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78.少女は旧知の有力者と再会する

少女は今日も一日淑女教育を受けます。夕刻前には久しぶりの偉そうな有力者と会えます。

ーーー 場面はアリースソン伯爵領主館


 ユリアは昨夜、ボランティア応募者がちゃんと定員数集まるか考えながら寝入った。そのためか、今朝は寝過ごしてナリアに起こされた。


 ナリアは着替えの手伝いをしながら言う。


  「ユリア様。おはようございます。お目覚めですね。起こされるまでぐっすりと眠れたようで何よりです。昨日の淑女教育は如何(いかが)でしたか?ダンスもステップまで進まれましたか?今日の淑女教育は男女共通で、午前中が外国語で午後が身体強化魔法です。」


 ユリアが言う。


  「おはようございます。ナリアさん。昨日はスケジュールが過密で少し気疲れしたようです。音楽講義では、音楽性の議論のお陰でバイオリン練習曲第43番を自分なりに弾きこなせたと思います。ダンスでは、ケイトリンという最高のお手本のお陰で子供向け2曲のステップを覚えました。」


 ナリアが驚いた顔をして言う。


  「まあ。わたくしは、そのバイオリン練習曲を超えなければ侍女への道が絶たれると忠告されて必死に練習したのです。でも、ユリア様が練習しているところなんて、見たことも聞いたことも有りませんでしたよ。」


 ユリアが言う。


  「そうですか?おそらくその通りでしょうね。だって、音を出さないように弓毛を弦から浮かして練習しているのですから。」


 ナリアが驚いたように言う。


  「まあ。そのようなことはユリア様にしかできません。普通の人からそう言われても信じられませんよ。」


 ユリアが言う。


  「ええっ。わたくしも、お見掛け通りのごく普通の子供なんですけど。」


 ナリアが言う。


  「はいはい。一応承りましてございます。そうそう、忘れるところでした。デイビード様からお手紙を預かって参りました。机上に置きますのでご覧くださいませ。」


 ユリアが言う。


  「あっ。エドアルド様からだわ。きっと急ぎの用事でしょうから食堂で読みます。」



 ユリアがナリアに伴われてい食堂に入ると、デイビードとソルフィーナがいた。


 ユリアが言う。


  「ナリアさん。ここまででいいわ。ありがとう。デイビードお父さん、ソルフィーナ様。おはようございます。ご一緒させてくださいませ。」


 デイビードとソルフィーナは頷いて了承した。デイビードが言う。


  「おはよう。ユリア。エドアルドからの手紙を持っているな。読んでみろ。こちらに来ると書いてあるぞ。蝗幼虫殲滅作戦の下調べをするらしい。」


 ユリアが言う。


  「うわぁ。楽しみだわ。あっ。騎士団から4名を連れて来るそうよ。今日の夕方にはもう到着するのね。なになに。騎士4名は、魔法適用土木技術の講習を受けて辺境伯領に広めるのですって。ボランティア活動にも参加して欲しいかな。」


 デイビードが言う。


  「下調べというならボランティア活動に同行するのが手っ取り早いだろう。私からも話しておこう。」


 ユリアが言う。


  「ありがとう。お父さん。2国共同体もそれで一応の体裁(ていさい)が整うと言う訳だね。今日の午前中でボランティア応募者数が判明するけど、作業隊に加わって貰うのもいいね。あっ。もう行くわね。淑女教育が始まるわ。」


 ソルフィーナが言う。


  「ユリア。行ってらっしゃい。外国語講師は文教部門責任者のエドケラスよ。頑張って。」


 ユリアが言う。


  「はーい。行って来まーす。」


 ソルフィーナが言う。


  「まったく。ユリアったら。国際協力の行政活動にも、ハンター活動にも、さらには淑女教育にも忙しく立ち回る幼児が現実にいるなんて、初めは信じられませんでしたわ。」


 デイビードが言う。


  「そうだね。国際協力は、蝗害再来を最初に言い出した責任感からやってるんだよ。淑女教育のほうは、ハンター資格1級に必要だからさ。あくまで、ユリアの目的はハンター活動の方だよ。君に処方されたポーションを作れたのもハンター資格に要求される能力の一つを熟したたけなんだ。」


 ソルフィーナが言う。


  「そうなのね。確かにユリアは凄いわ。だけど、ユリアをここまでにした貴方も凄いと思うわ。そして、それを見抜いたアルチュール様も凄いですわ。」


 デイビードが言う。


  「ああ。そうだね。逆にユリアも、ガスゴーシュ卿を一目見てタヌキとキツネの化かし合いが得意な大物人物だと見抜いたよ。」


 ソルフィーナが言う。


  「あはは。確かに言い得て妙ですわね。でも、彼の眼力と機転のお蔭でわたくしは長患い(ながわずらい)から解放されたのです。アルチュール様を襲った狼たちには、偶然の出会いを作ってくれたお礼を言いたい気分ですわ。」




 ユリアが座学教室に入ると、子供たち3人が生徒席に座って何か話していた。


 ユリアが言う。


  「おはよう。みんな教室に来るのが早いわね。」


 子供たち3人が挨拶した後、フランクルが言う。


  「ユリア。君は逆に少し遅いと思うよ。僕は、常々、生徒の礼儀として授業開始5分前には席に座って講師の入室を待つべきだと心得ているのだよ。」


 ユリアが言う。


  「えっ。そうなのですね。分かりました。以後気をつけます。」


 ケイトリンが言う。


  「ユリア。今日の外国語の講義はシングラーツ王国語ですよ。貴女は受ける必要ないのではありませんの?」


 そこへ、ちょうど講師のエドケラスが入室して来た。エドケラスが言う。


  「おはようございます。皆さん揃っていますね。今日この時間は、わたくしアリースソン伯爵家の文教部門責任者のエドケラスが講師を務めます。この時間は紳士淑女教育として外国語のシングラーツ王国語を学習いたします。あっ。ユリア嬢にはシングラーツ王国古典語が用意してあります。」


 ユリアが言う。


  「はい。先生が発音や話し方を教えてくださるのですか?」


 エドケラスが言う。


  「いいえ。残念ですがわたくしにもそれはできません。シングラーツ王国古典語は、話者がいなくなって既に数百年がたっています。元々外国語ということもあり、今ではこの国には読み解ける人さえも絶えているありさまなのです。


 そこで、ユリア嬢には、この書籍のフランソワール帝国語への全文翻訳を是非ともお願いしたいのです。この書籍には、過去から当時に至る重要な出来事が、叙事詩のように書き留められていると言い伝えられています。ユリア嬢。いかがでしょう?」


 ユリアが言う。


  「分かりました。それが淑女教育とどのように関係するのか理解できませんが、一応、お引き受けいたします。この書籍は、わたくしが知るシングラーツ王国古典語の書籍と同じ写本のようです。翻訳本作成には500ページ分の紙とペンとインクの準備が必要です。結構な時間がかかりますが、いつまでに仕上げればよろしいのですか?」


 エドケラスが言う。


  「出来ますれば2カ月間くらいでお願いします。」


 ユリアが言う。


  「分かりました。その書籍は貴重なものでしょうからもうしまって下さい。いま調べたら、わたくしが以前スピノザ神父様に読ませていただいたものと一言一句おなじ内容でした。わたくしの記憶から原語とフランソワール帝国語とシングラーツ王国語の対比翻訳本を作成いたします。これならば原本の記載とわたくしの記憶との一致も証明できますしね。その分、3倍の紙とインクをご準備下さい。」


 エドケラスが驚いたように言う。


  「そ、そんなことが本当に出来るのですか?500ページもあるのですよ。失礼ですが確認させて貰ってもよろしいですか?333ページの冒頭3行をその紙に書き出してもらえますかな?」


 ユリアが言う。


  「分かりました。・・・はい。書きました。この3行ですね。確認して下さいませ。」


 エドケラスが言う。


  「うーむ。信じられませんが、疑いようが有りませんな。確かに、一言一句違わず合っています。失礼をお詫び致します。それでは、紙とインクは今日中にお渡し致します。2カ月後に翻訳写本が届くのを心待ちにしております。」


 ここで、フランクルが待ちかねたように言う。


  「これでやっと僕たちの講義が始まるわけですね。どのような形態の講義ですか?」


 エドケラスが言う。


  「はい。みなさんでこのシングラーツ王国語の物語本を一文ずつ音読して、フランソワール帝国語に翻訳していただきます。その後、シングラーツ王国語で物語の内容や感想や意見を自由に話し合っていただきます。よろしいですね。」


 ケイトリンが言う。


  「えーっ。それってわたくし達にはかなり難しいけど、ユリアには簡単過ぎるんじゃないの。」


 エドケラスが言う。


  「ユリア嬢には、皆さんの発音や語彙(ごい)の間違いを正す補助をしてもらいます。よろしいですね。」


 ユリアが言う。


  「分かりました。それと、あとで時間があれば、わたくしが分析した両国語の綴り方(つづりかた)と発音の仕方の違いの規則性について解説したいと思います。」


 エドケラスが言う。


  「なるほど。それを理解すれば習得が相当に加速されるでしょう。わたくしもユリア嬢の解説に不足や例外などあれば、都度コメントしたいと思います。はい。それでは、フランクル。最初の文を音読して翻訳して下さい。」




 こうして、午前中の外国語の講義が終わった。ユリアは、もらった宿題の多さにどんよりとした顔で昼食を食べた。


 ユリアは、愚痴を独り言ちる。


  「あーあ。とんでもない宿題を貰っちゃったなぁ。伯爵家幹部との会合でシングラーツ王国古典語が読めると言っちゃったのが敗因ね。しかも、自分から元々の依頼の3倍の文字数にしちゃうなんて、大サービスも良いところだわ。まっ、しょうがないから暇を見つけて少しずつ書いていくしかないわね。こんな特殊な書籍でも、何かの役に立つ日が来ることを願ってね。」





 ユリアは、昼食後に、騎士団のソルジエン副団長の部屋に行ってボランティア隊への応募者数を確認した。


 ユリアが騎士団副団長室に入って言う。


  「こんにちは。お邪魔します。ソルジエン副団長。ボランティア活動への参加希望者数はどうですか?定員数に達しましたか?」


 ソルジエンは言う。


  「あ。こんにちは。ユリア殿。残念ながら1ユニット分だけ足りていません。自発応募者が28名、こちらから意思を確認して応募に同意した者が8名、合計36名です。いかが致しましょう?」


 ユリアが言う。


  「うーん。意外に少なかったですね。でも大丈夫だと思います。隣国ヴィルダー辺境伯家から幹部1名と4名の魔法適用土木技術の講習受講者が来ます。彼らも連れて行きましょう。」


 ソルジエンが言う。


  「えっ。外国の、しかも辺境伯家の人材を勝手に使って大丈夫なのですか?」


 ユリアが言う。


  「ええ。たぶん、嫌とはおっしゃらないでしょう。辺境伯家の幹部の人にも同行願いましょう。それでこそ2国共同体の体裁(ていさい)が保てると言うものです。」


 ソルジエンが更に不安そうに言う。


  「幹部の人も同行って、そんなにほいほいと幹部を動かせるのですか?」


 ユリアが言う。


  「はい。おそらく大丈夫です。辺境伯家の外征部隊長には、目的に合致する限りの広い裁量権が与えられます。それに、元々、蝗害対策の蝗幼虫殲滅作戦部隊の行動経路の事前調査のために、かの国に入国する予定があるようです。


 それならば、復興支援ボランティア作業隊に同行した方が入国手続きなど手間が省けて都合が良いでしょう。東部乾燥地域への踏査についても、元々の目的通りで許可も下りやすいと思います。


 何はともあれ、これで予定通り定員数を満たしたので、今すぐに、ガスゴーシュ様への回答と指示事項の手紙を飛鳥便で送ります。」


 ソルジエンが言う。


  「そうなのですね。これでかの国での交渉がやり易くなるでしょう。あっ、もうこんな時間か。これから、すぐに騎士団訓練場に行きましょう。紳士淑女教育の身体強化魔法の講義と実践訓練があります。わたくしが講師になっているのです。」




 ユリア達二人が騎士団訓練場に着くと、子供たち3名は既に来て待っていた。ユリアは3人に睨まれて少しバツの悪そうな顔をした。授業開始5分前には席に着くという講師に対する礼儀を、舌の根も乾かないうちに早速守れなかったことを反省した。


 傍には4名の騎士達が補助役として立っていた。その4名は、すべて斥候要員技術訓練生B~Eだ。Eのイーアンが言う。


  「ユリア師匠。今日は俺が身体強化魔法の補助を務めるっすよ。」


 ソルジエンがイーアンを窘めて(たしなめて)言う。


  「こらっ。イーアン。私語は慎め(つつしめ)。


 さて、わたくしは、皆さんに身体強化魔法を指導するソルジエンと申します。細かい所を補助する実践訓練補助役4名共々よろしくお願いします。


 皆さんは、全員魔力持ちだと伺っております。差し支えなければ、魔法適性を教えていただけますか?」


 フランクルが3人分をまとめて言う。


  「はい。わたくしフランクルが光魔法と照明魔法、ケイトリンが水魔法と土魔法、エルリックが氷魔法と風魔法です。」


 ユリアが言う。


  「わたくしユリアは生活魔法です。」


 ソルジエンが言う。


  「はい。ありがとうございます。みなさんは複数の魔力の存在を個別に認識出来て、体内で動かすことが出来ますか?そして、身体強化魔法のどれかを既に習得済みですか?」


 フランクルがまた3人分をまとめて言う。


  「僕達3人は魔力存在の個別認識までは出来ています。でも、魔力を体内で動かすことから先は未習得です。」


 ユリアが言おうとしたらソルジエンが止めて言う。


  「あ。ユリア殿は結構です。それでは、本日の実践内容は、強化対象部位へ魔力を集中する魔力制御と、その応用としての瞬発移動と物理防御の2つとします。


((ええーっ。私は仲間外れですか。補助者もいるんだったら、私はここに何をしに来たのでしょう?))


 初めに魔力を動かす制御の基本を指導します。魔力を体の組織を作る物とは別の体内流動体と意識して下さい。それは細長く伸びたり縮んで集まったり千切れて分離したり集まって合体したり自在に動かせます。どうですか?」


 フランクルが言う。


  「流動体として意識できましたが、動かすことができません。」


 ソルジエンが言う。


  「それでは、補助の方、動かすコツを言葉で伝授してみてください。」


 イーアンを除く3人の補助者はそれぞれの対象者にコツを伝授し始めた。


 伝授を受けた子供3人は、体内の魔力流動体を掴もうと必死で想像力を膨らましているが、成功したと名乗り出るものがいない。


 イーアンは、子供3人が苦闘しているのを見てもどかしそうに口を出した。


  「みんな、よく聞くっすよ。体の中の特に筋肉組織の表面や表層部にいる魔力流動体を、その近くの筋肉で出来た仮想の手指でつまんで引っ張ったり押したりする動作を想像するっすよ。」


 すると、ケイトリンが手を挙げて言う。


  「なんか、今、魔力流動体を動かせた気がしますわ。胸から肩を通して腕の方へ引っ張ったり押したりして細く長く伸ばしているような感じです。」


 次にフランクルが同様のことができたと言い、最後にエルリックもできたようだと言った。


 ソルジエンが言う。


  「イーアン。でかした。お前の表現は3人によく嵌った(はまった)ようだぞ。3人はそのまま動かしたり切り離したりの動作に慣れるまで訓練を続けてください。」


 3人は言われた通り、魔力の動かし方の練習をしてかなりのところまでできるようになった。


 ソルジエンが言う。


  「はい。そこまで。次は意識した体の部位へ素早く魔力を移す訓練です。既に基本ができた皆さんはすぐにできるようになりますので、頑張ってください。


 初めに両手、両足、体幹の5部位に順次個別に魔力を移す、次は複数部位に同時に魔力を移す、最後は全部位を魔力で満たす。これをランダムに順序を変えて何度も行います。はい、始めてください。」


 ソルジエンは、3人がほぼ完全にできたころを見計らって、3人に身体強化なしの状態で先端部が10kgもあるハンマーを振らせた。3人とも柄を持ってまともに先端を浮かせることさえできなかった。


 次に、ソルジエンは3人に、体幹と両腕に連続して繋がるように魔力を集める、上体強化の身体強化魔法を指示して同様にハンマーを振らせた。


 フランクルが言う。


  「あれ、さっきは持ち上げることさえできなかったのに、今度は軽く振り上げられたよ。振り下ろしも問題ない。まるで1kgしかないハンマーを振っているようだ。」


 ケイトリンとエルリックも同様の動作ができて、同じような感想を述べた。


 ソルジエンが言う。


  「はーい。皆さん。これで上体強化の身体強化魔法が使えるようになりました。次は下半身の身体強化魔法です。やり方は分かりますね、体幹と両足ですよ。では、やって見せてください。できた方は50mくらい走って強化の感触を確かめてください。」


 フランクルが言う。


  「はい。先生。できました。走ってみます。・・・なんだこれは。あっという間に走りきれた感じだ。身体強化魔法を掛けないときはどたどたと足取りが重く感じたが、さっきの走りでは体の重さをほとんど感じなかった。これが、瞬発移動の魔法に繋がるのかな。」


 ソルジエンが言う。


  「はい。まさにその通りです。他のお二人も魔力の配置が出来たら走ってみてください。」


 ケイトリンもエルリックもほぼ同じに魔力の配置ができて、同時に並列して競争のように走り出した。結果はケイトリンの方がわずかに早く走り切った。負けたエルリックは悔しがって何度も感触を確かめるようにダッシュの練習をしていた。


 しばらくして、ソルジエンが言う。


  「さて、皆さん。次は物理防御の強化魔法です。これは、魔力の移動先を体内ではなく体外全体または守りたい範囲に、魔力の形態のままで放射して膜を形成するものです。この膜によって、剣や槍の攻撃を撥ね返します。やり方は、魔力を体の全表面の皮膚から引き剥がすような動作を想定するのです。皮膚から離れた魔力は自然に膜状に切れ目なく繋がり、目に見えない壁を作ります。さあ、皆さん。やってみてください。」


 3人は、今ソルジエンが言ったやり方の通りを想像して魔力の引き剥がしに成功し、体の全体を包むように覆う魔力膜の形成ができた。3人とも、今日やってきたこれまでの魔力移動の足掻きが十分に染み込んで、その応用である物理防御魔法の習得が一気に進んだ。


 3人の物理防御魔法の耐性を確認すると、フランクルがハンター資格3級レベル、ケイトリンとエルリックがハンター資格4級レベルと判定された。3級と判定されなかった二人はしきりに悔しがって強化する方法はないのかと食い下がった。ソルジエンの答えは、自分の持つ魔力レベルを上げるしかないというにべもないものだった。




 結局、ユリアはこの淑女教育ではないもすることがなく、ただ見ているだけであった。


 ユリアのそんな様子をすぐ後ろの方で見ていた男が、シングラーツ王国語でユリアに声を掛けた。


  「おーい。ユリア。なぜそんなところで何もせずにぽけーっと突っ立っているんだ。いつも元気いっぱいのお前らしくないぞ。」


((あっ。この声はエドアルド様だ。もう着いたのね。))


 ユリアは振り返って満面の笑顔でシングラーツ王国語で返した。


  「あっ。エドアルド様。いらっしゃい。お久しぶりです。この場は淑女教育の一環なので、お淑やか(おしとやか)にしているのですよ。偉いでしょ。」


 エドアルドが言う。


  「そうかぁ?デイビード叔父上の子供になる気もないんだから、お前に淑女教育なんていらないだろう。貴族社会のマナーなんてお前の実力で持って見返してやればいいんじゃないか?」


 ユリアが言う。


  「ところがそうもいかなくなったのです。わたくし、ハンター資格1級保有者として貴族対応が求められているのですよ。」


 エドアルドは言う。


  「そんな資格いらないだろ。辺境伯家に来たときは、実力は既に文句なく1級レベルだったし。」


 ユリアが言う。


  「いいえ。わたくしは法を犯すことなく世の中を渡っていきたいのです。有効な資格がないといろいろ制限が多くて世間が渡りづらいのですよ。」


 エドアルドが言う。


  「何を年寄りじみたことを言っている。例えば、どんな制限があるというのだ。」


 ユリアが端的に言う。


  「それは、もちろん、オスムール帝国の国境を超えることですよ。エドアルド様には、わたくしと共同責任者としてかの国へ災害復興支援ボランティア40名の作業隊に同行していただきます。もちろん、ほかの騎士様4名も人数に組み込み済みですよ。」


 エドアルドが言う。


  「ああ。その話はデイビード叔父上から聞いた。初めの予定では、魔法適用土木技術の講習を受けたらすぐに帰国することになっていたのだ。だが、いまの情勢がそこまで進んでいるのなら、ここは私の裁量でそのボランティアに同行してかの国に入国すると決めた。そして、一気に東部乾燥地域への進行ルートを調査するつもりだ。よろしく頼むぞ。」


 ユリアが言う。


  「エドアルド様なら、そのように決断されると分かっていました。準備は万端ですよ。こちらこそよろしくお願いいたします。」





((今日の淑女教育はいったい何だったのかしら。午前中は翻訳を頼まれただけだったし、午後なんてエドアルド様じゃないけど突っ立っていただけ。でも、ちょっと見ない間にエドアルド様も自信にあふれた顔つきになられたわ。なーんてね。上から目線のユリアでした。))


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