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95.少女は薬師様達と再会する

少女は家臣たちに弓術の秘術を伝授します。そして、意外と早く2国から最高の薬師様たちが到着します。

ーーー 場面はオスムール帝国皇帝宮城内


 ユリアは、資源探査魔法の埋蔵場所特定訓練をした翌日の朝、家臣であるカビラとハルショーネ達に魔法を使った攻撃訓練をさせる。金縛り魔法とその応用の弓矢一発必中かつ百発百中の秘技だ。


 ユリアが言う。


  「今日の訓練は昨日とは趣を変えて、弓矢の一発必中かつ百発百中の秘技を習得してもらいます。わたくしが、先日の野牛狩りで使ったものです。」


 カビラが勢い込んで言う。


  「おお。ついに来たか。長かったぞ。あの境地にはもう届かないと諦めていたのだ。」


 ハルショーネが言う。


  「なんだってぇ。あたいもそんな凄い技を教えて貰えるのか?」


 ユリアが言う。


  「もちろんです。お二人共ちゃんと習得して習熟してもらいますよ。基本は、昨日使った二つの異なる魔力を、それぞれ体の別の部位から魔力のままで放射することです。


 カビラは水と氷、ハルショーネは火と光ですね。それではカビラ、体の別の部位とはどこでしょう?それは、弓矢のような飛び道具と剣や槍とでは違う部位となります。」


 カビラが考えて言う。


  「今のヒントで少し分かったぞ。剣や槍は当然手で持ったままだから両手だよな。弓矢だと何なのだ?えーと、飛ばして当てる先に狙いを付けるのは目だ。そうか、右目と左目とで違う魔力を放射するんだな。どうだ、ユリア。」


 ユリアが嬉しそうに言う。


  「はい。正解です。でも、目から違う魔力を放射するのは魔力制御が結構難しいのです。なぜだか分かりますか?ハル。」


 いきなり振られたハルショーネが少し慌てて言う。


  「えっ、うーん。昨日、あたいは両手から探査棒に異なる魔力を通した。手から放射する魔力は大きいから魔力制御でかなり絞った。それも結構難しかった。たぶん、目から放射する魔力量はもっと絞る必要があるんじゃないか?」


 ユリアが頷いて言う。


  「そうです。正解です。もう一つは、異なる魔力をそれぞれ違う目に振り分ける道筋を体内に形成して定着させることです。このやり方を自分で試行錯誤して見出して下さい。」


 二人が口々に言う。


  「何かコツのようなものも教えて貰えないのか?」 

  「今までそんな微妙な魔力制御なんてやったことないし、考えたこともないのに厳しすぎない?」


 ユリアが言う。


  「そこが訓練なのです。訓練は厳しいものなんですよ。これを乗り越えると一皮剥けます(むけます)から頑張ってね。では、まずわたくしの槍を使って両手から違う魔力を放射する訓練です。あそこのリボンを揺らせれば合格です。はい。カビラからどうぞ。」


 カビラがユリアから槍を受け取って両手で持って構えた。


 カビラが体内の感じ方を探りながら言う。


  「うん?あれ、こうか?よしこれだ。魔力を分離してと、右手に水の魔力を振り分けてと、左手に氷の魔力を振り向けるか。おお。体の中の魔力の流れが体の感覚と頭の認識で分かるぞ。どうだ。リボンは揺れているか?」


 ユリアが言う。


  「大揺れに揺れていますよ。さすが、カビラだね。ここから、放射する魔力をどんどん絞っていってね。リボンの揺れが微小となるまでよ。そうそう、もう少しよ。はい。合格です。おめでとう。次はハルだね。」


  ハルショーネが槍を受け取って言う。


  「あたいは昨日の段階で魔力の分離は出来ていたからね。普通に揺らすのはできるはずだよ。ほらね。でも、結構絞ったつもりだったけどまだ揺れが大きいね。ここから更に絞るのか。かなり微妙な魔力制御が必要だな。これでどうだ。」

 

 ユリアが言う。


  「ハル。いいわよ。はい、合格です。おめでとう。今度は二人一緒に、魔力を目に流し込んで放射する訓練よ。はい。始めて。ここまで出来たら、ハンターギルドに行って弓矢の実射訓練だからね。頑張ってー。」


 カビラとハルショーネが、体や顔を動かして足掻いて(あがいて)いる。


ユリアが言う。


  「まだしばらく掛かりそうだね。二人共、足掻きまくっていいわよ。体と頭の両方で魔力の道筋と流れを把握するのよ。量を絞るのを忘れないでねー。」


 そうこうしていると、カビラが握り拳をつくって言う。


  「やったぞ。ほら、見てみろ。微妙に揺れているだろう。」


 ユリアが言う。


  「ほんとだ。絶妙の魔力制御だよ。やったね。カビラ。合格です。おめでとう。」


 すると、すぐにハルショーネが声を上げた。


  「あたいもやったみたいだ。あれを見てよ。あれは、あたいが揺らしているんだ。」


 ユリアが少し驚き顔で言う。


  「あ。ほんとだ。ハルもまた絶妙の魔力制御ぶりだよ。合格だね。おめでとう。二人共ここまでくるのが早くて助かるよ。次はいよいよハンターギルドに乗り込んで実射訓練だぁ。ところで、ギルドに弓術の訓練場はあるよね。」


 カビラが言う。


  「おう。もちろんだ。ここは150mブースまであるのが特徴なんだ。腕がなるぜ。ユリアの高みまで一気にいくぞー。」


 ハルショーネが言う。


  「あたいは100mブースまでしかやったことないんだ。50mでも9割しか当たらなかったからね。この秘技でどこまで腕が上がったか楽しみなんだ。」


 ユリアが言う。


  「やって見れば分かるよ。二人共、いまからそんなに興奮してたら鼻血が出ちゃうよ。そうだ。カビラはまだしも、ハルはその弓でいいの?150mだと弓なりにならないかしら?」


 ハルショーネが言う。


  「そうだね。いまのこれに物足りなさを感じたら、ハンターギルドで新しいのを見繕ってみるよ。それじゃあ、ハンターギルドにいくぞー。」


  「おぉー。」




 ユリア達3人あがハンターギルドに入っていくと、約10人のハンター達が、受付カウンターや掲示板の傍に残っている。


 カビラが受付カウンターに先乗りした。受付の窓口職員が定型の挨拶をする。


  「いらっしゃいませ。カビラ様。本日はどのようなご用件でしょうか?」


 カビラが答えて言う。


  「今日は弓矢の実射訓練をしたいのだが、空きブースはあるかな?」


 窓口職員が少し気の毒そうな顔で言う。


  「生憎(あいにく)、騎士団が訓練で占有していまして、150mブースが一つしか空いていません。そこでよろしければお使いになれます。お使いの場合、この依頼書に記入をお願いします。」


 カビラが横のハルショーネを見て言う。


  「ということだが、ハルもそれでいいな。」


 ハルショーネが言う。


  「仕方ないな。届かなかったら、あたい、すぐに新しいのを買い求める。お金は、先日の野牛の分がたんまりあるんだ。」


 ユリアが言い含めるように言う。


  「ハル、ちょっと聞いて。弓矢の代金は国を守るための必要経費と認定するわ。だから、店舗名と品物名入りの領収書をちゃんと貰って来るのよ。後で購入日と目的と金額を明記した請求書をわたくしに出してね。お給金の支払い時に清算するから。」


 ハルショーネがキョトンとして聞く。


  「えっ、なんだそれ。どういうことだ?」


 カビラが先輩面して言う。


  「要するにだな、ハルが買った弓矢は国が買ってハルに支給したことになるってことだ。今はハルが立て替え払いをしておいて、後でその金額を国に請求して立て替えたお金を返して貰うんだ。請求金額と品物が間違いないことを証明するのが領収書ってわけだな。


 だが、あくまで、そうやって買った品物は国の財産だからな。なくしたり、勝手に売ったりするなよ。」


 ハルショーネが納得顔で言う。


  「分かった。ありがとう。カビラ。国からの借り物なんだな。でも、あたいの専用に使って管理も自分でするってことね。」


 カビラが頷きながら依頼書を書いて言う。


  「そういうことだ。それじゃあ、いくぞー。」



 3人で半地下の弓術訓練場に降りた。カビラが、場内受付に依頼書を渡す。場内受付の担当者が3人をブースに案内して言う。


  「どうぞ、ごゆっくり。終わりましたらまた場内受付にお声かけ下さい。」


 カビラが言う。


  「ようし。始めにハルがやって見ろ。」


 ハルショーネが言う。


  「分かった。初めに自分の弓でやる。ああっ。これは的が遠いなぁ。先ずは素の自分だ。うっ。結構仰角大きく必要だな、これで届くか。それっ。」


 ハルショーネの放った一射は大きな弧を描いて的の手前に落ちた。ハルショーネが言う。


  「ああ。これじゃ、やっぱりだめだ。この備え付けの弓を使ってみるよ。うん。これならさすがにこのブース用という感じだ。今度も素の自分でいく。それっ。あっ。的の直径の2倍くらい外した。


 それじゃ、本番いくよ。目から放射してー。それっ。おおっ。当たったぁ。的の直径の半分の位置だ。次、カビラがやる?あたいは、弓を見繕って(みつくろって)くるから。」


 カビラが言う。


  「それじゃあ、私も最初は素の自分だ。いくぞ。それっ。おっと外したか。流石に150mは遠いな。じゃ、次は本番いくぞ。魔力制御をちゃんとして、それっ。


 おお、やった。なんと最初から黒丸に当たったぞ。素晴らしい威力だ。ユリアにかなり近づいた気がするぞ。今度はユリアがやって見ろ。ユリアはその弓で大丈夫なのか?それで私を超えられるのか?」


 ユリアが言う。


  「うん。大丈夫だと思う。この長さで最強の強弓だからね。やって見るよ。初めから秘技だよ。」


 ユリアは、自慢の強弓を目いっぱい引き絞って、すうっと放った。すると、矢はほとんど直線で飛び、目で追えない速さで的の黒丸の中心に突き刺さった。カビラが頻りに(しきりに)悔しがる。


  「これでもまだユリアの方が上なのか。よーし。俄然(がぜん)やる気が湧いてきたぞ。私ももっと強弓を探して来る。ユリアは一人でやってろ。」


((あれー。主人をほったらかしてどういう家臣達なんだろうね。秘技を習得してうれしいのはわかるけど、はしゃぎすぎだね。でもまあ、向上心は認めてやるよ。))



 ユリアが一人にされてぽつんとしていると、後ろから声をかけられた。イリアーヌギルド長が場内受付からの知らせで見物に来たらしい。一昨日の焼き肉パーティーの時に話題になった、厳しい教育訓練の一端を覗いて(のぞいて)見たいということか。

 

  「クロエ1級ハンター。流石だな。アースドラゴンを弓矢の2連射で瞬時に仕留めるだけのことはある。君の家臣達もなかなかの腕前ではないか。既に厳しい教育訓練は済ませたと言うことか。」


 ユリアが気付いて挨拶する。


  「あ。こんにちは。ギルド長様。家臣達に対する弓矢の秘技の習熟段階の訓練なのです。厳しい教育訓練はご忠告を採用してもう済ませました。わたくしの場合よりも少し甘くして手とり足取りの要素を多く取り入れました。お蔭様で二人共すぐに習得したんですよ。」


 ギルド長が言う。


  「そうなのか。それはよかったな。私も忠告した甲斐があったというものだ。だが、その成果を見せつけられると隣の騎士団連中の訓練がまるで子供の児戯(じぎ)に見えるじゃないか。奴らは100mブースなのにろくに的にも当たらんぞ。


 そういえば、ユリアは弓矢自慢のスサーナギルド長を弓矢勝負で打ち負かしたんだろう。幼児に負かされたと聞いて眉唾ものと思っていたが、こうして直に見ると納得せざるを得ないな。」


 ユリアが言う。


  「スサーナギルド長の実力は本物です。わたくしの場合は秘技の力を借りた偽りの腕前なのです。」


 ギルド長が言う。


  「ああ。奴の実力は知っている。だが、勝負の世界では実力や腕前に本物も偽物もないさ。奴との弓矢勝負の勝ち負け判定は、矢が的に当たったスコアだけなんだろう。事前の取り決めは、弓は自前のものを使用するというだけじゃないのか?


 そもそも世の中に弓矢勝負とはこういうものだという、皆に認められた定義はない。それなら魔法を使って勝ったからと言って謗り(そしり)を受けることはないはずだ。実際、スサーナは何も言わなかったのだろう?」


 ユリアが言う。


  「はい。その通りです。イリアーヌギルド長。有益なご指導ありがとうございます。これから先、東部乾燥地帯の国づくりの行政行為の際に、いまイリアーヌギルド長が仰ったことを肝に銘じます。国家間の条約や交易や国内法制などの行政行為には文書で明示して決めておくべきことはたくさんありますからね。」


 ギルド長が言う。


  「今の私の言葉は、そっち方面に反映されるのか?ユリアの意識の高さには恐れいるぜ。さすが、国家元首様だな。だがそれなら、国の行政をよく知るベテラン文官を雇い入れた方が効率がいいぞ。まあ、無理しない程度にしっかりやるんだな。じゃあまたな。」


 ユリアが深く礼をして言う。


  「ありがとうございます。国の行政をよく知るベテラン文官ですか。この国の優れた文官でもスカウトしようかな。これもイスタラム様に要相談案件だね。」



 ユリアが呟く。


  「さて、二人が戻る前にあと一射しておくかな。矢は有料レンタルとは言え、壊したら弁償だろうね。今刺さっている矢の右隣を狙うかな。」


 ユリアは言ったとおりに1本射た。矢はこれまた言ったとおりに、先に射た矢の右隣に競り合うように刺さった。



 しばらく待っていると、カビラとハルショーネが新しい弓を買って戻って来た。ハルショーネははち切れんばかりに嬉しそうな顔をしている。


 ハルショーネが言う。


  「あたいは、早い者勝ちでここで一番の強弓を買えたんだ。カビラのは二番目の強弓だよ。ふふん。」


 カビラが悔しそうに言う。


  「私のはこれでちょうどいいんだ。百発百中の速射の連射で弾幕を張るんだからな。」


 新品の下ろしたての弓をハルショーネが先に秘技で試した。的は新しく変えられていて、ハルショーネの一射目は黒丸の中に刺さった。


 ハルショーネが言う。


  「うおっ。なんだ、この強弓は。この距離を仰角もなしで真っ直ぐ飛んでいったぞ。しかも、黒丸の中に当たった。」


 ハルショーネは10射して、すべてを黒丸に当てた。カビラが待ちきれない様子で言う。


  「ハル。早く変われ。私が10連射で試してみるんだ。」


 カビラは、言葉通り、いきなり連射を始めた。最初の一射が黒丸のほぼ中心に刺さると、約3秒間隔で10連射した。後から射た矢は前の矢の周囲を囲むように次つぎと刺さっていった。


 カビラが言う。


  「どうだ、ハル。見たか。これが私の実力だ。恐れ入ったか。」


 それを見てユリアが嬉しそうに言う。


  「カビラ。おめでとう。これで、もうわたくしを抜き去りました。ハルも速射を身につければ、わたくしを抜いてカビラと同等です。攻撃力だけみれば、もうどんな魔物でも討伐できますよ。


 二人共、次回のハンター資格昇級定期試験の予約登録をしておきましょうね。」



 ユリア達3人は弓術訓練場から1階ホールに出て来た。カビラとハルショーネは昇級試験の予約登録をしに窓口に張り付いた。


 一方、ユリアは相談机の方から聞き覚えのある声で名前を呼びかけられた。フランソワール帝国皇帝専属薬師のメリデリンだ。ユリアはすぐに相談机に駆け寄って椅子にかけた。


 メリデリンが言う。


  「ユリア師匠。しばらくぶりです。またユリア師匠に師事してポーション作りを極めたいと、レパルナスから飛んで参りました。お城で聞いたらここにいらっしゃると教えてくれました。」


 ユリアが驚いて言う。


  「メリデリン様。ようこそおいで下さいました。ずいぶんと早いお着きですね。これから皇帝宮城に帰るところです。連れが二人いますが、用事が済んだらご一緒にお城に行きましょう。


 といっても、わたくし達は、ボランティアですから、お城の中庭で野営している身なのです。メリデリン様には、医薬統括部門からの招聘としてお城の客用部屋を宛がっていただきましょう。」


 メリデリンが驚いて言う。


  「ええーっ。なぜ野営などしておられるのですか。ユリア師匠は皇帝を助けた英雄ではありませんか。遠慮など不要なのです。」


 ユリアが言う。


  「いいえ。これでいいのです。わたくしは、まだ一応、ボランティア作業隊の責任者ですから、支援対象側から便宜の提供を受けるわけには参りません。


 あ、ちょうど連れの用事が済んだようです。ご紹介します。こちらがわたくしの家臣達で、カビラとハルショーネです。」


 二人は名前だけの簡単な自己紹介をした。メリデリンは、少し詳しい自己紹介をする。


  「初めまして。私は、フランソワール帝国皇帝専属薬師のメリデリンと申します。よろしく頼みます。今回、もう一度ユリア師匠に師事して、エリクサー級のポーション製造を学ぶつもりです。少し貴殿達の主(あるじ)をお借りすることになりますが、許してもらえるとありがたいです。」


 ユリアが言う。


  「そうだ。ちょうど良い機会だ。カビラとハルもハンター資格昇級試験の実技試験にポーション製造があるよね。この際メリデリン様と一緒に学んで貰おう。」


 メリデリンが言う。


  「おお。それはいいな。私も競う相手がいるほうが気合いが入って学び易い。」


 ハルショーネが言う。


  「あたいは、作り方はギルドの図書室の本で調べたけど一度も作ったことがないんだ。競う相手どころか失敗するかも知れない。」


 カビラが言う。


  「私は3級受験時に実技試験を受けた。それっきり作っていない。いまはもうちゃんと作れるか自信はない。」


 メリデリンが言う。


  「二人共、大丈夫だ。ユリア師匠が重要なところでアドバイスを下さる。それを聞いてちゃんとやれば必ず成功するさ。さあ。私も初心者に負けるわけにはいかないぞ。いよいよ気合いを入れてやらねば。」


 


 ユリアは、メリデリンを内政担当次官イスタラムに紹介した。イスタラムはメリデリンに客室を提供した。メリデリンは招待なしである事を理由に辞退したが、最終的にはオスムール帝国からの招待という名目で受けた。


 ユリアは次に、メリデリンを医薬統括部門に連れて行った。


 ユリアが小声で呟く。


  「メリデリン様が国家筆頭薬師のメルカリス様と対面したらどんな顔をするかな。面白い反応を期待してますからね。一人だけのひそかな楽しみだったんですから。」


 ユリアが言う。


  「サージクルス様。ユリアです。いらっしゃいますか。」


 ユリア達4人が、部屋の中からの入室を許可する声を聞いて部屋に入る。ユリアはいたずらを仕掛けた。


 ユリアは言う。


  「サージクルス様、こんにちは。今日は、フランソワール帝国皇帝専属薬師のメリデリン様をお連れいたしました。あ、マジョルーサ様、こんにちは。マジョルーサ様とメリデリン様とはお知り合いですよね。いまさら紹介するまでもありませんね。」


 マジョルーサとして紹介されたメルカリスは、怪訝な顔をしてユリアを見た。一方、メリデリンは、ユリアが期待どおりの行動をしてくれたことに満足した。


 メリデリンが言う。


  「ユリア師匠。ご紹介いただきありがとうございます。ユリア師匠の子供らしさを拝見できて嬉しいです。でも、わたくしはユリア師匠の楽しみを奪ってしまいました。申し訳ございません。


 実は、メルカリス様には、先刻お会いしたのです。その時に、マジョルーサ様とは別人だと気づきました。でもその時には、マジョルーサ様の話は何もしませんでした。


 あとで、お二人の事を知るユリア師匠が、わたくしにメルカリス様をどのように紹介して下さるか、楽しみにしていたのです。意地悪で大変申し訳ございません。」


 ユリアは、してやられたと言わんばかりの顔で言う。


  「いいえ。わたくしの完敗です。メリデリン様もそのような悪戯をなさるんですね。そこが見抜けなかったことがわたくしの敗因です。」


 メリデリンが言う。


  「ユリア師匠とお会いするときには猫を被っていました。マジョルーサ様もユリア師匠に負けず劣らず真面目な方で、わたくしは、いつも窘め(たしなめ)られていたのです。」


 そこまで言ったとき、メリデリンは、後ろから声をかけられた。メルカリスは、その声の主を見て目を見張った。端で見ていた、サージクルス、カビラ、ハルショーネもみんなが、信じられないものを見た顔つきになっている。


  「メリデリンよ。私がなんだって?」


 その声を聞いて、メリデリンが叱られる事を予想した子供のように、そろーっと後ろを振り返った。


  「あっ。マジョルーサ様。な、なんでこんなところにいらっしゃるのですか。」 


 マジョルーサが言う。


  「いまさら何でっていうのか。当たり前じゃないか。メルカリス殿に会いに来たに決まってるだろう。私の双子の妹だぞ。ここにいることに何の不思議がある?」


 ユリアが満足顔で言う。


  「マジョルーサ様。グッドタイミングでござます。わたくしの悪戯を破られた仇を打ってくださいました。」


 メリデリンが言う。


  「さては、ユリア師匠。マジョルーサ様を呼びましたね。妹に会いに来ないかとか。互いに存在を知らなかった姉妹が出遭うという、めったにない見物、あ、いや、失礼。感動的な出来事を演出したのでしょう?」


 ユリアがマジョルーサに聞く。


  「マジョルーサ様。わたくしに呼ばれてここに来られたのですか?」


 マジョルーサが答えて言う。


  「いや、そうではない。私は自らここに来たいと思ったのだ。ユリア殿は私に手紙でひと言、かの国の筆頭薬師が私と瓜二つであるとだけ書いてきた。そこで、私の生まれたころを知る人に聞いたのだ。確かに双子の妹がいたとな。その先は言わないでおこう。とにかく、私は自分の意思でここに来たのだ。」


 ユリアが言う。


  「マジョルーサ様。援護いただきありがとうございます。ですが、面白がったのも事実です。メリデリン様がメルカリス様と出会ったらどんな反応をなさるか、マジョルーサ様とメルカリス様がご対面されたらどうなるか、いろいろと想像いたしました。申し訳ございません。


 そうです。実質的に、現在3か国の最高の薬師様であるお三方がここに一堂に集まるように画策したのはわたくしです。なぜだかお分かりですか。皆様は既に超特級ポーションを製造する技術を持っていらっしゃいます。でも、たぶん、お三方ともまだわたくしのポーションの効能レベルに達していないことを不満に思っていらっしゃいます。


 そこで、皆様には、わたくしのレベルを超えるポーション製造の大家になっていただきます。ポーション製造を生業としないわたくしが一番である必要はどこにもないからです。


 わたくしは、明日の午前中に、皆様に自分のポーション製造過程をお見せいたします。皆様はそれをつぶさに見て技を盗んでください。その際、分からないことは後で納得いくまで聞いてもらっても構いません。


 なお、久しぶりの再会や、思いもしなかった人との邂逅にかかる語らいについても、心行くまで存分にお楽しみくださいませ。わたくしの画策に乗っかる形でよければですが。


 それでは、わたくし達3人はここで失礼いたします。





((今日はずいぶん充実した日だったな。家臣の二人とも弓術の一発必中かつ百発百中の秘技を習得したし、薬師様たちの再会や邂逅が果たせたし、言うことないね。いや、先輩と同じ顔の同業者を見てどんな反応するかを面白がるのは、さすがに趣味が悪すぎました。反省しますです。でも、そっちは自分の方が逆に笑われちゃったからおあいこかな。


少女は弓矢の秘技もポーション製造の秘技も、関係する人たちに伝授して身軽になっていくようです。国造りの準備も怠りないようですね。それではまたお会いしましょう。



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