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プレリュードの夏  作者: 森好子


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第二話:念願のプレリュード

研修が終わり、同期たちがそれぞれの部署に配属された。

よしことは別の部署になったが、毎日定時あがりの自分と違い、

よしこは、配属初日から残業をしているらしい。

よしこの要領の悪さを心配する一方、一也は大好きな車の並ぶ 販売店を訪問するのが、

毎日の楽しみのひとつになった。

当時の若者にとって、車をもつことは一種のステータスだった。


一也もご多分の漏れず、新車への憧れがあった。

F1ブームもあり、ホンダと日産は特に人気が高かった

一也はその中でも、都会的な雰囲気のあるホンダのプレリュードに心を奪われた

6月のボーナス時期。

ボーナスといってもまだ新人の一也は、子供のお小遣い程度しか貰えない

それでも、月給は地元の同期の倍くらいはあった。

これならプレリュードを買える!

一也はローンを組んで、新車のプレリュードを購入した。

未成年なのでローンを組むのに親の承諾がいったが、両親も喜んでくれた。

次に帰省するときは、新車で帰って地元の友人にも自慢したい。


そして8月。 やっと新車納品。一也は浮き足たっていた。

さっそくドライブに、行きたいところだが、どうせなら寮の仲間なんかじゃなく 彼女がいい。

でもまだ一也には、彼女と呼べる女子がいなかった。

さすがに東京だけあって、都会的で魅力的な女の子が多い。

社内もしかり!

しかし社内の女子はほぼ先約済だった。

見た目で判断するのはよくないが、どうも彼氏がいない!と言い切れるのは

よしこくらいしか思いつかない。


女子人気ランキング、下から二番目。

誘えば、たぶん断らない。

そこまで考えて、一也は少し自己嫌悪に陥った。

別に誰でもいいわけじゃない。


そういえば最近、よしこを見かけない。

同期でよしこと同じ課に配属されている

レベッカのNokko推し活のために東京に出てきた!という

同郷の健司に聞いてみる


「そういえば、よしこ、最近みないけど、どうしてる?」

健司はちょっと驚いたような顔をしてから返す


「ああ。トロ子はマルフに徴収されていった」

「……マルフ?」


 一也は聞き返した。


 マルフというのは、いわばメーカー。一也たちの会社の親会社だ。

 そこへ送り込まれるのは、将来を期待された社員だった。親会社でOJTを受け、仕事を覚え、それを自社へ持ち帰る。いずれはプロジェクトを引っ張る側になる人材だ。


「よしこが?」

「俺も信じられん。あのトロ子が。でも事実。同期からはトロ子だけ」


 一也は黙った。


 同期の間で、よしこをまともに名前で呼ぶ者は少なかった。

 何をするにも遅いから、トロ子。


 飲み会でも空気を読まず、女子人気ナンバーワンの同期の隣に座って質問攻めにする。

 そのせいで、いつしか飲み会にもあまり呼ばれなくなった。


 でも――。


『できました』


 新人研修最終日。

 誰よりも早く課題を終え、さっさと帰り支度を始めたよしこの後ろ姿を、一也は思い出した。


『今日の問題は、簡単やったから』


「……あいつ、わけわかんねえな」

 思わず笑った。


 何をやらせても遅い。

 世話が焼ける。

 何を考えているのか、よくわからない。


 なのに、ときどき誰よりも先に行ってしまう。

 一也はふと、納車されたばかりのプレリュードを思い浮かべた。


 磨き上げたボディ。

 まだ新車の匂いが残る車内。

 そして、空いている助手席。


 なぜだろう。


 そこによしこが座っているところを、想像してしまった。


「……誘ってみるか」

 このときの一也は、まだ知らなかった


よしこを助手席に乗せたことで、せっかく徹夜で考えることになるデートプランが、最初から最後まで予定どおりにはいかなくなることを。


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