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81.少女はかの国に向けて出発する前の準備をする

少女は出発前に済ませるべき仕事を済ませて、最終の確認会議に臨みます。

ーーー 場面はアリースソン伯爵家領主館


 ユリアは、今朝は自ら目覚めて洗顔して体調を整えた後、ゆったりと椅子に座っていた。


 そこに、ナリアが入って来て挨拶しながらユリアの着替えを手伝う。


  「ユリア様。おはようございます。今朝は良いお目覚めでしたね。晩餐会は早めに切り上げられたから、余裕を持ってご就寝できましたね。」


 ユリアが言う。


  「ナリアさん。おはようございます。昨日の晩餐会で公表されたオスムール帝国との交渉結果を聞いて、ひと安心したので憂い(うれい)なく眠れました。翻訳本の作成に根詰めすぎないという約束もちゃんと守れたのですよ。」


 ナリアが言う。


  「それはようございました。でも、交渉ごとの責任は2国共同体が担うものでございます。ユリア様にはもっと心安らかに過ごしていただきたいです。」


 ユリアが言う。


  「ありがとう。ナリアさん。でも、わたくしは、言いだしっぺの責任を最後まで全うします。といっても、交渉団の皆様が、国家間の利益が絡む神経戦ともいうべき交渉の山場を期待通りに越えてくださいました。後はわたくしが力押しでごりごりと進むだけです。」


((ガスゴーシュ様がタヌキとキツネの化かし合いを上手く制して下さったのですね。))


 ナリアが言う。


  「まあ。ユリア様がそんな小さな体で力押しでごりごりとする場面があるのですか?」


 ユリアが言う。


  「あっ。ごめんなさい。言い方に気を付けます。そうですね。知らない者同士の出会いでは、そんな場面は少なからずあります。そしてそこは、わたくしでなければならない場面です。


 なぜなら、かの国に入国する作業隊メンバーは元の所属が皆騎士団です。いわば戦争における対人戦闘の専門家集団です。かの国の関係者は皆それを知っていて、多少なりとも警戒心を持つでしょう。


 そこで戦争や対人戦闘とはおよそ無縁の外見をした幼児のわたくしが作業隊一行の責任者として相手方の警戒心を解きます。でも、相手方には、わたくしを子供と侮る人が一人や二人は必ずいます。その人達をわたくしが論理と実績で分かり易く説き伏せます。」


 ナリアが言う。


  「なるほど。腕っぷしが自慢の大の男でも、子供に負けたらそれ以上恥を晒す(さらす)ことなく潔く(いさぎよく)引き下がるという寸法ですか。そして、その子供に率いられた集団は、武力を背景にしなくても相手方に実力を認められるという訳ですね。しかし少し手加減して上げて下さいね。そして、その論理と実績というのが力を背景としないものであることを切に願います。」


 ユリアが言う。


  「もちろんです。せっかく入国させて貰えたのです。基本的に友好ムードでいきますよ。淑女教育を少しとは言え受講したのですから、応用編と思って実践してきますよ。」


 ナリアが言う。


  「大変素晴らしい心掛けでございます。さて、そろそろ朝食のお時間です。食堂に行きましょう。その後は、ボランティア作業隊の食糧調達ですね。昨日伯爵様が通達されたと思いますが、わたくしからも各部門に協力するよう話しておきます。」


 ユリアが言う。


  「ありがとうございます。何から何までお世話になります。」




 ユリアは、朝食後に、一人で穀物管理部門の事務所を訪ねた。


 ユリアがドアを叩きながら言う。


  「おはようございます。どなたかいらっしゃいますか?ユリアと申します。」


 すると中から返事がしてドアが開いた。


  「はーい。今開けます。おはようございます。ユリア様。」


 ユリアが見知った顔を見て笑顔で言う。


  「あっ。ネイシス様。お久しぶりです。お元気そうですね。」


 ネイシスが嬉しそうに言う。


  「名前を覚えていて下さって光栄でございます。ユリア様。食糧調達の件ですね。既に準備出来ております。騎士団43名の遠征時標準食糧一式です。朝、昼、夕の1日一人3食、43名で129食の30日分です。


 内訳は、朝食と昼食が乾燥肉半切れと黒パン1つとスープの元1つ、夕食が乾燥肉1切れと黒パン2つとスープの元1つとなります。スープの元は、沸騰させたお湯に入れてふやかせば野菜入りのスープになります。


 通常は随行輜重(しちょう)部隊が運搬するのですが、今回は収納魔法持ちが2名で分担して運ぶと聞いています。どなたでしょうか。」


 ユリアが言う。


  「ネイシス様。迅速なご対応と丁寧なご説明、ありがとうございます。取りあえず、今は、わたくしがすべて収納魔法に収納します。後で分担者の方に半分渡します。ところで、騎士団の行軍途中に近くの森などで獣狩りをして食糧にすることはありますか?」


 ネイシスが答える。


  「わたくしは騎士団員ではありませんが、そのようなことは時々あると聞いています。やっぱり、いつも同じ乾燥肉では飽きちゃいますからね。」


 ユリアが言う。


  「ネイシス様。ありがとうございました。それで少しは楽しい行程になりそうです。」


 ユリアはそう言うと整然と積まれた遠征用食糧を一気に収納魔法に収納した。



 ユリアは次に野営装備の管理事務所を訪ねた。


 ユリアがドアを叩きながら言う。


  「おはようございます。ユリアと申します。どなたかいらっしゃいませんか?」


 中から返事がしてドアを開けながら言う。


  「はーい。おはようございます。ユリア様ですね。シンシアと申します。お入り下さい。」


 ユリアが事務所内に入って言う。


  「ユリアです。よろしくお願いします。騎士団の野営装備は、一式ここで保管と管理をしているのですか?」


 シンシアが言う。


  「はい。個人で保管し管理するもの以外は、すべてここで全員分を保管し管理します。その代表的なものが野営テントと野営寝具及び簡易食器類です。ほかに、今回のボランティア作業隊に必要な物として、防寒着と作業用手袋と防塵マスクと安全帽子を支給します。既に43名分が揃えてあります。いかがなさいますか?」


 ユリアが言う。


  「そうですね。各装備は使用者が決まっているのですか?もし、そうならどのように見分けるのですか?」


 シンシアが答えて言う。


  「はい。各装備と使用者は1対1で名前付きで対応しています。使用者ごとに各装備が一括り(ひとくくり)になっています。これらは配布後には個人管理になります。」


 ユリアが言う。


  「シンシアさん。ありがとうございます。それでは、43名分すべてわたくしが収納魔法に収納します。」



 ユリアは、携行品の準備が早く終わったので、魔力適用土木工事の講習は見ずに自室に戻った。


 ユリアが独り言を言う。


  「さすがに伯爵様だね。通達も早いし、現場の対応も一級品だわ。風通しの良い職場は気持ちいいし、時間節約にもなるし、言うことなしだね。さて、翻訳本の残りを午前中に終わらせるよ。」


 ユリアは、あっという間にシングラーツ王国古典語書籍のフランソワール帝国語とシングラーツ王国語の3国語対訳本を作成完了した。


 なにしろ、原本を見る必要がないから、ただ書いていくだけだし、書く速さは手指の身体強化で5倍速となっている。5人がかりで書くよりも速いので、納期2か月の予定を大幅に短縮してしまった。


 ユリアは、この書類を自分で持っている必要がないので、すぐに依頼主の文教部門責任者エドケラスの部屋に持っていった。エドケラスは、ユリアの翻訳本作成作業の異常な速さに驚愕し、ちゃんとやっているのか疑わしく思いつつも成果品を受け取った。


 この翻訳本の古典語部分の正確さを判断するためには、エドアルドが呼んだヴィルダー辺境伯家の古典語が読める文官が到着するのを待つしかない。エドケラスは、取りあえず部下に指示して、フランソワール帝国語とシングラーツ王国語の対比だけを間違いないか調べさせた。


 その結果、現代語同士の対訳は、一つの齟齬(そご)もない完璧なものであると判断された。そして、その内容には、蝗害の発生傾向について記載された部分があり、一度発生したら3年くらい続けて発生する旨の翻訳文が2か国語で書かれていた。



 ユリアは、翻訳本をエドケラスに渡すと、そのまま昼食を食べに食堂に行った。ユリアが食堂に入ると、レオニール卿と3人の子供たちが話ながら配膳を待っていた。ユリアは子供たちに手を振りレオニールに許可を得て近くの席に座った。


 レオニールが言う。


  「やあ。ユリア。魔力適用土木工事の講習会場にはいなかったね。ほかに用事が有ったのかな?」


 ユリアが答えて言う。


  「はい。レオニール様。もうすぐ出発予定のボランティア作業隊の食糧や野営装備の輜重(しちょう)品を収納しておりました。あと、エドケラス先生に依頼されたシングラーツ王国古典語書籍の翻訳本作成を完了させて、先ほど納品してまいりました。」


 レオニールが驚愕の眼差しでユリアを見て言う。


  「何だか空恐ろしい言葉が、ポンポンと聞こえてきたんだが、確認のため聞いてもいいかな?」


 ユリアが訝しげに言う。


  「えっ。はい。構いません。どのようなことでございましょう?」


 レオニールが言う。


  「輜重品を収納とは、馬車に積んだりすることじゃないよね。君は収納魔法持ちなのかい?」


 ユリアが言う。


  「はい。わたくしの収納魔法に収納しました。そのうちの半分はもう一人の収納魔法持ちの騎士様に分担して貰う予定です。」


 レオニールが納得して言う。


  「なるほど、そうか。収納魔法持ちは希少だというが、もう一人がこの伯爵家騎士団にいてボランティア作業隊に加わってくれたというのは奇跡的といえるな。もうひとつ聞きたいのは、君はシングラーツ王国古典語が読めるのか?」


 ユリアは答えて言う。


  「はい。読むだけはできます。発音は、自分なりにこじつけたものなので、正しいかどうかわかりません。以前住んでいたヴィルダー辺境伯領の田舎村教会の神父様に教わりました。」


 レオニールは驚いて言う。


  「君はまだ6歳だろう。もう、3か国語の読み書きが出来るというのか?」


 ユリアが答える前にケイトリンが割り込んで言う。


  「そうなのです。びっくりなさったでしょう、お父様。ユリアは、ここでの淑女教育の外国語の講義で、エドケラス先生から500ページもあるシングラーツ王国古典語書籍のフランソワール帝国語への翻訳を依頼されたのよ。そしたら、ユリアがシングラーツ王国語も含めて3か国語の対訳本を作るなんて言いだしたの。そんなの前代未聞でしょう?


 わたくし達3人のシングラーツ王国語の講義でも、両国語を対比して綴り(つづり)方と発音の仕方の違いについて、法則性の分析結果を一覧表にしてくれたのよ。お陰で黙読も音読も相当上手くできるようになって、エドケラス先生もびっくりしていらしたわ。」


 レオニールは我が子の成長を喜びつつ言う。


  「ケイトリン。君が、ユリアはユリアで、ここで見聞きした通りの生き方をする少女だと理解するしかないと言った心情が少し分かった気がする。


 ところで、エドケラス殿がユリアにそんな依頼を出したのは、我が帝国でシングラーツ王国古典語が読める者が一人もいないことが大問題となっているのを知っているからだ。継承すべき古(いにしえ)の知恵や知識が失われているのが、最近になって判明しつつあるのだ。


 今回の蝗害発生傾向の知識にしても他国から得た情報で初めて知ったという体たらくだ。というのも、最近まで我が皇帝宮城内では、昔の人が書いた書物に現代の生活や技術に役立つ内容が有るはずがないという乱暴で根拠のない主張がまかり通っていたのだ。


 最近ようやく、そのような消極的でやる気がなく口先ばかりの輩(やから)は排斥されるようになった。今は我が皇帝宮城内も、根拠に基づく論理構成が緻密な議論と行動を貴ぶ(たっとぶ)風潮が主流になりつつある。君たちもここでそれに似た議論や行動をしたのだろうと思う。


 ユリアのその対訳本は既に完成したといったな。その写本を早急に入手出来るように手配する必要があるようだ。直ぐに大学での講義にも取り入れられるだろう。


 さて、お話はこれくらいにしておこう。昼食時間が無くなるぞ。」




 ユリアは、昼食後、騎士団副団長のソルジエンの部屋に行った。そして、今回のアリースソン伯爵家騎士団からのボランティア作業隊選出者名簿をもらった。1ユニット4名の9ユニット36名分がユニットごとに組み分けされいる。


 個人欄には、氏名のほかに、魔法属性、剣や槍や弓及び体術などの得意技、ハンター資格なども付記されていて一目で魔法属性の重複がないように記載されている。


 ユリアは、この名簿から収納魔法持ちを特定することができた。また、行程経路近くの森で食用の獣を狩る時のパーティメンバーを選出した。ユリアはこの名簿の写しを3枚作り、イーアンとエドアルドおよび彼の護衛兼任作業者の4人で共有することにした。


 ユリアは、ソルジエンに頼んで、ボランティア作業隊メンバー全員を1時間後に騎士団訓練場に集合させてもらい、顔合わせと簡単な打ち合わせをすることにした。エドアルドにも同様のことを伝えた。



 1時間後、騎士団訓練場に全員が揃った。ユリアとイーアン、エドアルドと護衛兼作業者のスクーナー、及び、ソルジエンに対向して、39名がユニット毎の10列に並んだ。


 各ユニット内では、互いに、名前と顔、魔法属性や得意技などは、既に知り合った仲間である。当然ながら、ほかのユニットのメンバーも、同じ騎士団で日頃の訓練や業務を共にした旧知の間柄である。


 そこで、イーアンを間に立てて、ユリアとエドアルドとスクーナーが、作業者全員の名前と顔を覚えることから始めた。ユリアは、名簿を手にして見比べながら全員の顔と声を覚えた。それと同時に、各ユニット内のリーダーを指名していった。


 各リーダーには行程計画書と現地で予想される作業内容とその作業方法案を渡し、ユニット内で共有するよう指示した。


 ユリアは、全員との顔合わせが済んだ後、自分が全体の責任者であり、エドアルドが共同責任者であることを宣言した。そして、イーアンとスクーナーが各責任者の護衛兼副責任者であることを周知した。


 ユリアは、あと、旗持ち役をユニット間で交代して務めること、輜重品の半分を第7ユニットの収納魔法持ちヤコブセンが運ぶことを指示した。さらに、ハンター資格3級持ちの第3ユニットのヘラルドと第9ユニットのキルステンを、臨時の食用獣狩りのハンターパーティーメンバーに指名した。


 最後に、ユリアは、出発が明後日の朝食後の8時半であるから各自入念に準備するよう指示した。また、途中までレオニール・ドゥ・フランソワール侯爵の帝都帰還に同行すること、別れたあとは身体強化魔法で小走りで進行することを周知した。



 その日、ユリアは夕食前にアリースソン伯爵をつかまえて、出発前の最終打ち合わせ会議の開催を依頼した。会議は、翌朝9時から行われ、伯爵と幹部及びレオニール侯爵と、作業隊の責任者及び副責任者との間の細かい約束事と現地情報が共有される事になった。



 ユリアはその夜、床につく前に椅子に座ってしばし思索した。いくつかの本に書いてあった、3国全体の地図、オスムール帝国国境門までの行程図、及び同国の東部乾燥地帯への経路図を思い浮かべた。


 ユリアが独り言ちる。


  「まず、オスムール帝国側の当方への窓口が誰か、当方の行動に許可を出せる決定権者は誰か、その決定権者を動かせるキーパーソンは誰かを特定することね。


 決定権者は皇帝の信任を得た宰相かな。窓口は外交補佐官あたりとすると、キーパーソンは、外交次官か長官、内務次官か長官のうちの誰かになるか。


 高位の人物に直接当たれない場合は、窓口の人物を味方に付ける手立てが必要だね。事情通の人物だったら、帝国側が望むことでボランティア作業隊で出来ることを一緒に見つけて貰おうかしら。


 こちらの作業に理解のない人物が窓口だと最悪だから、長官か宰相に直訴して窓口を変えてもらおう。こちらの復興作業を制限するような窓口ならいらないね。でも、復興作業そのものを管轄する部署の人でないなら窓口って何をするのかな。


 あと、こちらの作業を歓迎しない向きがあるか否かだね。瓦礫撤去作業で飯を食べている人達、国を嫌っている人達、2国共同体に対して疑心暗鬼の念を抱いている人、家を失った人達、いろいろいそうだね。そういう人達を説得する材料は何でしょう?


 うーん。ちょっと考えても良い案が思い浮かばないからそれは後回しだね。先ずは、かの国の幹部達との信頼関係の構築からかな。早速、帝都に着いた当日夕食を兼ねて、焼き肉パーティーに宮城職員達や幹部達を招待して一発かましますか。おっと。言い方ね。焼き肉パーティーで友好ムードを醸成(じょうせい)しましょう、です。


 そうだ。帰途についた交渉団とどこかで出会えるといいな。」


 ユリアは、そこまで考えて、眠気に負けて床に就いた。

 



 翌朝、ユリアは、ナリアに起こされて目覚めた。直ぐに気を引き締めて、会議に臨む気構えを立て直した。


 ナリアが着替えの手伝いをしながら言う。


  「今日は、出発前日でございますね。さっきのぼーっとしたお顔が急にきりりと引き締まりました。これで午前中の会議も中身が濃くなるというものです。」


 ユリアが反省モードで言う。


  「わたくし、そんなに締まりのない顔をしていたのですか?昨夜寝る前に、焼き肉パーティーをして友好ムードを醸成しようと考えたのがいけなかったのですかね。」


 ナリアがぱっと顔を明るくして言う。


  「まあ。かの国の人達を招待して交流会を兼ねたパーティーをするのですね。みんなで盛り上がる情景が目に浮かぶようです。」


 ユリアが何か思いついたように言う。


  「そうだ。パーティーの盛り上げには、音楽とダンスが必須じゃないかしら。わたくしがバイオリンを弾くとして、かの国の歌とかダンス曲とかどなたか知らないかしら?」


 ナリアが言う。


  「それでしたら、わたくしがバイオリン曲の楽譜を何曲か持っておりますよ。歌詞もついていたと思います。ローザンヌ奥様も違う曲の楽譜をお持ちのはずです。何なら、かの国の楽師の方からお借りするとか、合奏するとか頼み込む手もございますよ。」


 ユリアがうれしそうに言う。


  「うわぁー。なんて楽しそうなんでしょう。もう絶対に実行いたします。そのためには、行きの途中の森で獣のお肉を取り溜めておかないと。ぼんやりしていた計画が急に具体的になって来ました。ナリアさんのお陰です。」


 ナリアが言う。


  「お役に立てて、わたくしも嬉しうございます。そろそろ朝食のお時間ですよ。食堂に参りましょう。」




 ユリアは、朝食後しばらく自室でくつろいでから、ナリアに先導されて会議室に入った。会議室には、既に伯爵とレオニール侯爵とネイトビアス騎士団団長が、正面壇上奥側の長机に付いていた。ほかの幹部達は正面に向かい合う長机の席に分散してついていた。


 ユリアは、正面壇上入り口側の長机の席に一人でついた。


 ユリアが言う。


  「皆様。お忙しいところお集まりいただきありがとう存じます。ご存じの通り明日9時にボランティア作業隊が出発いたします。この会議の場では、出発前の最終確認をさせていただきたく存じます。


 それでは、早速、伯爵様にお尋ねいたします。先の晩餐会で、交渉団からのお手紙の内容のうち公表を省略された事項を、読み上げる形でここで余さずご開示下さいませ。晩餐会の場では速報の意味で重要でなかった情報です。」


 伯爵は驚いた様子で言う。


  「ユリア殿。この情報は手紙の写しとしてお渡しするつもりでした。読み上げると時間がかかりますが、よろしいですか?」


 ユリアが言う。


  「はい。上層部の人の名前と人物寸評ですよね。そんなに時間はかからないでしょうから、読み上げおねがいいたします。」


 伯爵が頷いて読み上げを始める。


  「オスムール帝国側の上層部構成と氏名を記します。皇帝クミルトス・ド・オスムールは火山噴火物のため逝去。皇帝代行は皇太子のスベラトス・ド・オスムール、まだ若く政務に実権がない模様。宰相レルムンド・ド・ヨグメリア、事実上の最高権力者で詮索好き、合理的考え方をする。外交担当長官コルネイ・ド・フォルケス、発想力は少ないが実行時の具体化が先見えする。外交担当次官オウステント、実直で話せばわかる。内政担当長官ライアン・ド・エフレイン、やや堅いが頭が回り、話の先読みができる。内政担当次官イスタラム、正直で信用できる、当方が送ったポーションで流行り病から生還した。


 以上が、手紙に書かれたかの国の上層部の顔ぶれです。次官の下には補佐官が付いているようですが、この手紙には詳しいことは書いてありません。」


 ユリアが言う。


  「ありがとうございます。失礼ですが、そのお手紙を見せていただいてよろしいですか?それは、写しではなく原本ですよね。」


 伯爵が手紙を差し出しながら言う。


  「そうです。これは原本です。どうぞ、ご覧ください。後で写しをお渡しします。」


 ユリアが手紙を受け取りながら言う。


  「ありがとうございます。・・・ふーん。はい。読み終わりました。お返しいたします。」


((なるほどね。さすが、ガスゴーシュさん。人物寸評に相当神経を使ったようね。))


 ユリアは、手紙を伯爵に返しながら言う。


  「今回のボランティア作業隊は、特に、帝都の街区の復興に対しての期待が大きいようです。そのような作業の直接の統括はおそらく建設土木担当部署が担うでしょう。一方、我々が外国人である点からみると、窓口として外交担当次官オウステント様がつく可能性が高いと予想します。


 仮に、我々が外交担当を窓口とする位置付けとなった場合、我々に対する作業指示は建設土木担当から発せられ外交担当の窓口を経由して下りてくるという、なんとも非効率な組織形態に陥る恐れがあります。


 そうであるなら、我々に窓口は必要ありません。なぜなら、復興作業以外の件で我々がかの国と交渉したり要求や要望を出すことはないからです。ただし、我々が主催する友好醸成パーティーへの参加を促すことはあります。


 したがって、わたくしは、復興作業と関係ない窓口を通す組織形態は拒否します。代わりに、復興作業を直接管轄する部署である建設土木担当との復興作業協議会の設置を主張します。


 すなわち、外交担当または窓口を経由せずに、建設土木担当と直接交渉および協議を通じて、我々の復興作業内容と彼らの元々の作業内容との整合を取った上で復興作業を進めたいと考えます。また、協議内容には、我々が入ることで仕事を失う復興作業員への補償も含みます。特に優秀でリーダー的な人材には、魔法属性を見て魔力適用土木技術を指導します。


 我々のそのような主張が、かの国の上層部に受け入れられるか否かにつきましては、十分に受け入れられると予想します。先ほど伯爵様が開示してくださった宰相レルムンド・ド・ヨグメリア様は、合理的な考え方の持ち主のようですから。


 これが、最終確認の内容です。いかがでしょうか?皆さま。」

 




((私にとっての出発前の山場です。ボランティア作業隊は国を背景とせずに自らの責任で目的を達成します。かの国の上層部は物分かりのいい人が多いみたいです。でも、下位の人たちが友好的であるか、少し心配です。))


最終確認は、復興作業という仕事をいかに効率よく進めるかについて、伯爵家ほかに説明する場でしたね。ひとつ間違えると、国際てきな外交問題にもなりかねない行動を決意しましたね。翌日は出発するようです。それではまたお会いしましょう。


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