80.少女はかの国への被災地復興支援の出発が近いことを知る
少女はかの国への復興支援隊の魔法適用土木工事の訓練状況を見学します。
ーーー 場面はアリースソン伯爵領主館
ユリアはナリアに起こされて目覚めた。文教部門責任者のエドケラスに頼まれた翻訳本作成で夜更かしをしたようだ。
ナリアが身仕度を手伝いながら言う。
「ユリア様。おはようございます。昨夜は遅くまで翻訳本の作成をしておられたのですね。お疲れのようで心配です。」
ユリアが言う。
「ナリアさん。おはようございます。ご心配いただきありがとうございます。翻訳本の作成に根詰めすぎないようにしますね。エドアルド様の話によると、シングラーツ王国でもこの翻訳本が期待されているようなのです。それで、早めに仕上げてしまおうと考えて気が焦っているのかもしれません。でも、ボランティア作業隊の出発前までには目処を付けます。」
それを聞いて思い出したようにナリアが言う。
「さようでございますか。そうそう。今日は魔法技術研究所長のレオニール・ドゥ・フランソワール様がご到着されます。ケイトリン様のお父上様です。魔力適用土木工事の講習を受ける作業者を連れてこられます。午後にはその講習が始まりますよ。エドアルド様も、何か蝗大群飛来時の対策技術をご披露なさるようですよ。」
ユリアが嬉しそうに言う。
「うわぁー。そうなのですね。たのしみだわ。」
ナリアが言う。
「それと、もう一つお知らせがあります。淑女教育ですが、フランクル様とケイトリン様とエルリック様については、伯爵様が当初の目的を達成したと判断されました。ですから、本日はユリア様もすべて自由時間でございます。どうやらユリア様が関係するプロジェクトは計画通りには終わらないようでございます。いつでも、期間は大幅短縮、成果は期待以上の大成功なのです。」
ユリアが言う。
「そうなのですか。わたくしの悪い癖ですかね。いつも計画を示されると成功に至る最短ルートを探して突き進むようなのです。今回のお友達との楽しい時間さえも短縮してしまいました。
3人のお友達は、ケイトリンのお父様とご一緒に帝都レパルナスに戻られるのですね。
でも、自由時間が増えた分、翻訳本の完成を急ぎます。それでは、さっそく朝食をいただきに食堂に参りましょう。」
ユリアは朝食の後、自室に籠ってシングラーツ王国古典語書籍の翻訳本作成に没頭した。結局、今日の午前中3時間半と昼の休憩時間の前半30分をかけて、原書の240ページ分の翻訳書写を進めた。残りページは4分の1程度となった。明日にも完成しそうだ。
ユリアは昼食後、3人のお友達と誘い合って、建設土木部門の試験場に魔力適用土木工事の講習会を見学しに行った。試験場には既に講習を受ける40名に加えて、彼らの上司達や一般見学者が多数いてごった返していた。
ケイトリンは自分の父親のレオニールを見つけて走り寄って言った。
「お父様。お久しぶりです。わたくし、今日の講習会は、お父様のお気持ちを考えると複雑な気持ちでございます。お父様はどのようにお考えでしょうか?」
レオニールは笑いながら我が子に言う。
「ケイトリン。私の気持ちを推し量ってくれるのはうれしい。そして今回の事を私がどのように考えているのかって?当然、この技術をどのように使うか考えているに決まっているだろ。
いいか、ケイトリン。私の研究所が皇帝直属と言うことは、帝国内各領地での研究成果は、とりもなおさず私の成果ということなのだよ。だが、この研究に関しては、私には、研究計画承認申請と同時に研究成果報告が届いた。あっと言う間の研究進展で建設土木部門責任者のゼルジブも書類作成が間に合わなかったらしいな。」
ケイトリンが安心したように言う。
「そうなのですね。安心いたしました。この工事方法を考え出したのはユリアなのです。ユリア、こっちに来て挨拶してくださらない?」
ユリアは、レオニールの前でカーテシーで挨拶した。
「お初にお目にかかります。ユリアと申します。よろしくお願い申し上げます。ケイトリン様にはとても仲良くして頂いています。」
レオニールは言う。
「ほう、これは。丁寧な挨拶をいただいた、ユリア。レオニールだ。名前で読んでくれたまえ。ケイトリンが世話になったようだな。礼を言う。ふうむ。父上の話の通りだな。ちょっとしたことですべてを見抜かれそうだ。」
ケイトリンが不思議そうに聞く。
「お父様。お祖父様は何をおっしゃったのですか?」
レオニールが答えて言う。
「そうだな。父上は、ユリアという少女は自由人であるから束縛するなと言われた。また、すべての物事の本質や因果関係を突き詰めるが、自分はその外側に置きたがるとも。孫のソルフィーナの全快治癒も御殿医師にポーションを運んだだけだから報奨を受ける立場にないと、屁理屈で財政難を慮ってくれたそうだ。」
ケイトリンが言う。
「そうですわね。ユリアはこの魔力適用土木工事も含め、蝗害対策に関連するほとんどの方法や手段を考え出したけど、自分を組織の外に置いているわ。子供だからかも知れないですけど。でも、今回初めて、ボランティア作業隊の責任者として立つようですよ。」
レオニールが言う。
「はは。そうだな。だから、ボランティアなのだろう。形式上は、みんな元の所属組織からは一旦抜ける訳だからな。見事な手法で組織外の組織を作ってしまった。これで存分に力を発揮出来るのだろう。だが、作戦が成功した暁には自分で作った組織から離れて自由人に戻るに違いない。」
ケイトリンが言う。
「そうなのですか。わたくしは、ユリアのことを少し分かったつもりでいたのですが、まだ分かっていなかったようです。」
レオニールが言う。
「ああ。そうかもな。だが、ケイトリン、それで良い。父上からはユリアという少女を見てこいと言われただけなのだろう?その課題はもう満足している。見ただけでなく友人にもなった。それで十分ではないのか?」
ケイトリンがちょっと不満そうに言う。
「分かりました。ユリアはユリアで、ここに来てから見聞きした通りの生き方をする少女なのだという理解で満足しておきます。」
ユリアが言う。
「ケイトリン。わたくしは見たり聞いたりするものではなかったでしょう?一緒に座学で考えて二人で答えを出したし、音楽で音楽性の意味を込めた演奏の練習をしたわよね。貴女はただの傍観者ではなかったはずよ。そうよ。その間のわたくしたち二人は同じような生き方をしていたのじゃないかしら?」
ケイトリンが改まって言う。
「ユリア。そうね。その通りですわ。理解なんて言葉を使う場合ではないのね。こうして貴女と一緒に生きる時間を共有したことは、わたくしの一生の宝物ですわ。」
ユリアが少し諭すように言う。
「もう。ケイトリンたら。大袈裟過ぎるわよ。これから何度でもそんな機会があると思うわ。」
フランクルが言う。
「僕はそんな考え方をすることには気づかなかったよ。だけど、言われてみればたしかに僕も傍観者ではなかった。生き様をどんな言葉で表現するかは知らないけど、僕もユリアと同じような生き様をした気がするよ。」
エルリックが言う。
「そうだね。ユリアがどんな少女かと言われれば、他人に言葉で説明するのは簡単ではないでしょう。だけど、わたくし自身にはユリアと一緒の教育で考えを戦わせた経験があります。課題に対してユリアがどんな考え方やプロセスで回答を引き出すかを自分のことのように感じ取れたと思います。」
レオニールが言う。
「3人ともそれが言える程には成長したと言うことだ。みんな十分に目的を達成してくれて喜ばしい限りだ。
そして、さすがアリースソン伯爵だな。これまでの教育成果を見て昨日で教育修了を宣言された。君たちを送り出した側として伯爵に感謝したい。
さて、そろそろ、魔力適用土木工事の講習が始まるぞ。」
建設土木部門の研究者ビルメルクが、魔法適用土木工事の作業員、1ユニット3名+1名、合計10ユニット40名と帝都から来た4名に集合を掛けた。
ビルメルクが説明する。
「指導員はこちらの1組3名の合計3組を用意しました。指導員各組で行う作業の種類を、第1種の用水路開削+両脇堤防の造成工事、第2種の傾斜地の平坦化工事、第3種の畑作用耕起工事の3種類としました。
講習受講者のみなさんには、この3種類をすべて順に回って指導を受けて2周回していただきます。1周目は一応形になるところまでで終了し、2週目で仕上げ習熟段階まで行きます。特に、1周目では指導員の模範試技を見てやり方を覚えた上で実践訓練してください。今日は、時間の関係で1周だけの訓練で終了とし、明日は2週目の訓練をしていただきます。
土魔法適性者は、土魔法の実体化魔法を専任で担当してください。土魔法適性も生活魔法の土魔法も保有しない方は魔力放出専任となります。ユニット内で魔力放射係の方2名の魔力の種類が同じ種類に重ならないようにユニット間でメンバー調整してください。一度メンバーが決まったらメンバー変更はあまりしない方がいいでしょう。
土魔法適性者のいないユニットは生活魔法の土魔法で代用してください。個人の放射できる魔力強度や魔力量に差があるのでユニットごとに作業性や威力にも差が出るのには目をつぶるものとします。プラス1名の交代要員の方はユニット内で適宜ほかの人と交代して訓練してください。
よろしいですね。それでは、3ユニット1つ、4ユニット2つに分かれて第1種から第3種に並び、指導員の模範試技をつぶさに見てください。その後、最前列のユニットから指導試技を始めてください。」
初めて見る観衆は、各指導員が行う3種類の魔力適用土木工事の凄まじい威力を目の当たりにした。そして、あっと言う間に所定量が完了する進行速度に、みんな度肝を抜かれて唖然とした口が塞がらない様子だった。
だが、この試技の様子を見たことのある3人の子供たちや一般観衆は、いつもながらの光景に拍手喝采で喜んでいた。
一方、これを初めて見るレオニールは、今にも顎が外れんばかりに大口を開けて、しばらく呆けていた。そして、ケイトリンが自分の気持ちを心配げに推し量る理由を悟った。
レオニールがこれまで魔法技術研究所で主導してきた研究成果が、まるで子供の砂遊びに見えるのだ。この違いを見て心配しない方がおかしい。
レオニールが独り言のように言う。
「こんなにも差があるとは思いもしなかった。一体どうしたらこんなことができるのだ。私がこれまでやって来たことは何だったのだ。そうか。ケイトリンは私が今のような心理状態に陥ることを心配してくれたのか。
だが、ああ言った手前、私は子供たちに動揺した姿を晒す訳にはいかない。気を引き締めていくぞ。」
レオニールは気を取り直して関係幹部を見て言う。
「ゼルジブ殿、ビルメルク殿。これは素晴らしい研究成果ですぞ。この技術を使えば帝国の食糧事情の改善も治水対策も一気に進むに違いない。正に最高報奨の対象ですが、これを開発したのがユリアだというから、はぐらかしで辞退されそうですな。」
ゼルジブが言う。
「まったくでございますじゃ。レオニール様。ユリア殿は、1日目には10分ほどやり方を指導して、魔力放射棒の改良を指示しただけで終わったそうですじゃ。そして、2日目にはそれこそ5分間実践訓練を見ただけで終わって、あとはよろしくときたもんですじゃ。この有様じゃと、自分はなにもしなかったと逃げられるのは必定。報奨の授与は言うだけ無駄というもので御座りましょう。」
レオニールが言う。
「ゼルジブ殿。ご忠告に従うのがよさそうですな。とにかく、このような画期的な工事方法を開発してくれて感謝します。いま講習を受けている40名は、当分はボランティアとして彼の国に赴くのですな。その間にも、建設土木や農業の従事者達にこの技術を広める算段と実践の計画が必要ですよ。」
そうこうしている内に、訓練の第1周目が終わった。次は、シングラーツ王国側の技術のお披露目だ。
エドアルドが観衆全員の注目を集めるような声を張り上げて言った。
「皆様。私は、隣国シングラーツ王国ヴィルダー辺境伯家のエドアルドと申す者です。ここで本日最後の魔法技術研究成果をご覧いただきましょう。
これは、万一不幸にも蝗大群の来襲があったとき、少しでも被害を軽減するための空中焼き払い手段の荒技の試技です。
2種類のやり方を行います。第1手段は個人技で、私を含めた5名で行います。第2手段は高度と威力の増強技で3名一組で行います。それでは、先に第1手段の試技をご覧ください。」
エドアルドたち5名は、横一列に並んで両手で自分の剣を掴み、腕と剣先を斜め上に掲げて魔力を放射し始めた。すると、コイル状の火焔の筋の5本の平行線が、細長い平面を描くように斜め上真っ直ぐに50m位上空まで延びた状態を10秒ほど維持して消えた。
上空を見上げていた観衆が皆驚きの歓声を上げて拍手喝采した。
ここで、エドアルドが解説する。
「これが第1手段の試技でございます。5名ではこの範囲ですが、100名で行う姿を想像してください。かなりの食害軽減効果が見込まれると思います。
では、次に第2手段の試技をご覧いただきます。これは、もっと上空を飛ぶ蝗大群に対応したものです。」
2名が特殊な魔力放射棒を両手で共同して持ち、1名が片手でほかの2名より先端側を握り、斜め上空に向けて全員で魔力を放射し始めた。すると、100mほど上空に、火焔の幕が幅約50m、高さ約50mの範囲で形成され、10秒ほど維持された。
上空を見上げていた観衆が皆、再び驚きの歓声を上げて拍手喝采した。多くの人々が、飛来する蝗大群のかなりの数を焼き払う勇姿を想像したに違いない。
エドアルドが試技終了の言葉を言う。
「皆様。これで飛来する蝗大群の焼き払い手段の試技を終了いたします。」
ビルメルクが本日の講習の終わりを宣言する。
「皆様。これで本日の講習と蝗大群空中焼き払い手段のお披露目を終わります。明日は午前9時から魔力適用土木工事の講習の2周目の指導を行います。それでは、ご散会ください。」
ここで、レオニールがエドアルドに質問する。
「エドアルド殿。素晴らしい技術を見せて貰いました。あのような技術をどのように開発されたのでしょう?差し支えなければご教示頂けないでしょうか?」
エドアルドが答えて言う。
「フランソワール侯爵。問題は有りません。この基本技術はユリアが開発した接近戦の荒技がベースになっています。もちろん、この技術が対人戦闘に使えないようにするための歯止めが掛けてあります。ご安心を。」
レオニールが言う。
「それでは、我が国にも公開して頂けると言われるか?その際、技術移転料は如何ほどか?」
エドアルドが言う。
「はい。公開は可能ですが、ただでと言うわけには参りません。講師派遣を望まれる場合は、人件費日当と交通費宿泊費等の実費を頂きます。なお、技術移転料については無料です。
蝗大群の移動経路を考慮すると、御国で半分を焼き払って下さると、我が国での焼き払い負担が減るのです。むしろ、御国にこそ必要な技術でしょう。ただし、あくまでも、蝗大群発生場所での蝗幼虫殲滅作戦が効を成さなかった場合の最終手段としての位置付けです。」
レオニールが言う。
「なんと寛大なお言葉を頂戴いたしました。後ほど、技術移転日程を具体的にご相談させて下さい。」
この日の夕刻には、レオニールの歓迎会と3人の子供たちの送別会を兼ねて晩餐会が催された。なお、オスムール帝国へ赴く被災地復興支援ボランティア作業隊の壮行会は、ボランティアであるが故に行われない。しかし、その作業隊メンバーは、全員晩餐会に参加している。
壮行会の途中で、アリースソン伯爵は書類取り次ぎ文官から飛鳥便を受け取った。送り主はガスゴーシュである。伯爵は、晩餐会の正面側壇上に上がり、全員の注目を集めて言う。
「皆様。ご静粛に。ただいま、2国共同体交渉団からの手紙を受け取りました。内容を掻い摘まんでお知らせします。
まず、かの国の東部乾燥地帯への蝗幼虫殲滅作戦は当方の原案通り認められた。事前の現地行程の踏査調査隊の派遣も認められた。また、蝗幼虫を殲滅した跡地の耕作地化作業隊の同行と作業実施も認められた。ただし、かの国の蝗幼虫殲滅作戦への参加はなく、2国共同体のみで実施される。
次に、かの国の火山噴火被害復興への支援は、食糧支援なし、医薬品支援は無償でポーションの特級と超特級を合わせて1000本、被災地復興支援は、ユリア殿の提案の通り40名が野営具と食糧持参で現地滞在15日間、と言う内容で妥結となった。
最後に、日程であるが、最初は帝都オストバールの被災街区の破損建物や瓦礫の撤去と更地化作業支援隊で、可及的速やかな来訪を望んでいる。
火山灰汚染耕作地の土壌改良は、石灰石の準備が出来たら連絡が入るが、年明け後の予想だ。
蝗幼虫殲滅作業隊の入国日は当方の任意、滞在期間は最長3カ月間であるが願い出れば最長1月の延長を認める。これについても食事や宿の提供はなく野営装備の持参が求められる。ただし、食糧等輜重部隊の入国往来は3回まで認める。
以上だ。」
伯爵は、近くにいたユリアをつかまえて言う。
「ユリア殿。いよいよですぞ。早め早めに準備していたことが功を奏しましたな。明日は、魔力適用土木工事の講習の2周目と並行して食糧調達をするのですな。人手は、騎士団でも何でも使って下さい。一方、野営装備は騎士団全員自分のものを持っていますぞ。」
ユリアが伯爵の気遣いに感謝しながら言う。
「はい。ありがとう存じます。お蔭様で、第1段階の交渉妥結が完了しました。これからが本番です。でも、第2段階の現地滞在による復興支援は、当初組み込まれていなかったのです。
かなり後になって火山噴火被害の推測が出ました。それから復興支援策の準備を始めたので間に合うかどうかは綱渡りでした。
しかし、考えてみると、この復興支援策こそが、こちらの主目的である蝗幼虫殲滅作業隊の入国許可を勝ち取る、一番の手札になりました。かの国と2国共同体が、お互いの一番欲するものを交換するというwin-winの形ですね。」
ユリアの言うことを近くで聞いていたレオニールが言う。
「伯爵。話に割り込んで申し訳ありません。ユリア、その火山噴火被害の推測というのは、私の父、クリューソス大公とのお茶会で話したのが最初なのかな?それを聞いて父上は帝都に飛んで帰って来たのだ。一体、どうやって父上に君の推測を信じさせて動かすことができたのだ?」
ユリアが答えて言う。
「はい。レオニール様。大公殿下にお茶を煎れさせていただき、その後で、お茶を飲みながら話したのが最初でした。大公殿下は、かの国で火山の大噴火があったことをご存じでしたが、被害については話題にも挙がっていないとお話しくださいました。そして、わたくしが、かの国が火山噴火の大被害を被ったと推測する理由を聞かれました。
簡単にいうと、植生の変化と火山噴火と、春先の長雨とを関係づけて考えた帰結です。
つまり植生が変化したのは、火山噴火の噴出物が風で運ばれ春先の雨に混じってこの国の地上に降り注ぎ、土壌の性質を変えてしまったからだと推測しました。この国でさえ植生への顕著な影響が出ているのなら、かの国ではもっと大きな影響を受けているはずだと類推したのです。
大公殿下は、仮に、わたくしの推測内容が正しいとすると、かの国が、今年初めから国境を遮断して内情を探らせない状況が続いていることに対して、合理的な説明がつくとご判断なさったのだと思います。」
レオニールは言う。
「ユリア。確かに私も、かの国の火山の大噴火の話は聞いていた。私は、かの国が噴火で被害を受けたかどうかを話題にすらしなかった一人なのだ。その点、父上はさすがだな。君が幼児の姿で話す推測を信じられるほどの頭脳をお持ちだ。」
ユリアが言う。
「はい。大公殿下は、わたくしのような幼児の話を聞くだけの気持ちの広さと観察眼をお持ちでした。でも、そのお茶会以前に、わたくしという人間を知るいくつかの機会がなければ、そもそも、お茶会のお誘いすらなかったでしょう。信頼というものは、一朝一夕に築けるものではないですから。」
レオニールが言う。
「はいはい。ご高説、ありがたく承りました。私も、君という人間を知る機会を持てて良かった。」
ユリアは言う。
「あっ。申し訳ございません。わたくしの悪い癖が出ているようでございます。上から目線で話すという子供らしからぬ癖でございます。」
((またまた、悪い癖が出てしまいました。でも、子供達3人との淑女教育の時間が短縮できたことは、かの国への復興支援隊の出発を早めることに繋がったね。彼らにはまた会う機会があるでしょう。))
少女のはかの国への入国許可を勝ち取ったことで言い出しっぺ責任の半分果たしましたね。残り半分はまだまだ時間がかかりそうです。それではまたお会いしましょう。




