第六話:都会の夜景より見たいもの
徹夜で調べた「東京の女の子が喜ぶデートスポット」。
本命は、新宿副都心だった。でも先輩達から金曜夜の渋滞の怖さをふきこまれ
よしこの門限に確実にまにあわせることを考えると
妥協案に頼るしかなかった。
雑誌で得た知識では、女子をおとすには夜景が一番なのだ。
そして穴場として選んだのが、まだ完成前のパルテノン多摩の大階段だ。
階段をのぼりきると、思ったより暗い。
しかもあちこちに寄り添ったカップルがいて、暗がりの中でひそひそ笑い合っている。
その様子を見たとたん、一也の胸は妙に落ち着かなくなった。ここまで来たんだから、少しぐらい近づいてもいいだろう。
そんな考えが、何度もせり上がってきた。
横に座るよしこの肩に手をまわそうとした瞬間・・・
よしこがのんびりと言う。
「もう飽きちゃった。夜景も単調だし。」
え?まだここに座って2分と経っていないのに。
飽きた?
一也は何か返したいのに言い返したいのに、何も言えなかった。
まわりのカップルの気配ばかりがいやに濃くて、さっきまで都合がいいと思っていた暗がりが、
今はただ居心地の悪いものに変わっていた。
「デニーズのハンバーグ、おいしかったね」
よしこが続ける。
「私のおごりなんだから、かずやはステーキ食べてもよかったのに」
いきなり話題が変わって面食らう
「いや、日曜日は俺がおごるから。今度こそTVで紹介されていたイタリアン予約するから。」
「だから、そういうの嫌。日曜日は私がお弁当作ってくるよ。
かずや、食べられないもの無いっていってたよね」
「まあ、好き嫌いは無いけど」
一也は思わずよしこの顔を見た。
よしこが自分のために弁当を作ってくる。
その一言だけで、なぜか機嫌が直った。
イタリアンを拒否されたことも、夜景を2分で切り上げられたことも、急にどうでもよくなってくる。
(……俺、単純すぎねえか?)
シティボーイは難しい。
そんなわけで、少し早めに女子寮に到着した。
よしこは
「今日はありがとう。楽しかった。
日曜日、夏祭り楽しみや」
よしこは助手席から降りると、一也の顔をのぞき込むようにして笑った。
「じゃあ、日曜日な」
一也も笑って手を振った。
プレリュードを走らせながら、ふと思う。
イタリアンは却下された。
夜景は二分で飽きられた。
肩に手を回すことすらできなかった。
完璧なデートプランは、ほぼ全滅だった。
なのに。
(……なんで俺、こんなに嬉しいんだ?)
一也には、よく分からなかった。
そしてそのときの也は知らなかった。
日曜日に行く「夏祭り」が、最初から存在していなかったことを。




