79.少女は淑女教育のお茶会と特別講義を受ける
少女はお茶会と特別講習に臨みます。どちらにも、あの偉そうな有力者が関係しているようです。
ーーー 場面はアリースソン伯爵家領主館
ユリアは今朝はナリアに起こされて目覚めた。
ナリアが言う。
「ユリア様。おはようございます。昨夜は随分遅くまでお話しが弾んだようでございますね。」
ユリアが言う。
「おはようございます。ナリアさん。気づかないうちに夜更かしをしてしまいましたわ。久しぶりのお友達との再会で積もる話が次々に出てきましたの。」
ナリアが言う。
「それはようございました。異国の地で寂しい気持ちもおありなのではとお見受けしておりましたので。ところで、お友達は皆様大人の方ばかりでございますね。同年代のお子様のお友達はいらっしゃるのですか?」
ユリアが言う。
「あ、はい。ご心配いただきありがとう存じます。昨日来られた大人5人は、ヴィルダー辺境伯家の騎士団で特に一緒に魔法技術の訓練をした仲間たちですの。
もちろん、同年代のお友達もいますよ。辺境伯家一族のお子様達で、8歳のご令嬢お二人と、12歳、11歳、10歳のご子息達です。
ご令嬢お二人には音楽授業に臨時参加させていただき、横笛を選択して習いましたし、三人のお茶会でお茶の楽しみ方を勉強しましたの。ご子息達お三方とは、弓術勝負を楽しんだ後、弓矢の一発必中かつ百発百中の秘技を指導しましたわ。」
ナリアが言う。
「さようでございましたか。それを伺って安心致しました。ところで、今日の淑女教育は午前中がお子様達4人でお茶会です。講師はとくにいませんが、お茶の葉とお湯沸かし、ティーカップ、お菓子はこちらで準備致します。午後はエドアルド様の特別講義で蝗害対策について概要をお話し下さいます。」
ユリアが言う。
「お茶会では、正式のマナーを教えてもらえるのではないのですか?」
ナリアが言う。
「いいえ。このお茶会は淑女教育の中で行いますが、息抜きのために臨時で組んだものです。ご自由に振る舞っていただいて結構でございます。」
ユリアが言う。
「ありがとう存じます。ナリアさん。わたくしにとっては4回目のお茶会ですが、まだ正式なマナーを学んでいないのです。他の3人にいろいろ教えていただきたいですわ。それでは、食堂に行きましょう。」
ユリアが食堂に入ると他の子供たち3人が配膳を待っていた。ユリアはそこに同席した。
ユリアが言う。
「おはよう。みんな。今日の午前中はお茶会だそうよ。楽しみだわ。」
ケイトリンが言う。
「おはよう。ユリア。今日のお茶会は呑気に楽しめるものではなさそうですわよ。わたくしと貴女で他の殿方3人にお茶を煎れて差し上げるというお茶会なのですって。もう一人の殿方というのが隣国ヴィルダー辺境伯のご子息なのよ。午後の特別講義の講師だから少し緊張するわ。」
ユリアが言う。
「ええっ。そうなの?ナリアさんは、お茶会には講師もいないから自由に楽しめば良いと言って下さったわ。それに、もう一人の殿方はわたくしのお友達で気さくな方だから、お茶のマナーを厳しく言ったりしないと思う。わたくしに対しては皮肉くらいは言うでしょうけど。」
ケイトリンが言う。
「ユリア。貴女のお友達ってみんな大人ですのね。子供のお友達はいらっしゃらないのかしら?」
ユリアが言う。
「それはナリアさんにも聞かれましたわ。もちろん、わたくしにも同年代のお友達はいますよ。ただ、そのお友達は貴族家のご令嬢やご子息だから、わたくしのように自由に動ける訳ではないのです。」
ケイトリンが言う。
「なるほどね。わたくし達も今回初めて帝都レパルナスの外に出して貰えたのよ。それには相当の理由が必要だったと思うの。その理由というのが、貴女と一緒に変な淑女教育を受けることだったのね。」
フランクルが言う。
「確かに、変な教育だね。初日の座学では大人の政治の世界に通用するような実践的な考え方を学んだ気がするよ。身体強化魔法と物理防御の訓練では、僕たちは3人とも数年先の目標をたった1日で達成できたんだよ。たぶん、皇帝宮城内での教育方法とはまるで違って、容赦なく頭も体もフルに使わせる教育方法なのだろうね。」
エルリックが言う。
「そうだね。わたくし達3人だけで受ける教育では、自分達で話し合ったり逆に競争心を露わにするような場面がなかった気がする。だけど、そこにユリアが入ることで、わたくし達の間にあった壁のようなものがなくなって、互いの考えをぶつけあうことが増えたし、負けたくないという意識も芽生えたんじゃないかな。」
ユリアが言う。
「わたくしが間に入ることで、みなさんの教育に対する意識が変わったとすれば、わたくしもこんな変な淑女教育を受けた甲斐があるというものです。ひょっとすると、皇帝陛下が皆さんをここに送られた目的は、既にほとんど達成しているのではないでしょうか?皆さんは、その目的について何か聞かされていませんか?」
フランクルが言う。
「僕が父上から皇帝陛下の話として聞いたのは、ユリアという少女の生き様をつぶさに見てこい、という一言だけだったよ。何かを学んで来いとかは何も言われていないんだ。でも、ユリア、君の言うこと為すことに直に触れてみると、君の生き様とは何なのかがわかったような気がするよ。一言では言えないけど、たぶん、何物も恐れず前向きに自分の信じる道を自由に歩む、というようなことじゃないかな。」
ユリアが言う。
「フランクル。自分の生き様なんて自分でも分からないけど、いまの解釈は、半分は当たっていると思うわ。事実、田舎村の教会の神父様からは前向きに生きることを勧められたの。だけど、今日午後の講師のエドアルド様からは、貴族に対する無作法を改めないとそのうち切り殺されそうだと忠告されたわ。自分のしたい事をするときに、貴族様の怒りを買わないようにするから全く自由というわけじゃないのよ。」
フランクルが言う。
「自分でそれだけ分かっているなら十分だと思うよ。ところで、ケイトリンもエルリックも今回のアリースソン伯爵家訪問の目的ははっきり聞かされていないだろう?」
ケイトリンが言う。
「確かにそうでしたわ。おじい様からは、ただ、ユリアという少女を見てこい、とだけ言われたの。今思い出したわ。そして、ユリアのことがかなり分かった気がする。」
エルリックが言う。
「わたくしもそうだった。父上の手紙にはユリアがどんな少女か見てこいとしか書かれていなかったんだった。父上の理解とは違うかもしれないけど、ユリアの生き様がどんなものか分かった気がする。」
フランクルが言う。
「そうすると、僕たちの、今回のアリースソン伯爵家訪問の目的は、もう達成されたんじゃないかな。1カ月間もいる必要はなさそうだよ。今度、ナリアか、伯爵に聞いてみよう。淑女教育を早めに終了できるかどうかをね。」
ユリアが言う。
「わたくしとしては、今の淑女教育とは別に、ハンター資格1級保有者としての貴族対応のマナーを学びたい希望を持っています。今の淑女教育からそれに合致するものを拾い出すと、外国語と音楽とダンスがそれに該当しますね。わたくしにとっての外国語はフランソワール帝国語で、これはほぼ習得済みです。オスムール帝国語はフランソワール帝国語のご親戚のようですから習得は簡単でしょう。とすると、残るのは、お茶会マナーと食事マナーと社交トークの内容と話し方ですね。残念ながら、今回の淑女教育にはこれらが組み込まれていません。伯爵様や伯爵夫人を相手に練習させてもらうしかなさそうです。」
ケイトリンが言う。
「あっ。もうそろそろサロンに移動する時間ですわよ。急ぎましょう。」
ユリア達がサロンに入ると、パーラーメイドのパメラとシルフィーがお茶会の準備を完了して待機していた。サロン内はお茶会の準備室と控え室として整えられ、サロンテラスのガゼボにはお茶会セットが設えてあった。
ケイトリンとユリアが主催側として先にガゼボの前に立ち、3名のゲスト役のうちフランクルとエルリックを迎え入れて席に案内した。後は、もう一人のゲスト役のエドアルドを待つばかりとなった。
すると、まるで準備が出来るのを待っていたかのようにエドアルドがサロンテラスに現れた。ケイトリンとユリアはカーテシーでエドアルドを迎え入れ、席から立って待っていたフランクルとエルリックを紹介した。
エドアルドが席に着いたところでケイトリンが始まりの挨拶をした。
「本日はようこそ私どものお茶会においで下さいました。お話しは後にしまして、早速わたくし達二人がお煎れするお茶をお試しくださいませ。」
ケイトリンとユリアは、それぞれ、沸騰したてのお湯ポットをメイドから受け取り、各自のティーポットの予熱をした後、同じ茶葉瓶から3人分の茶葉を掬ってティーポットに入れた。その後、ティーポットに3人分のお湯を勢いよく注いで数分間蒸らした。
そして、ケイトリンは、子供ゲスト役2人の予熱した後のカップに漉し器を通して注ぎ煎れた。ユリアは、エドアルドのカップに同様に注ぎ煎れた。二人は、それぞれのゲスト役にお茶を勧めて感想と銘柄の予想を聞いた。
フランクルが最初に聞き茶の感想を述べる。
「僕はケイトリンが煎れたお茶を初めていただいたよ。僕はあまり口が肥えていないから通り一遍の感想しか出来ないけど、ちゃんとお茶の風味と少し舌に残る渋味が出てると思うよ。銘柄は分からないな。」
次にエルリックが言う。
「わたくしも初めてだよ。皇帝宮城でいつも飲んでいる物と比べると少しまろやかな感じで微妙な風味だったね。わたくしも銘柄は分からないよ。」
最後にエドアルドが言う。
「私もユリアが煎れたお茶は初めていただいた。私はダルビード叔父上に招待されてお茶をいただく事が多いが、お茶の風味を表現する言葉を使った事がない。少ない語彙から選ぶとすれば、ほんのり柑橘系の苦さを予想させる香りながら、飲み口は微妙な酸っぱみを含んだコクの後で渋味の余韻が残る、ひと言でいうと美味しすぎるという印象だった。銘柄は、自信はないがカウントシルバーのような気がした。」
続いてケイトリンが言う。
「皆様、ご感想のお言葉をありがとう存じます。エドアルド様はさすがに聞き茶の心得をお持ちのようでございますね。香りと飲み口の表現も当を得たものであったと思います。そして、銘柄名までも正解でございます。まさか、お茶会でも講師をしていただけるとは、思ってもいませんでした。ありがとう存じます。」
ユリアが言う。
「エドアルド様に関しましてはケイトリンの言うとおりだと思います。他のお二人様はこれを機にお茶の感想の表現を磨くのもよろしいかと存じます。それでは、この辺でお茶会の自主訓練は終了して、フリートークに移行してはいかがでしょう。」
エドアルドが言う。
「おう。私としてはそちらの方がありがたい。アリースソン伯爵とエドケラス殿には、ただお茶を飲みながら互いに打ち解ける時間だといわれて来たのだ。まあ、実を言うと、お茶会での聞き茶の余興は流行のようだから一応の準備はしてきたのだ。」
ユリアが言う。
「さようでございましたか。エドアルド様の何事にも周到なご対応には尊敬するばかりでございます。種明かしなどされて正直過ぎるところも良いお人柄の現れです。」
エドアルドが言う。
「おいおい。ユリア。また悪い癖が出てるぞ。上から目線になっているのも気づかないようでは、社交会話で相手に致命的な悪感情を与えかねないからなあ。お前のこのお茶会の評点は0点だな。」
ユリアが言う。
「そ、そんなあ。ここは、ただお互いに打ち解ける場ではなかったのですかぁ?」
エドアルドが言う。
「冗談だよ。私に人の言動を評価する能力も権限もないさ。」
ユリアが言う。
「あー、よかった。てもオスムール帝国での社交は、すべてエドアルド様にお任せした方が良さそうですね。」
そこでケイトリンが提案するように言う。
「はいはい。失礼ではございますが、お二人の仲良しぶりは十分に拝見させていただきました。さっきからこちらの殿方二人が、何やら話したそうな顔をしていますので聞いてやって下さいませ。あっ。メイドさんたち。もう、わたくし達に代わってお茶のおかわりを煎れて下さらないかしら。」
パーラーメイドのパメラとシルフィーが、本来業務が出来ると張り切って動きだした。
フランクルが言う。
「さすがお茶会の主催役だな。すごい役者ぶりだぞ、ケイトリン。それでは、エドアルド殿。お聞かせ下さい。今回の蝗害再発防止対策への動きは、シングラーツ王国ヴィルダー辺境伯家が一番早かったと聞いています。なぜそれが出来たのですか?」
エドアルドが言う。
「うむ。その話は午後の講義の話題の一つだが、ここで少し話して午後の講義を早く終わってもいいだろう。よし、一番早く出来た理由になるかはわからないが一応話すから良ぉーく聞け。
私を含めヴィルダー辺境伯家の幹部が、ユリアからの手紙で蝗害再発の可能性があることを知ったのが事の発端だ。直ちに幹部達は部下に命じてその裏付け調査をした。その結果その根拠とされた書籍にちゃんと記載があったのだ。
再発はあくまでも可能性にすぎないが、実際に来てしまったら我が辺境伯家は二度と立ち上がれない。幹部達の総意で何としても対策を打つことが決まった。だがその時点では再発時の被害軽減対策で動いていた。
ところが、我が辺境伯家の動きを察知した者がいて、我々に接触してきたのだ。どこの誰だか君たちには分かるだろう。君、答えられるかな?エルリック君。」
エルリックが胸を張って言う。
「はい。もちろんです。フランソワール帝国官僚、アルチュール・ドゥ・ガスゴーシュ、わたくしの父上です。」
エドアルドが言う。
「そう。その通りだ。彼からの来訪を打診する手紙と、途中で彼と偶然出会ったデイビード叔父上とユリアが彼に持たせた手紙で、対策の方向性が一変した。つまり、オスムール帝国の東部乾燥地域のどこかにある蝗大発生地で蝗の幼虫を焼き払い殲滅する作戦が浮上したのだ。
この作戦を実行するのには被害を受ける2国の国際協力が不可欠だ。その場合、主体をかの国に近く被害の大きいフランソワール帝国が担うのが妥当だ。そこで、我が辺境伯家は南側隣接領地とともに、シングラーツ王国組織をフランソワール帝国支援に動かすように進言具申団を派遣したのだ。
一応、ここまでが我が辺境伯家が主体として動いた段階だ。長々と話したが、結局、辺境伯家として早く動けた理由は、私がユリアと知り合い、かつ、デイビード叔父上もユリアと知り合ったからと言うことに尽きる。」
フランクルが言う。
「エドアルド講師。ありがとうございます。そうしますと、さらに深掘りするなら、残る疑問点は、ユリアがどのようにしてその記載がある書籍を読むことが出来たのかですね。」
エドアルドが言う。
「それについても、私が答える。いいな、ユリア。ユリアは、元いた村の教会の神父から、シングラーツ王国語のみならずシングラーツ王国古典語も読み書きを習っていたそうだ。その古典語書籍に蝗害の発生傾向の記載があったのだ。ユリアはそのことを手紙で私に知らせてくれたというわけだ。」
ケイトリンが言う。
「あっ。ユリア。それは、もしかして昨日エドケラス先生から翻訳を頼まれたシングラーツ王国古典語書籍のことじゃなくて?」
ユリアが言う。
「その通りです。偶然にも、その一冊にだけ蝗害の発生傾向の記載があったのです。いまはまだ翻訳を開始したばかりですが、もう少し待てばフランソワール帝国語でもシングラーツ王国語でも読めるようになりますよ。」
エドアルドが言う。
「その翻訳の話は、私もエドケラス殿から聞いた。出来上がったら写本をさせて貰えることになっている。我がヴィルダー辺境伯家のみならず、シングラーツ王国全体でも古典語が読めるものが減っている。しかも、適切な教材がないため後継者も育っていないのだ。そんな失われた言語も含めた3カ国語の対訳本なんて前代未聞だぞ。」
ユリアが言う。
「そうなんですね。じゃあ、もっと頑張って、オスムール帝国に向けて出発するまでには仕上げるようにします。」
フランクルが言う。
「はい。ユリアの存在が大きかったことがよくわかりました。次なる疑問点が浮かび上がりましたが、そろそろお開きの時間のようですから、またの機会に致します。」
ケイトリンが言う。
「それが宜しいですわね。それでは、これでお茶会をお開きとさせていただきます。聞き茶の余興や興味深いお話しなどありがとうございました。」
ユリアは、3人の子供達が帝都レパルナスへ戻る日が近いことを予感して、シングラーツ王国古典語書籍の翻訳本の完成を急ぐことにした。昼食の時間を、食堂が混まなくなる後半にずらして作った30分ほどの時間も有効に使って翻訳書写に勤しんだ。
ユリアは、右手指に身体強化魔法を掛けて書写のスピードを5倍速に増速し、原書1ページ分を約1分で書き終えるペースとした。1日に2時間をこの書写に当てると残りページを約4日ですべて完了する。納期として約束した2カ月間を5日に縮めるとんでもないスピードだ。
今日の午後のエドアルドの講義は、内容的には蝗害対策で、午前中のヴィルダー辺境伯家の初動が早かった話との直接の関係はない。エドアルドは、火魔法使いたちによる蝗幼虫殲滅作戦とその他の殲滅手段のほか、蝗大発生防止に失敗した時の被害軽減対策について概説した。
エドアルドは言う。
「蝗大発生の現地で蝗幼虫殲滅作戦を実行するのは、火魔法の火焔弾が使える火魔法使いたちが主体となる。現在の予定では、シングラーツ王国の各領地から抽出した騎士たちと、ハンターギルドで募集したハンターたちの合計100名の作業隊だ。各隊員には、1日に火焔弾を何発も打つ必要から、魔力回復のため上級マナポーション換算で30本分を支給する。
そのほかの補助的な殲滅手段として、焚火の高温空気送風手段を操る風魔法使い10名、反射板を利用した太陽光集光手段を操作する10名をそれぞれ準備済みだ。
私は、当アリースソン伯爵領が主体で組織する今回のオスムール帝国火山噴火被災地の復興支援ボランティア作業隊に、我がヴィルダー辺境伯家の騎士団より抽出した4名とともに同行してかの国に入国する予定だ。入国後は、当該4名を連れて東部乾燥地域への蝗幼虫殲滅作業隊の進行ルートを調査する。
なお、現地での蝗幼虫殲滅作戦が成功せず大発生を許してしまった場合、領地に残った騎士達により飛翔中の蝗大群を空中で焼き払う荒技を用意している。これによって、少しでも被害を軽減する。薬剤散布などは、作物への残留が懸念されるので使用しない。
以上、概要だけを説明した。分からない点や質問があれば可能な限り受け付けるので、遠慮なく聞いてほしい。」
フランクルが早速挙手をして言う。
「一つ教えてください。オスムール帝国の東部乾燥地域と言ってもかなり広いと思いますが、蝗幼虫の大発生場所をどのように特定する、または、発見するのでしょうか?」
エドアルドが言う。
「それはするどい観点の質問だ。いくつかの方法が考えてある。先ず第1は、蝗大群がどのあたりから飛び立ったか現地住民の話を聞くこと。第2は、乾季で草原の草が枯れていく先を追って残る草地を見つけること。第3は、他よりも少し地面が低いくぼ地で表土が乾きにくい場所を探すこと。第4は、乾季でも局地的な雨が降った場所を探すこと。以上を併用する予定だ。これでよろしいかな?」
フランクルが言う。
「はい。分かりました。要するに、乾燥期でも残る草地があると、そこで蝗が大発生する可能性が高いということですね。」
エドアルドが言う。
「その通りだ。良く簡潔にまとめてくれた。他に質問は?はい。君。」
ケイトリンが言う。
「はい。お話の中で、空中で焼き払う荒技という物騒な言葉が聞こえた気がしたのですが、どのようなものでしょうか。差し支えなければ教えてください。」
エドアルドが言う。
「いいだろう。両手で槍のような棒状のものを持って先端から魔力線を放射し、その魔力線の周りに火魔法の実体を全長に渡って纏わせるという荒技だ。あたかも、全長に渡って燃え盛る火焔棒とでもいうべきものなのだ。これでいいかな?」
ケイトリンが言う。
「はい。よくわかりました。ありがとうございます。」
エルリックが言う。
「はい質問です。上級マナポーション30本を火魔法使い100名に支給すると全部で3000本も必要になります。このところの薬草不足の状況でどのように調達したのですか?」
エドアルドが言う。
「正確には、超特級マナポーションを全部で500本だ。それで、上級マナポーション3000本分に相当する魔力回復量となる。原料となるマナ草はすべてユリアの無償提供によるものだ。これでいいかな?」
エルリックが言う。
「無償提供する人がいるなんて、にわかには信じがたいですが、ユリアならさもありなんと思うことにします。ありがとうございました。」
エドアルドが言う。
「ユリアのこの蝗害対策に関する貢献の凄まじさは、私が考えてもほとんど理解不能だ。実際、広い現地で大発生場所を探す方法も、火魔法を使う蝗幼虫殲滅作戦も、あの火焔棒のような荒技の開発も、そして超特級ポーションの調合技術の開発も、すべてユリアが考え開発して習得の指導をしたものなのだ。
そして、近くオスムール帝国に出発する被災地復興支援ボランティア作業隊自体と彼らが手段として使用する魔法適用土木技術の開発すら、ユリアが提唱し指導したものなのだ。
まったく、この小さな体でよくやってくれるよ。」
((ええーっ。私、そんなにいろいろやっているんですか?我ながら呆れますね。でも、しょうがないんです。言い出しっぺの責任がありますから。蝗害対策の蝗幼虫殲滅作戦を絶対成功させなきゃ。ぐすん。))
あの偉そうな有力者の講義は、少女のこれまでの業績をなぞるようなものでしたね。ボランティア作業隊への魔法適用土木技術の実技指導もそろそろ開始されそうですね。それではまたお会いしましょう。




