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86.少女は宮城内で戦う

少女は次に2国共同体交渉団の面々の救出と宰相一味の討伐を実行します。

ーーー 場面はオスムール帝国皇帝宮城内


 ユリアは皇帝と皇太子を見て作戦開始を宣言する。


  「さあ。討伐共同戦線の作戦開始です。初めにドアの鍵を焼き切ります。」


 ユリアは左手に持ったワンド2本の先から細い火焔棒を放射してドアの鍵を焼き切った。ドアを開けてユリア達3人が同時に廊下に出た。ユリア達は、ドアから離れて警戒している騎士3人と対峙した。


 ユリアが言う。


  「あなた達。このお二人を知っているわね。大人しく降伏しなさい。抵抗しなければ罪には問わないわ。少しでも抵抗したら反逆罪で家族全員処刑されるわよ。どうする?」


 3人の騎士達は、二人を見て驚き、互いに顔を見合わせて頷き合ったあと、全員が剣を捨てた。そして片膝をついて跪き、儀礼の姿勢で代表のひとりが言う。


  「わたくし達3人は降伏いたします。抵抗はいたしません。保身のため宰相一味に従ったことを悔いております。」


 ユリアは即座に3人の騎士に縄をかけて縛り上げた。彼らは、再び宰相一味に取り込まれないように、部屋の中で専属医師達に監視されることになった。


 皇帝と皇太子は、ユリアの手際の良い立ち回りと処置を見て、互いに唖然とした顔を見合わせた。


 皇帝が言う。


  「ユリアはこのような作戦行動に習熟しているのか?相当な場数を踏んだ手練れの仕事ぶりだったぞ。」


 ユリアが言う。


  「いいえ。対人戦で立ち回るのはこれが初めてです。実戦に入る前に場面を何通りか想定して、相手の出方によって対応の仕方を選択しています。」


 皇太子が言う。


  「とても子供の言うことには聞こえない。ハンター資格1級保有者ならば皆そうなのか?」


 ユリアが言う。


  「他の人達がどのように戦うかは知りません。今回は、予定通りお二人のご威光を笠に着るという姑息な戦法ですが、対人戦には最も有効な選択です。ほとんどの場合、戦闘には至りません。


 さて、作戦の次の行動に移ります。廊下の突き当たりの階段を1階まで降りて、左方向の廊下を進んで突き当たりで半地下に降ります。1階の廊下を進むときに文官や騎士に遭遇するでしょう。その戦法も今のと同じです。」


 皇帝が言う。


  「分かった。行くぞ。」


 ユリア達3人は1階まで降りて廊下を進んでいると、予想通り重装備で槍を手にした5人の騎士達に行く手を阻まれた。


 ユリアが一歩前に出て言う。


  「あなた達。こちらのお二人をご存知ですわね。畏れ多くも皇帝陛下と皇太子殿下ですよ。抵抗を止めて降伏しなさい。少しでも抵抗したら反逆罪で一族郎党全員の処刑は免れないわよ。」


 すると、先頭の騎士がユリアに狙いを付けて槍を構え、突き出す姿勢を取ろうとした。


 ユリアは、間髪を入れず、左手に持った2本のワンドを相手の槍を持つ手に向け、細い火焔棒を放射した。同時に、右手に持った2本のワンドで相手の目の前で火焔膜を出現させた。対人戦で初めての実射である。


 ユリアの実射を受けた騎士は、たまらず槍を手放し両手で目を覆った。ユリアは、相手が無防備になったところで素早く相手の手足を厳重に縛り上げ身動き出来なくした。


 ユリアの一連の動作を見ていたほかの4人の騎士は、すぐさま槍や剣を投げ捨て、片膝をついて跪き恭順の姿勢を取った。ユリアはその4人も纏めて縛り上げた。


 皇帝と皇太子は、ユリアの戦闘を初めて目の当たりにした。二人とも驚愕して目を丸くしている。


 皇太子が喰い気味に言う。


  「ユリア。今のは何だ。突然火の棒と火の膜が現れたぞ。あれがユリアの言っていた火焔棒なのか?」


 ユリアが答えて言う。


  「はい。槍から放射する火焔棒の応用版で片手火焔棒と片手火焔膜です。どちらも虚仮威しの威力しか有りませんが、1対1の戦闘にはこれで十分です。」


 皇帝が言う。


  「なるほど。ユリアは合理的な考え方の持ち主だな。だが、今の魔法は何だか詠唱もなくいきなり発動したように見えたが、実際どうなのだ?」


 ユリアが言う。


  「はい。その通りです。詠唱は必要ありません。2国共同体の国には声に出す詠唱を必要とする者はほとんどいません。」


 皇帝が嘆きの表情で言う。


  「何と言うことだ。我が国の魔法は詠唱を基本としている。それは世界の魔法界の趨勢(すうせい)から遅れていることなのか?うーむ。この困難な時期を乗り越えたら、魔法技術の抜本的改革を行う必要があるな。ユリアも手伝ってくれるのか?」


 ユリアが答えて言う。


  「いいえ。申し訳ございません。わたくしは直接にはお手伝い出来ません。まだ幼児でございますし、自分の好きなように生きていますので。でも、どなたかを指導してわたくしに代わる先導者に育て上げることは出来ます。」


 皇帝が言う。


  「そうか。まあ、まだ数年先の話だ。ユリアが早く成長することを期待している。それより、廊下の先から3人の騎士がこちらに向かって来るぞ。どうする?」


 ユリアが言う。


  「また、お二人のご威光をお借りいたします。そこの騎士達、止まりなさい。こちらのお二人を前にして騎士の礼を失する行為ですよ。無駄な殺生はしたくありません。抵抗せずに降伏しなさい。」


 それを聞いた3人の騎士達は、互いに顔を見合わせて直ぐに武器を捨て、片膝をついて跪き、恭順の意思を示した。


 ユリアは、この3人については縛り上げることをしなかった。ユリアは3人の騎士に命じて言う。


  「あなた達、半地下の幽閉部屋に案内しなさい。」


 ユリアは3人の騎士達の後を付いていき、最初の幽閉部屋の前に立った。騎士の一人が鍵を開けてドアを全開した。


 ユリアは出入口の正面に立って部屋の中の様子を見た。部屋の中には8名が立って出入口を注視していた。ユリアは中央に立っているガスゴーシュと目が合った。


 ユリアが言う。


  「お待たせ致しました。ガスゴーシュ様。皆様も。こちらのお二方が皇帝陛下と皇太子殿下です。ほかの部屋の方々も解放しますので、廊下で少しお待ち下さい。」


 ガスゴーシュ達は、皇帝と皇太子に挨拶して話し始めた。


  ユリアは3人の騎士を連れて行き、残りの2部屋の人達を解放した。その中にはアルベルドとボタニナスもいた。


 ユリアが言う。


  「アルベルド様。お待たせ致しました。お元気そうで何よりでございます。エドアルド様も同行されていますよ。」


 アルベルドが廊下に出て来て言う。


  「遅いぞ。待ちすぎて痺れが切れた。私がせっかく食糧支援一切無しを勝ち取る提案をしたというのに、何をぐずぐずしていたのだ。」


 ユリアが顔をぱっと明るくして言う。


  「さすがアルベルド様です。交渉で食糧支援一切無しがすんなりと受け入れられたことが、宰相一味の国家転覆劇を疑う決め手になりました。確実に彼らを倒すための準備に少し手間取って遅くなりました。申し訳ございません。」


 ユリアの後ろで聞いていたガスゴーシュがユリアに言う。


  「おーい。ユリア殿。私が送った手紙は読んでくれたのでしょうね。」


 ユリアは遮るように言う。


  「もちろんでございます。直ぐにわたくしに宛てられた手紙だとわかりました。裏に書かれた内容も全部理解出来ました。宰相が国家権力不法奪取の大悪人であることですよね。それと、皇太子殿下がご一家の方々を人質に取られて言いなりにされていることも。


 そして、気を許せる相手が次官のお二人だけであることも。さらには、わたくしがあらぬ嫌疑で拘束され監禁されることも。全部分かり易く書いてありました。さすがにガスゴーシュ様です。」


 ユリアの話を聞いて、ガスゴーシュは満足した顔をした。一方、シングラーツ王国側の共同代表のフリンゲルや補佐役のアルベルドらは意味が分からずにユリアに聞く。


  「あの手紙の裏には何も書かれていなかったはずだ。ユリア。どこをどう読めばそんなことが理解できるのだ。」


 ユリアは、澄まし顔で言う。


  「申し訳ございません。もうすぐ、その大悪人の宰相様がお越しになりますから、皆さんこの場を離れましょう。戦いの場はもっと広くて観衆が多く集まる場所が相応しい(ふさわしい)ですよね。」


 ユリア達3人と救助された24人は、3人の騎士達を護送しつつ1階のホールに出て来た。



 そのホールには、既に宰相一味が勢ぞろいして待ち構えていた。


 宰相、外交担当長官、若干の官僚たち、騎士団長と50人程の騎士達が、ユリア達を取り囲むようにズラリと並んで立っていた。


 宰相が不敵な悪人顔で言う。


  「おう。これはこれは。皇帝陛下に皇太子殿下も。お揃いでどちらにおでかけですかな。火山噴火災害からの復興という皇族としての責務を放置したことは国家に対する大罪ですぞ。


 おやおや。そこの豆粒のような子供は、不法なドラゴン狩りの罪人ではないですか。さらに牢破りの罪科が加わりましたな。もっとも、その前に私を愚弄した大罪で公開処刑が確定していますがね。


 さて、皇族方とそこな子供、罪状は明白である。大人しく縛に就くがよい。抵抗しても無駄なこと。ここに居並ぶ騎士団長以下の騎士達を見れば分かるであろう。」


 ユリアが一歩前に出て拡声器魔法を掛けて言う。


  「だまらっしゃい。悪人面した本物の大悪人たる宰相よ。今の其方が申した罪科はそっくり其方自身のものであることは、其方を含めたここに居る全ての人達の知るところである。其方の罪科を改めてここに述べる。反論あれば証拠と証人を立てて申し述べよ。


 ひとつ、其方は、皇族方の命により復興の全体指揮を執るべき任にあるところ、皇族方の命令権を不当に奪取しこれを全うしなかったばかりか、皇族方を不当に幽閉監禁した。

 ふたつ、其方は、火山噴火被害からの復興を、それに当たる人材をでっち上げの罪科で投獄することにより妨害した。 

 みっつ、其方は、国家の財産としてわたくしが提供したアースドラゴンを不正に私物化し横領した。

 よっつ、其方は、わたくしをでっち上げの罪科で捕縛して不当に拘束し監禁した。すなわち、アースドラゴンを討伐したのはダンジョン外であるから国の許可は不要、わたくしはハンター資格1級保有者であるから資格ありとなるところ宰相は調べもせずに有罪と認定した。


 皆様。特に騎士団長以下騎士団の皆様。いまの話を聞いてなお宰相を支持するという人達には、復活された皇帝陛下が直々にお仕置きされるでしょう。


 なお、宰相の相手はこのわたくしが務めます。彼によるとわたくしはかれの手で公開処刑されるそうです。対するわたくしも、わたくしを不当に拘束し監禁した彼を、わたくし自身の手で処罰しなければなりません。」


 ここで皇帝が前に出て大声で話す。


  「ということだ。私が誰か、皆分かるな。宰相レルムンド・ド・ヨグメリア、いまユリアが挙げた罪科に対して申し開きが有れば証拠と証人を立ててここで述べよ。あきらかにでたらめとわかる話は許さん。即刻有罪確定とするに十分な理由だからな。」


 宰相は特に有効な反論を見出せず、支離滅裂な論理で自爆する。


  「何を言うか。皇帝陛下の名を騙る偽物風情が。私を愚弄すると貴様も公開処刑だぞ。皆、あの右腕を見ろ。右腕が有ること自体、彼が偽物である動かぬ証拠だ。騎士団長、なにをしている。早く奴らを捕縛しろ。抵抗すれば武力を行使しても構わん。」


 騎士団長のエルネスト・ド・オスムールは、それまで兄の皇帝クミルトス・ド・オスムールが右腕を失ったなどと聞いた事がなかった。右腕が有ること自体は当たり前であるのに、なぜ当たり前のことが偽物の証拠になるのか理解が及ばない。


 騎士団長は、宰相が、兄が右腕を失った事実を知っていたのなら、なぜ隠す必要があったのか懸命に頭を巡らせて理由を探った。


 そして、宰相の初めの言い分、すなわち、皇帝が自己の責務を放置していたという糾弾は、皇帝が健全な健康体でなければ成立しないことに思い当たった。病や怪我で伏せっていては元々正しい政務が取れるはずがない。


 騎士団長は、宰相が時期を見て職務放棄の理由で皇帝に政権交代を迫る計画であったと確信した。この時点で、騎士団長が宰相一味と袂(たもと)を分かつことが決定した。


 騎士団長が言う。


  「宰相レルムンド・ド・ヨグメリア、私は其方の部下ではない。私の行動は、私自身の判断と、皇帝陛下の直接下命によってのみ決定される。其方が皇帝陛下に弓引くというなら、私は其方を反逆者として制圧する。」


 宰相は、いよいよ追い詰められて自暴自棄の状態になる。


  「エルネスト。貴様ぁ、私に盾突くというのか?皇帝になる希望を与えてやったのに自ら放棄するかぁ。こうなればもはや道はひとつしかない。私が自ら皇帝を倒す。私を制圧するだと?笑わせるな。たったの50騎で私の火焔弾にどう立ち向かうというのだ。行くぞ。炎の元素よ、われの元に濃く集まりて・・・」


 詠唱の途中でユリアが割り込んだ。


  「宰相。貴方の相手はこのわたくしよ。詠唱を始めたということは反逆の意思確定ですね。わたくしを不当に拘束し監禁した罪で貴方をわたくし自身の手で処罰します。わたくしの大義名分は、わたくしがハンター資格1級の保有者であることで正当性が保証されています。それでは行きますよ。腰を抜かしたりお漏らししないでくださいね。」


 ユリアは、両手にそれぞれ2本のワンドをもち、詠唱中で両腕を広げた宰相の手に向けてダブル片手火焔棒を放射した。2本の火焔棒は宰相の両手の掌(てのひら)を一瞬で貫通して小さな孔を開けた。


 宰相は詠唱どころではなくなって、しゃがみ込んで両手の激痛に顔をゆがめていた。そこに、騎士団長が来て宰相を捕縛した。外交担当長官コルネイ・ド・フォルケスはそれを見て、抵抗することなく縛についた。


 騎士団長エルネストが皇帝の前に跪いて言う。


  「皇帝陛下。わたくしは騎士団長の任にありながら宰相の口車に乗せられて、いいように操られていました。この罪は申し開きのしようがありません。陛下の御裁定に従いますのでこの身を捕縛監禁してください。」


 皇帝が言う。


  「よく言った。エルネストよ。裁定は後日言い渡す。自ら過ちに気づいて反逆者の捕縛に至ったことに免じて自宅軟禁を命ずる。騎士団より5名が監視につくものとする。行け。」


 皇太子が言う。


  「陛下。これで国家転覆勢力の討伐共同戦線の大勝利確定ですね。でもこれから国家運営組織の立て直しが大変でございますよ。」


 皇帝が言う。


  「何を言う。お前には、既にこうなった後の素案ができているのであろう?それをベースにすれば簡単に済むのではないか。復興がここまで遅れたのは、確かに火山弾に倒れた私の責任が大きい。これから急ピッチで復興にまい進するぞ。覚悟はいいな。」


 皇太子が答えて言う。


  「もちろんでございます。早速ですが、ボランティア復興支援作業隊から優先度見直しの協議提案が来ています。わたくしが議長を務め、内政担当長官ライアン・ド・エフレイン、次官イスタラム、建設土木部門長デモルカス・ド・コンストレイらを集めて、作業隊のエドアルド殿および2国共同体交渉団のボタニナス農業専門文官と協議を進めて行きますので、ご承知おきください。」


 皇帝が頼もしい息子を見て言う。


  「おう。緊急を要する復興作業の進行管理は頼んだぞ。私は、本件が国際問題化するのを回避するため、まず2国共同体交渉団への非礼を詫びて友好の晩餐会を開催する。ついで、改めて交渉内容の確認や見直しが必要な部分を洗い出し、双方に利益をもたらす実りある交渉とするつもりだ。」


 ユリアが言う。


  「皇帝陛下。わたくしは少し仮眠を取りますので、昨日監禁されていた部屋を貸してくださいませ。」


 皇帝が言う。


  「おっと。ユリア殿。気が付かなくて申し訳ない。最上級の客室に案内させるから侍女に付いていってくれるか。今晩の晩餐会に参加してもらいたい。」


 ユリアが言う。


  「皇帝陛下。お願いがあります。元のようにユリアと呼び捨てで呼んでください。それと、宮城の外に臨時の食肉配給所を作ってください。ここに来るときに狩った鹿32体と狼6体と、宰相邸から取り返すアースドラゴン1体があります。特に、難民を中心に配給をお願いします。それと、たぶん、宰相および外交担当長官の帝都邸宅か領地邸宅には山のように食糧が集積されているはずですから、それを押収して難民対策としてください。」


 皇帝が言う。


  「おう。分かった。ユリア殿。あ、ユリア。君はまるで伝説に言う聖女のような人物だ。私の命を助け、難民にも心を配る。君のおかげでどれだけの人々が救われることか。心より厚くお礼申し上げる。」


 ユリアが言う。


  「皇帝陛下。お礼は不要です。わたくしがやりたいようにやっただけのことです。ところで、わたくしの人物描写はここでも聖女ですか。わたくしの聖女という存在に対する認識は、儚げで過重労働を強いられるかわいそうな女性なんですが、そんな風に見えますか?」


 皇帝が言う。


  「ユリア。君は聖女という存在に対する認識を改めた方がよい。聖女は自発的か強制されてかには関係なく、人々に無償の恵みを与えて周る(まわる)行動をする女性のことを言うのだ。まさに君のことを言っていると思わないかね。」


 ユリアが言う。


  「なるほど。でも、わたくしの場合、無償とは限らない点が異なりますね。それにしても、皇帝陛下はずいぶん根気よく誠実にわたくしのたわごとに付き合ってくださいました。感謝するとともに尊敬申し上げます。」


 皇帝が言う。


  「ユリアに尊敬されるとは光栄なことだ。だが、無償とは限らないとは何か狙いがあるのかな?」


 ユリアが近い将来の夢を披露する。


  「さすがに鋭いです。わたくしはこの国の東部乾燥地帯を緑の実り豊かな大地に変えたいと考えています。もちろん、蝗の大量発生を防止する監視体制も作ります。


 そうして出来上がった土地と組織を、自治権を持つ半独立国家としてご承認いただきたいのです。


 そして、そこで収穫される穀物類をこのオスムール帝国内だけでなく、フランソワール帝国やシングラーツ王国に安い値段で売りさばくのです。


 どうですか。聖女からはほど遠い存在に見えてきたでしょう。」


 皇太子が言う。


  「なるほど。確かに、蝗幼虫殲滅作戦に同行する耕作地化作業隊は、そのための布石ということか。その構想が実現した先には、どこまでも続く広大な小麦畑が目に浮かぶようだ。だが、君がその国家の元首に収まるわけではないのだろう?」


 皇帝が言う。


  「ユリアならその夢もあっさりと実現しそうだな。さて、夢が広がったところだが、現実にもどろう。2国共同体交渉団の皆さま、狭いところで不自由な幽閉生活をさせてしまい大変に申し訳ございませんでした。今日これから、ちゃんとした客室をご用意いたしますので疲れを癒してください。


 夕方からは皆様と友好親善を深める意味で晩餐会を催しますのでご出席をお願いいたします。それでは、この場はご散会ください。エフレイン内政担当長官、イスタラム内政次官、皆様のご案内を頼みます。」




 ユリアはこの宮城で最上級の客室で目を覚ました。あたりは薄暗く、もう夕方になっている。侍女として付けられた女性は、皇族方とともに幽閉監禁されていた皇后様の侍女ミカリアであった。


 彼女はユリアが目を覚ますと、自らミカリアと名乗り、直ちに身仕度の手伝いをしてドレスを着せてくれた。皇帝家の皇女の誰かが小さい頃に着ていたドレスらしく、ユリアに合ったサイズだ。


 若葉色を基調に水色のフリルが縁取り、白い裏地の重ねで少し厚みを出したパステルカラーのシンプルなデザインだ。ユリアは動きやすく目にも優しい作りのドレスが気に入った。


 ミカリアが言う。


  「はい。ユリア様。晩餐会の衣装でございます。いかがでしょう?」


 ユリアが言う。


  「ミカリアさん。ありがとう存じます。動き易くてとても素敵なデザインですわ。色合いも春を喜ぶ気持ちが前面に出ていて、今の情勢に立ち向かう勇気が出ます。」


 それを聞いてミカリアが意外そうな顔をした。ミカリアは、ユリアのことを皇帝でも皇太子でも構わず自ら先頭に立ちぐいぐいと引っ張っていく怖い物知らずの野生児と見ていた。


 ミカリアが言う。


  「まあ。ユリア様。失礼ですが、もっと粗野な方のように見ておりました。とても繊細な鑑賞眼をお持ちで、表現する言葉の選択にも聞く人への暖かい気遣いを感じました。」


 ユリアが恐縮して言う。


  「ミカリアさん。ごめんなさい。いまのは物語本の中の表現をアレンジしただけの借り物のことばでした。わたくしの本性は粗野な人物で間違いございません。この言葉づかいも、このドレス姿に合わせて選んでいるだけです。


 かつてお世話になったメイドの方に、諭されたのです。ドレスを着て話し方も立ち居振る舞いも相応しくすれば、立派な御令嬢そのものですよとね。今のわたくしは、本性を隠して御令嬢になりきっておりますのよ。どうですか?」


 ミカリアが言う。


  「はい。ユリア様は、いま、皇女様方にも匹敵する立派な御令嬢でございます。今回の晩餐会には、第二皇子のタルベトス様14歳、第一皇女のエスミリア様11歳、第二皇女のブレナリン様8歳も、そろってご出席されます。それでは、そろそろ会場へ移動しましょう。」



 晩餐会の会場に着くと、広い立食パーティー形式のテーブルの並びの合間合間に大勢の男性たちと少数の女性たちが談笑していた。


 ユリアは、ミカリアに手を引かれて子供たちが集まっているエリアに案内された。ユリアは、ミカリアに礼を言って子供たちの方へ寄って行った。ミカリアは、傍に居て子供たちを見守っていた皇后のモルシーナと話し始めた。


 ユリアは、皇后への挨拶は皇后が自ら寄って来たときにすれば良いとミカリアに言われていた。そこで、3人の子供たち全員に纏めてカーテシーで挨拶した。


  「本日未明の窓からの訪問の際には、ご挨拶もせず大変失礼を致しました。この正式の場にてお詫び申し上げます。改めましてご挨拶させて頂きたく存じます。」


 すると、年長の第二皇子タルベトスが代表して言う。


  「カーテシーを解いてくれたまえ。そう。それでいい。僕達は君のことを失礼だとか思っていないよ。


 逆に救世主様と崇めたいくらいな気持ちでいる。なにしろ、数日後には一家全員処刑されるという噂が広まって、もうみんな絶望の淵に沈んでいたんだから。


 君の名前は知っている。ユリアと呼んでいいかな。僕達のことも名前で呼んでくれたまえ。僕がタルベトス14歳、こちらがエスミリア11歳、これがブレナリン8歳だ。よろしく頼むよ。」


 ユリアがほっとした顔で言う。


  「はい。ユリア6歳でございます。こちらこそ、よろしくお願い申し上げます。ここには15日間の滞在予定で来ました。火山噴火被害からの復興のお手伝いで、皆様とお会い出来る機会は少ないと存じます。


 まだ、お気持ちが安らかになるには時間が掛かるでしょう。少しでも早く心の安定を取り戻していただければと願わずにはいられません。本日は、この場でいっぱいお話ししたり、楽器演奏もできたら最高に楽しいでしょう。いかがでしょう?」


 ブレナリンが言う。


  「あ。そのドレス。わたくしが以前フォーマルで着ていたドレスですわ。今の貴女にとても良くお似合いでしてよ。」


((あ。何か以前にも聞いたことがあるような。そうです。わたくしのドレスはいつも誰かさんの小さい頃のお古です。でもいつも当時の最新で最高級品なのです。))


 ユリアが言う。


  「はい。お借りしています。確かに今のわたくしにぴったりフィットして動きやすく、ダンスのステップが自然に飛び出しそうですわ。色合いもそんな軽やかな気分にさせてくれます。」


 それを聞いてエスミリアが言う。


  「まあ。ユリア。そんなに小さいのにダンスのステップができますの。わたくし達は8歳からやっとレッスンして貰えたのですよ。」


 ユリアが言う。


  「あ。はい。子供向けの2曲だけですわ。フランソワール帝国の8歳のお友達2人のレッスンに特別に参加させていただけたのです。」


 エスミリアが言う。


  「ふーん。多分、子供向けレッスン曲は万国共通だと思うから、あとで踊って見せて頂けないかしら?」


 ユリアが答えて言う。


  「はい。わかりました。多分、わたくしと背丈の合う殿方がいらっしゃらないでしょうから、ひとりでステップだけ踏みますね。」


 待ちかねたようにタルベトスが言う。


  「それよりも、楽器演奏とは何だい?ユリアは何が弾けるのかい?」


 ユリアが言う。


  「はい。わたくしは横笛と鍵盤楽器とバイオリンが弾けます。バイオリンは練習曲第43番を終えました。オスムール帝国の楽曲も何曲か弾けるし歌えます。」


 タルベトスが喰い気味に言う。


  「そ、それは素晴らしい。僕達は音楽から遠ざかって既に半年以上経っている。言うならば、音楽に飢えている状態が続いているんだ。ここの休憩室には鍵盤楽器やほかの楽器が置いてあるから、僕達で音楽パーティーをやろうよ。どうだい?」


 ユリアが言う。


  「わたくしもそれをお誘いしたいと思っていたのです。エスミリア様とブレナリン様もいかがでしょう?」


 エスミリアが言う。


  「もちろん。参加の一択ですわよ。しばらく練習していないけど腕前は落ちていないわ。わたくしのバイオリン演奏を聞いて驚かないでちょうだいね。」


 ブレナリンも言う。


  「わたくしももちろん参加しますわよ。鍵盤楽器でユリアと勝負するわ。覚悟なさいませ。」


 子供達4人は、連れ出って誰もいない休憩室に入って行った。


挿絵(By みてみん)

ユリアが皇子や皇女たちと楽器演奏の勝負中です。




((気さくな皇帝陛下でよかったよ。結局抵抗したのは宰相と騎士がひとりだけだったね。皇帝陛下のご威光は素晴らしい威力でした。最大のダークホースだった騎士団長が自ら気づいてくれたおかげで戦闘も最小限で済みました。宰相の最強火焔弾も不発に終わりました。詠唱が済むまで相手が大人しく待ってくれるとでも思っていたのかな。子供達も早くトラウマが消えてくれるといいな。))


少女は虎の威を借る奮闘で国家転覆勢力を討伐しました。次には本当に大変な復興支援作業が待っています。それではまたお会いしましょう。

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