92.少女は資金集めに走り回る
少女は当座必要な資金を獲得します。将来の領地経営に関する情報も引き出せるかな。
ーーー 場面はオスムール帝国皇帝宮城内
ユリアは翌朝早く起きた。一人で朝食を食べていると、ボランティア作業者達が寄って来て口々に言う。
「ユリア殿。昨日ハンターギルドで面白い事が有ったと聞きましたよ。」
「破落戸4人に囲まれたんですって?」
「瞬発移動で4人の目の前から消えて、相手をキョロキョロさせたとか。」
「なんでも、離れた位置で手も触れないで4人を同時に床に転がして気絶させたとか。」
「さすがユリア殿だ。ハンター1級ともなるとそんな凄い技が使えるようになるんですね。」
「ばーか。それは反対だろう。そういうことが出来るからハンター1級にもなれたんだよ。」
「凄い技といえば、私はあの日ユリア殿が宰相を打ち倒すところを見たぞ。確かに、離れた位置で手を広げただけなのに、詠唱を唱えていた宰相が急に蹲って何も出来なくなったんだ。」
「なんでそんな事が出来るんだ。凄すぎるぞ。」
そこに、イーアンが来て皆を散らして言う。
「おーい。皆早く飯食って出かけるぞ。ユリア師匠が迷惑がってるだろう。
師匠、済みませんです。昨晩、酒場で師匠の話が出たらしいっす。私はもう慣れたんすけど、こんなに小さい師匠が大人4人を手玉に取るなんて実感がわかないのは無理ないっすよ。許してやって下さいす。」
ユリアが嬉しそうに言う。
「ありがとう。イーアン。もう立派な隊長様だね。風格が出て来たわよ。もう出かけるのね。気をつけて頑張り過ぎないようにね。」
イーアンが言う。
「ありがとうっす。師匠もっすよ。」
作業隊の皆が出掛けた後、ユリアが独り言ちる。
「さあて。わたくしがやるべき第一の仕事は、家臣達に払うお給金や魔法適用作業具作りの工賃などの運転資金を調達する事だね。皇帝陛下は金品は出せないと言ってたな。お貴族様でも事情は似たようなものだろうね。
すると、大商人か。となると商業ギルドが関係するだろうけど、まだ7歳になっていないから取引きできるか微妙だね。とりあえず、内政担当次官のイスタラム様に相談を持ち掛けるかな。
といっても、こちらもある程度の案を持っておく必要があるわね。ハンターギルドとなら取引き出来るから、そこで取扱う品物を確保して売るのがひとつの案だわね。
今持っているのはポーション原料の薬草か。ポーション製造技術が普及しても薬草の品薄状態は続きそうだね。将来的には薬草栽培を確立して安く供給するのはありだわね。
後は、わたくし自身の労働力を対価にしてお金を貰うというのもあるけど、大した金額にはなりそうもないね。一応、どんな労働需要があるか考えてみよう。収納魔法を生かした運搬業、一般知識や語学力を生かした教師や翻訳や通訳、金縛り魔法を生かした護衛、あんまりぱっとしないな。
イスタラム様に相談するのは、こんなところかな。そのあとでハンターギルド長にも面会してみよう。それじゃあ、行きまーす。」
ユリアは皇帝宮城本殿の内政担当室にイスタラム次官を訪ねた。
ユリアがイスタラムに尋ねて言う。
「イスタラム様。単刀直入にお尋ねいたします。いま、この街で短日時でまとまったお金が稼げるお仕事は何かありませんか?わたくしが譲り受けた領地で働く家臣達2名に支払うひと月のお給金分の資金が必要なのです。」
イスタラムが答えて言う。
「うーん。それでしたら、あのアースドラゴンを引き上げてハンターギルドに売るのはいかがでしょう。正直、こちらでは持て余していまして、解体作業ができる者もいないのです。あれ1体でここの補佐官クラスの官僚20人のひと月分の給金は優に出ますよ。」
ユリアが遠慮して言う。
「あのドラゴンはこの国に提供したものですから、取り返すことはできません。もう1体討伐してハンターギルドに売るのがいいと思いますが、買ってくれるでしょうか?」
イスタラムが言う。
「さようでございますか。2体でも買ってくれるとは思いますが。では、もう1体討伐する代わりに、こちらからユリア様宛に引き取り命令書を交付するのではいかがでしょう。それなら、ユリア様が遠慮することなく手元に戻りますよ。理由付けは、国家転覆集団の捕縛が完了して用済みとなったため、でどうですか?」
ユリアが目を輝かせて言う。
「おおう。そんな裏技があったんですね。分かりました。それで結構でございます。ありがとうございます。それと、一応お尋ねいたしますが、この街には、わたくしが働いてすぐに大金を得られる仕事はありませんか?」
イスタラムが冗談めかして言う。
「ユリア様はハンター資格1級ですから、医師や薬師の資格もあります。たまたま大金持ちの病人がいてユリア様がポーションで治癒して礼金をたんまり貰うというのはいかがでしょう。大金を稼ぐのは、ポーション絡みが一番安直でいいですよ。もっとも、わたくしの場合は、無償で処方されて流行り病の隔離病棟から生還いたしましたけれども。」
ユリアが言う。
「ああ。その手が有りましたね。では、その安直な方法は、いよいよ困ったときの最後の手段に取っておきましょう。ご教示いただき、大変ありがとうございました。それでは、さっそく引き取り命令書の交付をお願い致します。」
ユリアは、引き取り命令書の交付を受け、ドラゴンを収納魔法に収納してハンターギルドに向かった。大きなドアを開けて中に入ると、30名ほどのハンターたちの視線を浴びた後、大きな拍手で向かえ入れられた。昨日、ごろつき4人組をあしらったことが好意的に受け取られたようだ。
ユリアは、拍手に答えて笑顔で手を振り、受付カウンターに向かいながら言う。
「ここも、あんまり娯楽や楽しみが多くないみたいね。あんな寸劇にもならない出来事でこんなに喜ばれるなんて。でもさすがに、今日はあいつらはいないようだね。今日も絡んできたら、また面白いことが起きたかもしれないのに。残念。」
ユリアが受付カウンターにとりつくと、窓口職員が声を掛けてきた
「おはようございます。クロエ1級ハンター様。本日はどのようなご用件でございますか?」
((おお。顔パスになっちゃったよ。たとえ顔パスでもハンター資格1級会員証を見せるのが正式の手続き事項だよね。))
ユリアが会員証を出して見せながら答える。
「おはようございます。本日は、魔物の買取をお願いしたいのですが、どこに行けばよろしいのでしょうか?あと、事前予約はありませんが、できればハンターギルド長様と面会したいのです。」
受付職員が答える。
「はい。小物はあちらの受け取りカウンターで確認の上買い取りますが、大物はそこの壁の大扉を開けて直接買取所に持ち込みいただきます。魔物は何でございましょうか。」
ユリアが答える。
「ありがとうございます。魔物はアースドラゴン1体です。これは、一応、大物の部類ですか?」
受付職員が目玉が飛び出るほど目を丸くして言う。
「ク、クロエ様。そ、それは、大物中の大物でございますよ。5日ほど前にアースドラゴンが討伐されたという噂が立って、皆さん持ち込まれるのを待っていたのです。でも、いつまでたっても持ち込まれないので、デマだったのではと半ば諦めかけていたのです。すぐに買取にお出しになりますか?ここにいるハンターたちだけでなく職員までもが見物に押し掛けますよ。わたくしも、もちろんその一人です。」
窓口職員の声を聞きつけて、相談机で話していた二人の女性ハンターがユリアに気付いた。カビラとハルショーネの二人が連れ立って歩いてきた。
カビラが言う。
「よう。クロエ1級ハンター。さっき、何だか景気のいい話声が聞こえてきたんだが、アースドラゴンを持ち込んだんだって?」
ユリアが言う。
「カビラさん。ハルも。おはようございます。ちょっと、宮城内での捕り物劇の出しに帝国組織に提供したアースドラゴンが用済みで戻ってきたのです。わたくしも、これは持て余すので、遅まきながら買取依頼を出しに来たんです。窓口のお姉さま。この窓口でする買取の手続きとかはありませんか?」
カビラが代わって答える。
「クロエ。この窓口で受理印を押された買取受付証をもらうんだ。それをあの大扉の向こう側の係員に渡して魔物を受け取り検査台に載せろ。そこで専門の鑑定士が鑑定を行いその鑑定結果で買取価格が決定されるのさ。ほれ、もう、買取受付証が発行されたぞ。これを持っていけ。」
ユリアが買取受付証を受け取って礼を言う。
「はい。カビラさん。ありがとうございます。それではみんなで参りましょう。」
ユリアの後を、カビラとハルショーネだけでなく、室内で屯していたハンターたちもぞろぞろと着いていく。皆、ユリアが収納魔法持ちであることは薄々分かっているようだ。魔物の姿が影も形もないのに、そのことを誰も何も言わない。
ユリアが大扉を開けて中に入り、すぐに待ち構えていた係員に買取受付証を渡した。係員は、買取受付証をざっと確認してから、ユリアに魔物を受け取り検査台に乗せるよう指示した。
ユリアは、収納魔法からアースドラゴンを直接に受け取り検査台上に載せるように出した。アースドラゴンの体全体は検査台に収まりきらず、尻尾の半分以上が検査台からはみ出している。そのあまりの大きさに、見物の皆だけでなく係員も専門鑑定士も、アースドラゴンの巨体を目を大きく開けて見たまま目が離せなくなっている。周囲から驚きの声が上がり始めた。
鑑定士は、さすがにすぐ我に返った。そして、アースドラゴンの体全体を見回し、どこにも傷ひとつないことに気が付いてユリアに聞く。
「クロエ1級ハンター。これは、どうやって討伐したのですか?致命傷らしい傷が一つもありません。こんな状態のいい魔物の討伐体は初めて見ます。」
ユリアが答える。
「鑑定士様。両目の瞼を開けて眼球をご覧ください。それで、すべてが理解できるはずです。」
鑑定士はユリアの言う通り、まず左目の瞼を開けて目玉を見たとたんに感嘆の声を上げた。
「こ、これは、弓矢の刺さった後ですか。うーむ。かなり深くまで刺さっていたようだ。たぶん脳髄にまで達していて一瞬で絶命したに違いない。損傷した目玉は、すり潰してポーションの原料にしますから格別の瑕疵にはなりません。
討伐から5~6日経っているようですが、冷却保存の処理が丁寧にされていて、これも瑕疵にはなりません。このアースドラゴンは、その大きさと言い、瑕疵のなさと言い、このハンターギルド始まって以来の最大かつ最高品質の魔物です。
鑑定結果の買取価格を発表します。アースドラゴン1体で1500万ビルクとなります。これでよければ、この買取受付証にサインしてください。」
見物の人々から歓声とどよめきと拍手が沸き起こった。
ユリアは、心の中で言う。
「この買取価格って、イスタラム様の予想に比べて高いのか低いのか、判断がつかないわ。でも、交渉しようがないわね。家臣予定者へのお給金支払いのためこれで売るしかないか。サインしましょう。」
ユリアは1500万ビルクをギルドカードへの振り込みで受け取った。これはユリアだけで討伐したものではないので、同伴したイーアンとヘラルドとキルステンの3名と4等分することにした。一人当たり、375万ビルクとなる。
ユリアは、独り言ちる。
「後でイスタラム様に聞いてみよう。375万ビルクで補佐官クラスの何名を1カ月間雇用できるかだね。たぶん2人は軽くいくでしょう。あの人たちは分け前を受け取ってくれるかな。押し切るしかないね。」
ユリアのそばにいたカビラとハルショーネがユリアの独り言を聞いて顔を見合わせた。
カビラが言う。
「クロエ1級ハンター。私たちは二人で徹夜で話し合った。私もハルもオファーを受けたい。よろしく使い回してくれ。なお、お給金は補佐官クラスほどもいらないぞ。最初は新人の初任給からにしてくれ。頑張るからそれに応じてお給金を上げてくれればいい。」
ユリアが言う。
「うん。ありがとう。カビラ。ハルショーネ。後で辞令を渡すからね。お二人にはわたくしからの秘術の指導と訓練を兼ねて、魔法適用土木技術を主体にした工事をやっていただくわ。昨日言ったようにしっかり使い回すから音を上げないようにね。」
カビラが言う。
「おう。もちろんだ。私は、いずれは騎士団長になることを目標にして下積みからやっていくぞ。」
ハルショーネが言う。
「あたいも覚悟を決めた。昨日見つけた生きていくすべをしっかり掴み取って頑張って生きていく。」
ユリアは、二人を待たせて、ハンターギルド長に面会した。どうやら、1級ハンターは予約なしで面会できるようだ。
ユリアが言う。
「ハンターギルド長様。初めてお目にかかります。ユリアと申します。ハンター登録名はクロエです。どうぞよろしくお願いいたします。今日は、ご挨拶と状況の確認に参りました。」
ハンターギルド長が言う。
「クロエ1級ハンター、ここではそう呼ばせていただく。わたくしは、イリアーヌ・ド・オスムール、皇帝クミルトスの姉だ。名前で呼んでくれていい。よろしく頼むぞ。クロエ1級ハンターには、宰相一味を倒して弟一家を助けてくれたこと感謝申し上げる。ところで、状況の確認とは何のことだ?」
ユリアが答えて言う。
「イリアーヌ様。宰相一味は、わたくし自身の都合で倒したまでの事です。感謝されるには当たりません。
状況の確認というのは、街にあまり活気がなくて人びとの生活感が希薄なのに、ハンターギルドは比較的活況だという点です。イリアーヌギルド長の特別の施策の成果ですか?」
ギルド長が答えて言う。
「生活感が希薄な理由は主に食糧が不足気味なためだ。市民も少しの金はあっても食糧価格が高騰しては、ほかの生活用品にまで金を払う余裕がない。つまり経済活動が食材の売買に偏り全体として低迷しているのだ。
そのため、ハンターギルドではハンター達に食糧用の獣や魔物の供給を奨励して食糧価格の高騰を抑えて来た。これは内政担当長官ライアン・ド・エフレインとの共同施策だ。
だが、それも金を持っている市民に、ぎりぎり間に合わせる程度の効果しかなかった。金を持たない難民には届かない。むしろ、難民の中には宰相一味の指示を受けて難民の暴動を扇動する者が出て来た。
つい先日まで、そういう状況がずっと続いていたのだ。だが、君が宰相一味を打倒したことで、彼らが不当にため溜め込んでいた小麦などの食糧が市場に出て来た。
これから、徐々に街に活気が戻ってくるだろう。街の道路や建物等の復興も国の支援と市民の自助努力で加速して行くと思う。オスムール帝国の市民もそんなにやわじゃないという事だよ。」
ユリアが言う。
「はい。大変詳しいご説明をいただき、ありがとうございます。それを聞いて安心いたしました。わたくしも、東部乾燥地帯を食糧生産地や工芸品などの生産地に変えるにあたり、この街を最重要交易対象と考えています。
ところで、イリアーヌ様は、クミルトス皇帝陛下が、ご幼少の頃おてんば少女に模擬剣勝負で負かされた昔話をご存知ですか?」
イリアーヌギルド長が勢い込んで言う。
「おおーっ。そんな面白い話、忘れるものか。再戦を願ったが、父上に止められたときのクミルトスのべそかいた顔ったら見られたものじゃなかったぞ。」
ユリアが苦笑して言う。
「いま再戦が叶うとしたら、皇帝陛下はどうなさると予想されますか。」
イリアーヌが言う。
「なに?あのときの少女は、たしか、スサーナといったな。えっ。スサーナ?あのアルーゾンのハンターギルド長スサーナのことか?」
ユリアがにっこり顔になって言う。
「はい。そのスサーナギルド長です。クミルトス皇帝陛下にお会いしたら、いつでも再戦を受ける旨伝えるよう申し付けを受けています。でも、まだ話していません。思い出したくない苦い思い出か、忘却の彼方に去っている記憶ということもありますから。」
イリアーヌが言う。
「クロエ1級ハンターよ。よくぞ思いとどまった。伝えないのが正解だろう。今頃会っても弟にはもはや戦う理由がない。皇后モルシーナにとっては心中穏やかならざる状況ともなろう。ましてや、わたくし達が面白がって囃し立てる事でもない。そっとしておいてやろうぞ。」
ユリアが感嘆して言う。
「はい。承知いたしました。さすがにイリアーヌギルド長でございます。思慮に満ちたお言葉でした。
ああ、そうでした。明日はお昼から宮城内の広場で焼き肉パーティーを開催しますのでお時間有りましたらおいで下さいませ。大歓迎いたしますので。
それでは、これにて失礼致します。」
カビラとハルショーネの二人は、既に宿を引き払ってからハンターギルドに来ていたようだ。ハルショーネの収納魔法に二人の野営装備を収納して、面会を終えたユリアと一緒に宮城内の野営基地に移動していった。
ユリアは、宮城の正門の衛兵に事情を説明してカビラとハルショーネの入場許可を得た。ユリアは、内政担当次官のイスタラムに二人を紹介した。
ユリアが言う。
「イスタラム様。こちらの二人がわたくしの家臣達で、カビラとハルショーネです。よろしくお願いいたします。」
イスタラムが挨拶する。
「これはどうも。内政担当次官のイスタラムです。よろしくお願いします。ユリア様。お二人のお給金は確保出来ましたか?」
ユリアが言う。
「はい。お蔭様でアースドラゴンが1500万ビルクで売れました。これは、補佐官クラス何人分のひと月のお給金に相当しますか?」
イスタラムが答えて言う。
「えっ。1500万ビルクで売れたのですか。それは凄いですよ。わたくしの予想の2倍以上です。さすがユリア様ですね。」
ユリアが喜んで言う。
「えー。そんなに。うれしくて顔に締まりがなくなりました。明日は焼き肉パーティーで二人をみんなに紹介して、明後日からさっそく特訓ですね。イスタラム様。当面の資金調達が出来ました。ありがとうございました。」
ユリアは二人を連れて野営基地に行き、ユリアの傍の空きスペースにテントを設営するよう指示した。二人は手際よくテントを張り、入ったり出たりして住み心地を確認した。
ちょうどお昼になったので、ユリアが二人に野営用食事を振る舞った。昼食後、ユリアは、今後の活動予定とスケジュールについて二人と認識を合わせるためミーティングをした。
ユリアが言う。
「さて、わたくしの領地は、この国の東部乾燥地帯の全域です。ここには蝗の大発生場所があります。あとで建設土木部門に行って地図上で確認しましょう。
蝗害とは、蝗が1億匹くらいの大群で穀倉地帯や野原の植生を食い尽くし、次の植生のある場所に飛んで行ってまた食い尽くすというものです。気象条件などの関係で数十年間隔で発生します。一度発生すると数年続けて発生する可能性があります。蝗の大群の通過方向となった領地や国は壊滅的被害を受けます。
わたくし達の最初の第一目的は、わたくしの領地で蝗大群を発生させないことです。
そのためにシングラーツ王国のヴィルダー辺境伯家の火魔法火焔弾使いの騎士達を主体とする蝗幼虫殲滅作戦作業隊が現地に赴きます。これには、魔法適用土木工事作業隊が随行します。
先に火焔弾使い達が地面付近にいる蝗幼虫を焼き払います。そのあと地を土木工事作業隊が耕して耕作地に変えます。
わたくし達は、当面、これらの作業隊の後方支援部隊として活動します。まず、ここから現地への道路整備です。輜重隊の荷馬車が容易に通れるようにします。
次に、現地でのベース基地の建設です。約200人全員が寝泊まり出来る建物や食糧や飲み水の備蓄設備及び療養所を整えます。
以上の工事や設備は来年2月末までに完成させます。3月からは作戦作業隊が実働に入ります。3か月くらいの期間を見ています。
その間、作業地がベース基地からどんどん遠くなって行くので、前進基地を都度作業地の近くに移動させます。輜重品もベース基地から前進基地に運び込みます。これらの実作業のため、作業要員を必要人数雇い入れます。
わたくし達3人は、指揮官として作業要員を指揮します。お二人には、わたくしが事前に、作業要員が作業するための秘技を指導し特訓します。作業要員には、お二人が秘技を指導特訓してもらいます。
以上が、国づくり以前の当面の実施内容です。実質的な国づくりは、6月頃から始まります。
ここまでで、何か質問はありますか?」
カビラが質問する。
「作業要員を雇い入れたり、輜重品を買い入れる資金はどうするのだ?」
ユリアが答える。
「残念ながら、固定した資金源はまだ有りません。一応、今回と同じようにアースドラゴンかそれ並みの買取価格の魔物を討伐して、ハンターギルドに買い取ってもらうことを考えています。あと、200人分の食糧は自前で本国から輜重隊に運んできてもらいます。ベース基地の宿泊施設は、事後にこちらの資産になるので、何とか捻出します。その何とかとは、宝石や貴金属、燃料石などの地下資源を掘り当てることです。それにはハルショーネの土魔法を当てにしています。」
カビラが言う。
「なんか、どれも少し危ない計画のようだな。魔物の買い取り依頼はまだしも、地下資源の方は何かあてがあるのか?」
ユリアが収納魔法から書籍の1つを引き出しながら言う。
「懸念するのはごもっともです。地下資源のあては、信憑性は不明ですが、大学の講義の参考書籍に載っているこの資源分布予測図です。それでエリアを限定し、わたくし達3人の探索魔法により埋蔵位置を特定します。この書籍の資源分布予測図は実施段階になったら3人で読んで検討します。」
カビラが資源分布予測図を見ながら言う。
「まあ、少しは具体的になったが、山師にでもなった気分だな。それでもユリアを信頼して付いていくよ。」
ハルショーネが言う。
「あたいは文字は読めるけどオスムール帝国語だけだよ。それと、難しい文章はあまりよく意味が取れないかも。」
ユリアが言う。
「いまはそれでいいですよ。心配しなくても、ハルのことは読解力と外国語も含めてわたくしが厳しく教育します。それでは、これから、わが国の領地を地図上で確認しましょう。建設土木部門に行きますよ。」
ユリアたち3人は、建設土木部門長のドアの前に着いた。ユリアが入室する旨を大声で話す。
「コンストレイ部門長。いらっしゃいますか。ユリアでございます。入ってもよろしいでしょうか?」
室内から許諾する声が聞こえた。ユリアたちはドアを開けて室内に入って行った。
「コンストレイ部門長、こんにちは。お邪魔致します。こちらは、わたくしの家臣のカビラとハルショーネです。よろしくお願いいたします。
今日は、わたくしの領地を地図上で確認させていただきたくて参りました。一昨日エドアルド様たちが見ておられた地図を見せていただけますでしょうか。」
コンストレイが言う。
「おう。もちろんじゃ。これじゃな。孔があくまで見てくだされ。」
ユリアが言う。
「ありがとうございます。カビラ、ハルに説明してやってください。わたくしは、コンストレイ部門長と少しお話をいたします。」
カビラが言う。
「分かった。これを見てこの街と領地との位置関係や道路事情や領地の範囲を確認すればいいんだな。ハル。こちらの机で広げて見るぞ。」
ユリアがコンストレイに言う。
「コンストレイ部門長。少し微妙なお話があります。よろしいでしょうか。」
コンストレイが言う。
「おお。何でも聞いてくだされ。」
ユリアが言う。
「それでは。少し詮索することになりますが、ここで知ったことは他言いたしませんのでご安心くださいませ。あの宰相レルムンド・ド・ヨグメリアも、数世代前に東部乾燥地帯の周縁部からこの街に移住してきた一家の子孫ですね。しかも、コンストレイ部門長の家とも親交があった家だったのではないですか?」
コンストレイが諦め顔で言う。
「ユリア殿には隠し事など無意味のようですわい。まさしくその通りじゃ。わしもあ奴もこの街で友人同士の付き合いだったのじゃ。それがどうかしたかいの?」
ユリアが言う。
「別にどうもしません。それについては単に確認しただけです。それでは、ここからが本命です。コンストレイ部門長は、一昨日、黄金色の小麦畑がどこまでも続く情景が目に浮かんできたとおっしゃいました。当時、実際に大規模な小麦畑があったのなら、どのように種を蒔き、どのように収穫して、どのように脱穀して、どのような状態で売りさばいていたか、興味がわいてきたのです。
それだけの数の農夫がいたのか、あるいは、高度な魔法技術を駆使して少人数で営んでいたのかですね。ひょっとして、コンストレイ部門長かあの宰相が、そのような魔法技術が記載された古典語書籍をお持ちではないかという疑念がふと浮かんだのです。無理に聞き出すつもりはありません。答えられる範囲で結構です。いかがでしょう。」
コンストレイが言う。
「ふぉふぉふぉ。ユリア殿が何を言い出すかと思えば、そんなことじゃったか。まったくのう。ユリア殿には隠し事はほんに無意味じゃ。その通りじゃと言ったらユリア殿はどうするおつもりじゃ?」
ユリアが言う。
「わたくしは、あの東部乾燥地帯を小麦畑にすると言いました。あの地が国として領地として順調な経営軌道に乗るまでは国主であり領主であり続けます。でも、その後は、ジーナス様と結婚したエドアルド様にそっくり引き継ぎます。わたくしは、長く一つのことに縛られるつもりはありません。
順調な経営軌道に乗せることを早期に実現する手段として、ひとつは、地下資源を掘り当てて資金源にします。もう一つの手段として、その高度な魔法技術を駆使して農場の効率的経営を図ります。
ここまでを前提としてコンストレイ部門長にお願いしたいことは、そのような古典語書籍があるならば、わたくしに読ませてくださいということです。いかがでしょう?」
コンストレイが言う。
「うーむ。少し考えさせてくれんかの。ジーナスとも相談せねばならん。」
ユリアが言う。
「もちろんでございます。じっくりとお考えになりご相談もして下さい。わたくしは、この願いが聞き入れられなかったとしても、べつに構いません。その時は少し時間がかかるかもしれませんが、自分で開発いたします。」
((コンストレイ様には悪いけど、鎌をかけさせていただきました。なんか、ほんとにそんな古典語書籍がありそうな雰囲気になってしまったわね。文教部門長リテラルス様はもう嗅ぎつけていらっしゃるのかしら。))
少女は二人の家臣に与えるお給金の資金を得ました。国の経営資金は山師となって見つけるか、古典語書籍から見つけるか、そんなうまい話がありますかね。それではまたお会いしましょう。




