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S級パーティが決死の覚悟でダンジョン最深部に到達したら、作業服のおっさんが蛍光灯を換えていた  作者: ざわん
第三章

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33/52

第33話 side 剣崎 「職場」

第20層、入口の手前。朝の9時。

俺はS級パーティ「先鋒」のリーダー、剣崎迅。今日は、20層から下を、いつもどおり削る日だ。

いつもどおりでないのは、入口に、若手が3人、横に並んでいることだ。


◇


3人とも、うちの隊の下のほうだ。名前は、言わなくていい。下の3人だ。

目。

指。

声。

目。

「——経路よし」

真ん中のやつが言った。指が先で、声があとだった。指の高さは、目の高さに来ている。三度目で、直った。二度目までは、声が先に出ていた。

俺は、何も言わなかった。言わないでいるのは、慣れていない。

盾役が、横で、小さくうなずいた。あいつは、あの動画を毎晩見て寝る。

入口の脇に、決めごとの紙が貼ってある。3枚。手書き。8つ目が、いちばん下に、いちばん新しい字で書いてある。

——教わった型は、教わったとおりに使う。

教わったとおりに使うのは、できる。

勝手に埋めるな、と言われている。そっちが、きつい。

昨日、うちの若手が、スレの書き込みを見せてきた。

——そもそも「経路よし」の経路って、道のことでいいのか?

道のことでいいのか、と、俺に聞いた。

俺は、答えなかった。答えを、持っていない。持っていないものは、教えない。それも、8つ目のうちだ。

あの人は、あの日、時間を切って、答えはじめた。切った時間までに、俺は、質問の半分も聞けなかった。残りの半分を、俺は、まだ待っている。

待っている自分に、入口の前で、気づいた。

気づいたら、指を差していた。

「……行くぞ。順番どおりだ」


◇


配信は、20層の入口で回した。今日は、配信の日ではない。回す気も、なかった。

回したのは、コメント欄が、朝から、荒れていたからだ。荒れているところに、黙って入ると、黙ったことが、返事になる。

「先鋒、入ります。20層から。いつもの」


> :おはよう先鋒

> :存在しない層、って公社が言ったやつ、あれ何なの

> :飼い犬の話しろよ

> :S級が擁護してんの草

> :擁護じゃなくて実況だろ

> :あの人、上の言いなりで扉開けたり閉めたりしてるだけじゃん

> :札一枚でって、あんなん演出だろ

> :飼い犬でも札くらい立てられるわ


俺は、しばらく、何も言わなかった。

得物の向きを、そろえた。大剣の柄を、壁のほうへ。8つの決めごとの、4つ目だ。

盾役が、盾を立てた。斥候が、灯りを見た。魔導師が、手袋を、はめ直した。

音だけが、配信に乗っている。金属の音と、布の音。コメントは、流れている。

流れているコメントの中に、笑う字が、増えていく。公社を笑う字と、あの人を笑う字が、同じ速さで流れる。同じ速さで流れると、区別がつかない。

そろえ終わって、俺は、端末のほうを向いた。

「ひとつだけ、言っておく」

言った。

「俺たちが命を懸ける場所は、あの人の職場だ。笑うところじゃねえぞ」

それだけだ。

言ってから、もうひとつだけ、足した。

「点検員の報告は、出ていない。出さないのは、公社だ。あの人じゃない。存在しない、と言ったのも、公社だ。あの人は、行って、書いて、帰った。それが職場の仕事だ。俺は、そう聞いている」

コメントが、流れた。

俺は、端末を見なかった。得物の柄から、手を離していなかった。盾役が、息を止めているのが、分かった。

文字が、下から来なくなった。


> :……

> :職場

> :そっか

> :まだ信じてないけど、言い方は分かった


塊が、短くなった。

短くなったぶんだけ、読んだ。

「行く。順番どおりに」

入口で、若手が、指を差した。

声が、後ろから、来た。俺は、ふり返らなかった。ふり返らないことで、俺は、あの人の型を、ひとつ、守った。


◇


20層を、いつもどおり削って、いつもどおり上がった。同接は、見なかった。

見なかったことに、上がってから気づいて、少し笑った。数字は、見る人のものだ。あの人が言ったのではない。俺が、勝手にそう思っている。

盾役が、端末を見せに来た。

「リーダー。今日の切り抜き、もう回ってます。……『職場』、って」

「見ない」

「……はい」

俺は、得物の向きを直した。

盾役は、端末をしまった。しまうのが、速くなった。

帰りに、公社の通用口の前を、通る道がある。通らない道もある。

今日は、通らない道にした。

あの人の職場に、用のない日に、行かない。それは、決めごとには書いていない。書いていないが、守る。書いていないものを守るのは、8つ目の、外側だ。外側は、俺の職場のぶんだけ、ある。

帰り道で、若手のひとりが、聞いた。

「リーダー。経路って、結局、何なんですか」

「知らん」

「知らないんですか」

「教わってない。教わってないことは、教えない」

若手は、うなずいた。うなずいて、それ以上、聞かなかった。聞かないところまで、似てきた。

あの人はまだ、俺の質問に答えていない。

……答えるまで、俺は8つ目を守る。


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