表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
プレリュードの夏  作者: 森好子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
5/6

第五話:通りすがりの夏祭り

 予定していたイタリアンは、よしこの一言でデニーズに変更された。


 開始早々、徹夜で考えたデートプランを崩された一也だったが、いつまでも引きずっているほど

 子どもではない。


 まだ夜は始まったばかりだ。


 それに何より、今日は納車されたばかりのプレリュードでの初デートなのだ。


 カセットデッキから流れているのは、スクェアだった。


 一也は小比類巻かほるのファンだった。

 同じ青森県三沢出身。

 彼女の媚びない凜とした歌声は、どこか故郷の匂いがする。

 でも、東京の夜を走るなら、やっぱりフュージョンだ。

 中でもスクェアは、一也の中で都会的音楽のナンバーワンだった。


「スクェア。知ってる?」


「F1のテーマ曲のグループでしょ?」


 よしこが知っているとは意外だった。

 一也の気持ちが少しあがる。音楽の好みが似ているのかも知れない。


「あ、でも曲名とか知らん。あまり聴かんしな。

 うちは坂本龍一様の信者やねん。」


 ・・・一也の気持ちが落ち始める。音楽の好みもよしことはあわない。

 どうして、よりによってよしこを誘ってしまったのか。

 一也は今さらながら、自分の選択に少しだけ疑問を持った。


 そのとき、F1のテーマ曲である「TRUTH」が流れはじめた。


「この曲聴くと、飛ばしたくなるんだよな」

 気分を変えてアクセルを踏み込む。

 金曜日の夜だというのに、意外にも前方に車はいなかった。


「かずや」


「ん?」


「ちょっと速くない?」


「大丈夫だって」


「怖いんやけど」


「このくらい普通だよ」


一也は前を向いたまま答えた。


その直後だった。


「わあ!」


突然、よしこが大声を上げた。


一也は反射的にブレーキを踏み、スピードを落とした。


「なんだよ!」


「見て見て! 夏祭り!」


「は?」


「すごい! めっちゃきれい!」


よしこは助手席の窓に張りつくようにして、外を見ている。


「人がいっぱいいる! なんか昔の人みたいな人もおる!」


「昔の人ってなんだよ」


「わからん! でも、すごいきれい!」


「何が?」


「光。オレンジ……黄色かな。なんかふわふわしてる。すごくきれい」」


一也には見えない。


というより、見る余裕がない。


「ねえ、かずや、見て!」


「見れるわけねえだろ。運転してんだから!」


「夏祭りやってる! 寄っていこうよ!」


「どこで?」


「今のとこ! ほら、後ろ! まだ見える!」


よしこが身体ごと振り返る。


一也も一瞬、バックミラーを見そうになった。


だが、やめた。


さっきまで調子に乗って飛ばしていたのだ。

こんなところでよそ見なんかしたら危ない。


「危ねえべ! 前向いて座ってろ!」


焦って、青森の言葉が出た。


「でも、すごいきれいやで。なんかね、見てるとすごく落ち着く感じ」

どこか恍惚とした感じでよしこが言う。


夏祭りなんて、せっかく考えたデートコースには入っていない。

ましてや一也が今夜よしこに見せたい「東京」は、縁日では決してなかった。

が・・・

よしこは本気で行きたそうだ。


「日曜もドライブするんだから、そのとき行けばいいだろ」


「え?日曜日もやってるかなー」


「大体、祭りは土日にやるからさ、日曜も昼間ならやってるよ」


「さっきの光の中に縁日ぽい露店が見えた。イカ焼きとか焼きそば食べたいな」


よしこはようやく前を向いた。


一也は小さく息を吐く。


イタリアンをデニーズに変えられたと思ったら、今度は知らない夏祭り。


本当に予定どおりに動かない女だ。


ただ、このとき一也は少しだけ不思議に思っていた。


あれだけ大きな祭りなら、道路からだって何か見えそうなものだ。


けれど一也の視界に入るのは、暗い道路と、両側に続く土手だけだった。

 

二人は、その場所が何なのか知らなかった。


 カーナビもなければ、スマートフォンもない時代だ。

 一也が頭に入れていたのは、目的地までの道順だけだった。


 だから、この夜はそれ以上、気にすることもなかった。


「日曜日、絶対行こうね!」


「はいはい」


 縁日に目を輝かせるよしこ一也は軽く答えた。


 どうせ、昼間に来ればすぐに見つかる。


 よしこがこれだけ行きたがっている、夏祭りなのだから。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ