83.少女は出発してかの国に入国する
少女は、主だった人たちに挨拶をして出発します。かの国の上層部への対応策にも抜かりがありません。
ーーー 場面は出発前の最終確認会議のあと
ユリアは、エドアルドと会議室に残っていると、アリースソン伯爵とレオニール侯爵とネイトビアス団長に話しかけられた。
レオニール侯爵が言う。
「ユリア。拘束されてやるなどと言っていたが、抜け出す算段はあるのか?相手方にも未知の魔法使いがいるかもしれないぞ。」
ユリアが言う。
「はい。おとなしく拘束されるのは、外観上だけです。相手方がわたくしの魔法を使えなくするなら、その前に相手に知られないように相手の魔法を無力化してかかった振りをします。手枷足枷や部屋の鍵など物理的拘束なら簡単に抜け出せます。」
伯爵が言う。
「皇帝陛下の現在位置や皇太子殿下の動向など探知魔法で探れるものなのですか?」
ユリアが言う。
「はい。大丈夫です。わたくしの魔力は宮城建物の壁や天井や床を透過する事が出来ます。魔法障壁が張ってあっても問題有りません。」
ネイトビアスが言う。
「相手が抵抗して戦闘になったら個人の資格で戦うと言ったが、個人の資格とはなんだ?勝算はあるのか?」
ユリアが答えて言う。
「はい。個人の資格とは、ハンター資格1級保有者に与えられる特権的地位保証です。
これを使って、わたくし個人に対する不当な拘束や身体攻撃から自己弁護し自己防衛します。
相手方がさらに法を無視して身体的攻撃を加えるなら、もはや相手方が国家を背景としない単なる無法者と見なして、相手方を制圧します。
勝算はもちろん大有りです。わたくしは、既に、デイビードお父さんの次ぐらいには強いのですから。国家は相手に出来ませんが、数名の反逆者相手なら問題有りません。」
エドアルドが援護して言う。
「ユリアは、ヴィルダー辺境伯家では、私を含む騎士団員や一族の子供たちに魔法攻撃や弓矢の一発必中かつ百発百中を指導する師匠だったのです。確かにデイビード叔父以外の相手には負けないでしょう。」
ネイトビアスが納得顔で言う。
「なるほど。そういえば、我が騎士団でも斥候要員候補を鍛えて貰いましたな。騎士見習いの真剣襲撃事件でも相手に触れもせずに征圧しましたし。任せて良さそうですな。」
ユリアは、エドアルドと一緒に昼食を食べに食堂に入った。ユリアはすぐにデイビードとソルフィーナを見つけて、エドアルドと二人で同席した。
ユリアが言う。
「デイビードお父さん。明日の朝9時にオスムール帝国に向けて出発するわね。でもガスゴーシュ様の手紙に書かれた交渉妥結の内容に不信なところがあるの。また、向こうの上層部の人物寸評の記載では特に宰相様が怪しすぎるのよ。お父さんはどう感じている?」
デイビードが言う。
「ユリア。お前は自分の感覚を信じて十分な対応策を準備した上で進めばいいんじゃないか。いつだってそうしてきただろう。今回も言い出しっぺの責任を全うするため、あらゆる障害を乗り越えてここまで来た。ここから先に現れる障害も取り除けないものではないはずだ。」
ユリアが頷いて言う。
「ありがとう。その通りね。」
続けてデイビードが言う。
「ところで、お前の感じる不信感についてだが、私もガスゴーシュ卿やアルベルドから続報が来ないのを不信に感じている。向こうの食糧事情を考慮すると早めに出立するはずだが、その知らせが来るべき時期はとうに過ぎている。
私の穿った見方では、交渉団は既に拘束されて人質扱いをされているかも知れない。だが、まだ一人も殺されてはいないだろう。もしそうなら、人質に関係なく戦争勃発だからな。こちらが要求を呑むごとに少しずつ解放していく腹づもりだろう。でも、恐らくガスゴーシュ卿は永久に解放されまい。」
ユリアが言う。
「おぉー。お父さんの千里眼で見えたのね。」
それを聞いてエドアルドが言う。
「ユリア。それは何だ。デイビード叔父上はそんな力を持っているのか?」
ユリアが答えて言う。
「そうなんです。ガスゴーシュ様も自分の行動目的をまるで見てきたように当てられて、千里眼の力をお認めになりました。また、このアリースソン伯爵家からの縁談書が来たときも、緊急を要する事情があるのをすぐさま察知したのですよ。」
それを聞いてソルフィーナが言う。
「まあ。そうでしたのね。わたくしも、絶望の淵に沈んでいるときに、大丈夫ですよ、直ぐに助けに行きます、という微かな声が聞こえたのです。あっ。でも、あれはユリアの声だったような。」
デイビードが言う。
「まあ、とにかく、かの国の上層部はかなり怪しい。そのいちばんの根拠は、火山噴火と同時に国境を閉ざしたことだ。そのとき皇帝が指揮を執れない状態になったのは間違いないだろう。火山噴火に乗じて皇帝から政権を奪取した、つまり政変が起きたことを隠す意図があったと考えている。」
ユリアが感心して言う。
「さすがにお父さんの千里眼だわ。私の考える国境を閉じた理由に挙げた、他国に対する疑心暗鬼や流行病の流出防止とは違うけど、上層部悪人説との相性はお父さんの根拠の方がよさそうね。
そうすると、いよいよ急を要する事態だわ。可及的速やかに獣や魔物を調達して上層部の目の前にぶら下げなくっちゃね。エドアルド様。わたくしとイーアンとあと二人が狩りに行っている間、作業隊の指揮をお願い致しますね。」
エドアルドが言う。
「ああ。任せておけ。私は騎士団の中隊長だぞ。他国の騎士団員とはいえ規律遵守をはじめ皆よく訓練されているようだから問題ない。」
ユリアは、いよいよ押し詰まった午後の空き時間に何をするか考えて独り言ちた。
「行程経路の移動中や現地作業中の疲労回復や毒消しのポーションを補充する必要あるわね。戦闘になったら相手方はどんな戦い方をするのかな。火焔弾を打つ、身体強化魔法で一瞬で詰め寄って剣か槍または体術で攻撃する、土魔法、水魔法、氷魔法で尖頭弾や塊状弾を打つ、地面から尖頭を突き出す、風魔法で鎌鼬攻撃する、光魔法か照明魔法で目潰しする、捕獲網で絡め捕る、考えると色々出てくるわね。
複数人に囲まれたら一人ではとても対処出来ないな。対峙した時点で害意ありと判断する旨の警告を出して、相手が後ろに回り込む動作をしたら即座に先制攻撃するのが有効そうね。こんな場合は先手必勝だね。
先制攻撃には何を使う?接近戦の荒技の片手小型版が出来ないかしら?指3本でワンドを摘まんで目を引かない小さな動きで、普通の金縛り魔法か接近戦の荒技を打つなんてよさそうね。これは相手が魔法を打つ前に相手を気絶させて以後無力化するのにも使えそうだわ。
そうだ。長時間の無力化には、唐辛子粉末弾か唐辛子液弾を顔にぶっかけるのが効果的だね。でもそうなると、こちら側も防塵マスクで目と鼻を保護する必要があるかぁ。
あと、中距離からの弓矢や手投げ剣などの飛び道具対策には、物理防御魔法を纏うか、身体強化魔法の瞬発移動で躱すか、こちらも弓矢で応戦するとかあるわね。
中距離から身体強化魔法で瞬発移動する輩には、進行途中に土壁でも生やして激突して貰おうかしら。うん。自爆させると戦意を失うかな。」
ユリアは、その後医薬部門に行った。責任者のファーミルソンと彼の部下のメディバルに断ってポーション調合設備を借りた。並列して、回復ポーションと毒消しポーションとマナポーションをそれぞれ10本ずつ調合した。
ユリアはそれを、ファーミルソンとメディバルに頼んで品質鑑定してもらった。鑑定結果は全て超特級グレードの最上位と判定された。ファーミルソンは、超特級グレードであるが実際は鑑定可能範囲の上限を超えるものであると一筆書いてくれた。
ユリアは、お礼に各種類2本ずつをファーミルソンに渡して、残りを収納魔法に収納した。これだけあれば、43人の1か月分の医薬品としては十分すぎるだろう。
ユリアは、ポーション調合中の水分分離工程の待ち時間で、細枝を削り出して長さ20cm、最大直径1cmのワンドを5本作った。ポーション調合完了後に、作成したワンドの使い勝手を見るため、騎士団訓練場で接近戦の荒技の片手小型版で火焔棒を放つ訓練をした。
ユリアが独り言ちる。
「初めに、右手指2本でワンドを摘まんでやってみよう。2魔法型の接近戦の荒技を放ってみるわよ。おっ。随分細いけど、ちゃんと火焔棒が出るじゃない。うーん。射程距離は20mというところかな。狙いの付け方に工夫がいりそうね。相手に動きを悟られないように最小限の動きで狙いを定める訓練が必要ね。
今度は、左手指でやってみよう。おー。左手の方が少し太くて長い火焔棒が出たよ。
今度は、両手指で試してみるね。うん。両手でも快調に火焔棒が出るわ。互いに交差させたり平行にしたり、いろいろ動かせるし、長時間連続放射できるわね。木やロープなんかの燃えやすいものを切断することも出来そう。これはいいわぁ。」
ユリアは、ふと、ヴィルダー辺境伯家からの作業員がやっていた空中焼き払いの試技を思い出した。
「あの技なら相手に狙いを悟られないわね。いきなり目の前で火焔の実体を出現させるとびっくりして腰を抜かすかも知れないね。このワンドでやってみよう。火焔実体の出現位置は距離20mとしよう。近い位置では2つの魔力線の間隔を狭くして火魔法の魔力を間に閉じ込めておくのね。先に行くほど2つの魔力線の間の間隔が拡がるように角度を調整してと。
そして、20m先では魔力を閉じ込めきれない距離にまで拡げるのね。おーぉ。出たわ。直径50cmくらいの火焔の膜が20m先でごうごうと燃えている感じだよ。これも大した魔力を消費しないから長時間燃やし続けられるね。
今度は、火魔法の魔力の実体化距離を短くしてみよう。手元での間隔を変えずに2つのワンド間の角度を少しずつ大きくするよ。おーぉ。火焔に実体化する位置が少しずつ手前側に寄ってくるわね。
これは面白いわ。虚仮威しには十分使えるわね。初めは火焔膜が20m先からすうっと迫って来るのを見せるのね。相手に回避容易と油断させておいて、次は、いきなり目前に火焔膜を出現させるの。本当に腰を抜かしてくれたら身体強化の瞬発移動で捕縛完了ね。
よし。今日はこれくらいにしておこう。今日の魔法訓練の成果は大きいわ。これまで槍を使っていた接近戦の荒技が、こんな小さなワンドでできちゃった。しかも、同時2方向に放射できるなんて2刀流開眼もいいところだわね。」
ユリアは、そのあとハンターギルドに行った。ギルド入り口周辺には、多くのハンターたちが仲間が出て来るのを待っているかのようにたむろしていた。
ユリアがドアを開けて中に入ると、多くのハンター達でごった返していた。ふと見るとカウンター近くの斜め前方からこちらを見ているカビラと目が合った。
カビラが手を振りながら寄って来て言う。
「よう。ユリア。久しぶりだな。こんな時間にどうしたんだ?」
ユリアが答えて言う。
「あ。カビラさん。お久しぶりです。明朝、オスムール帝国に向けて出発するからギルド長にご挨拶しておこうと思いまして。カビラさんは行ったことがありますか?」
カビラが言う。
「おう。行ったことあるぞ。一度だけな。街道沿いに帝都までの約半分行った位置の左方向10km先に普通の森があり、さらにその先にダンジョンの森がある。私はそこでリザードマンの群を蹴散らしたことがある。その森にはアースドラゴンがいて並のパーティーではダンジョンまでたどり着けないぞ。」
ユリアが言う。
「うわあー。それは面白そうですね。よーし。決めた。目の前にぶら下げる餌はアースドラゴンにする。」
カビラが慌てて言う。
「おいおい。そこは喜ぶところじゃないぞ。討伐戦の会戦必要条件は満たしているのか?いずれにしても命がけになるぞ。」
ユリアが言う。
「一体が相手ならわたくし一人で会戦必要条件を満たします。アースドラゴンは複数で行動することはほとんどないから大丈夫でしよう。」
カビラが言う。
「そういえばユリアはもう1級なんだな。全く、見た目とのギャップに頭が痛くなるぜ。」
そこに、副ギルド長のシルツビーが寄って来て言う。
「おう。クロエ1級ハンター。こんな時間に珍しいな。そうか。そろそろ行くんだな。気をつけろよ。俺は1年くらい前に行ったことがある。あそこの皇帝宮城内には腹に一物ありそうな幹部連中が、何かを追い立てるような眼をしてうようよしていたからな。」
ユリアが答えて言う。
「あ。シルツビー副ギルド長。お久しぶりです。幹部連中が変な様子だったとのご忠告ありがとうございます。気をつけて行って参ります。ところでギルド長には面会出来ますか?」
シルツビーが答えて言う。
「ああ。もちろんだ。俺が案内してやる。」
ユリアはカビラに手を振って別れ、シルツビーについて行く。ギルド長の部屋の前に着くとシルツビーがドアを開けてくれた。ユリアはシルツビーに礼を言って部屋に入った。
「こんにちは。スサーナギルド長。お久しぶりでございます。今日はちょっとご挨拶に参りました。明朝9時にオスムール帝国に向けて出発致します。」
スサーナが言う。
「そうか。ユリアが行くのですか。もう、覚悟も決めて準備も万端できているのよね。向こう側の内情は先刻ご存じと言うところかな。」
ユリアが答えて言う。
「はい。今年初めに火山噴火に乗じた政変が起きたと推測しています。」
スサーナが言う。
「さすがユリアね。わたくしもギルド長として、かの国のギルドとの通信がその頃に途絶えたことから、政変が起きたと確信しているの。ギルド組織としては国家間の問題にはノータッチだけど、ギルド間の通信を妨害することは国際協定違反行為の最たるものよ。」
ユリアが言う。
「わたくしは、皇太子殿下がご挨拶だけされたことから、皇帝陛下やご家族が人質としてご存命だと思っています。これから行って、2国共同体交渉団の皆様とともに救出致します。」
スサーナが言う。
「ユリアの姿を見ると言うのが憚られる気がするけど、よろしくお願いするわね。かの国の皇帝陛下とは、まだ小さい頃に一度お会いしたことがあるのよ。その時、戯れに模擬剣を持って対戦したら、わたくしが勝っちゃったの。
皇帝陛下は負けず嫌いで涙をこらえて再戦を望まれたわ。だけど、当時の皇帝陛下であるお父上に止められてそのまま引き離されたの。だから、皇帝陛下に会ったら再戦をほのめかしてよろしく言っといてね。」
ユリアが言う。
「もちろんです。必ずお伝え致して再戦を実現させます。勝敗は目に見えていますが、皇帝陛下には再度の再戦を誓っていただきましょう。」
翌朝、ユリアは自ら目覚め洗顔をして体調を整えた。そのあと、ナリアに手伝ってもらって着替えをしたらすぐに朝食時間前のキッチンに顔を出した。
ユリアが言う。
「メラニーさん。イーアンをひと月間お借りしますね。寂しいでしょうけど、想い合う二人には会えない時間も必要だという言い伝えもあります。怪我ひとつさせずに必ずお返ししますので、よろしくお願いしますね。」
メラニーはきょとんとして言う。
「えっ。想い合うって?会えない時間って?何のことでしょう。あっ。聖女様。次は、いよいよ隣国の飢えた民を救済しに行かれるのですね。イーアンは聖女様から秘術を伝授されて、斥候技術に生かすことで恩返しすると言っていました。聖女様の露払いとして存分にお使いくださいませ。わたくし達メイド一同は聖女様やイーアンの土産話を楽しみにしております。行ってらっしゃいませ。」
((メラニーさん。わたくしは聖女なんかじゃないですよ、ほんとに。下手すれば戦をしに行くんですからね。やっぱり、この領主館の使用人たちは娯楽や楽しみが少ないというのが確定だね。))
さて、会うべき人たちには昨日会ったし、朝食も食べたし、伯爵夫妻やデイビードお父さんとソルフィーナ様にも出発の挨拶をしたし。ナリアさんと伯爵夫人から、かの国の音楽の器楽曲や歌の楽譜も見せてもらって記憶したし。あと、かの国の上層部に対峙するまでの大仕事は、森で獣を狩ってダンジョンの森で魔物を討伐するだけだね。
ユリアとエドアルドとイーアンとスクーナーは、領主館正面前の広場でボランティア作業隊の隊員たちを整列させていた。すると、3台の豪華な馬車が引かれてきてボランティア作業隊の列の前に止まった。領主館からは伯爵夫妻を先頭にレオニール侯爵と3人の子供たちが出てきた。その後には筆頭執事クレメンテとメイド長ルシェールを先頭に使用人たちが2手に分かれて並んだ。
レオニールと3人の子供たちが中央の馬車に乗り込み、出発のファンファーレが鳴った。馬車は進み始め、馬車の窓から顔を出した3人の子供たちが伯爵家の皆に手を振って別れを告げた。ボランティア作業隊は、馬車列の後ろに付いて、旗持ちを先頭にイーアン、ユリアとエドアルド、スクーナ、ユニットごとの縦列の順で歩いていった。
10km程進んだ所の三叉路でレオニール侯爵の一行とボランティア作業隊は別れた。ユリアは、離れていく子供たち3人に手を振って別れを告げた。
しばらく進むと、ボランティア作業隊は、全員が身体強化魔法を使って約20km/hの持久走法で走り出した。3時間ほど走った後に昼の食事休憩を取った。午後は2時間走り30分休憩してまた2時間走り、合計約140km進んだ所で野営となった。
ここはまだ、アリースソン伯爵領で、ここから北西約800km先にはオスムール帝国の東部乾燥地帯の東南端がある。オスムール帝国の国境門は、ここから西南西約600km先だ。帝都オストバールはその国境門から北北西約400km先にある。獣狩り予定の森と魔物討伐予定のダンジョンの森は、国境門から帝都までの行程の中ほどから略西方にある。
このあたりは、まだフランソワール帝国の穀倉地帯で蝗害の大被害を受けた地域だ。いまはもう所々で来年の作付けに向けての耕起作業が始まっている。
ユリアが乾燥肉をスープでふやかして食べながら言う。
「エドアルド様。この地に二度と蝗の大群が飛来しないようにしましょうね。口減らしから逃れる子供なんてわたくし一人で十分です。」
すると、エドアルドが皮肉げな顔で言う。
「ユリア。私がもうちょっと早く視察に来ればそんな思いをさせずにすんだだろうに。私のせいだ、済まない。」
ユリアが慌てて言う。
「あっ。エドアルド様のせいなんかじゃないですよ。わたくしは元々両親に疎まれていたのです。人づきあいが少ない両親は、外で他の人たちとよく話をするわたくしが自分たちの悪口を言っていると疑心暗鬼になっていました。よく折檻もされていました
収穫前の穀物が蝗害で全滅してからは特に酷くなったのです。最後のころは、食べ物も与えられずに納屋に閉じ込められていました。このままでは、飢え死にさせられるか、ひと買いに売られるかどちらかでしょう。わたくしは、そのどちらも嫌だったので出奔したのです。」
それを聞いてエドアルドが言う。
「ユリアも随分と苦労したようだな。デイビード叔父上も苦労人には違いないが、領主の末弟という気楽さもあってか、私にはわがまま放題で飛び出していったように見えた。それがどうだ。お前を連れて戻ってきたときの叔父上の面構えには、甘さのひとかけらもなくなっていた。お前が、叔父上の自慢の金縛り魔法の本質や弓矢の凄腕の謎を解き明かして、叔父上に自分の甘さを自覚させたのだな。そういう私自身、一家相伝の落伍者の身では偉そうなことは言えないがな。」
((デイビードお父さんの髭面はそんな効果を狙ったものだったのね。))
ユリアが言う。
「わたくしは、デイビードお父さんと出会い、一緒にガスゴーシュ様に出会いました。図らずも、あの人が背負っているものの大きさを知って、自分がいかに小さな人間であったかを思い知らされました。その時、自分に与えられた脳力を何に使うのかはっきりとわかったのです。ハンター資格1級となった今、ガスゴーシュ様を直接支えるために自ら立ちました。」
((あ。外見は小さな人間で間違いないです。立っても小さいままです。))
エドアルドが言う。
「ユリア。お前は、形は依然として小さいが、あの時も今も決して小さな人間ではない。お前は、あの時も自分のわかる範囲で背負うべきものを背負っていた。そして今は、3国の運命を背負っているではないか。そんな子供なんて見たことないぞ。さあ。もうそろそろ寝る仕度をする時間だぞ。」
ユリアが寝る仕度をしながら言う。
「エドアルド様。わたくしは初めてお会いした時、エドアルド様のことを偉そうな人だなと思ったんです。でも、地位とか関係なく実際に偉い人だったんですね。お見逸れいたしました。おやすみなさい。」
ユリアたち、ボランティア作業隊の一行は1日約150kmを走り、それから4日間かけて600kmを走破して、オスムール帝国との国境門にたどり着いた。国境門の門番たちは事前に通達されていたのか、ボランティア作業隊一行は簡単な荷物検査を受けただけで入国を許された。
ユリアは、ここで帝国皇太子殿下気付きレルムンド・ド・ヨグメリア宰相あてに、エドアルドと連名の飛鳥便の手紙を送った。内容は、野営地の提供以外、一切の金銭的資源的な提供を受けない旨と、獣肉と魔物肉を手土産代わりに持っていくから飢えた民衆への食糧に供してほしい旨である。
ボランティア作業隊一行は、国境門から一番近い町の手前で野営することにした。翌日はまた、朝から走って、国境門から160kmの地点で野営した。
そして、ユリアとイーアンとヘラルドとキルステンの4人はここから別行動を取る。翌朝、先に出発して街道から離れて森への道を進み、その後ダンジョンの森に突入する。ダンジョンの森でアースドラゴンを討伐して、国境門から300km、帝都オストバールへあと100kmの地点でボランティア作業隊の本体と合流する。その翌日は90kmだけ進んで野営し、その翌朝の早いうちに帝都オストバールの皇帝宮城へ入場を果たすという行程となる予定だ。
((いよいよ、明日アースドラゴン討伐という、前半の山場に差し掛かります。すでにドラゴンスレイヤーとなられたスサーナ様。わたくしももうすぐ仲間入りします。))
少女は、あの偉そうな有力者と一緒にかの国へ向けて出発しましたね。そして、ついに入国を果たしました。ドラゴン討伐はどうなりますか。楽しみです。それではまたお会いしましょう。




