91.少女は国の家臣集めに取り掛かる
少女は譲り受けた東部乾燥地帯の国としての体制整備のため家臣を集めます。
ーーー 場面はオスムール帝国皇帝居城内
ユリアは朝食後、会議テントの椅子に座ってイーアンの報告を聞く。
「おはよう。イーアン。土壌改良作業の進捗はどうかしら。効率は上がっているかな?」
イーアンが答える。
「おはようっす。ユリア師匠。調子は上々っすよ。効率も上がって来てるっす。この分なら最終日までには100平方km、降灰被害耕作地の4割強は堅いっすね。オスムール帝国騎士団有志のやつらの頑張りも凄いすよ。」
ユリアが喜んで言う。
「おーぉ。それは凄い。さすがイーアンだね。この調子でお願いね。ところで、中日の休養日に焼き肉パーティーするのは知ってるわね。だけど、鹿32体と狼6体とドラゴン1体は全部お城の食糧部署に難民対策向けで供出しちゃったの。
だから新たに調達してくるけど、まる1日不在にするから、留守の間作業隊の事はお願いするわね。帰りは暗くなってからになる予定よ。鹿10体くらいでいいかな?当日の解体は皆でお願いね。」
イーアンが言う。
「任せてくださいっすよ。ところで、森での狩りはひとりでは出来ないすよ。誰か連れて行くんすか?」
ユリアが言う。
「そうね。この街にもハンターギルドがあるみたいだから同伴者を募って行くわ。内政担当の誰かにどんな様子か聞いてから行くわね。」
イーアンが言う。
「気をつけて下さいすね。」
ユリアは宮城本殿に入り、内政担当次官イスタラムをつかまえて聞く。
「イスタラム様。おはようございます。ちょっとお尋ねしたいのですが、ハンターギルドは正常に機能しているのでしょうか?」
イスタラムが答えて言う。
「あ。おはようございます。ユリア様。ハンターギルドは火山噴火のひと月後には正常化致しました。魔物討伐に行かれるのですか?」
ユリアが言う。
「いいえ。ただの獣狩りです。皆様と一緒に楽しむ焼き肉パーティー用に森で鹿を10頭ほど狩って来たいのです。森の獣の状況はギルドで聞くのが一番早いですね。ありがとうございました。行って参ります。」
イスタラムが言う。
「気を付けて行ってらっしゃい。焼き肉パーティーを楽しみにしていますよ。」
ユリアは、正門から宮城の城壁を出て、少し瓦礫が残る街の大通りを歩いて行く。建物は全壊しているものは少ないが、それに近い損傷のものが放棄されて散在している。
200mほど歩くと損傷のほとんどない大きな建物が見えて来た。ハンターギルドと商業ギルドの合同舎屋となっている建物だ。ユリアは向かって右側の出入口の大きなドアを開けて中に入った。
室内は、左右の中程で大人の胸の高さ程の仕切り壁で、左側の商業ギルドと右側のハンターギルドに分かれている。ユリアは、ハンターギルド側の室内にいた40人程のハンター達の視線を一斉に浴びた。
ユリアは、視線に構わず入口の対面側の受付カウンターに向かって真っ直ぐに歩いて行く。すると、半分程歩いたところで、4人のハンターらしき男達がユリアを囲うように立ちはだかった。
ユリアの正面に立った男が言う。
「よう。お嬢ちゃん。ひとりかい?どこから迷いこんできやがった?ここは子供の遊び場じゃないぜ。とっとと帰ってあめ玉でもしゃぶってな。」
ユリアが言う。
「あーら。私は子供だけどこんな所じゃ遊ばないわよ。獣狩りの同伴者を募りに来たの。お兄さん達こそ、こんな所で子供と遊んでる場合なのかしら?さっさとそこを退いて仕事の依頼でも探したらいかが?」
正面の男が言う。
「なんだとぉ。てめえ。俺様に生意気な口をきいた奴らがどうなったか知ってるのか。子供だからといっても容赦しねえぞ。張り倒してボロボロにしてから外に放り投げてやる。そこへ直れ。」
正面の男がユリアを平手打ちしようと近づいて構えた。男がまさに打ち付ける動作を始めた瞬間、その男は固まって動かなくなった。
ユリアは、間髪をいれず瞬発移動して、次の瞬間にはカウンターの窓口の前に立っていた。正面にいた男は3秒後くらいで覚醒してユリアの姿を探してあちこち顔を回している。ほかの3人の男達もユリアの姿を見失ったようにキョロキョロしている。
4人の男達がユリアを見つけて走り寄って来ようと動きだしたとき、ユリアは視線の早業で金縛り魔法の4連発を放った。4人の男達は全員固まった姿のまま、前のめりに顔から床に倒れた。周りで見ていた人達は、何が起こったか分からず唖然としている。
数秒たっても男達は起き上がって来ない。全員脳振とうを起こして気を失ったらしい。4人の男達はそのまま放って置かれている。
誰も助け起こそうとしない。それどころか、みんな一斉に拍手をしだした。どうやら、彼らはここの鼻つまみ者達らしい。
ユリアは、ハンター会員証を取り出してカウンターの窓口職員に見せながら、何事も無かったように尋ねる。
「窓口のお姉様。お尋ねしますが、この近くの森には鹿がいっぱいいますか?鹿を10頭ほど狩りたいのです。」
窓口職員が嬉しそうに答える。
((あれ?お姉さん、なんだか嬉しそう。そうか。あの男たちはこのギルドのやっかい者達なのね。)))
「はい。それはもう、いっぱい群れを成していますよ。鹿が増え過ぎて困っているくらいなのです。10頭と言わず100頭でも狩れますよ。
ここから一番近くの森の中心付近に広い草原があり、鹿はそこで群れを成して草を食べています。ところで森に入るには3人以上でパーティーを組む必要がありますが、同伴者を募集されますか?」
ユリアが言う。
「もちろんです。依頼票の用紙を2枚下さい。」
そこに、先ほどの騒ぎを掲示板の傍で見ていた女性ハンターが、ユリアに近寄って来て話しかけた。
「やあ。ユリ、いや、クロエじゃないか。久しぶりだな。先ほどの騒ぎ、実に見事な手際だったぜ。相手に触れもせず勝手にこけてのびたように見せるなんて、相変わらず容赦なしだな。ところで今日も同伴者募集かい。私でいいなら応募するぜ。」
ユリアが気付いて言う。
「あ。カビラさん。おはようございます。お元気のようで何よりです。お恥ずかしいところを見られちゃいました。カビラさんとはジャイアントビー討伐以来ですね。今回は鹿狩りですけどよろしいですか?」
カビラが言う。
「おう。もちろんだ。クロエのあの華麗な弓矢さばきが見られると思うとわくわくするぜ。」
受付カウンターの窓口職員は、小さな少女の同伴者募集にベテランの女性ハンターが応募してきたことに驚いている。しかも、大人と子供の二人が旧来の友人のような会話をしているという見慣れない光景に、開いた口が塞がらなくなった。さらに、目の前の会員証がハンター資格1級のものであることに気づいて、顎が外れそうになっている。
ユリアが少し大きな声で募集をかける。
「鹿狩りの同伴者募集ですよー。早くもお一人様は決定です。あと残り1名様となりました。報酬はご自分が狩った頭数プラス鹿1頭です。ただし、わたくしの指示する連携プレーができない人はご遠慮願います。」
カビラが心配して言う。
「おいおい、クロエ。そんな募集文句じゃ誰も応募しないぞ。クロエが指示する連係プレーって何なのだ。」
ユリアが言う。
「はい。わたくしが指示する連係プレーとは、鹿たちをわたくしの方へ追い立てる役割のことです。そうしてわたくしの方へ逃げてくる鹿をわたくしがすべて仕留めます。同伴者の方は自分で狩らなくても1頭は必ずもらえます。どうですか、楽な仕事でしょう。」
だが、ユリアの募集文句を聞いても誰も動かない。そんな中、ひとりの若い女性ハンターがおずおずと近寄って来て言う。
「あの。あたいはまだハンター4級なんだけど、この募集に応募したいんだ。未熟なあたいでも採用してもらえるのか。」
ユリアが喜んで大声で言う。
「はい。もちろんです。ただいまの応募者をもって募集枠がすべて埋まりました。これで募集は終了いたします。」
受付職員が、応募してきた若い女性のハンター会員証を確認して、依頼票を渡した。ユリアたち3人は、相談机のところに行って詳細打ち合わせをする。
ユリアが先に自己紹介と狩りの計画を話す。
「おはようございます。わたくしは登録名クロエ6歳です。ハンター資格1級です。よろしくお願いいたします。今回は、あるところで行う焼き肉パーティーに提供する鹿肉を調達するための狩りです。わたくしの取り分が10頭になったら撤収します。狩りの場所は直近の森の中央付近の草原です。わたくしは主として弓矢を使い、接近戦では槍を使います。以上、簡単ですが、自己紹介と狩りの計画でした。」
次に、カビラが話す。
「私の名はカビラだ。ハンター資格2級だ。私も弓矢を主武器とする。接近戦ではレイピアを使う。クロエハンターとの同伴は3度目だ。今回も私は弓矢で何頭か仕留めるつもりだ。クロエの邪魔はしない。それにしても、これまでの同伴2回ともクロエは4級だった。いつか抜かれると思っていたが、早すぎるではないか。以上、ちょっと愚痴も交ぜた自己紹介だ。」
次に、若い女性が話す。
「あたいは、ハルショーネ15歳。ハルと呼んでほしい。ハンター4級に上がってまだ3カ月だ。第一武器は火魔法の火焔弾で10mは飛ばせる。弓矢は第二武器で50m先の直径50cmの的に9割方当てられる。接近戦では曲剣つまり刀を使う。もちろん、身体強化魔法と探索魔法も使える。移動では後れを取らないつもり。よろしく頼む。」
ユリアが話す。
「はい。カビラとハル、今日はよろしくね。ところで、ハル。隠していることがあるでしょう。同伴の信頼関係を築くためとお願いすれば、ここで打ち明けてくれる気ある?」
ハルショーネが言う。
「ええー。詮索しないのが礼儀と聞いたけど。違うのか?そうか、信頼関係に響くというわけか。分かった。打ち明ける。あたいは収納魔法持ちだ。それと、属性魔法を火のほかに光と照明と水と土の5つ持っている。あとは、両親ともいない天涯孤独だ。どう、これで満足?」
ユリアが言う。
「ハル。打ち明けてくれてありがとう。わたくしも収納魔法持ちよ。でも、属性魔法は一つも持っていないわ。生活魔法だけなの。もう一つ打ち明けると、わたくしは、今のところ一つの領地で一つの国を形成する領主兼国主なの。どこの領地とは言わないでおくわ。今はまだ国らしい組織も何もないし。これから整備するのよ。今のところという意味は、国の形がある程度できた段階で人に譲るつもりだということ。どう、面白そうでしょう。」
カビラがびっくりして言う。
「ユリ、いや、クロエ。お前、いつの間に領主になったんだ。確かに、ハンター資格1級保有者は子爵待遇ではあるが、領地をもらえるなど聞いたことがないぞ。どんな絡繰りがあるのだ。」
ユリアが言う。
「まあ、その辺のことはカビラが協力する気があれば、おいおい話すわ。それより、これからすぐに鹿狩りに出発するよ。身体強化で走っていくからね。ハルも移動で遅れを取らないところを見せてもらうわよ。」
ユリア達3人は2時間ほどで狩り場の草原の縁に着いた。ユリアは、ハルショーネに探索を指示する。ハルショーネは、探索結果を説明しながら探索を続ける。
「10時方向6km先に狼らしき10頭以上の群れが右方向へ移動中。12時方向8km先に鹿20頭以上の群れが滞留中。13時方向5km先に30頭以上の野牛の群れが滞留中。さて、どうするんだい?」
ユリアが言う。
「ハル。はじめに注意しておくわ。危険な敵の数は正確に把握すること。狼の群れは正確には何頭?」
ハルショーネは少しむっとしながらも数える。
「狼はえーと、14頭だ。」
ユリアが満足して言う。
「あっているわよ。すごく早く出来るのね。」
カビラが言う。
「ああ。確かに早い。作戦も考えてみたらどうだ。」
ユリアが同意して作戦立案を促す。
「そうね。ハル。私達3人とも弓矢が使える事を考慮した作戦を立案してくれる?」
ハルショーネが答えて言う。
「分かった。うん、そうだ。この場では鹿狩りは諦めて野牛狩りに切り替える。手前側から3人が散開して半分囲い野牛どもを狙い撃ちする。一人当たり3頭は堅いと思う。」
ユリアはカビラと頷き合いハルショーネに向かって言う。
「ハルは弓矢で野牛を倒した経験はあるの?私はまだ経験ないわ。弓矢の一撃だけじゃ倒れないんじゃないかしら。」
ハルショーネが答える。
「いや。あたいもまだ経験ない。鹿も一撃だけじゃ倒れなかった。」
カビラが言う。
「私は、野牛狩りは1頭だけを狙い撃ち、5発くらいでやっと仕留めた事がある。一人3頭はとても無理だと思う。それに、今回は狼が標的をこちらに変える危険も考慮する必要がある。」
ユリアが決断して言う。
「野牛1頭は鹿10頭分の肉の量がありそうね。よろしい。決めました。今回はハルの作戦を半分採用して野牛を狩ります。
狼達の来襲を考慮して、ハルは散開線の右側、カビラは中央、わたくしが左側に布陣します。そこで各自1頭だけに集中して弓矢を浴びせます。
狼達が迫ったらカビラはハルに合流して二人で接近戦の態勢で応戦すること。わたくしはひとりで狼の数を減らしながら二人の援護に向かいます。
そこで狼達が撤退するまで戦い抜きます。覚悟はいいですね。それじゃぁ、散開線の布陣位置に走りすぐに弓矢射撃を始めます。」
ユリア達は俊足の強化魔法を掛けて瞬発移動に近い速さで走り、すぐに布陣位置に到達した。3人ともすぐに弓矢の射撃を開始した。
ハルショーネもカビラも、狙いをそれぞれ1頭の野牛に定め、その背中や腹に次々に矢を当てていく。異変に気づいた近くの野牛達が一斉にバラバラの方向へ逃げ始めた。
ユリアは草影に身を隠して一発必中の秘技で野牛の目を狙い撃ちした。撃たれた野牛は数秒でどさっと崩れ落ちて横倒しになった。ユリアは1頭が倒れる間にも次の野牛に狙いを定めて矢を放った。結局、周りの野牛達が異変に気づいて逃げ出す前に5頭を仕留めた。
野牛達は1分もたたないうちにバラバラの方向に逃げ出し、最終的にハルが1頭、カビラも1頭、ユリアが5頭という成果となった。狼達は鹿狩りに夢中でユリア達を襲いに来ることは無かった。
ユリア達は、すぐに獲物の野牛7頭の冷却処理をして、依頼書の契約に基づいて分配した。カビラとハルは報酬の1頭を加えて2頭、ユリアは報酬の2頭を引いて3頭という配分となった。ハルは2頭を自分の収納魔法に収納し、ユリアはカビラの2頭を含めて5頭を自分の収納魔法に収納した。
ユリアは同伴してくれた二人に生活魔法の冷水と昼食の携帯食糧をふるまった。食後の休憩時間に3人が話しをする。
ユリアが言う。
「二人とも同伴ありがとう。ちゃんと報酬を払えてよかったよ。わたくしの方も、これで焼き肉パーティーのお肉は十分だね。」
ハルショーネが言う。
「こんなに報酬をもらっていいのか?鹿10頭分くらいの値がつくぞ。」
ユリアが言う。
「ハル。遠慮はいらないわよ。もらっておいて。貴女がいなければ、この狩りも無かったのだし。弓矢で倒すよう指示したのはわたくしだったのだし。ハルは結局矢を何本当てて倒したの?」
ハルショーネが答えて言う。
「8本だ。二人の矢の刺さった場所を見た。カビラは5本、ユリアは5頭すべて1本だった。あたいのはほとんど急所を外していた。
ユリアはなぜあんな遠くから目に当てられるんだ。その歳で長年の修行を積んだ訳がないし。何か特別の秘技を使っているとしか思えない。もし許されるならユリアに弟子入りしてその秘技を習得したい。」
ユリアが聞いて言う。
「ハルは、わたくしに弟子入りしてその秘技を習得した後どうするの。カビラのようにずっとハンターをやっていく積もりなのかしから?」
ハルショーネが答えて言う。
「当面は、そうする積もり。何か、他に生きて行くすべを見つけたら考える。」
ユリアが言う。
「当面とはどのくらいの期間なのかしから?それは、今、生きて行くすべを見つけたら、いま考えると解釈できるのかしら?」
ハルショーネがユリアをはっと見て言う。
「クロエは、あたいに何かさせたい事がありそうな口ぶりだな。」
ユリアがニヤリと笑って言う。
「ハル。良い勘してるじゃない。その通りよ。良い勘ついでに何をさせたいか当ててみたら?」
ハルもニヤリと笑って言う。
「ここまで来たら後は簡単だ。クロエが領主だというなら、あたいを領民にして、しかも使用人にしてやるとでも言うんだろう。だけど、領民になっても猟師くらいしかできないし、使用人としては魔力を生かして何でも屋くらいだな。」
ユリアが言う。
「まさしくその通りよ。魔力を生かした何でも屋というのは凄いスキルで、わたくしの案を言い当てているわよ。ただし、使用人じゃなくて家臣としてだけどね。だって、ハルをわたくしが厳しく教育訓練すれば、いろんなことが出来ちゃいそうだもの。出世すること間違いなしの太鼓判だわ。建設土木工事屋さんとか、薬師さんとか、女性騎士さんとか、代官さまとか、色々やってもらいたいわね。」
ハルショーネが言う。
「さては、あたいの魔法属性を利用し尽くしてやろうという魂胆だな。そうは問屋がおろさんぞ。あたいの事はあたいが決めるんだ。」
ユリアが満足したように言う。
「そう。それでいいのよ。強制はしないわ。貴女の人生を貴女が決めるのは、当たり前の事だもの。ちなみに、わたくしの領地は、この国の東部乾燥地帯の全体なのよ。
そこには蝗の大発生場所があるの。近隣のフランソワール帝国やシングラーツ王国が蝗大群の食害を被らないように監視したり、時には蝗幼虫を殲滅するという重要な責任が課せられているの。
貴女がわたくしに弟子入りしたいなら、同時に家臣になって貰うわよ。そして、秘技の訓練を兼ねて領地の道路や治水や耕作地などの整備をして貰うわ。話し方の訓練もね。確かに楽な仕事じゃないわね。でも、休養は定期的に与えるし、貴女の仕事以外の目標があれば応援こそすれ邪魔はしない。
わたくしの家臣としていいように使い回されてもいいか、それとも自分の好きに生きるか、よく考えて貴女の歩む道を選んで下さいね。」
そこでカビラが喰い気味に話す。
「おいおい。クロエ。私は置いてけぼりか。私もまだ若いし色々出来るぞ。狩人だけじゃないんだ。」
ユリアが言う。
「もちろんです。カビラさんにも協力する気があるなら話すと言ったでしょう。カビラさんも、ハンターはそろそろ潮時かなと思っているでのではないですか。
カビラさんには、ハンターの経験を生かして騎士団長あたりが適任だと思っていますの。といっても、国境警備とか紛争対応とかの武力を使う仕事はほとんどないでしょう。むしろハルの仕事と重なる部分が多いと思う。当分の間は、私が指導する秘技の習得訓練と実践訓練を兼ねて街道整備や治水工事や街の建設工事などに従事してもらうわ。
そんな生活でもやりたいと思うか、ハンターのままか他に見つけた仕事をしたいか、よく考えておいて下さいね。
そうそう。わたくしの今の宿泊場所は、皇帝宮城の城壁内広場の野営基地テントです。今すぐ来る気があるならテントほか野営装備品を持参くださいね。当面の仕事は、ボランティアなので給金なしですが、耕作地の土壌改良作業やわたくしの仕事の補助などです。この国には、今のところ、あと10日ほどいます。その後は、自分の領地統治の基礎固めのため領地に参ります。
さあ。そろそろ帰投いたしましょう。このぶんなら暗くなる前に帰り着きますね。」
((有能な家臣を二人ゲットできるかな。地位やお給金ではいまのところ惹き付ける魅力がないから、わたくしが秘技を指導することで付いて来てくれればありがたいかな。))
ユリア達3人は、夕方暗くなる前に帝都に帰り着いた。ユリア以外の二人は、ジビエ買い取り所でそれぞれ野牛2体を買い取ってもらった。二人とも予想以上の相当な金額になってほくほく顔をしてユリアと別れた。
野営基地には、イーアンが一人だけ留守番をしていた。他のボランティア隊員たちは街の飲食店に繰り出しているようだ。ユリアは、夕食の携帯食糧を少しだけ調理してイーアンと二人で食べた。
ユリアがイーアンに話す。
「イーアン。待っててくれてありがとうね。ちょっと残念なことに焼き肉パーティーの肉が鹿の肉じゃなくて野牛の肉に変わってしまったの。それでもいいよね。」
イーアンが返事する。
「別にお礼を言われることではないっすよ。自分はユリア師匠の弟子っすから、待つのが当たり前っす。パーティー用の肉は野牛でも上等っすよ。久しぶりで皆喜びます。」
ユリアが続けて狩りの様子を話す。
「そう。良かった。ギルドで同伴者2人を確保して、森には3人で入ったの。一人はイーアンも知っているカビラよ。もう一人は15歳の女性ハンター4級のハルショーネだったの。探索魔法も使えるイーアンのライバルね。
ハルの探索で、狼に狙われている鹿の群れとその手前の野牛の群れを発見したわ。ハルの作戦を採用して、鹿は狼に譲って手前にいた野牛の群れを狙うことにしたの。冷静な安全策だと思ったわ。
その結果、私は5頭、カビラとハルは1頭ずつ。同伴の報酬で1頭ずつ渡したから手元に残った野牛3頭を焼き肉パーティー用の肉にするの。解体を手伝ってね。」
イーアンが言う。
「解体はもちろんやりますよ。でも、お城に専門的な人がいるでしょうから初めから手伝ってもらいましょう。野牛3頭は相当な肉の量になりますよ。お城の人たち全員呼んでも食べきれないっすね。」
ユリアが言う。
「余ったら、難民対策の配給食糧にしてもらいます。
ところで、イーアンたちは、わたくしがこの国の東部乾燥地帯の全体を領土とする半独立国家の領主兼国主になったのは知っているよね。まだ、どんなところか見たこともないから、エドアルド様が帰ってきたらよく聞いておかないと。不明な点があったら自分でも行ってみる必要があるかもね。
現地で最初にやることは蝗幼虫殲滅作戦作業隊のための道路整備と受け入れ準備ですね。わたくし一人ではとてもできない仕事です。それで先ほどの狩りの同伴者カビラとハルショーネには、わたくしの家臣になるよう誘いをかけたのよ。カビラは少し乗り気で、ハルは半々といった感触だった。彼女たちがいれば相当なことができます。
でも彼女たちを家臣にするにはお金が必要よ。今現在は、国家としての現金資産がなく、財源もない状態です。当面の運転資金はどこからか調達することになるでしょう。国か、領主か、商人か。
でも、借金という形態には致しません。調達した資金で得た利益の幾分かを配当として還元する投資の形態に致します。何を売って利益を得るかは未定だけどね。
イーアンが、来年の春ごろの蝗幼虫殲滅作戦に同行する耕作地化作業隊のメンバーとして来てくれるか分からないけど、その頃には受け入れ準備は完了しているはずよ。期待していてね。」
イーアンが言う。
「そんな話を聞くと、ユリア師匠は、オスムール帝国皇帝に嵌められたのではないかと勘繰りたくなるっす。ユリア師匠ならやれるのでしょうけど、その幼児の外見を見ると心配でたまらないっす。」
ユリアが言う。
「ありがとう。イーアンてほんとに優しいわ。メラニー効果がよく表れているようね。でもかの地を穀倉地帯に変えることは、わたくしが自ら自分の夢として皇帝に話したことなの。皇帝はただ、わたくしの夢の実現に力を貸してくれただけよ。それに、私がやるのは国として軌道に乗せるところまでよ。その後は、あの偉そうな有力者に引き継ぐつもり。」
((さて、当面の実施内容に必要な人員は確保できそう。後は、当座の資金作りね。ドラゴンをもう一体討伐して商人に買ってもらうとか。いくらで買ってくれるかしらね。あと、もう一つのあては、かの地のどこかに眠る地下資源の発掘かな。実は、かの地をもらい受けたのは、金色に輝く一面の小麦畑もそうだけど、もう一つの金色のものや黒いものの存在を文献で見たからなの。文献が正しいとは限らないけど自由に掘り出すには自分の土地にしなければね。))
少女はとりあえず二人を勧誘しました。引き受けてくれるかは五分五分といったところです。かの地には何やら別の狙いもありそうですね。それではまたお会いしましょう。




