85.少女は宮城内で重要人物を探り当てて助ける
少女の冤罪での捕縛拘束され作戦は上手くいきますか。あの偉そうな有力者も臨時の代表者で復興支援作業計画を立ててくれます。
ーーー 場面はオスムール帝国皇帝宮城内
ユリアが拘束されて連行されるのを見て、ボランティア復興支援作業隊の面々は、少し大袈裟に動揺した様子をして見せた。
エドアルドは少し芝居がかって偉そうに皆をなだめて言う。
「みんな、落ち着け。何も心配いらん。ユリアの疑いは直ぐに晴れるはずだ。我々は、予定通りに行動するのだ。いいな。」
その様子を見て、宰相が言う。
「ほほう。これは、若いに似合わず殊勝なことだ。良く訓練されているようだな。それでは、貴殿が後を継いでこの一団の代表者を務めるのだな。」
エドアルドが言う。
「はい。仰せの通りにございます。わたくし、シングラーツ王国ヴィルダー辺境伯が3男エドアルドが臨時の代表者を務めます。臨時とは言え、このような一団の指揮統制には習熟しており、作業遂行に問題ありません。
さっそくではございますが、野営地のご提供と、作業の打ち合わせ相手たる建設土木部門のご紹介を賜りたく存じます。」
これを聞いて宰相が言う。
「良かろう。野営地は宮城敷地内の目立たない場所ならどこでも好きな場所で良い。打ち合わせ相手は、直接に建設土木部門を望むか。効率を考えるとそれが良かろう。フォルケス外交担当長官も、エフレイン内政担当長官もそれで良いな。」
外交担当長官が同意して言う。
「特に問題ありませんな。」
内政担当長官が同意して言う。
「何も問題ありません。国内での作業ですから、内政担当次官のイスタラムに一行の面倒を任せます。イスタラム、作業隊一行を野営地の候補地に案内したあと、建設土木部門の責任者に引き合わせてくれるか。」
指示を受けてイスタラムが案内しながら言う。
「ははー。承りました。それでは、ヴィルダー殿。こちらへ。わたくしのことはイスタラムとお呼び下さい。野営地の候補地としては、作業現場の街区への出入りに便利なこの場所を考えています。」
エドアルドが野営地の候補地を見ながら言う。
「わたくしのことはエドアルドとお呼び下さい。ほう。ここは広くて風除けもあって良さそうですね。テント43張りも余裕で張れます。ここを野営基地に決めます。」
イスタラムが満足そうに言う。
「はい。それでは次に、作業打ち合わせ相手の建設土木部門にご案内します。一度、全員で行って場所を覚えた方が良いでしょう。こちらへ。」
エドアルド達はイスタラムに付いて宮城敷地内を少し歩いた。案内しながらイスタラムが言う。
「ところで、野営装備品や食糧などは、後続の輜重隊が持って来るのですか?」
エドアルドが答える。
「いいえ。我々はこれで全員です。嵩張る荷物は収納魔法持ちの隊員に運んで貰っています。」
イスタラムが建物に入りながら言う。
「それはなんとも希少で貴重な人材が居られるようで、作業隊の動きが軽やかになりますな。はい。着きました。ここが復興作業全般を指揮する建設土木部門の責任者がいる建物です。部屋までご案内して、あとはここの責任者に引継ぎます。
わたくし自身は、皆様の生活全般や作業以外の交渉事の相談窓口として、引き続きお世話させていただきます。それでは、責任者にご紹介いたします。
コンストレイ部門長、イスタラム入ります。こちらは、ボランティア復興支援作業隊一行を率いるヴィルダー殿です。それでは、あとはよろしく。」
コンストレイが言う。
「おおう。良く参られた。儂はデモルカス・ド・コンストレイ、建設土木部門長で復興作業全般の責任者をしておる。組織上は内政担当長官の下でイスタラムと同格じゃ。」
エドアルドが挨拶して言う。
「これはご丁寧なご挨拶をいただき痛み入ります。わたくしは、シングラーツ王国ヴィルダー辺境伯が3男のエドアルドと申します。エドアルドとお呼び下さい。本来は、現在有らぬ嫌疑で拘束中のユリアなる者が代表者です。彼女の嫌疑が晴れるまでわたくしが代表者を務めます。よろしくお願いいたします。」
コンストレイが言う。
「さようか。宰相にも困ったものだぞい。片っ端から有らぬ嫌疑を掛けて有能な人材を排除していきよる。復興がここまで遅滞して居るのを見ても分かるじゃろう。組織運営が出来る人材がみんなおらんようになってしもうた。
ということで、エドアルド殿。貴君の復興支援作業全般の直接の交渉相談相手は儂じゃ。作業監督も現場リーダーもおらん。貴君には形式上の作業責任者を務めてもらいたい。どうじゃ。」
エドアルドが言う。
「打ち合わせの合意に基づく作業計画通りに進める責任者であって貴国組織範囲外の位置づけで承ります。ただ、我々現場とコンストレイ部門長との間を繋ぐ連絡役を1名付けていただけるとありがたいのですが。」
コンストレイが言う。
「そうじゃのう。事務手伝いに最近雇い入れたものじゃが、これでよければ付けて進ぜよう。ジーナス、こっち来て挨拶せい。お前を連絡役に任ずる。しっかりやるのだぞい。」
呼ばれたジーナスがエドアルドの傍に来て挨拶をする。成人したてくらいの年格好の女性だ。
「ジーナスと申します。よろしくお願いいたします。」
エドアルドは少し扱いにくそうな顔をして言う。
「あっ、どうも。エドアルドと呼んで下さい。復興作業を指揮しますが、未調整事項の確認や被災者対応などをお願いしたいのです。ただ、服装と履物を現場に出るのに合ったものに変えていただけないでしょうか?あと、頭を保護する冠り物と防塵マスクをお貸し致します。」
ジーナスが言う。
「承知致しました。いますぐに着替えますか?」
エドアルドが慌てて止めるように言う。
「いいえ。明日からでお願いします。今日は作業内容と作業エリアの日程計画策定だけで終わるでしょう。貴女も打ち合わせに同席して下さい。」
ジーナスが言う。
「承知致しました。」
ーーー 場面はユリアが捕縛された直後に戻る
ユリアは縛について拘束され、両脇を騎士に固められて建物内へ連れ込まれた。そのあと、少し年配の侍女らしき格好の女性に先導されて廊下を歩き、2階の小さめの客間に押し込まれた。
ユリアは、その女性から宰相に連絡がいくことを確信し、そこまでの途中で小さな子供らしさを演じた。本来自然に出るはずの不安や恐れに慄き親の助けを求める声や仕草などを、ユリアは苦労して演じて見せた。
ユリアは普通の子供らしさを演じながら小声でぶつぶつ言う。
「ここから客室への廊下だね。いまから探索魔法を建物全体に掛けていこう。うーん。ここまでの経路途中の部屋には2国共同体交渉団も皇帝一家もいないね。あとは、部屋に押し込められてからじっくりと探索魔法に入り込んで探ればいいか。」
ユリアは押し込められた客室で探索魔法に入り込んだ。ユリアが独り言ちる。
「この建物内の下側から探りましょうか。おう。さっそく発見。半地下の3部屋に2国共同体交渉団らしき人達が分散して閉じ込められているわね。各部屋に通じる廊下の入り口に衛兵が3人で番をしているのか。そこにはここの階段を降りて廊下を通って行けるけど、経路途中で見つかる可能性が高いわね。」
ユリアは順次階層を上げて行き、最高層の3階を探る。
「ここまででは発見出来なかったね。そうすると、皇帝一家と皇太子達は3階にいる可能性が高いわ。3階フロアを近くから遠くへ探っていきますわよ。おっ。ついにそれらしき人達を発見したかな。ここから一番遠い位置の広いプライベートリビングのような部屋に8人も閉じ込められているわ。」
ユリアはその部屋の周囲を入念に探った。
「ありゃー。部屋の前には3人の衛兵が番をしているのね。でも3階フロアのほかの部屋や廊下には誰もいないわ。こちらの方はあの3人の衛兵を倒せば救出は簡単そうだわね。」
ユリアは救出手順の事前検討を始めた。
「誰を救出するのかって?まずはご存命のはずの皇帝陛下に決まっています。このお方のご威光を笠に、敵対する騎士や文官を跪かせるの。次が皇太子殿下ね。剣術や魔法の腕前に期待が持てそう。ほかの皇族方はそのままお部屋に内鍵をかけて潜んでいてね。
その後は、2国共同体交渉団の全員を救出する手順ね。この頃には、宰相一味も感づいて、騎士達をけしかけ戦わせて妨害しようとするでしょう。でも皇帝陛下には剣も槍も向けないでしょうね。たとえ、騎士団長のエルネストであってもね。
そして最後は、私と宰相の一騎討ちになるのかしら。宰相はどんな技を使うのかな?そうだ。直接聞くのが一番だね。もうすぐ様子を見に来るだろうから、少し泣き疲れた顔をしなきゃ。」
ユリアは、次にアースドラゴンの運ばれ先を探り始めた。
「えーと。アースドラゴンの運ばれ先はどこかな。あっ、いた。ここは、貴族の邸宅街区だね。大きさでは2番目の邸宅か。一番大きな邸宅は騎士団長のものかな。いずれにしても、あれが国家の食糧備蓄や食糧配給の管理部署には見えないね。よし。これで探索完了だ。」
しばらくすると、部屋のドアが開いて、あの侍女らしき女性が宰相を案内して来た。
宰相が言う。
「おう。大人しくしているではないか。ははっ。泣き腫らした顔になって、見られたものじゃないな。初めに挨拶を聞いた時はしっかりした子供だと思ったんだが。やはり、子供は子供か。一応、お前に尋ねる。正直に答えれば痛い目には合わせないと約束しよう。
2国共同体交渉団の幹部達が言っていた、信じるに値する筋とは、まさかお前のことでは有るまいな。想像していた人物像とはまるで違うではないか。どうなんだ?」
ユリアは迫真の演技をして言う。
「ええっ。宰相様。信じるに値する筋って、何をおっしゃっているのかユリアには分かりません。正直に答えましたから痛い目に合わせないでください。痛い目に合わせるってどうするんですか?それより、もう帰ってよろしいのでしょう?早く帰らないとみんながユリアのこと心配するの。」
((ほんとですよ。信じるに値する筋?何ですかそれ?おいしいの?))
宰相は苛立って言う。
「ううーっ。なんてギャーギャーうるさいガキだ。静かにしないと今度こそ痛い目に合わせるぞ。今度は別の質問をする。正直に答えるんだ。アースドラゴンについてだ。あれは私への手土産として私がいただいた。だが、どうやって討伐できたのか不思議でならん。両目に矢の刺さった後があるが、飛んで来る矢ぐらいは避けるか瞼を閉じるだけの反射神経を持っているはずだ。だれがどうやってアースドラゴンの両目に弓矢を当てたのか正直に話してみろ。」
ユリアが、べそをかきながら言う。
「ひっく。先ほども言いました。答えは変わりません。ひっく。私が弓矢を放ったら当たったんです。本当です。」
((本当です。わたくしは何も嘘を言っておりませんです。はい。))
宰相が怒って言う。
「この期に及んでまだそんな嘘が言えるとは大した玉だ。お前には私を愚弄した罪科も加わったぞ。これは最高刑に値する。お前には、私に最後まで抵抗したことに一応の敬意を表してやろう。明日、私の最強の魔法である火魔法の火焔弾で公開処刑してやる。ボランティア作業隊の皆の前で黒焦げになるまで泣き叫ぶがよい。」
ユリアは最大の演技力を振り絞って言う。
「ええーっ。そんな殺生な。ユリアは本当に嘘は言っていないのに。どう言ったら信じてもらえるんですかぁ。うわーん。」
((ほう。火魔法の火焔弾ですか。はい。宰相の技、直接お伺いしました。魔法使いの中ではたぶんそれが最強と定説になっているのですね。))
宰相は、侍女らしき女性を呼んで言った。
「もう、こいつは話にならん。明日、公開処刑するからそれまで閉じ込めておけ。」
侍女らしき女性が言う。
「畏まりました。仰せの通りに。」
宰相は部屋を出ていき、侍女らしき女性はユリアを憎々し気に睨んだ後、部屋を出て鍵をかけた。
ユリアは独り言ちる。
「さあて。茶番劇はこれで終わり。暗くなったら活動開始ね。その前に、少し眠っておこうかな。」
しばらく眠ってあたりが真っ暗になったころユリアは目を覚ました。生活魔法の照明で薄暗く部屋を照らして周囲を確認し、衣服を戦闘服に着替え、靴を音のしないものに履き替えた。その後照明を消して部屋内を再び真っ暗な世界に戻して外から見られないようにした。
ユリアが計画を立てながら言う。
「さて、外には門番の篝火が2箇所か。少し白っぽい戦闘服だから、建物の白壁に溶け込んで見つかりにくいはず。窓は開けられるね。窓から外に出て屋根上に上がって移動するのが良さそう。
皇帝一家のいる部屋には窓から入るとして、誰かを起こして鍵を開けてもらうか。起こす相手は皇太子殿下ね。探索魔法の魔力を集中して気付かせよう。それじゃあ、行きますわよ。」
ユリアは計画通り窓から外壁を伝って屋根上に上がった。屋根上を移動して皇帝一家のいる部屋の窓に取り付いた。ユリアは皇太子らしき相手に探索魔法の魔力を集中して当てた。それとともに窓ガラスを軽くトントンと叩いて気付かせようとした。
皇太子らしき人物は、眠りが浅くなっているところに魔力が漂っている気配を感じて目が覚めた。目の前は真っ暗闇で何も見えない。はっとして意識がはっきりしたら窓ガラスを叩く音が聞こえた。
皇太子らしき人物は、薄暗く照明魔法をかけてカーテンを開いた。彼はガラス窓の外側にぼんやりと浮かぶユリアの顔を見つけて腰を抜かさんばかりに驚いた。なんとか脚を踏ん張って腰から落ちるのを堪えていると、ユリアが窓ガラスに文字の書かれた紙を貼り付けた。
ユリアが窓ガラスに紙を貼り付けながら言う。
「助けに来ました。鍵を開けて下さい。」
皇太子らしき人物は、書かれた文字の意味を理解し、躊躇なく鍵を外して窓を開けた。ユリアは開けられた窓から部屋内に入って、片膝をついて跪き、口上を述べた。
「わたくしは、ユリアと申します。フランソワール帝国から参りました。貴方様は皇太子殿下とお見受けいたしました。皆様をお助け致します。つきましては皇帝陛下とお引き合わせいただきたく、お願い申し上げます。」
皇太子らしき人物は言う。
「いかにも。わたくしは、皇太子のスベラトス・ド・オスムールだ。ユリアと申したか。其方を信じることにする。見かけは幼児であるが、壁伝いに窓から入るなどそれなりの能力を有する者と認めよう。
皇帝陛下は、残念であるがもう意識がかすれて危ない状態にある。専属医師が寝ずの看病をしている。わたくしや他の皆は、睡魔に負けて眠っていたようだ。」
ユリアが言う。
「まだ、息はあるのですね。それなら、間に合いました。専属医師様。」
専属医師のケービーが言う。
「私が専属医師のケービーだ。君は誰だね。なぜここにいる?」
ユリアが言う。
「わたくしはユリアです。詳しい話は後です。今は皇帝陛下をお助けしましよう。ここにいずれも超特級グレードの回復ポーションと万能毒消しポーションとマナポーションをお持ちしました。鑑定書をご覧下さい。皇帝陛下はどんな状態なのですか?」
ケービーが言う。
「右腕切断部から壊死が広がっている。毒消しポーションでなんとかここまで持たせてきたが、今日でストックが底をついた。もう打てる手立てがなくなった。
これは鑑定書か。うむ。ファーミルソンの署名か。だがこれが超特級グレードだと?しかもその上位で鑑定可能範囲外とは。この世にそんなものが存在するなど信じられん。」
ユリアが急かして言う。
「専属医師様。早く処方をお願いいたします。わたくしの私見では、回復ポーションから先に少しでも嚥下していただくのが良いかと考えます。意識がはっきりしたところで万能毒消しポーションを1本服用していただきましょう。」
ケービーが賛同して言う。
「確かに君の言うとおりの処方が最善だ。回復ポーションをこの吸い飲みに少し移してくれ。」
ユリアが吸い飲みを生活魔法の清浄水で洗浄して回復ポーションを注ぎながら言う。
「分かりました。はい。これです。」
ケービーは皇帝を抱き起こして、吸い飲みで回復ポーションを口に2回注ぎ、なんとか嚥下させた。すると、10秒もたたないうちに皇帝の意識が戻って目が徐々に開いた。
皇帝が言う。
「ここはどこだ。薄暗いぞ。私は何をしていた?」
皇太子が言う。
「父上。スベラトスにございます。待望の超特級ポーションがただいま届きました。間に合ったのでございます。」
ケービーが言う。
「陛下。ケービーにございます。これから、万能毒消しポーションを1本服用していただきます。これで、右腕患部の壊死はなくなります。」
皇帝が言う。
「ケービーか。ご苦労。だが、これまでも服用していたが快癒に至らなかったではないか。今度のものは今までのものと違うのか?」
ケービーが言う。
「はい。それはもう全くの別物です。なにしろ幻の超特級グレードのポーションでございますれば、たちどころに快癒されるでしょう。」
皇帝が言う。
「そうか。其方がそこまでいうのは珍しい。其方を信じて飲んでみよう。」
皇帝は、万能毒消しポーションを1本ゴクゴクと一気に飲みきった。すると、見る間に皇帝の右腕患部付近の黒ずみが肌色に変わっていった。これでこの部分は完全に健康体に戻った。
皇帝の周囲には、目を覚ました家族と侍女が見守っていた。ユリアは、口に人差し指を当てるしーっのポーズで彼らが大声をあげないよう注意を促した。
皇帝はユリアに気がついて言う。
「ところで、君は誰だね。私の娘ではないようだが、何度か夢に出て来たような気もするな。」
ユリアが儀礼の姿勢で答えて言う。
「お初にお目にかかります。わたくしはユリアと申します。フランソワール帝国から参りました。目的は御国の火山噴火被害からの復興支援です。途中から2国共同体交渉団の救出という第2の目的が加わりました。
つきましては、その第2の目的達成のため皇帝陛下にご助力賜りたくお願い申し上げます。ご助力の内容は宰相一味の殲滅捕縛でございます。」
皇帝はキョトンとして言う。
「いまの話は、君がユリアだということしか理解出来なかったのだが。私は長患いで頭がいかれたのか?誰か分かるように説明してくれんか。」
皇太子が勢い込んで言う。
「父上。わたくしがご説明します。・・・かくかくしかじか・・・というわけなのです。」
皇帝が厳しい顔になって言う。
「なるほど。私の負傷に乗じて宰相が国家転覆を図って権力を掌握したのだな。東側の2国は蝗害の元を絶つため我が国の東部乾燥地帯に入りたい。そのため2国共同体交渉団が我が国に入国したが、欲をかいた宰相に騙されて幽閉された。」
ユリアが言う。
「さすが皇帝陛下。お見事でございます。一挙に現状を把握なされました。つきましては、皇帝陛下のお力を完全な状態でお借りしたいため、残りの回復ポーションを残さずお飲み下さいませ。」
皇帝が訝しげに言う。
「これ以上何を回復する必要がある?私は既に十分に回復していると思うが。」
ユリアが匂わせぶりに言う。
「いいえ。まだ完全ではありません。」
皇帝が驚愕した顔で言う。
「まさか。これか?」
ユリアが確信顔で言う。
「それです。」
皇帝は覚悟を決めて回復ポーションを飲み干した。皇帝は立ち上がって腕を斜め下に開き、顔を斜め上に向けて自分の体に起こっている変化を感じていた。
周囲で見守っている面々は、ユリアを除き皆目を見開いて皇帝の右腕を見ていた。皇帝の右腕は、切断部から先がどんどん増殖して先に延びていき、ついに指先まで再生が完成した。
皇帝は、自分の右腕を左手でさすったり曲げ伸ばしをしたり、手指を握ったり開いたりして感触を確かめていた。
皇帝が言う。
「信じられん。失った右手が再生された。長く忘れていた感触が完全に戻っている。こんなことが出来るのは伝説に聞くエリクサーしか無いと思っていた。ケービー。其方は知っていたのか?」
ケービーが答えて言う。
「いいえ。わたくしも存じておりませんでした。エリクサーは伝説に聞くだけで実在しない架空のものです。我が国で調合出来る最高品質のポーションは特級グレードまでなのです。
今陛下に処方したものには超特級グレードの最上位の更に上位で鑑定範囲を超えるという、一流鑑定師の鑑定書が付いていました。それはもうエリクサーのレベルなのかも知れません。」
そこでユリアが口を挟む。ユリアの質問はずっと臥せっていた皇帝向けではなく皇太子向けに発せられた。
「はい。おめでとうございます。皇帝陛下。これで完全な状態となられました。ここで、宰相一味と戦うにあたり、敵対勢力の黒白の色分けをしたいと存じます。誰が最後まで抵抗するかです。わたくしの事前予想によると、宰相は当然に黒として、外交担当長官も黒ですね?内政担当長官は白に近い灰色ですかね?騎士団長はいかがです?説得は可能ですか?」
皇太子スベラトスが言う。
「ユリア。その予想はかなり当たっている。内政担当長官ライアン・ド・エフレインは外面上は宰相に従っている。だが、内面では横領などを平気でする倫理観のない宰相を苦々しく思っている。説得すればこちら側に付くだろう。宰相が宮城内を掌握しきれていないのは、内政担当長官が前面に出てのらりくらりとかわしてきたおかげでもある。
一方、エルネスト騎士団長は完全に取り込まれている。だが皇帝陛下に弓引くことはないとみている。父上が完全復活した以上、彼に皇帝の座が回ってくる可能性は消えた。父が諭せば大人しく縛について裁きを受けるだろう。
したがって、宰相と外交担当長官さえ抑えれば国家転覆勢力は瓦解するとみる。」
それを聞いた皇帝が嬉しそうに言う。
「スベラトスよ。よくぞそこまで成長してくれた。国家転覆勢力の冷静な戦力分析をもとに、機会を得て彼らを一掃するつもりであったのだろう。そして、今がその機会というわけだな。」
皇太子が感激して言う。
「はい。父上。わたくしは雌伏の時を耐えてこの時が来るのを待っていました。」
ユリアが総括するように言う。
「はい。ということで、ここに、国家転覆勢力の討伐共同戦線が成立いたしました。ただし、わたくしの大義名分は、わたくしに冤罪を掛けて不当に拘束した宰相を告発し糾弾することです。わたくしはハンター資格1級保有者ですから待遇は子爵であり平民ではありません。また、単独でアースドラゴンを討伐する資格を有しています。そして、国の許可が必要なダンジョン内には入っていません。すなわち、宰相が罪科として挙げた許可なし資格なしは、全くのでたらめの嫌疑ということです。これだけはご理解ください。
なお、皇族様方が宰相を糾弾する根拠には、国家転覆罪のほかに、わたくしが国庫に入れるようにと提供したアースドラゴンを横領した罪も含まれます。」
皇帝が言う。
「分かった。ユリアの大義名分が正当なものであると理解した。ここで、討伐共同戦線側の戦力を共有しておこう。私は剣術を得意とする。魔法は水魔法と氷魔法だ。轢弾や尖頭弾を打ち出せる。」
皇太子が言う。
「私は槍術と体術が得意だ。魔法は火魔法と風魔法と土魔法に属性がある。もちろん身体強化魔法も得意だ。」
ユリアが言う。
「わたくしは、属性魔法は持っていません。生活魔法のあらゆる魔法を使えます。攻撃力では、一発必中かつ百発百中の弓矢と、金縛り魔法とその応用で槍の先から火焔棒を打ち出せます。あと、身体強化魔法と探索魔法が使えます。この場所もそれで発見しました。」
皇帝が言う。
「ユリアは盛りだくさんだな。さすがにその歳でハンター資格1級を持つだけのことはある。さて、なにか作戦はあるのか?」
ユリアが言う。
「先に申し上げますが、わたくし達3人以外の方々には、安全のためこの部屋で内鍵をかけて閉じこもっていてもらいます。よろしいですね。
作戦らしい作戦はありません。最初の戦闘はドアの外の3人の騎士を倒すことです。わたくしがドアの鍵を焼き切りますのでドアを開くと同時に騎士3人を制圧しさるぐつわを掛けて縛り上げます。
それからあとは、堂々と廊下を歩き階段を下りて半地下に閉じ込められている2国共同体交渉団の面々を救出解放します。途中で立ちはだかる者がいたらわたくしが金縛り魔法と槍で制圧いたします。皇帝陛下と皇太子殿下のご威光があれば攻撃してくるものはほとんどいないと思います。なお、半地下の廊下の入口に3人の騎士が番をしているので、抵抗すればわたくしが制圧いたします。
そうこうしているうちに、宰相と外交担当長官のお二人ご本人が対峙してくるでしょう。宰相は、わたくしを火焔弾で黒焦げの公開処刑にするそうですので、わたくしが相手をいたします。外交担当長官は、抵抗するようであればお二人にお任せいたします。
騎士団長がお出ましの場合は、皇帝陛下に説得をお願いします。自暴自棄に陥るようならわたくしが無力化致します。
おそらく、大人数が入り乱れて戦うような大規模な戦闘は起きないでしょう。そのために皇帝陛下と皇太子殿下のご威光をお借りするわけですから。作戦といえるほどのものではないですが、いかがでしょう?」
皇帝が言う。
「随分と大雑把な作戦だな。だが、私もこそこそやるのは好きではない。それでいいだろう。私の威光が影響力を発揮することを願うよ。」
皇太子が言う。
「私も異存はない。ユリアのハンター資格1級の圧倒的な戦闘力を見せてもらうよ。」
((わお。目論見通りに皇帝陛下と皇太子殿下を味方に付けて、虎の威を借る何かになりました。それにしても、ぎりぎり間に合ったんだね。良かったよ。ポーションもすごい効き目だったし。))
予定通り拘束された後に動いて皇帝を救出しました。皇帝のご威光は発揮されますかね。それではまたお会いしましょう。




