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90.少女の活躍は送り出し元に知られる

少女の活躍ぶりが各国で報告されます。

ーーー 場面はフランソワール帝国アリースソン伯爵領、時は少女がかの国の帝都に入る前



 レオニール・ド・フランソワール侯爵は、アリースソン伯爵領で開発された魔法適用土木技術の視察を終え、子供たちを連れて帰路に就いた。


 途中まで同行したボランティア復興支援作業隊と別れ、侯爵一行の馬車列は一路帝都レパルナスを目指した。


 馬車の中で侯爵は側近と話す。


  「私は、アリースソン伯爵領で魔法適用土木技術の革新的技術が開発されたと聞いたとき、ゼルジブとビルメルクの大袈裟(おおげさ)な言い方を鼻で笑った。なにしろ、研究許可申請書と同時に研究成果報告書を提出して、さらに視察に来いとまで書いてきたのだ。


 ところが、私は、その技術の実践試技を目の当たりにして仰天してしまったのだ。そのとき、横で見ていたゼルジブの奴に鼻で笑われた気がした。


 いまは、自分があれ程情熱を注いでやって来たことが無意味なものに思えて、打ちひしがれている。こんな私を君も鼻で笑ってもいいぞ。」


 話し掛けられた若い側近のエルメスト・フランソワールは答えて言う。


  「所長。しっかりして下さい。下部組織で開発されたものは所長の成果でもあるのです。たとえ申請許可すると同時に成果が出たとしても、それは変わりません。そんなのは、申請側の手続き上の瑕疵(かし)として、正しく咎め(とがめ)てやればいいのです。


 それよりも、今後、あの技術をどのように広め、どんな場面に活用するかが重要な問題ですよ。どうすれば、こちら側が主導権を持って進めて行けるか考えましょう。


 アリースソン伯爵家の騎士団で組織されたボランティア作業隊は、既にその技術を持ってかの国の被災地に向けて走り始めました。我々も遅れてはなりません。」


 側近のエルメストに尻を叩かれた侯爵は、気を取り直して言う。


  「うむ。君の言うとおりだ。嘆いている場合ではないな。研究所でこの技術をさらに改良発展させる体制を作るのだ。それと同時進行で、建設土木部門にこの技術の現場適用体制を作らせるぞ。」



 レオニール・ド・フランソワール侯爵一行の馬車列は、4日かけて帝都レパルナスに帰り着いた。侯爵はそのまま皇帝居城に入り、本館入口で馬車を降りて皇帝への面会を求めた。


 侯爵と側近が応接室でしばらく待っていると、取り次ぎ文官が来て皇帝執務室に案内された。室内には皇帝エンリサスのほか、前皇太子の長男の新皇太子ハミネイサス、大公クリューソス、内務省長官アーテリス、外務省長官フリシアン、産業省長官グロスター、情報管理責任者アンフォルメル、建設土木部門責任者シルビエン、農林業部門責任者アグロフォーレ、騎士団団長ウォーレルの面々が揃っていた。


 レオニール侯爵は、皇帝以下に帰朝の挨拶をして着座した。侯爵は、魔法適用土木技術の視察結果の概要を説明し、今後の取り組みを議題として提起した。


  「初めに、新たに開発された魔法適用土木技術の概要からご説明致します。この技術を使った場合は、従来技術の100倍以上の効率向上となります。結果も技術内容も、まさに革新的でした。」


 これを聞いた出席者から感嘆の声や疑問視する声などが口々に上がり騒然となった。大公が皆を鎮め(しずめ)て言う。


  「皆、静まれ。驚きも賞賛も批判も、全部あとでよい。ここは、じっくりと聞くべきときだ。よいな。レオニール、続けてくれ。」


 侯爵が頷いて話しを続ける。


  「はい。では、技術内容とその革新性からご説明致します。魔法適用土木技術は、従来、魔力を魔力のままで手の先端から放射して対象である地面の土に作用させていました。


 一方、新技術では、手で棒状の道具を掴んで道具の先端から放射します。これだけでも技術として革新性があり、効率向上も数倍にのぼります。


 そして、ここからが数段階の発想の飛躍がなければたどり着けない革新的内容になります。


 一つ目は、先ほどの道具を二人で掴む(つかむ)事です。

 二つ目は、道具を掴んだ二人が、それぞれ異なる魔力を放射する事です。

 三つ目は、3人目が更に道具を掴んで先ほどの二人とは別の魔力を放射する事です。


 これにより、必要人数込みで従来技術の100倍の効率向上となります。その3人目が土魔法の属性持ちなら更にその10倍、つまり、従来技術の1000倍の効率向上が得られます。


 ここまでは、特別な訓練は不要です。少し訓練すれば効率向上は少し落ちますが2人でも可能になります。さらに訓練すればもっと効率が落ちますがひとりでも可能になります。


 つまり、この技術の柔軟性や利便性は、道具は簡単に作れる物であること、複数の魔法属性持ち、または生活魔法持ちなら、2人またはひとりでも実践可能であることです。


 以上が、技術内容の説明です。ここからは、開発の経緯の説明です。


 この技術を用いて作業する姿を外観的に見ても、普通の人はここまで人数を掛ける必要があるのかと批判的に思うだけでしょう。さらに、魔力の種類を異ならせるということには、発想の飛躍があっても思い至ることは困難です。


 この革新的技術は、そんな困難を軽々と乗り越えたひとりの天才によって開発されました。その天才の名前はユリアです。既に出席者の皆様が共有されている名前です。


 なお余談ですが、ユリアは、この技術を持つボランティア隊40名を率いて既にかの国の帝都に向かいました。かの国では、この技術を習得して全国展開して復興作業を進めていくでしょう。


 当然、魔法技術研究所では、この技術の更なる改良技術や発展形の研究開発を進めていきます。ここから先は、皆様にこの技術の活用にかかる政策面でのご検討をお願い致します。」


 レオニール侯爵の説明を受けて、大公が言う。


  「レオニール、ご苦労であった。さて、またしてもユリアがやってくれたか。


 アルチュールの交渉結果速報では、かの国の第一優先順位は帝都街区の復興作業であったな。ユリアが引っ提げて行ったその革新的技術は、耕作地の開墾や用水路開削以外に、街区の復興整備にも適用出来るのだな。


 ところで、話は議題から逸れるが、重要な疑念について皆が集まったこの機会に明らかにしておきたい。


 こちらの予想では、街区の復興の優先順位は低かったはずだ。なぜ、食い下がると予想された食糧支援をあっさりと放棄したのかな?誰か分かるように説明出来る者はいるか?


 というのは、アルチュールの速報にはかの国の内情について一言も言及なく、その後も、帰国するなど続報も来ない点に懸念を抱いているからだ。」


 大公の問い掛けには、出席者の誰も手を上げる者がいなかった。レオニール侯爵は、はたと思い出して立ち上がって爆弾発言をする。


  「大公殿下。ユリアは、ガスゴーシュ殿からの手紙がユリア自身に宛てたものであると確信して、かの国で国家転覆政変が起きたと内情予測を立てました。


 そして、かの国への出発前日に、その内情予測に基づく現地行動予定を伯爵家幹部およびわたくしと共有しました。」


 大公が驚いて言う。


  「なに。ユリアがそんなとんでもない予測を立てたというのか。何を根拠にしている。なぜアルチュールからの手紙がユリアに宛てたものなんだ。その手紙に何が書いてあったというのだ。順を追って分かるように説明してくれないか。」


 レオニール侯爵が少し落ち着いてから説明を始めた。


  「分かりました。その内情予測の根拠のひとつは、大公殿下も疑問視される食糧支援の放棄です。先に交渉団から来た土壌改良手段を要請する手紙から、かの国が食糧不足に陥って(おちいって)いると推定されました。それなのに食糧支援一切なしで合意したのは、上層部が略奪集団化した証(あかし)だとユリアは断定したのです。


 もうひとつの根拠が、ガスゴーシュ殿の手紙の裏の内容です。ユリアによると、手紙が検閲を受けることを見越して、表の字面(じづら)の内容の裏に別の内容を書いて自分に伝えたというのです。


 その裏の内容は、皇太子が家族を人質にされて操られていること、宰相が不法に権力を奪取したこと、二人の長官は信用できず、二人の次官だけが信用できること、ユリア自身があらぬ罪科で拘束監禁されること、だというのです。


 わたくしを含め伯爵家幹部の誰もが、それは深読みのこじつけだと言ったのです。でも、エドアルド・ヴィルダーだけは、ユリアを援護しました。ガスゴーシュ殿が、何気ない言葉の裏に隠された内容を汲み取って自ら行動してくれる、とユリアに感謝したというのです。」


 大公が唸りながら言う。


  「うーむ。当方宛てと伯爵家宛ての2つの手紙の内容は同じだろう。だが、私にも字面(じづら)通りにしか読めなかった。ユリアとアルチュールの間には通じ合うものがあるとでもいうのか?


 では、そのような予測が出ていながら、なぜユリアをそのまま行かせたのだ?ユリアは君達とどんな行動予定を共有したのだ?」


 レオニール侯爵が恐縮して言う。


  「申し訳ありません。ユリアはボランティア復興支援作業隊を組織しました。領主家に所属しないボランティアとして行くというのです。そして、ユリアは既にハンター資格1級保有者です。我々には止める手立てがありませんでした。


 ユリアの行動予定は、予定通り拘束監禁された上で、皇帝一家の監禁場所を探り当て、皇帝と皇太子を解放して2国共同体交渉団を救い出すというものでした。さらに、自分を不当に拘束監禁した宰相を糾弾して打倒し、皇帝に差し出して捕縛してもらうという、空想活劇の世界さながらの行動予定でした。


 ユリアの立場は内政不干渉です。ユリアの大義名分は、あくまで自分を非合法に拘束監禁した宰相の糾弾です。その先の、国家転覆罪の裁きについては皇帝に一任するという姿勢でした。


 なお、宰相が確実にユリアを不当に拘束監禁するように、ユリアは餌としてアースドラゴンを宰相の目の前にぶら下げると言っていました。」


 大公が言う。


  「なるほど。レオニールよ。君たちがユリアを御し得なくても仕方がない。この私でさえユリアには振り回されているのだからな。


 そうか。ボランティア隊はユリアが組織したのか。鮮やかと言えばそうだが、領主家に所属しない民間人は他国では身分も安全も保障されないだろう。危ない橋を渡るのか、安全を確信しているのか、ユリアのやることはよくわからん。」


 皇帝エンリサスがここまでの話を受け取って言う。


  「レオニール。ご苦労であった。


 魔法技術研究所ではその革新的魔法適用土木技術の一般普及と改良や発展形の研究を進めるように。


 建設土木部門責任者シルビエンと農林業部門責任者アグロフォーレは、革新的魔法適用土木技術について、自部門でどのような活用ができるか検討すること。そして、そのための改良点を魔法技術研究所に連絡するように。


 外務省長官フリシアンと情報管理責任者アンフォルメルは、オスムール帝国の内情を可能な限り探るように。


 騎士団団長ウォーレルは、万一の場合に備え、2国共同体交渉団の救出作戦の検討と準備をするように。


 各自、報告は逐次私とクリューソスに入れるように。


 さて、ユリアが、行動予定通り空想活劇並みの活躍でオスムール帝国の政変を収束させたなら、これから数日のうちにアルチュールから飛鳥便で緊急報告が入るはずだ。


 今の我々ができることは、最悪の事態を想定した準備をしつつアルチュールの報告を待つことだ。皆、気を引き締めてかかるのだ。この会議はこれで終了とする。」




 それから数日後。


 皇帝の予想通りガスゴーシュからの飛鳥便が届いた。緊急速報の手紙は取り次ぎの文官から補佐官に渡り、さらに皇帝に渡った。


 手紙を読んだ皇帝は補佐官に先日のメンバーを招集するよう命じた。


 集まったメンバーを前に、大公が手紙の内容を掻い摘まんで説明する。


  「アルチュールからの緊急速報が届いた。内容の要点を説明する。


 まず、最新の内情であるが、かの国の政権構造は正常化されて、皇帝と皇太子が実権を取り戻したとある。


 それ以前の内情だが、宰相一味が皇帝の火山弾による負傷に乗じて政権を不当に奪取した。それは火山噴火直後のことだ。


 2国共同体交渉団は、一旦友好的に迎えられ交渉も妥結した。アルチュールは、交渉妥結内容と交渉相手である上層部の人物寸評を書いた速報を、飛鳥便で皇帝と伯爵に送った。


 だが、その直後、宰相が豹変して交渉団を拘束監禁した。理由は明確でないが、アルチュールは人質として利益を得るためと見たようだ。


 アルチュールは上層部の態度や応対に違和感を持っていたため、手紙には検閲に引っかかる内容は書かなかったようだ。その代わり、普通の文面に裏の内容を載せて書き、手紙がユリアに渡ることを期待したそうだ。


 そして、ユリアはこの裏の内容を読み取り、万全の準備をして宰相の前にやって来た。後はユリアの行動予定通りに事が進行したようだ。


 まず、負傷して危篤状態の皇帝を、持参したポーションで正常体に戻し、皇帝と皇太子を解放した。


 ついで、皇帝と皇太子の威光を笠に着て、監視の衛兵や騎士たちをほぼ無抵抗化して縛り上げ、2国共同体交渉団の全員を解放した。


 最後に、ユリアは宰相と対峙して宰相の悪事を曝き、宰相の自爆的自白を引き出して皇帝に差し出した。


 なお、騎士団長は宰相に騙され(だまされ)て従っていたが、宰相の言い分の矛盾に気づき、自らの不明を恥じて投降した。


 そして、正常化された政権との交渉見直しが行われ、復興支援作業隊の優先順位第一が耕作地の土壌改良に変わっただけで妥結した。


 さらに、追加で重要な変更があった。東部乾燥地帯の所有者がユリアに変わった。現地作業隊の交渉相手はユリアになる。


 以上が、手紙の内容の要点だ。


 こうして見ると、全てはユリアが解読した手紙の裏の内容と、それに基づくユリアの行動予定の通りであった訳だ。東部乾燥地帯の譲り受けも含めてそうなのかも。


 まったく、皇帝と皇太子を引き連れて、他国の皇帝居城の中で大暴れする幼児など聞いたこともない。空想活劇の世界とは言い得て妙だな。


 ともかく、我々の真の目的である、かの国の東部乾燥地帯への立ち入りと蝗幼虫殲滅作戦作業隊の行動は承認された訳だ。後は、この作戦を成功させるよう、万全の準備をする事だ。ユリアも協力してくれるだろう。


 以上だ。質問や意見があれば受け付ける。」


 農林業担当責任者アグロフォーレが質問する。


  「食糧支援一切なしは、そのまま変更はなくてよろしいのでしょうか。」


 大公が答える。


  「その点に変更はない。宰相達一味が不法に溜め込んでいた食糧を放出して、秋蒔き小麦の収穫までなんとか持たせるようだ。」


 騎士団団長ウォーレルが確認する。


  「これで万一の事態はなくなったと見て、騎士団の即応態勢は解いてよろしいのですな。」


 大公が答える。


  「その通りだ。もはや、戦争に至る危険はなくなった。」


 次に会議に特別参加したメリデリンが質問する。


  「皇帝陛下の危篤状態に至るような負傷とはどんなものだったのでしょう?正常体に戻したとは含みのある言い方に聞こえますが。」


 大公が答える。


  「メリデリンよ。さすがに鋭いな。これは、重大過ぎるからわざとぼかしたつもりだったのだ。皆も他言無用だぞ。あくまでもアルチュールが宰相の自爆した話から推測したものだ。


 皇帝は火山弾で片腕欠損の重症を負った。そこから壊死が広がるのを専属医師がポーションで懸命に抑えていた。だが、そのポーションが底をついて危篤状態になった。


 そういう時にユリアが窓から入って来て超特級ポーションを専属医師に渡し皇帝に処方させた。皇帝は壊死が直るだけでなく欠損していた腕が元通りになった。これが正常体に戻したの意味だ。


 欠損部が元通り再生されるなど、それはもう伝説のエリクサーしか有り得ないだろう。ユリアはどこまて空想活劇の世界に入り込んでいるのだ。」


 それを聞いたメリデリンが喰い気味に言う。


  「皇帝陛下。わたくしをかの国に行かせて下さるようお願い申し上げます。もう一度ユリア師匠に師事して、エリクサーレベルのポーション製造技術を学びたく思います。」


 皇帝が言う。


  「メリデリンよ。お前のはやる気持はわかる。だが、ユリアももうすぐ戻るのではないか。戻ってからでも遅くはあるまい。


 それに、お前の作るポーションも、既に超特級の最上位レベルだというではないか。それとてエリクサーレベルかも知れないぞ。」


 メリデリンが熱を帯びて言う。


  「確かにおっしゃる通りかも知れません。でも、わたくしは、ユリア師匠が実際に調合されるところを見ておりません。自分の調合との違いを確認して学びたく存じます。


 それと、かの国の最高の薬師との技術交流も考えております。かの国の政権が正常化したいま、かの国が求める被災者医療体制の充実にも貢献し、底辺から友好関係を築くこともできます。いかがでございましょう。」


 皇帝が唸りながら言う。


  「うーむ。メリデリンはユリアに入れ込みすぎの気がするぞ。だが、そこまで考えているなら止めることはせぬ。存分にやって来い。」


 メリデリンが言う。


  「ははーっ。有り難き幸せにございます。さっそく仕度して行って参ります。」


 メリデリンは、ユリアに飛鳥便を出し、自分が行くから待っていてくれるよう頼み込んだ。





ーーー 場面は変わってシングラーツ王国ヴィルダー辺境伯家



 ダルビードは、待ちかねていたアルベルドからの続報の飛鳥便を受け取った。


 内容は、おもに4点であった。かの国で政変がありしばらく拘束監禁されたこと。皇帝が政権を取り戻し解放されたこと。正常化した政権と再交渉して大きな変更なく交渉妥結したこと。数日後には帰途に就くこと。追記でユリアが東部乾燥地帯の支配者になったこと。


 少し遅れてマジョルーサはユリアからの飛鳥便を受け取った。かの国の筆頭薬師が自分と瓜二つであるとだけ書かれていた。


 ダルビードは幹部達に招集を掛け、最新の情報の共有を図る。


 ダルビードが会議室に集まった面々に言う。


  「アルベルドからやっと続報の飛鳥便がきた。内容を皆で共有する。


 まず、かの国に着いて最初に交渉した政権は、宰相が皇帝の負傷に乗じて不当に政権奪取したものだった。そして、交渉妥結した直後に宰相により拘束監禁された。


 しばらくして、なぜかユリアが皇帝及び皇太子と共に現れて交渉団の皆を解放した。ガスゴーシュ卿が送った手紙の裏の内容をユリアが解読したことが決め手になったらしい。


 その後、正常化した政権と交渉妥結内容の見直しを行った。その結果、ユリアが組織したボランティア復興支援作業隊の作業優先順位一位が、耕作地の土壌改良に変更されただけで妥結した。


 なお、エドアルドは3名の騎士と1名の案内人とともに、東部乾燥地帯への行程の事前踏査に出掛ける。


 そして、ユリアは、ボランティア復興支援作業隊の指揮を副責任者に任せて、皇帝家の皇子皇女の心のケアや医薬統括部門の指導に廻っている。


 また、ユリアは、皇帝家への貢献と思われる報奨で東部乾燥地帯の支配権を得た。考えようによっては、ユリアは今後蝗害防止の責任を負うことになる。その意味では、これからは我々がユリアを支援する立場になるだろう。


 以上で報告内容の共有を終わる。


 これで、我々の当初目的の、かの国への入国と東部乾燥地帯への移動および蝗幼虫殲滅作戦の実行はすべて承認された訳だ。万全の準備をして蝗幼虫殲滅作戦を成功させ蝗害再発を防止するぞ。


 ここまでで何か、質問があるかな。」


 騎士団長メイヤールが挙手して質問する。


  「我が騎士団は、火魔法の火焔弾使いを始め多くの魔法使い作業者を出す事になっている。これは、今回限りにして貰えるのか、伺いたい。」


 ダルビードが答える。


  「それは保証は出来ない。ユリアは、蝗幼虫大発生の監視体制を整備するだろう。しかし、殲滅作戦まで自前で実施可能かは現時点では不明だ。


 蝗の発生自体は自然界の摂理であり、ユリアが無為であっても責めることは出来ない。蝗害の被害を受ける我々に応分の負担を求めて来たとして、我々はそれを安易に拒否出来ないだろう。」


 メイヤールが渋々引き下がる。


  「わかりました。毎年この季節になったら、蝗幼虫殲滅作戦の訓練を定例化することを検討します。」


 ダルビードが追加する。


  「メイヤール。ありがとう。農業担当や設備担当など蝗幼虫殲滅作戦に関わる部署も、翌年も要請が来たときの準備をしておいてくれ。」


 ヴィルムードが纏める。


  「これで情報共有は出来たと思う。皆で蝗幼虫殲滅作戦を成功させようぞ。」


 ここでマジョルーサが手を上げて言う。


  「蝗幼虫殲滅作戦とは関係ないけど、皆さんにお尋ねしたい事があります。


 ユリアが、わたくしにかの国の筆頭薬師がわたくしと瓜二つであるとの情報を飛鳥便で送って来たのです。わたくしには姉妹がいるという自覚がないのですが、どなたか、心当たりのある方はいらっしゃらないかしら?」


 ヴィルムードが渋い顔をして言う。


  「ユリアのやつ、余計なことをしてくれた。確かに、お前には双子の妹がいた。暗く思い出したくない出来事だ。


 その当時強い影響力を持っていた呪い師(まじないし)の指示で妹の方を森に捨てたのだ。その後、その赤子の消息は不明となった。今考えると、その呪い師は人買いの一味だったのかもしれない。いまさら捉えて咎める(とがめる)ことも叶わぬだろう。


 だが、ちゃんと生きていたのなら、不幸中の幸いとも言える。しかも、かの国の筆頭薬師にまでなっているのは大切に育てられた証であろう。


 其方はその事実を知って、どうするつもりだ?」


 マジョルーサがしっかりした顔で言う。


  「もちろん、会いに行きます。もうひとりの自分がいるような気がしてきました。違う人生を生きているもうひとりの自分が、わたくしをたやすく受け入れるとは思わない。だけど、薬師という共通分野でなら語り合えると確信しています。


 わたくしをかの国に行かせて下さるようお願い申し上げます。」


 ヴィルムードが言う。


  「そこまでいうなら、私に君を止める理由はない。ユリアが向こうにいる間の方が何かと都合がいいだろう。飛鳥便を送ってから行け。」


 マジョルーサが嬉しそうに言う。


  「はい。ありがとうございます。行って参ります。」





ーーー 場面はまた変わってオスムール帝国の皇帝居城内


 ユリアは野営基地の自分用テントで戦闘服のまま目覚めた。テントの外に出て洗面器に生活魔法で水を出して顔を洗い、共同トイレで体調を整えた。


 携帯食を簡単な調理で食べていると、外交担当補佐官が飛鳥便2通を持ってきてくれた。ユリアが独り言ちる。


  「あらら。二人とも応答が早いわね。えーと、これはメリデリン様からね。なになに。すぐに飛んでいきますからまだそこに居てくださいか。エリクサーレベルの超特級ポーションの調合を勉強したいですとな。帝都レパルナスの街からここまで馬車だと8日かかるけど、飛んでくるって何かな。


 次、えーと、こちらはマジョルーサ様からだね。ふむふむ。早馬を乗り継いでいきますので、まだそこに居てくださいか。妹に会わせていただきたいですとね。同じような文面だね。早馬乗り継ぎという分具体的で助かるわ。領都ヴィルドブルグからだと無理しない程度で7日くらいかな。


 お二人が同じころに到着する可能性があるってことね。これは旧知の先輩と後輩の出会いと、記憶にない姉妹の出会いが同時に起こるかも。


 こうしちゃいられないわね。早くメルカリス様に知らせてあげなくては。もう論文は読破している頃よね。調合実践まで言っているかしら。」



 ユリアは、朝食後、ハーブティーを煎れて一服してから医薬統括部門のサージクルス部門長室を訪ねた。


  「サージクルス部門長。おはようございます。ユリアです。」


 部屋の中から返事があり、ユリアは部屋の中に入った。


  「おはようございます。あっ。メルカリス様もいらしてたのですね。ちょうどよかったです。ここでお尋ねしてもよろしいですか?」


 サージクルスが答える。


  「いいですよ。どうぞ、この部屋を使ってくれて結構ですよ。」


 メルカリスが答える。


  「わたくしに御用なのですね。何なりとお尋ねください。」


 ユリアが確認するように言う。


  「はい。それでは。超特級ポーションの製造技術習得の進捗はいかがでしょうか。わたくしがお手伝いすることがありますか?」


 メルカリスが自信を持って言う。


  「そうですね。進捗と言えば大きな進展がありました。まず、論文はすぐに読み終えて、製造上で注意すべきところを理解いたしました。


 要点は、器具類は特級レベルの清浄度で浄化すること。撹拌魔力注入棒を両手で掴み左右の手から異なる魔力を放射すること。放射する魔力の量を極小まで絞ること。撹拌魔力注入工程の終わり時を色が黄色く変色し始めて1秒後とすること。以上ですね。


 今のところお手伝いいただくことはありません。」


 ユリアが納得して言う。


  「メルカリス様。素晴らしいです。ところで、魔法属性はどんなものをお持ちですか。」


 メルカリスが答える


  「わたくしは、火と光に属性があります。」


 ユリアが嬉しそうに言う。


  「それは素晴らしいですね。もう、わたくしが置いていったヒール草を用いて調合実践されましたね。鑑定して驚かれたでしょう。超特級グレードの上位レベルに到達したのではないですか?」


 メルカリスが驚いて言う。


  「えっ。どうしてご存知なのですか。わたくしはまだ何も報告していませんよ。そうですか。わたくしの緩んだ顔を見てお分かりになったのですね。その通りです。置いていってくださったヒール草の半分を使って5本の回復ポーションを調合いたしました。


 初めてのトライアルでちゃんと超特級グレードの、しかもその中でも上位レベルまで到達しましたのよ。残念ながら、最高レベルまでは至りませんでしたけど。却って、まだまだ挑戦したいという意欲がわいてきましたわ。


 そして、あの論文のすばらしさが理解できました。ちゃんと読めば第三者が調合できる程度に要点を漏らさず簡潔でありながら正確な表現で記載されていました。わたくしもあの論文の著者マジョルーサ様にお会いしたくなりました。」


 ユリアがしたり顔で言う。


  「すぐにお会いできますよ。マジョルーサ様は7日前後でここに到着されます。それと、もうおひと方。フランソワール帝国の皇帝専属薬師のメリデリン様もその頃到着されます。3か国の薬師様のサミット会合が実現しますね。


 メルカリス様は、ご自分の調合実績はもう十分です。あとは、市井の薬師様たちへの指導をして指導者としての実績を積まれるともう最高の薬師様ですね。これから5日間ほどを掛けて指導の実践をされたらいかがでしょう。


 原料となる薬草は高級のヒール草がなければ、中級や低級の薬草でもいいですよ。原料のクラスよりも2段階ほど上位クラスのポーション等級グレードに仕上がれば、高級原料を使用した場合には超特級グレードができます。ですから、市井の薬師様方も調合実践を積むことができますよ。


 これを経験すれば、あのお二方と対等の立場でお話ができます。ぜひともお考え下さいませ。


 それでは、これで失礼いたします。」





((レオニール様は立ち直りが早いんですね。いいことです。2国共同体交渉団の各国代表者はそれぞれの国に向けて交渉の見直し結果を速報されたのですね。メルカリス様も本当に優秀なのですね。マジョルーサ様とおんなじ顔だから当たり前?ですか。わたくしも、東部乾燥地帯の統治を形にしなくてはなりませんね。こうしている場合ではないのです。))


蝗害で被害を受けた2国では、かの国への入国や蝗幼虫殲滅作戦の行動を許可されてひと安心しました。少女の立場は東部乾燥地帯を治める国家元首として少し変わっていくようですね。それではまたお会いしましょう。

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