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89.少女は昼食会とお茶会で皇子皇女と議論する

少女はボランティア復興支援作業隊の作業進捗を確認してオスムール帝国騎士団有志を鍛えます。その後、皇子皇女たちとお茶会をします。

ーーー 場面はオスムール帝国皇帝宮城内


 ユリアは皇女二人とお茶会の約束をして晩餐会場を後にした。ミカリアの案内で客室に戻り、強い引き留めに応じてその夜は客室で就寝することにした。


 ミカリアがユリアを夜着に着替えさせながら言う。


  「今日は、一日中お仕事でお疲れになったでしょう。ボランティア作業隊の作業はユリア様のお手を離れたのですか?」


 ユリアが答えて言う。


  「はい。そちらは、もうわたくしがいなくても大丈夫です。文教部門からの古典語書籍の解読の仕事も、優秀な研究者や学生さん達に割り振りました。焼き肉パーティーもボランティアの皆さんと宮城職員の方々でうまくやって下さるでしょう。


 明日は、騎士団有志の120名の方々に魔法適用土木技術を伝授しますが、それも段取りを付けたら9名のボランティアの人達に任せます。


 あとは、皇女様方の心のケアですね。お茶会の約束をしましたから、お誘いがきたらすぐに対応します。すみませんが、その時にはまたドレスを準備して着付けをお願い致します。ダンスのステップを踏みやすい物がいいです。」


 ミカリアが少し嬉しそうに言う。


  「ええ。もちろんでございます。ユリア様はダンスもなさるのですか?」


 ユリアが恥ずかしそうに言う。


  「ダンスを踊ったことはございません。ただ子供用の2曲のステップを踏めるだけなのです。背丈が合う殿方がいらっしゃればいいのですが。」


 ミカリアが提案して言う。


  「それでしたら、タルベトス様はいかがでしょう。もうかなり背丈が伸びていらっしゃいますが、小さいご令嬢ともステップ幅を合わせて上手にリードされますよ。」


 ユリアが言う。


  「それは楽しそうですね。お茶会においで下さったら、お相手をお願いしてみます。もう眠くなりました。おやすみなさい。」




 ユリアは翌朝目覚めて、また戦闘服に着替えた。ミカリアに書き置きを残して野営基地に戻り、ここで作業隊の皆と一緒に朝食を食べた。作業隊責任者のイーアンから話を聞く。


  「イーアン、おはよう。昨日の土壌改良作業の進捗はどうでした?」


 イーアンが答えて言う。


  「師匠、おはようっす。昨日は初日にしては快調過ぎるくらいでしたっす。午前中3時間で約70ヘクタール、午後3時間で約70ヘクタール、合わせて1日で約140ヘクタール、つまり、約1.4平方kmを仕上げたっす。」


 ユリアが言う。


  「おーぉ。それは凄い成果だわね。わたくし達ボランティア作業隊だけで、全12日間で約17平方kmを完了出来るわ。オスムール帝国騎士団有志120名の40ユニットを明日から現場投入すれば、残り10日間で約56平方kmを完了出来る計算ね。


 控え目に見て合わせて70平方kmか。これは降灰被害を受けた耕作地面積の3割位かな。11月の秋蒔きに間に合うのがそれだけか。ボランティア作業隊の成果を否定するわけじゃないけど現実は厳しいね。」


 イーアンが言う。


  「仕方ないっすよ。師匠が嘆くことではないっす。先方の初めの希望は街の復興支援だったんすから。それと比べると雲泥の差だと思うっすよ。残りはオスムール帝国騎士団有志が頑張って春蒔きに間に合わせてくれますって。」


 ユリアが少し元気を取り戻して言う。


  「そうね。確かにその通りだわ。イーアンて優しいのね。これもひょっとしてメラニー効果なのかしら。お蔭様で元気が出ました。帝国騎士団有志120名40ユニットの特訓を頑張るわね。」



 ユリアは朝食後、ボランティア作業隊の交代要員9名と協力して、オスムール帝国騎士団有志120名40ユニットの魔法適用土木技術の特訓を行った。


 彼らは有志だけあって士気が高かった。また、ユリアが事前に作業実施方法の書き物を配っていたことも手伝って、午前中には魔力操作を覚え、午後の実践で皆十分に習熟していった。



 ユリアが午前中の魔力操作の特訓指導を終えて昼食を取ろうとしていると、外交担当補佐官が呼びに来た。


 宮城本殿内で、子供たちと一緒の昼食会から、そのままお茶会に突入する計画らしい。どうやら、子供達に余計な事を考える暇を与えず、早期に立ち直らせようという親達の配慮があるようだ。


 ユリアが客室でミカリアに言う。


  「ミカリアさん。さっそくお世話をお掛けすることになりました。皇女様方も色々と行事が続きますね。皇帝陛下と皇后陛下の、出来ることは全てしてやりたいという親心の表れですね。」


 ミカリアが着替えさせながら注意して言う。


  「ユリア様。何だか言い方が上から目線になっている気がします。お気を付けくださいませ。確かに、両陛下ともお忙しくて構ってあげられない分、ユリア様を頼って居られるのでしょう。ユリア様は、もはやどなたからも子供扱いされていませんね。」


 ユリアが言う。


  「いいえ。ただ一人、わたくしの仮の父親デイビード・ヴィルダーだけは、わたくしを歳相応の子供として見てくれます。ただし、ハンター資格ではもうわたくしの方が上なので、大概のことは放任で自由にさせてくれます。」


 ミカリアが案内しながら言う。


  「それはもう信頼の証でございますね。はい、着きました。ここがプライベートダイニングルームでございます。どうぞ、ごゆっくり。」


 ユリアが食事室に入ると、第二皇子タルベトス、第一皇女エスミリア、第二皇女ブレナリンが座って待っていた。彼らの席の少し後ろにはそれぞれメイド達が立っている。


 ユリアはすぐに遅れたことを詫びてユリア付きメイドが椅子を引いて勧めてくれた席に座った。タルベトスの隣の席でエスミリアの向かいの席だった。メイド達は、すぐに皿に料理を盛り付け始めた。


  タルベトスが開始の挨拶をする。


  「それでは全員揃ったところで昼食会とそれに続くお茶会を始めます。天の恵みをいただけることに感謝を捧げます。」

  「感謝を捧げます。」


 最後の言葉は全員で唱和することになっているらしい。ユリアは唱和しなかったが、誰も咎めなかった。


 ユリアは心の中で話した。


  「これは宗教儀式なのかしら。天とは何かな。自然界のことかな。恵みとは何かしら。はじめの作物か最後のこの食事か。感謝を捧げる相手は誰か。神様の類か、関わる人達か。色々と突っ込み所が満載だわ。


 関わる人達を考えると、この食べ物は、生産者としての農夫や猟師から、加工業者に渡り、流通業者を通り、お店の人が売り、下働きが買ってきて、料理人が料理して盛り付け、メイドが運んで食卓に並べられる。何か、偉い人達って実に多くの人達に感謝しなければならないわね。それを実践しているのだとすれば宗教儀式ではないね。


 その点、森で暮らしていた時は、自分で獲物を狩って自分で捌き自分で焼いて食べていたわ。いままで食べ物やその元になった物に感謝する考えはなかったな。感謝するとすれば食材を提供してくれる自然界とその食材をゲットした自分にだね。あ。調味料は別か。調味料の関係者には感謝を捧げますだわね。ともかく、この件は私に気付かせてくれたわ。これからは、食材の元になった物たちにも感謝しょう。」


 ユリアの向かいの席でユリアの様子を見ていたエスミリアが不審に思ってユリアに尋ねる。


  「ユリア。あまり食が進まないようですけど、何か心配事でもおありなのかしら?」


((あれれぇ。皆さんの心のケアをするつもりが逆に心配されちゃったわ。))


 ユリアが我に返り慌てて返事する。


  「あっ。エスミリア様。失礼致しました。先ほどの開始時に皆様が唱和されたのに、わたくしだけ唱和しなかったことが心に引っかかっていました。あれにはどのような意味があったのでしょう?」


 エスミリアが少し顔をほころばせて言う。


  「なあーんだ。あれのことですわね。あれはお父様に言われてやっているだけなのです。宗教や信仰とは関係ないのです。天と言っておけば神様に限らない森羅万象を想像するでしょう。恵みはわたくし達が食べる対象を指すのです。感謝を捧げる相手はこの食卓に載るまでに関わった全ての人達ですわ。つまり、わたくし達はそれらによって生かされていることを常に自覚するべきだと教えられてきたのです。」


 ユリアが少し納得した顔で言う。


  「そうだったのですね。納得いきました。ありがとうございます。エスミリア様。でも、何かひとつ感謝を忘れているような気がいたします。さて何でしょうか?」


 周りで見ているメイド達は、一番小さなユリアが後ろ盾もなく単独で行動し、大胆不敵な言動をするのにびっくりして顔を見合わせている。メイド達は皆、ユリアが何をした人物で何故このような場に呼ばれるのか事情は知っている。しかし、幼児の姿形に似合わない、皇女達と気安く話す話し振りと話の内容の特殊性に、ユリアという子供のあり得なさを改めて感じたのだろう。


 エスミリアが少し首をかしげて言う。


  「えっ。感謝を忘れているとおっしゃるの?何か一つ?言い方にヒントが有りそうですわね。感謝は普通は人に捧げますね。何かといったら食べ物しかありませんけど、その大元は植物と動物ですよね。そうですか。収穫される植物と、狩られる動物に対する感謝を忘れているとおっしゃりたいのね。


 確かにそれらは天の恵みとして天から与えられる物であって感謝の対象にはなっていないですわ。ユリアは軽い謎かけで聞きましたわね。だけど、これはとんでもない重大な問題ですわよ。お父様のおっしゃることを暗に批判しているのだもの。ユリアにはその自覚はおありなのかしら?」


 ブレナリンが疑問符いっぱいに言う。


  「エスミリアお姉さまとユリアは何を話していらっしゃるのですか?まるで口論でもされているように聞こえますわ。わたくしにも分かるように話して下さいませんこと?」


 タルベトスが笑い顔で言う。


  「まあまあ、みんな落ち着いて。ユリアは、食卓に載った料理の基になっている、収穫された植物や、狩られた動物などにも感謝を捧げるべきではないか、という問い掛けをしたのさ。


 そういう植物があったり動物がいたりすること自体は、確かに天の恵みではある。だけど、そういう物自身は別に食べられたくてそこにいたわけではない。


 収穫とか狩りという形で、望まずして命をとられ食材にされてしまった物たちのことを、僕達はどのように考えるのかと問うているわけだ。ブレナリン、理解したかな?」


 ブレナリンが一応理解した顔をして言う。


  「ありがとう存じます。なんとなく理解いたしました。わたくし達が感謝する対象は、神と呼ばれる存在を除外すれば、同じ人間しかありえないと思っていましたわ。これから食べようとする植物や動物にも感謝するなんてこと、感謝が伝わるはずもありませんから全くのナンセンスではないですか。」


 エスミリアが賛同して言う。


  「ブレナリン。よく問いかけの内容を理解しましたわね。わたくしも同じ意見ですわよ。感謝というものは伝わってこそ意味があるものと思いますわ。ましてや、植物のような聞く耳さえ持たないものにどうやって感謝を伝えるというのですか。」


 タルベトスが言う。


  「ユリア。エスミリアとブレナリンはそういう主張だ。君はどういう意図でそのような問いかけをしたのかな。明確な意図とか意見主張があるなら僕たちに教えてほしい。」


 ユリアが意を決して言う。


  「はい。分かりました。少し状況は違いますが、直近の例で考えると分かり易いかも知れません。皇帝陛下は、謁見の場で、わたくしが感謝を受け取らないと回答したにもかかわらず、わたくしに感謝するとおっしゃいました。つまり、感謝というものは、感謝する側の感情や思いで発するものであって、感謝される側の都合には必ずしも左右されないということです。


 わたくし達は、食材となる動植物の都合にお構いなく命を絶ち、わたくし達の胃袋に入れることで飢えないでいられます。それらの動植物は、いわば、わたくし達に命を捧げてわたくし達を生かしてくれたのです。人の生存や存続に対してこれ以上の貢献があるでしょうか。


 わたくしは、この動植物の貢献を当たり前と思わず、また感謝が届かないと分かっていても、感謝の対象とすべきではないですかと問いかけているのです。」


 タルベトスがユリアの言うことを理解して言う。


  「なるほど。ユリアの意見主張には十分な理由があると理解した。食べるという行為は、確かに食材となった元の生き物の命を奪い、自分の命を繋ぐことだな。だから食事する前に、命を捧げてくれた生き物にも思いを馳せて感謝を捧げるべし、とユリアは主張するわけだ。」


 エスミリアが言う。


  「聞いてみますと、確かに、わたくしもユリアが感謝を受け取らないと言っても感謝しましたし、今も感謝しています。この感謝の心情の発露はユリアの都合には関係なくわたくしの思いから出たものですわ。


 ユリアの場合はわたくし達を解放したという行為でわたくし達の命を繋いでくれました。食材の場合はわたくし達に食べられることでわたくし達の命を繋いでくれています。どちらもわたくし達の命を繋いでくれた点では同じ事ですわ。一方の人間には感謝して他方の動植物には感謝しないというのも、おかしいということはできますわね。」


 ブレナリンが言う。


  「ユリアの言うことも一理あると理解しましたわ。感謝の心が伝わらなければ感謝する意味がないというのは、わたくしの不明から出た極論でしたわ。主張を取り下げます。」


 タルベトスが場を収めるように言う。


  「ユリアの主張は、僕から父上に話してみるよ。父上がどのように受け取るか分からないけど、食事前の感謝を捧げる対象が増えるかもしれないね。エスミリアもブレナリンも、それはそれで納得できるだろう?それでは、この議論はこれで終了としよう。早く昼食を食べてお茶会に突入するよ。」


 周りではらはらして聞いていたメイド達も、収拾がついたことにほっと安堵して給仕に専念し始めた。


 ユリアが言う。


  「タルベトス様、エスミリア様、ブレナリン様。有益な議論をありがとうございました。ところで、タルベトス様。わたくしは、エスミリア様からダンスのステップを踊ってみせるように言われています。ステップだけではつまらないので、よければ、わたくしと踊っていただけないでしょうか。


 背丈は全然合いませんし、曲も子供向けの2曲だけです。でも、タルベトス様は小さい子供相手でもステップの幅を調整して上手にリードしてくださると伺っております。わたくしの方も、意識してステップ幅を大きくして体の動きを大きく見せるように踊ります。


 女性の側からダンスをお誘いするのは憚る(はばかる)べきとは存じておりますが、お茶会の余興にでもいかがでしょうか?」


 タルベトスが嬉しそうな顔で言う。


  「もちろんお受け致しますよ。ユリアからお誘いいただけるなんて、とても光栄なことだからね。2曲だけといわず、エスミリアやブレナリンが踊るのを見て覚えたら、それも踊ってみると楽しいだろうね。」


 ユリアがほっとして言う。


  「タルベトス様。ありがとう存じます。」



 昼食会が終わって、お茶会前の団欒の時間となった。


 タルベトスが会話の口火を切った。


  「ユリアはシングラーツ王国の出身だと聞いたけど、オスムール帝国語がスムーズに話せるね。どうやって訓練したんだい?」


 ユリアが答えて言う。


  「はい。わたくしの仮の父親にフランソワール帝国語で書かれた書籍を買って貰い、それを読んでいく過程で単語の意味や綴りや発音を教えてもらいました。オスムール帝国語は、フランソワール帝国語のご親戚ですので、異なる部分だけ覚えればマスター出来ました。」


 ブレナリンが驚いたように言う。


  「読むといってもユリアはまだ6様でしょう。シングラーツ王国語はその前に読み書き出来ていたとおっしゃるの?」


 ユリアが答える。


  「はい。村の教会の神父様が子供教室を主催して、読み書きや計算を教えて下さいました。その中には、シングラーツ王国語の物語本や教養本があり、古典語の書籍も有りました。」


 エスミリアが驚愕して言う。


  「ユリア。まさか、貴女、古典語も読めるとはおっしゃらないでしょうね。」


 ユリアが端的に言う。


  「はい。古典語も読めます。そもそも、ここに来る目的も、古典語書籍の中に、蝗の大発生は数年繰り返す可能性がある旨の記載があったからなのです。


 なお、古典語書籍に関しては、文教部門で数百部を保有されているようです。文教部門のリテラルス様からそれら古典語書籍の解読を依頼されました。でも、研究所や大学の研究対象の物だったので、そこの人達に解読対象を割り振るだけに止めました。」


 タルベトスが言う。


  「僕達は、古典語はまだだけど、シングラーツ王国語は習い始めで、フランソワール帝国語も学習中なのだ。いくら親戚語とは言え異なる部分は相当数あるだろう。何かいい学習教材がないかと探しているのだよ。ユリアが買って貰ったというフランソワール帝国語の書籍はどんな物だったのかい?」


 ユリアが収納魔法から7冊の分厚い書籍を取り出してテーブルの上に置いた。


  「これでございます。」


 タルベトス達3人とメイド達4人は、急に出てきた分厚い書籍を見てびっくり仰天した。


 タルベトスが言う。


  「ユリア。い、いまどこから出したんだい?き、君は収納魔法持ちなのか。」


 ユリアが端的に答える。


  「はい。そうでございます。」


 エスミリアが書籍を捲って言う。


  「この本、少し分かる単語もあるけど何が書いてあるのかさっぱり理解できないですわ。一体、どんな人が読む本ですの?」


 ユリアが言う。


  「フランソワール帝国の大学の講義で使われる参考書らしいです。ご入り用ならお譲りいたしますわ。」


 タルベトスが言う。


  「いや。遠慮しておこう。ユリアの好意だけ受け取っておくよ。我が国にも大学はあるし、類似の書籍もあるはずだと思う。今の僕達にはまだ早過ぎる内容のようだしね。」


 ユリアが言う。


  「失礼でございますが、皆様方の一般教養や皇子皇女としての指導は、家庭教師が担っているのですか?」


 タルベトスが答えて言う。


  「いや、そうではない。僕達ひとりひとりに侍従か侍女がついて教育計画を立て、父上母上の承認を得て教育過程を進める。実際の教師は科目に応じて大学の講師や騎士団の部隊長クラスが務める。淑女教育の教師は伯爵夫人あたりだね。」


 ユリアが言う。


  「そうなのですね。ご学友というお友達は、いらっしゃらない訳ですね。競い合って切磋琢磨すれば学習進度が上がるのではないかと思いましたが。」


 タルベトスが言う。


  「兄上には今の僕くらいの年齢まで学友と競い合う教育形態があったのだ。だけどあの宰相が就任して以来、有力貴族の多くがあらぬ嫌疑で失脚させられた。そのため、同年代の学友がいなくなったのさ。


 まあ、僕は第二皇子だし、そこそこ勉強して兄上の補佐なり婿入りするなりどうにでもなると思っているよ。」


 ユリアががっかりしたように言う。


  「タルベトス様。なんだか投げやりで覇気が感じられませんね。もっと前向きに生きましょうよ。貴方には、皇太子殿下が皇帝になられた折には、大公殿下として皇帝陛下を支える道が開けているのですよ。あの宰相達が残した領地を纏めあげて大公領地として治めるのです。それでこそ盤石なオスムール帝国となりましょう。


 なんなら、学習意欲を刺激するために留学などなさったらいかがですか?わたくしがご紹介できる国主レベルはフランソワール帝国の皇帝家か大公家ですが、領主レベルならアリースソン伯爵家、ヴィルムード辺境伯家などありますよ。」


 タルベトスが気圧されて身構えるように言う。


  「ユリア。君は何故そんなに前向きで人をぐいぐいと引っ張って行こうとするのだ。僕は幸運にも君に助け出されて生きながらえた。さっきはああ言ったけど今後の人生をどのように生きていくかは、まだ決めあぐねているのだよ。少しそっとしておいてくれないかな。」


 ユリアが言う。


  「分かりました。申し訳ございません。どのように生きていくか決まっていないのは、ここに居る4人ともみんなそうだと思います。まだ大人ではないし職業にも就いていないから当たり前ですよね。


 今、わたくし達の前にはいくつかの可能性があると思います。今ある可能性から選ぶか、もっと違う可能性を探して選ぶか、じっくりとお考え下さいませ。」


 ブレナリンが確信したように言う。


  「わたくし、ユリアのことが少し分かったような気がしますわ。ユリアは、学問的な知識とかそれを実践する技術力と、物事の理解力やひとを見る目も既に完成レベルにあるのよ。


 だから、わたくし達のような子供を見ると、将来の可能性が見えて上から目線で大人のような話し振りになるのだわ。わたくしは、今度ユリアから上から目線で言われたらしっかり聞いてアドバイスに従ってみるわ。」


 エスミリアが言う。


  「うーん。ブレナリンの言う通りかも知れないわね。でも、わたくしの場合はプライドが邪魔しそう。


 と言ったところで、皆様方。お待ちかねのお茶会の時間でございますわよ。メイドさん達は、さっきから準備万端の状態です。先ずは、お茶を一杯いただいてから感想を披露し合う聞き茶の余興など、いかがでしょう。」


 タルベトスが気を取り直して言う。


  「聞き茶と聞いて僕も元気が出たよ。僕の感想を聞いて驚かないように気をつけてくれたまえ。」


 ブレナリンが膨れて言う。


  「タルベトスお兄様もエスミリアお姉様も、聞き茶のご経験を豊富にお持ちなんですもの。わたくしが一番未熟で不利な立場ですわ。あっ。ユリアはどうなのかしら?」


 ユリアが言う。


  「わたくしは、聞き茶は2回しか経験がございません。多分、わたくしが一番の未熟者ですわ。」


 エスミリアが言う。


  「ユリアの場合、ブレナリンが言う知識がお茶の味わいにまで及んでいるかが勝負の分かれ目だわね。さあ。どなたからご披露なさいますか?」


 ブレナリンが手を上げて名乗り出た。


  「はーい。こういうのは、早く言った者勝ちですわ。二番煎じではインパクトが弱くなりますもの。ふーん。これはかなり甘い香りの中に微妙な花の香りがしますわ。味わいはお口の中を刺激する渋みが爽快感を残します。銘柄はドルージェンではないかしら。」


 エスミリアが言う。


  「はい。ありがとうございました。ブレナリン様は銘柄をドルージェンと推定されました。次は、タルベトス様ですね。どうぞご披露くださいませ。」


 タルベトスが言う。


  「はい。うーん。これは芳醇な花の香がわずかな刺激を与えてくれる。味わいは苦さと渋みが主張し合いつつも調和してまろやかさを出している。この銘柄はディーンプルだな。」


 エスミリアが言う。


  「はい。ありがとうございました。タルベトス様は銘柄をディーンプルと推定されました。次は、ユリア様です。どうぞご披露くださいませ。」


 ユリアが言う。


  「はい。あっ、これは。少し鋭く鼻腔を刺激する甘い酸味系の香りが、本来の芳醇な香りと重なり合って安らぎを与えてくれる風味となっています。一口含んだだけでその風味が鼻腔内でさらに爽快に広がります。そのあと茶葉のコクと渋みが長く余韻を残してくれます。この銘柄はカウントシルバーですね。」


 エスミリアが言う。


  「はい。ありがとうございました。ユリア様は銘柄をカウントシルバーと推定されました。次はわたくしエスミリアの番です。それでは。うーん。高貴な花のような上品な香りがします。少し香ばしい果物の香りが落ち着きを与えてくれます。味わいはまろやかですっきりとした甘みが広がります。銘柄はシーモントだと思います。


 はい。最後の挑戦者エスミリアは銘柄をシーモントと推定しました。4人とも異なる銘柄を上げましたが、この中に正解者はいらっしゃるのでしょうか。メイドの方たちに正解を発表していただきましょう。」


 メイドの一人が前に出て、茶葉の入った瓶を掲げ、ラベルの銘柄を示して言う。


  「はい。正解の方がいらっしゃいます。その方は、ユリア様です。おめでとうございます。」


 エスミリアがびっくりして悔しそうに言う。


  「えーっ。なんと。正解者はユリアでした。当てられなかった3名は残念賞です。それでは、正解者のユリアに聞き茶の秘訣を伺ってみましょう。ユリア、勝者の弁をどうぞ。」


 ユリアが嬉しそうにまた悪戯っぽく言う。


  「はい。残念ながら秘訣はありません。わたくしが経験した2回の聞き茶で出されたものがすべてカウントシルバーでしたので、香りや味わいを覚えていたというだけのことです。ちなみに、わたくしは他の銘柄のお茶を頂いたことがありません。」


 タルベトスが言う。


  「ユリア。君は幸運の女神に祝福されているのだな。たまたま開催したお茶会の聞き茶で、すべて同じ銘柄が出題されるのは相当に小さい確率だと思うよ。さすがにユリアだけのことはある。


 さて、次は楽しいダンスの時間だな。ユリア。お手をどうぞ。こちらの広いスペースで思い切りステップを踏んでもいいですよ。僕がしっかりとリードいたしますので。」


 ユリアが言う。


  「タルベトス様。よろしくお願いいたします。初めて殿方のリードで踊ります。ブレナリン様。鍵盤楽器の演奏をお願いします。子供用の最初の2曲を続けていきます。それでは。」


 ユリアはタルベトスが狭くしてくれたステップに合わせて、自然な幅よりも大きくステップを踏み、体の動きも大きく見えるように踊った。


 次に、エスミリアがブレナリンの鍵盤楽器演奏に合わせてタルベトスと踊った。これは、12歳前後の令嬢向けのワルツ曲らしい。ユリアはこの曲のステップと体と腕の動きをつぶさに見て記憶した。


 次は、ブレナリンがユリアの鍵盤楽器演奏に合わせてタルベトスと踊った。こちらは9歳前後の令嬢向け曲で、子供用最初の2曲よりも少し高度なステップと振付であった。ユリアは素早く楽譜を記憶してブラインドタッチで演奏しつつ、ブレナリンのステップと体と腕の動きをつぶさに見て記憶した。


 ユリアは、少し疲れ気味のタルベトスに頼み込み、エスミリアが踊った曲とブレナリンが躍った曲の両方を踊ってもらった。ユリアは、両方ともコピー元と同じ程度に完璧に踊って見せた。タルベトスは、小さいご令嬢?相手でもステップを合わせて上手にリードしてくれた。ユリアの踊れるダンス曲はこれで4曲となった。





((少し議論が白熱しちゃったかな。お食事を頂く前の口上もそうだし、お勉強の話も、将来に向けての話も。でも、お茶会の聞き茶の題材はカウントシルバーしかないのかしら。ただの流行ですよね。


少女はお茶会の聞き茶でこれまで全勝ですね。ダンスも空ステップではなく殿方のリードでうまく踊れました。残る仕事や行事は少なくなりました。でも、既にいただいてしまった東部乾燥地帯をどうするんですかね。それではまたお会いしましょう。


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