程ではない。附則には、載らない。

南野が、後ろから、言った。

「灰田さん。あの表、八人目、まで、ありましたよね」

「あった」

南野は、うなずいた。うなずいて、手帳を閉じた。

八人の表の、あとを、おれは、歩いている。

九人目の行は、まだ、ない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。