第四話:完璧なデートのはずだった
そして一也の待ちに待った金曜日。
ちゃっちゃと要領よく、仕事を片付けて17時ちょうどに
タイムカードを押す。
迎えに行くのは、19時なのでそれほど急ぐ必要もないのだが
完璧主義の一也は、どんな小さなトラブルでも対応できる!そのためには
時間にも余裕をもつことが必須なのだ。
上京してはじめて原宿に行って買った服を
やっと着ていけることも嬉しくてたまらない。
欲をいえば、横にいるのがよしこでなければ、もっと良かったのだが。
鏡に映る自分は見たこともないほど、完璧な都会少年だ。
デートプランも完ぺきだし、これならよしこもイチコロだろう。
「今夜は帰りたくない、くらい言ってくるかもしれないな、
そうなった場合に泊まるホテルは・・・・」
決めてある。そう、どこまでも完ぺきなプランなのだ。
新車のプレリュードで女子寮に到着。約束より20分も早くついたが
女子寮の前にはお迎え王子の車の列ができていた。
しかも車種がすごい。
ポルシェにベンツ。やっと国産車と思ったらクラウン!?
いくら高級車とはいえ、親父車じゃん。
とはいえ、新車のプレリュードが、なんだか貧相にみえて気後れする。
いやいや、ブランドスーツを着こなす同期女子の中で
ノーブランドの古くさいスーツを着て入社式を
迎えていたよしこは、
「そのスーツレトロで素敵ね」
と同期女子に嫌みを言われても
「でしょう?お母さんが若い頃着てた服なんだ」
と嬉しそうに返して、陰で笑いものになっていた。
プレリュードなんて高級車の部類だろう。
よしこが新車に顔を輝かせるところを想像しながら、良い気分にひたっていると
寮からよしこがのろのろとあらわれた。
「よっ」
と軽く手をあげると、少し照れたように笑っている。
案外かわいいかもしれない。いや、気のせいだろうけど。
そして、助手席に乗り込んだよしこは、笑顔をほころばせながら
「凄い素敵な車だねー。プレリュードって憧れだったんだ」
・・・・・とは、言わなかった。
ちょっとムッとした口調で
「おなかすいたねー」
え?
一也は思わず、よしこの顔を見た。
それだけ?
新車である。
プレリュードである。
納車されたばかりである。
せめて「新しい車?」くらいはないのか。
しかし、よしこはダッシュボードにも内装にも興味を示さず、
シートベルトを締めながら、
「定時で帰ったら、普通夕食は6時じゃん
いつもより1時間遅いし、おなかすいた」
しらねえべ!そんなこと!おまえだけだろが!
不機嫌な心の声を押し殺し、一也はできるだけ冷静に言った。
「ああ、今日は奮発して調布のイタリアンの店を予約してる。
TVでも取り上げられている 有名店でさ・・・・」
ああ、俺は都会の男だから、失礼な女にも優しいんだぜ。
「ええ?高そうな店、嫌」
あきらかに不満そうに俺の説明をぶったぎるよしこ。
「いやいや、高いっていっても、俺のおごりだからさ。
よしこちゃん、話はちゃんと聞こうね」
女子と距離をつめるために「ちゃんづけ」が効果的だと雑誌にも書いてあった
「今日は一也運転してくれてるからさ。私が奢るよ。」
「いや、だから俺が――」
「運転してもらうんだから、私」
「いいって」
「私が払う」
「……」
こういうところだけ、なぜか頑固だった。
「だけど高い店はだめ。デニーズがいい」
一也はハンドルに手を置いたまま、昨夜までの時間を思った。
店を調べた時間。
電話で予約した時間。
その店からパルテノン多摩までの所要時間を調べた時間。
全部、開始数分で消えた。
「……デニーズね」
「うん!」
よしこは今日一番の笑顔を見せた。
(なんでそこで喜ぶかな)
一也は知らなかった。
徹夜で作ったデートプランが狂い始めたことなど、このあと起きることに比べれば、どうでもいいことだった。
プレリュードは夜の府中を北へ走っていく。




