96.少女は領地へ向けた出発の準備をする
少女は超特級ポーション製造実践を3か国の各最高薬師様たちに見せてノウハウ伝授を図ります。
ーーー 場面はオスムール帝国皇帝宮城内
ユリアは早朝に野営テント内で寝ているところをフランソワール帝国皇帝専属薬師のメリデリンに起こされた。
メリデリンが言う。
「ユリア師匠。朝食が済みましたら医薬統括部門長の部屋においで下さい。調合器具類を準備してお待ちしております。」
ユリアが言う。
「あ。おはようございます。メリデリン様。何だか目が血走っておいでですよ。昨日はちゃんと客室でお休みになったのでしょうね。」
メリデリンが言う。
「あ、済みません。師匠がせっかく客室をとって下さったのに、昨日から3人で調合室に籠もって語り明かしたのです。ユリア師匠のお薦めもありましたし。」
ユリアが失敗したという顔で言う。
「ああっ。わたくしが心行くまで存分に語らいをお楽しみくださいなんて言ったせいなのですね。ごめんなさい。反省しております。」
メリデリンが言う。
「師匠。そんな訳ないじゃないですか。冗談ですよ。師匠のお薦めの有無には関係ありません。久しぶりの再会と思いがけない邂逅の当然の帰結ですよ。師匠の関与は出会いの演出までです。」
ユリアが言う。
「メリデリン様はお優しいです。分かりました。朝食後に、すぐに参ります。・・・カビラ、ハル。起きていますか。すぐに朝食を食べてポーション作りに行きますよ。」
カビラが言う。
「ユリア。いや、これからは主と呼ばせていただきましょう。ハルも分かったな。主、朝食の準備は出来ております。こちらへどうぞ。」
ユリアが驚いて言う。
「カビラ。どうしたの。何だかいつもと雰囲気が変わってますよ。」
カビラが言う。
「家臣としての正しい振る舞いをすることに決めただけでございます。ハルもそうだな。」
ハルショーネが言う。
「もちろん、その通りでござます、あ、ございます。これからは、家臣として主を立て、国家のために力を尽くして参ります。よろしくお願い申し上げます。」
ユリアが言う。
「ハル、いえ。ハルショーネ。こちらこそよろしくお願いいたしますね。カビラもね。ポーション作りは国づくりの基本の一つとしてしっかり身につけて貰いますからね。覚悟してくださいませ。」
ユリア達3人は、朝食を済ませてすぐに医薬統括部門長の部屋に行った。部屋内には、既にサージクルスと3人の薬師様達と職員が数名いて、準備を完了していた。
ユリアが双子の姉妹二人の顔を見て驚いて言う。
「おはようございます。ああっ。マジョルーサ様とメルカリス様も、何だか、お顔が変です。目の下に・・・」
マジョルーサが途中でユリアを止めて言う。
「それ以上言わないでいい。もう分かっているんでしょう。そうよ。昨日から今朝まで徹夜で話し込んでいたのよ。悪い?」
ユリアが少し満足顔で言う。
「いいえ。ちっとも悪くなんかありません。それでは皆様。ポーション製造の準備を整えていただき、大変ありがとうございます。今日の予定を簡単にご説明いたします。
今日の講師は、わたくしの他にマジョルーサ様が務めます。」
急に講師役を振られたマジョルーサが慌てて文句を言う。
「おいおい。ユリア殿。そんな話は聞いていないよ。どうして私が講師なんてしなきゃいけないのよ?」
ユリアが澄まし顔で言う。
「いま決めましたから聞いてなくて当然ですわ。でも、マジョルーサ様は、製造主任者としてわたくしの製造工程を何度もご覧になって熟知しておられます。
そして、既に超特級グレードの最上位の従来の上限を超えるグレードを達成済みのはずです。つまり、従来の鑑定可能範囲を2段階ほど上方に拡大する鑑定方法も併せて開発されたのでしょう?
ということで、マジョルーサ様は改めてわたくしの製造工程をつぶさに見てください。そして、以前と異なる部分を見つけて、その点について、わたくしを含めて皆様に開示ご指導くださいませ。
たぶんそれは、あの論文にも記載がなく、わたくし自身も気付いていない変化です。もし、わたくしの製造したものがマジョルーサ様が製造したものより高い効能グレードを示すなら、その部分こそがポイントです。」
マジョルーサが言う。
「そういえばユリア殿には隠し事など無意味だったわね。実は昨夜私は、私達3人が製造したポーションの効能グレードを、私が開発した方法で比較鑑定したの。
その結果、メルカリス殿のものは超特級グレードの従来の最上位の1段階下、メリデリン殿のものは従来の最上位、私のものは従来の最上位の1段階上という結果となったわ。
いま、ユリア殿には私の到達点を超えてほしいと思っているわ。わかるでしょう。ユリア殿が再生プロセスを開講してくれたときからユリア殿は私の目標になったのよ。いつまでも上にいてほしいと願っているの。」
ユリアが言う。
「マジョルーサ様。その目標と願いは、これから数日の間にご自分で壊すことになるでしょう。今日のわたくしの製造工程を見てその手段を発見してくださいませ。わたくし自身には、ポーション製造に関して自分が頂点にいる必要性がありません。」
マジョルーサが寂しそうに言う。
「まあ、言われてみればその通りだわね。自分の立場として、いつまでも人の後追いは許されない。よーし。もし、その手段とやらを発見したら、こんどは頂点に立つべき私達3人の連名で論文をだそう。その時には、また、ユリア殿に査読してもらいたいわ。」
ユリアが言う。
「皆様も、覚悟が決まりましたね。でも査読の件は、いまは回答保留とします。それでは、これから午前中の半分を使ってわたくしがヒール草を原料とする回復ポーションを製造いたします。皆様は、それをつぶさに観察して下さい。
あ、わたくし、ひとり言を呟きながら作りますが、気にしないでくださいませ。
・・・初めに薬研でヒール草の葉を粉にする。・・・鍋に特級以上の浄化水を入れて沸騰させる。・・・水が沸騰したあと温度を少し下げて90度で安定させる。・・・ヒール草の粉を投入する。
・・・撹拌魔力注入棒を両手で握って左右の手から違う魔力を放射する。このとき魔力量と強さを極小に調整して注入しながらかき混ぜて煮出す。・・・液の色が緑から黄色っぽく変わり始めて1秒後に魔力注入を停止して撹拌もやめる。ここもポイントだね。
・・・完全に黄色になったら煮出し液から固形分を濾し分けて液体を瓶に移す。・・・瓶をしばらく静置するか遠心分離してエキス分と水を分ける。・・・上澄みとなったエキス分をポーション瓶に移して出来上がり。
はい。これで5本の回復ポーションが出来ました。マジョルーサ様。何か、以前との違いがありました?」
周囲のみんなは、ユリアの呟きを聞きながらユリアの手さばきをじっくりと目を凝らして見ていた。そして、迷いのない判断に裏打ちされた手指の動きに、流れるようで優雅な舞でも見ている気分に引き込まれた。
メルカリスが夢見顔で言う。
「わたくしは、あの論文の通りに製造して超特級グレードのポーションが作れました。それでもう天下を取ったみたいな浮かれた気持ちでいたのです。でも、いまユリア殿の製造工程を見て現実に引き戻されました。自分は天下取りにはまだまだ程遠いようです。」
マジョルーサも、メルカリスの言葉に共感しながら我に返った。そして、何度も見たはずの以前のユリアの製造工程を振り返り、少し考えて慎重に言う。
「どうやら、以前との違いのポイント部分はユリア殿の呟きの中にありそうね。超特級にするための一番のポイントは魔力注入工程にあることは間違いないわ。ひとつは左右で異なる魔力とすることであって、魔力の質か種類が類似するほど効果が高いことが分かっている。
もう一つが、魔力の量を極小まで絞ることよね。今日のここの工程でのユリア殿の呟きは、魔力量と強さを極小に調整する、だったわ。だけど、少なくとも私は魔力量を極小にする以外は、左右の手で魔力量を同じにするように調節している。ユリア殿はこの部分で魔力をどのように調整したか認識しているのかしら?」
ユリアが問われて答える。
「そういえば、以前はわたくしも、左右で魔力量を揃えることしか注意していなかったわ。でも今は、なぜか量よりも強さを揃えることに気を配っているの。魔力の強さとは外界に作用して与える影響の大きさだろうけど、種類の違う魔力の強さなんてものは一つの基準で測れそうにないわね。
わたくしが今の調合の撹拌魔力注入工程で使った魔力は、生活魔法の火と照明です。魔力をどのように調整したか認識しているかと問われれば、一つだけ思い当たるわ。
魔力の強さを定量化するために、人に認識できて両方に共通する明るさという特性を使ったの。その明るさで魔力の強さを代用して、左右の手から同じ強さで放射したわ。でも、魔力を実体化するわけじゃないから感覚的なものになるわね。」
それを受けてマジョルーサが難しい顔で言う。
「うーむ。仮に、左右の魔力の強さを同じにすることがポイントだったら、今までやっていた魔力量を同じにするよりも魔力制御が難しいだろう。ポーション製造工程を実践する中で感覚を掴むしかないのかな。」
それを聞いてハルショーネが遠慮がちに少し前に出て言う。
「ちょっと発言いいですか。あたいはまだその魔力制御の基礎訓練段階なんだけど、ユリア主が指示した訓練方法は吊したリボンを揺らすことだった。揺れが微小になれば合格を貰えた。
だけど、ひょっとして、まだその先があるんじゃないかな?例えば、魔力は確かに放射しているはずなのに揺れが完全に止まるとか、逆にまた揺れが大きくなるとかね。その変化が現れたときが、左右の魔力の強さが一致した合図だってなれば分かり易いだろうなあって思う。」
マジョルーサがハルショーネを驚き顔で見ながら喰い気味に言う。
「な、なんて斬新な考えなの。ユリア殿はいい家臣達を持っているわね。それは、すぐにやってみる価値があるわ。誰か、柔らかいリボンを吊してちょうだい。」
メリデリンが前に出て名乗りを上げた。
「それじゃ、わたくしがこの撹拌魔力注入棒で、いつも通りの魔力制御で揺らして見ましょう。わたくしも以前にユリア師匠にこの方法で訓練された経験があるの。」
メリデリンが棒をリボンに向けて魔力を放射した。リボンは極めて微小に揺れている。だが、揺れが止まったり大きくなる気配がない。
メリデリンが諦め顔で言う。
「だ、だめだわ。わたくしのいつも通りでは、これ以上の変化が起こらない。」
マジョルーサが言う。
「メリデリンよ、嘆くな。私がやってもたぶん同じだろうさ。それじゃ、ユリア殿。さっきの調合時と同じにやって見て。」
ユリアが撹拌魔力注入棒を受け取り、両手で握ってリボンに向けて魔力放射を始めた。
「はい。えーと。これくらいだったかな。あ、あれ。リボンが動かない。あっ。リボンが蛇みたいにうねうねに曲がりくねった。えーっ。よく見ると、うねうねしたまま部分部分までが速く細かくうねり振動している。
大きな振動に微小な振動が重畳しているんだ。なんだこれ。これがポイントの一つとすれば、みんながこれを再現するように訓練すればいいんだね。」
これを見てマジョルーサが目を見張って言う。
「ユリア殿。なんて気持ち悪いものを見せてくれるんだよ。だけど、魔力注入工程でこんな特殊な現象が生じているなら、出来あがったポーションのグレードにも期待が持てるわね。さっそく鑑定して見よう。」
マジョルーサの鑑定の様子をみんなが固唾を呑んで見守っている。しばらくしてマジョルーサが鑑定動作を止めた。
マジョルーサが少し青ざめた顔を上げて震え声で言う。
「今から鑑定結果を発表します。これらの5本の回復ポーションは、全て超特級グレードの従来最上位のさらに2段階上を超えて正確には鑑定不能という結果です。つまり、私が作ったものより数段上の効能グレードという結果です。
これほどのグレードなら、体の欠損部が再生されたとしても不思議はないわね。ユリア殿が皇帝陛下に処方したというポーションもこれと同じグレードに違いないわ。これが伝説のエリクサーと同じグレードなのかは、まあ、永久に不明でしょうね。
ともあれ、ユリア殿のものと同等グレードを達成するためのポイントの一つはこれで得られたわけです。すなわち、あのリボンの振動形態を生じさせる魔力制御で撹拌魔力注入を行うことだね。
それを調合の実践なしでも訓練成果が目視確認出来る方法を見出したハルショーネの功績は絶大ですわ。ハルショーネに拍手で感謝の気持ちを送りましょう。
さて、他に気付いた点があります。これはあの論文には書いてないことよ。何だか分かるわよね、メルカリス。」
急に話を振られたメルカリスがちょっとどぎまぎした後、落ち着いて言う。
「マジョルーサも人が悪いですね。だけど、あの論文を最近じっくりと読んだわたくしなら分かると、指名してくれたのがありがたいわ。
そう、魔力注入を止めた後のことでしょう?撹拌も止めることは論文には明示していない。でも、さっきのユリア殿の呟きでは、その点もポイントだとはっきり言っていた。
つまり、自然に反応が進行していくのを待つ必要があるのよ。どうかしら?」
マジョルーサが満足そうに言う。
「その通り。さすが、私の妹だけのことはあるわ。そこは製造時に焦らないで我慢するところということだね。
さて、私が気付いた、あの論文に書かれていない製造上のポイントは、以上の2点です。それだけでユリア殿がつくるものと同等グレードになるという保証はないです。そもそも、鑑定不能の領域だから、現状では、私の鑑定方法で鑑定して鑑定上限を越えたことで満足するしかないのよ。
午後の時間を使って製造実践するのは、設備の関係で我々3人とユリアの家臣達2名の5人だけです。昼食後にまたここで午後の講習を行います。それまで一時解散といたします。」
ユリア達3人は、薬師達3人とお城の食堂のテーブルを囲んだ。前宰相達の溜め込んでいた食糧が放出されて少し食糧事情が改善されたことで、ユリアも自分でお金を払う分には食堂利用を拒まなくなった。
食事中の話題は、主にマジョルーサがユリアについて語るシングラーツ王国ヴィルダー辺境伯家でのエピソードの数々であった。
皆の興味を引いた第一は、ユリアが開講した再生プロセスのおかげで自分が超特級ポーションを作れるようになったことである。第二は、自分が書いた論文をユリアがぼろくそに駄目出しして全面書き直しさせられたことであった。
昼休みが終わり、皆は医薬統括部門に戻ってポーション製造実践に取り組んだ。実践者5名が、まず、撹拌魔力注入棒でリボンに魔力放射し、リボンを大きい波形に細かい振動が重畳する形態にする訓練をクリアした。
薬師達3人は、さすがに自分で製造工程をどんどん先に進めた。ユリアの家臣達は、ユリアの指導を受けながら製造工程を進め、実践経験を積んでいった。そしてユリアの家臣達も薬師達3人に遅れること約30分で製造完了した。
しばらくして、マジョルーサによる鑑定式が執り行われた。鑑定結果はグレードが低い順に発表された。
カビラとハルショーネのポーションは仲良く超特級の中位グレードであった。二人はいきなり超特級グレードとなったことに驚くとともに大喜びした。
メルカリスは、超特級グレードの従来最上位を2段階越えた、マジョルーサ式鑑定法の最上位であり、惜しくも鑑定可能範囲外とはならなかった。
メリデリンとマジョルーサは、共に、マジョルーサ式鑑定法の最上位を超えて鑑定可能範囲外のグレードとなった。
ユリアが言う。
「皆様。お疲れ様でした。今日の講習の成果を確実にするため、回復ポーション30本分のヒール草をご提供致します。習得した技術を今後どのように使っていくかは、まさに皆様の領分でございます。
よろしくお願いいたします。それでは、これにて講習終了と致します。ごきげんよう。」
ユリアは、これを持って、超特級ポーション製造講習の終了を宣言した。ユリア達3人は野営基地へ戻って行った。
マジョルーサ達3人の薬師達は、調合室に残って反省会をした。
メルカリスは悔しがることしきりであった。自分の製造工程を振り返り、他の二人の効能グレードに遅れをとった原因を探った。そして、幾つか思い当たる点をピックアップした。
メルカリスは言う。
「わたくしは、製造実践中に、自分でちょっとしくじったと思った点があったのよ。
一つ目は、薬研で曳いたヒール草の葉の粒度の僅かな不揃いよ。いつもより丁寧に曳いたけど、まだ不完全だったのね。
二つ目は、沸騰させた後の湯温の設定と安定化が甘いかなと気になったの。
三つ目は、撹拌魔力注入の止め時が黄色変色開始の判断遅れで僅かに遅かったのよ。
次の機会には、もう絶対にしくじらないわ。」
マジョルーサは慰めるように言う。
「メルカリス。よく気づいたわね。私の論文でもそれらの点は定性的な表現しかしていない部分よ。というよりも、そんな表現しかできなかったのよ。どこまでならセーフでどこからがアウトなのかなんて、原料も時間ももったいなくて確認できないわよ。
そうだわ。今日の私とメリデリン殿二人に対してメルカリスの魔力制御がどの程度甘かったのかを調べて、その違いを境界にすれば、一応の目安になるんじゃない?」
マジョルーサの案は、一番の動機づけを有するメルカリスが、これらの点の境界を二人に確認して論文の補足記載として記録した。
メルカリスがマジョルーサに聞く。
「それにしても、ユリア殿は、あの年齢でなぜ寸分の迷いもなくあれ程なめらかな動きでポーション製造工程をこなせるのかしら?」
マジョルーサが答えて言う。
「それはねえ。甥のエドアルドから聞いた話だけど、ユリア殿は3歳の時に崖から転落したらしいの。転落する途中で頭の中の思考力や記憶力の道筋があちこち繋がりまくったのね。その結果で頭が良くなりすぎたらしいのよ。ポーション製造も本で読んだ知識だけでいきなり超特級ポーションが出来たそうよ。
だから、少なくとも超特級グレードのポーションを作ってきた期間は私よりも長いのよ。でも本数では同じくらいかな。ユリア殿は、形は小さくてもやることは大きいし、やると決めたら必ずやり遂げてきたのよ。
やり遂げると言えば、超特級マナポーションを500本作る必要が出て来たの。来年早々に始まる蝗幼虫殲滅の焼き払い作戦に従事する火魔法使い達向けの魔力補充用のポーションとしてね。ユリア殿はそれを私に手伝わせるために私に超特級ポーション製造のヒントをくれたのよ。そして目論見は見事に成功した。
そもそもマナポーション作りは、火魔法使い達の人員を増やせないから、一人ひとりを目いっぱい働かせようとする発想なのよ。どう?ユリア殿って見掛けによらず厳しいでしょう。大の大人を有無を言わさずぐいぐいと引っ張っていくのよ。」
メリデリンがユリアにしてやられた苦い思い出を吐露する。
「ユリア師匠は引っ張るだけじゃないわよ。逆にぐいぐい押して来られるのよ。わたくしが書いた大学講義参考本の超特級回復ポーション製造部分の間違いを指摘されたの。初めての出会いで一応遠慮の姿勢は見せられたけど、技術論と論理でぐいぐいと押し切られたのよ。こんな幼児に言い負かされるなんて悔しかったけど、ぐうの音も出なかったわ。」
メルカリスが納得顔で言う。
「押し切られると言えば、わたくしも既に経験したわ。超特級ポーション製造を指導して貰えるどころか、あの論文を読めば分かるから自分の力で挑戦してみてはなどと言われて、ぐいぐいと押し切られたのです。おまけに、市井の薬師達への指導で経験を積むように誘導されてしまいました。
そうそう。文教部門のリテラルス殿も同じような目にあったらしいわ。古典語書籍250冊の翻訳を頼んだつもりが、研究者や学生たちに全部を割り振られてしまったらしいの。
だれも読めない後期古典語の書籍でさえも、ユリア殿が作った後期古典語本の3国語対訳本をみて自分達で翻訳するよう押し切られたと言ってたわ。」
マジョルーサが笑って言う。
「ユリア殿は、そう言う点は一貫して変わっていないな。何か頼んでも、頼んだ本人が自分で出来るとみると突き返してくる。」
メリデリンが意外そうに言う。
「そうなんですか?でもわたくしはユリア殿のところに押しかけて行ったとき、少しポーション製造の実践指導を受けましたよ。」
マジョルーサが答えて言う。
「君はユリア殿に弟子入りしただろう。弟子に対しては手取り足取りの指導をする事もある。今日のあの家臣達のようにね。もっとも君の場合は、本の間違い指摘でやり込め過ぎた反省の意味があったのかもな。」
メリデリンが悔しそうに言う。
「えーえ。そんなあ。わたくしは初心者と同じ扱いですかぁ。」
ユリア達3人は、ポーション製造講習から帰って、野営基地で明日以降の行動予定を話し合っていた。
ユリアが言う。
「さて、明日か明後日、エドアルド様が東部乾燥地帯への事前踏査から戻っていらっしゃるわ。
わたくし達3人は、エドアルド様からの報告を聞いてから、蝗幼虫殲滅作戦作業隊の移動を容易にするために必要な事項を抽出する。そして、その事項を実行する装備品を調達するわよ。例えば、いまボランティア復興支援作業隊が使っている魔法利用土木技術のための魔力放射棒のようなものね。
現状想定している同作業隊の陣容は、火魔法の火焔弾使い隊が100名、焚き火風魔法使い隊が30名、反射板操作隊が20名、輜重隊が30名、護衛隊が20名、合計200名、ほかに馬15頭、馬車15両、といったところね。
現地作業開始が2月初め、終了が5月末、最長4か月間を見込んでいるわ。輜重隊の運べる食糧は1回あたり1か月分、期間の途中で3回の輜重隊の往復が必要よ。食糧調達場所が一番の問題ね。今の所、ここ帝都オストバールを当てにしている。
そう。有り体に言えば、わたくし達は、輜重隊が容易に移動するための道路を整備しながら東部乾燥地帯の領地に向かいます。そして、現地の適地に宿泊施設を備えた作業基地を建設するのです。
当然ながら、建設には専門家を招聘します。専門家の当てはあります。建設土木部門のコンストレイ様です。あの人が声をかければ現地の住民の方々の協力が得られます。
カビラ、ハルショーネ、ここまでで何か質問あるかしら?」
カビラが問う。
「宿泊施設などの資材はどの様に調達しますか?」
ユリアがニヤリと笑い答えて言う。
「街を見たでしょう。壊れた建物の石材と木材を瓦礫撤去ボランティアの名目でただで頂きます。運搬はわたくしとハルショーネの収納魔法で賄います。大丈夫よね、ハルショーネも。」
ハルショーネが言う。
「はい。主様。あたいの収納魔法には容量制限はありません。200人規模の建物を何棟分でも問題ありません。」
ユリアが言う。
「大変結構です。頼みますよ、ハルショーネ。ここで調達出来る分で不足があれば、現地で調達します。石材も、木材もね。」
カビラが言う。
「分かりました。それでは、現地で建設作業員は確保出来るのでしょうか?賃金支払いはどうします?」
ユリアが答えて言う。
「はっきり言って、それは今は分からないわ。最悪では、自分達で建設用の魔法を開発する必要があります。でも、既にそんな建設魔法使いがいることを期待しています。
そして、賃金支払いは耕作地の現物貸与で代替する案を考えています。農家であればその耕作地で作物を作ります。収穫から税金分と自分たちの食い扶持と来年用の種を除いて余剰分が出れば、国が買い上げて国内の商人や外国などに売りさばきます。国はその差額から人件費を除いた分を国庫に入れます。」
((超特級ポーション製造のノウハウを3か国の最高薬師に伝授して少し身軽になったかな。いよいよ、領地入りの準備段階だね。家臣二人も優秀で助かるわ。後はエドアルド様から現地までの道路事情と現地住民の様子などを聞くことね。あ、あの人を国造りの文官としてスカウトしなきゃ。))
少女は家臣たちと当面の行動予定を共有しました。あとはあの偉そうな有力者が帰還して様子を聞いて行動予定を微調整するだけです。行程経路と現地はどんな様子なのでしょうかね。それではまたお会いしましょう。




