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S級パーティが決死の覚悟でダンジョン最深部に到達したら、作業服のおっさんが蛍光灯を換えていた  作者: ざわん
第四章

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40/52

第40話「混成」

本日の作業伝票、番号3395。第五十五層の二、その先。現況確認、合同。1件。

作業員、2名。同行者、8名。

同行者の欄が、8行ある。様式に、8行はない。南野が、線を引いて、足した。

おれの引き出しに、附則の写しがある。詰所の規程から、方眼紙の裏に写した。今日は、使わない。写しは、紙の日の道具だ。


◇


8時30分、通用口。

10人、立っている。

うちの側は、おれと、南野。本部の記録係の堀。今日も長靴だ。

協会の側は、鷲尾と、技術員がふたり。若いのと、年上の。鷲尾のヘルメットは、貸し出しではなかった。協会の印が入っている。靴は、安全靴だ。

それと、剣崎の隊。4人。剣崎、盾の人、杖の人、弓の人。武器は、全部、背中に回してある。柄は、壁のほう。

カンテラは、通用口の内側で、端末を構えていた。

「おれ、ここまでです。深いところは、許可が出ませんでした」

「はい」

「ここで、実況します。電波、来ないですけど」

今日も、そのままにしておいた。

入坑の前に、条文を、ひとつ読む。

「規程第2章第6条。同行者は作業員の指示に従うこと。入坑時の安全確認は、同行者もこれを行うこと」

剣崎が、言った。

「分かってる。点呼は、受ける」

「装備よし。——声、出してください。同行者も、です」

鷲尾。技術員ふたり。声は、通った。堀は、手帳を持ったまま、頭を下げた。記録係は、点呼の外だ。

剣崎の隊は、少し遅れた。盾の人が、剣崎を見た。剣崎が、先に言った。

「装備よし」

3人が、続いた。4つの声は、高さが、そろっていなかった。そろっていなくても、4つ、通った。

入口で、南野が指を差す。

「——経路よし」

8人が、同じ方向を指した。おれは、入口の脇で見ていた。堀は、手帳を持って、見ていた。8本の指が、通路の先を差している。差す高さは、そろっていない。先は、そろっている。

いい点呼だ。


◇


業務用のエレベーター。

10人で乗ると、箱は、いっぱいになった。盾の人の盾が、壁にあたる。あたらないように、盾の人が、少し寄った。

弓の人が、腕時計を見ていた。見て、表示を見た。

「……40分、かかるのか。55で」

「どの層へも、40分です。速くは下りません。規程です」

「99でも」

「99でも、40分。38でも、40分。箱のなかで、耳と目を、慣らします」

堀は、手帳に書かなかった。知っている顔だった。

40分。

箱のなかでは、なにも起きない。10人いても、起きなかった。剣崎の隊は、しゃべらなかった。技術員のふたりは、天井を見ていた。鷲尾は、まっすぐ前を見ていた。

南野が、おれの横で、手帳を閉じた。閉じて、開かなかった。


◇


第55層方面。再点検待ち区画。

甲三型、22体。壁ぎわの定住群。

先々月、2メートル。先月、3メートル。今日は、4メートル、通路側に出ている。

歩幅は、変えない。経路を、反対の壁側へ、5メートル寄せる。1メートル来た。1メートル寄る。

後ろで、足音が、ひとつ、止まった。杖の人だ。

群れの、いちばん端の1体が、頭を、通路側へ向けた。向けて、半歩、出た。

剣崎が、言った。

「止まるな。あの人の後ろを、歩幅で歩け」

足音が、戻った。1体は、半歩のまま、止まった。

鷲尾が、おれの後ろで、言った。

「歩幅で、とは、どの歩幅ですか」

「いつもの歩幅、です。走らない。縮めない。暗くても」

鷲尾は、少し黙った。黙ってから、言った。

「書いておきます」

群れを、抜けた。21体は、動かなかった。1体だけが、半歩のまま、こちらを見ていた。

注視された。作業を継続する。


◇


業者口。

封は、もうない。先月、おれがはがした。

扉を、開ける。

その先は、乾いた通路だ。非常灯が、点いている。28年、うちの伝票に出ていない灯りだ。

剣崎が、見上げた。

「……点いてるな」

「点いています」

「換えてないのか」

「換えていません。うちの伝票にない灯りは、換えません」

それ以上は、聞かなかった。

第五十五層の二。規程の別表が、存在しない、と書いている層だ。

先月は、この先で、音が鳴った。12だ。今日は、鳴らない。鳴らない日も、一からだ。

「手順の、一」

南野が、答えた。

「音を数える。数え終わるまで、動かない」

「音は」

「鳴っていません」

「二」

「灯りの下に、集まる」

非常灯の下に、10人、立った。

「三」

「人数。……10。全員」

「四」

「先頭は、おれです。作業員は、最後。灰田さん」

「そうだ」

剣崎の隊が、聞いていた。盾の人が、小さく、10、と言った。言ってから、口を閉じた。


◇


通路の分岐。

壁に、箱がある。鉄の箱だ。公社の印。

非常灯の配線が、壁をはしっている。その同じ管から、太い線が1本、箱に入っている。通信の線だ。

箱は、知っている。おれの順路の、どの層にもある。中は、見たことがない。伝票に、なかった。今日も、ない。開けない。

若いほうの技術員が、箱の前で、止まった。鍵を、出した。

協会の鍵で、公社の箱が、開いた。

中継器だ。

灯りが、ひとつ、点いている。小さい緑だ。鉄の中で、何かが、間をおいて、小さく、打っている。時計の、遅いやつのような音だ。

球と同じ手つきで、見る。端子。ほこり。緑の灯り。手は、出さない。見るだけだ。

若いほうの技術員が、おれの手元を、のぞいた。

「……公社の、中継器ですか」

「はい。線で、来ています」

技術員は、箱の中を、長く見た。

鷲尾が、言った。

「協会の中継器は、どこに」

若いほうは、答えなかった。年上のほうも、答えなかった。

「答えてください。私が、書きます」

年上のほうが、言った。

「……浅いところで、公社の線に、乗せています」

鷲尾は、手帳に書いた。書く手が、いつもより、遅かった。

緑の灯りは、点いたままだ。技術員が、箱を、閉めた。鍵を、しまった。

予定範囲は、ここまでだ。行程(案)の、終点。

この先に、古い詰所の跡が、ある。課長が、昔、そう言った。名前は、紙に、ない。今日は、行かない。次の紙が、来てからだ。

「戻ります。定時から、逆算します」

「まだ、時間がありますが」

「群れの横を、もう一度、通ります。逆算すると、今です」

鷲尾は、うなずいた。


◇


退坑、16時40分。

通用口に、カンテラがいた。端末は、まだ、構えていた。

「おつかれさまです。……実況、完走しました。通用口で」

「はい」

「10人、戻りましたね」

「10人です」

カンテラは、端末を、下ろした。下ろして、言った。

「灰田さん。あの。……おれの配信、何に乗ってたんですか。ずっと、聞かなかったんですけど」

聞かなかったのは、おれもだ。

分岐の箱の、緑の灯りを、思った。箱は、どの層にもある。今日、ひとつ、中を見た。

「あなたの配信は、分かりません。今日、見たものなら、言えます」

「見たもの」

「線です」

「線」

「電波は、来ません。線は、通っています。非常灯と、同じ管で」

カンテラは、口を開けた。開けて、閉じた。

「……非常灯と」

「同じ管です」

「おれ、非常灯に、乗ってたんですか」

「線に、です」

カンテラは、通用口の天井を見た。天井には、非常灯が、1本ある。

「……今日、それ、言ってよかったんですか」

「見たので。訊かれたので」

点呼板の札を、裏に返す。2枚。

もう一度、ここへ下りる。今日より、奥へ。

線は、通っている。音は、まだ、数えていない。


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