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77.少女は被災地支援ボランティアを組織する

少女は午前中の朝食後が会議でその後淑女教育の音楽で午後は淑女教育のダンスとスケジュールが混んできました。

ーーー 場面はアリースソン伯爵領主館


 ユリアは朝目覚めて洗顔して体調を整え、椅子に座ってゆったりとしていると、ナリアが部屋に入って来て挨拶した。


 ナリアは手紙を机上に置き、話ながら着替えの手伝いをした。


  「ユリア様。おはようございます。今日は伯爵様からお手紙を預かって来ました。ユリア様から指示を受けたら従うようにとご命令を受けております。机の上に置きますので後でお読み下さい。


 特にご指示がなければ、予定通りでお願いします。今日の淑女教育は音楽とダンスでございます。講師はどちらも伯爵夫人ローザンヌ様でございます。」


 ユリアは言う。


  「おはよう。ナリアさん。お手紙ありがとう。わたくしが読んでもいい内容なのかしら。あ、送り主が見えたわ。ガスゴーシュ様からだわね。きっと急ぎの用件ね。皇帝陛下と伯爵様に同時に送られたはずよね。伯爵様のことだから関係各部門責任者には通達済みよね。急ぐから朝食前に読んじゃいます。」


 ナリアが言う。


  「ガスゴーシュ様は今現在フランソワール帝国の全権代表としてオスムール帝国にご滞在中です。何かお手伝い出来るとよろしいですね。」


 ユリアが言う。


  「ナリアさん。まさにそのお手伝いの依頼だわ。うーん。火山灰を被った(かぶった)耕作地で作物が育たない。土壌改良の知識と実施方法と手段が必要ときたかぁ。知識だけなら手紙ですむわね。方法と手段は建設土木部門で実用化したいくつかの魔法適用土木技術が応用可能だね。


 ナリアさん。伯爵様から各部門責任者と副責任者の方全員に会議室への招集を掛けてもらって下さい。用件はオスムール帝国への一月間の災害復興作業人員の派遣についてです。わたくしも、朝食を食べて8時20分に会議室に行きます。


 9時からは予定通り音楽の淑女教育を受けます。よろしくお願いします。」


 ナリアは、承知しましたと、すぐに伯爵に伝えに行った。


(なんだか偉そうに言っちゃった。子供の指示を聞いてくれるからありがたいよ。))



 ユリアは、一人で食堂に行き、急いで朝食を食べた。ユリアはデイビードがいるのを見つけ、ソルフィーナに断ってデイビードを会議室に引っ張っていった。


 ユリア達が会議室に入ると、全員の目がユリアに集中した。会議のあらましは伯爵が説明済みらしい。


 ユリアが演壇席で言う。


  「皆様。お集まりいただきありがとうございます。お聞き及びのように2国共同体交渉団から、かの国オスムール帝国では火山灰を被った耕作地の土壌改良の必要があると連絡が入りました。


 わたくしは、後方支援としてこの求めに応じるべきと考えます。これは、今次交渉の成否がかかる試金石となる局面です。すなわち、疑心暗鬼に陥って(おちいって)いるらしいかの国が、2国共同体に対して疑いを解き好意的な心証を抱く(いだく)きっかけが作れるのです。


 そのための実作業には建設土木部門で開発した魔法適用土木技術を応用出来ます。その1ユニットは3名一組ですがプラス1名の交代要員をつけて同じ技術技能をもつ4名一組で1ユニットを構成します。


 この伯爵領から10ユニット分の人員を抽出してかの国にボランティアとして派遣します。つまり、かの国からは食糧をはじめ一切の物資提供を受けません。わたくしが、野営用テントと作業用道具類と30日分の食糧を運びます。テントは宮殿中庭か主殿前広場の片隅に42張り設営します。


 出発日は未定ですが、仮に今日から14日後としておきます。


 現地での実働は予備日を含め15日を予定します。この中には間に1日の完全休養日を含みます。仮に土壌改良作業が早く完了したら、帝都オストバールの街区の復興支援を行います。


 ただし、交渉時のかの国の要求や要請によっては、街区の復興支援の方が先かも知れません。この場合でも日程30日は変えないものとします。復興状況の終わりが見えない場合でも、現地滞在15日で切り上げて一旦帰国します。


 その代わり、滞在中に、かの国の優秀な作業者や管理者を何名か鍛えて、同程度の技倆(ぎりょう)を持つ魔法適用土木技術の作業者に育てます。


 それともう一つ。来年になりますが、蝗害防止の蝗幼虫殲滅作戦隊に同行していただきます。蝗幼虫を焼き払った跡地を魔法適用土木技術で耕起(こうき)して、小麦、じゃが芋、人参、大根などの耕作地に変えるのです。これは、かの国の領土拡大志向の元を絶つ手段となります。


 以上、最大で3回の遠征になりますが、我こそは、と言う気概をお持ちの方々を大募集いたします。応募者の中に収納魔法持ちの方がいれば荷物運びを分担していただきます。


 なお、ボランティアとはいえ無給ではあんまりですから、伯爵様から現在の地位役職の保証とその通常業務分の日当支給をしてもらいます。皆様の部下の方々のうち、これに参加したい、または、参加してもいいという人材を合計40名募集します。


 募集締め切りは明日の午前中までとします。 なお、募集人数に満たない場合は、隣国ヴィルダー辺境伯家から補充します。また、現地2国共同体交渉団には、交渉開始前に届くように、見切りで募集定数の人員派遣を連絡いたします。


 よろしくお願いします。


 何か、ご質問お有りでしょうか?」


 騎士団団長のネイトビアスが挙手をして言う。


  「魔法適用土木技術というが、魔法適性はどんなものが必要なのだ?」


 ユリアが言う。


  「主要魔法の適性を最低ひとつお持ちなら構いません。土魔法の適性をお持ちの方がいればありがたいです。主要魔法適性がなくても生活魔法が使えるなら大丈夫です。」


 建設土木部門のビルメルクが挙手をして言う。


  「現在、3名一組の3ユニットが技倆十分にまで育っています。これらの9名を指導者として40名を新たに育てるのですね。ところで隊長というか責任者はどなたでしょうか?」


 ユリアが言う。


  「作業者の技倆指導については、おっしゃる通りです。よろしくお願いします。もし、技倆十分にまで間に合わなくても構いません。現地で作業実施しながら習熟してもらいます。プラス1名の方には交代でその方の補助的指導をお願いします。責任者については異論なければわたくしがその責務を担います。」


 アリースソン伯爵が挙手をして言う。


  「ユリア殿。責任者の件も含め、この度の決断に感謝申し上げる。人員派遣やその間の地位役職保証と日当の件も了解した。だが、ユリア殿はハンター資格1級といってもまだ子供だ。護衛を付けさせていただきたい。ネイトビアス騎士団団長、人選をお願いしたい。」


 ネイトビアス騎士団団長が言う。


  「一人出すなら、これまでの経験からイーアンが適任でしょう。ユリア殿。それでよろしですかな。」


 ユリアが言う。


  「はい。ありがとうございます。よろしくお願いします。ほかにご質問がなければ、この内容にて皆様への周知をお願いいたします。以上で会議終了です。ご散会くださいませ。」


 デイビードがユリアを捕まえて言う。


  「ユリア。オスムール帝国語はフランソワール帝国語とほとんど同じだ。歴史的経緯からフランソワール帝国には不信感を持っていると聞く。このボランティア活動は、きっとかの国の人びとの心を融かすきっかけになるだろう。しっかり頼むぞ。」


 ユリアは言う。


  「任せて。お父さん。一番の目的は蝗幼虫殲滅作戦を成功させることだからね。そのために必要なことは何でもするわ。言い出しっぺの責任があるしね。」


((こんな子供に責任者を任せていいんでしょうか?いいんです。偉そうにするのはわたくしの得意技の一つですので。))




 ユリアは急いで音楽室に向かっていき、ぎりぎりで9時に間に合った。音楽室内では、既に伯爵夫人と子供3人の挨拶が終わっていたようだ。


 ユリアが生徒席に座りながら言う。


  「先生。少し遅くなって申し訳ございません。」


 ローザンヌ夫人が言う。


  「ユリア。一応間に合いましたよ。ユリアも大変忙しいのですね。」


 ユリアが言う。


  「いいえ。これくらいがちょうどいいのです。あまり暇だと森に行きたくなるし、忙しすぎると一つ一つに手を抜いてしまいますから。」


 ローザンヌ夫人が言う。


  「じゃあ、今日の音楽の講義では、最初に皆さんに、得意な楽器と得意な曲で手を抜かない演奏を披露してもらって、各自の実力を見ますね。その結果を皆さんへの批評やアドバイスとして提示し、皆さんの質問を受け付けます。最後に、それを踏まえて、もう一度同じ曲を演奏してもらいます。よろしいですね。どなたが最初に演奏してくれますか?」


 フランクルが言う。


  「僕が最初に演奏します。楽器はバイオリンで、曲はバイオリン練習曲第35番です。」


 フランクルはそう言って演奏を始めた。ローザンヌ夫人は、意外そうな顔をして耳全体で音を聞き目で弦を抑える手指の動きをよく凝らして見ていた。


 フランクルの演奏が終わってローザンヌ夫人が言う。


  「はい。よくできましたね。次はどなたですか?」


 ケイトリンが勢いよく手を挙げて言う。


  「次はわたくしが演奏します。曲はバイオリン練習曲第29番です。」


 ローザンヌ夫人は、ケイトリンの演奏を心地よさそうに聞いていた。ローザンヌ夫人はケイトリンの演奏が終わって言った。


  「はい。なかなかよくできました。次はどなたですか?」


 エルリックが両手を上げてアピールしながら言う。


  「次はわたくしです。曲は鍵盤楽器練習曲第28番です。」


 ローザンヌ夫人はエルリックの元気すぎる演奏に少し耳を抑えながら聞いていた。ローザンヌ夫人はエルリックの演奏が終わって言った。


  「はい。かなり元気な演奏でした。残るはユリアですね。楽器は何ですか?」


 ユリアがケイトリンが差し出したバイオリンを受け取って言う。


  「はい。楽器はバイオリンで、曲はバイオリン練習曲第43番です。」


 ユリアは先日の淑女教育初日午後の自由時間に演奏した曲をここでも演奏した。先日の子供たちによる音楽性についての検討結果を踏まえて、この曲の譜面から想像される作曲家の意図を汲んでそれを少し強調する装飾を加えた。


 演奏が終わってローザンヌ夫人が言う。


  「はい。よくできました。それでは、これから各人の演奏について批評とアドバイスを述べさせてくださいね。


 初めに、フランクル。一言で言うと、とても情感のこもった演奏でした。宮殿の音楽教師メイブリー先生から引き継いだ資料による先入観は、いとも簡単に打ち破られましたね。演奏は、音階が正確で、音楽性を理解した上で適切なビブラートを響かせた良い演奏でした。今後は、楽譜自体が少し高度の演奏技巧を必要とする曲を練習するとよいでしょう。」


 フランクルが子供たちをウインクをしながら見回して言う。


  「ありがとうございます。先生。実は、メイブリー先生に指摘されていた音楽性について先日この4人で議論したのです。そして、僕なりに理解してこの演奏に反映しました。以前の僕との違いが出たようで、嬉しいです。」


 ローザンヌ夫人が驚いたように言う。


  「まあ。音楽性についての議論なんて、そんなに音楽理論への理解が進んでいるのですか?わたくしが一緒に淑女教育を受けたのはスサーナ皇女ですが、彼女とは音楽談義をしたことはなかったです。皆さんは年齢の割に音楽理論に興味があるのですね。感心しました。」


 ケイトリンが口を挟むように言う。


  「感心されるなど恥ずかしいですわ。音楽理論の議論なんて、わたくし達もここに来るまでしたことがありません。ユリアがいてこそ議論が成り立つのですわ。」


 ローザンヌ夫人が驚いてユリアを見ながら言う。


  「まあ。ユリア。音楽理論の議論が出来るのね。ソルフィーナと演奏しているときにもそんな議論をしたの?」


 ユリアが言う。


  「いいえ。ソルフィーナ様は既に一定のスタイルを作り上げておられたのですね。たぶん、それは音楽性に関する理解を踏まえた技巧を忍ばせる演奏スタイルです。リハビリを開始してすぐにその感覚が戻って来たようでした。わたくしはその演奏をただ心地よく聞いて楽しめたと感じただけです。音楽性などを分析して議論するような発想はありませんでした。」


 ローザンヌ夫人が言う。


  「そうだったのね。ユリア。ありがとう。ソルフィーナには厳しくし過ぎたかも知れませんね。さて、次はケイトリンです。ケイトリンの演奏はとっても心地よく耳に響き、明るく歌い出すような曲の感覚にぴったりの演奏でした。音符の並びを意識して指運びを自分なりに工夫すると焦ることなくスムーズに演奏出来るでしょう。」


 ケイトリンが言う。


  「はい。先生。ありがとうございます。」


 ローザンヌ夫人が言う。


  「次はエルリックですね。エルリックはこの曲をどう解釈してどのように音楽性を付加したのですか?」


 エルリックが言う。


  「はい。戦勝行進隊列が凱旋門を通って現れた情景を曲にしたものと解釈しました。そして、隊列の整然とした行進と民衆の歓声や手を振る様子を表現するリズムと音の強弱を付けました。」


 ローザンヌ夫人が言う。


  「なるほど。曲の解釈が具体的で譜面から浮かんだ情景に合った技巧を付加したのですね。先ほどの演奏では、適切な箇所に適切な種類の技巧で音楽性を付加出来たと思います。そうですね。エルリックの次の演奏では、今の曲を異なる解釈で異なる音楽性の表現で演奏してもらいましょう。」


 エルリックが不服そうに言う。


  「あ。はい。ありがとうございます。異なる解釈か。今の解釈で凝り固まった頭では難しいな。なんとか頭をリセットしないと。」


 ローザンヌ夫人が言う。


  「さて、最後に、ユリアの演奏についてですね。あのバイオリン練習曲第43番はジュニアからシニアに至る登竜門としてあの位置に置かれた曲なのです。番号の若い位置に置かれていますが、実はジュニア最難関の曲で幾つもの技巧を駆使しないとまともに弾けません。言ってしまえば、才能のない若者を早めに諦めさせるための曲なのです。


 かく言うわたくしも、実はこの曲を飛ばしてジュニア最終の練習曲第60番までで終了し、シニアには進めませんでした。したがって、ユリアの演奏を批評する資格が有りません。なお、ソルフィーナも体調の都合でわたくしと同様です。ユリアの年齢で、あの曲をあそこまで弾きこなせるのは驚異的だと思います。」


 ユリアが言う。


  「なるほど。あの曲はわたくしの付け焼き刃で弾けるものではなかったのですね。確かに、他の曲と違って何度も繰り返し練習し、先日の音楽性の議論も考慮してやっとあのレベルまで来ました。」


 フランクルが言う。


  「あの音楽性の議論は、意地悪のつもりでユリアに吹っ掛けたんだ。だけど、まともな答えを返されて僕自身の理解も深まったし、最高の結果になったよ。」


 ケイトリンが言う。


  「確かにね。わたくしはフランクルがメイブリー先生に音楽性が足りないと注意されるのを聞いてたから、なんとなく分かってたわ。でも、それを言葉で表現出来ないから理解しているとは言えない状態だったのね。」


 エルリックが言う。


  「ああっ。さっき先生がアドバイスされた違う解釈で演奏するとは、そう言うことだったのか。先日わたくしは、その曲への聴衆の思い入れとは違っても、自分の解釈に自分で考える音楽性の技巧を載せて演奏すると言った。その技巧が過剰かどうかは自分では分からないとも言った。


 それがいかに独りよがりな態度なのか分かった気がする。わたくしは本職の演奏家ではないけど、こと、人に聞かせる場で人が聞きたいものと違う演奏をしても、それは騒音にしかならないんだとね。人におもねる必要はないけど、場面に合った音楽性の演奏をすることを考えてみようと思う。」


 ローザンヌ夫人が言う。


  「皆さん。とても優秀で、ご自分でどんどん理解を深めていらっしゃいます。それでは、少し練習時間をあげますので、これまでの内容を踏まえて先ほどと同じ曲を演奏していただきます。」



 二度目の演奏では、子供たち4名皆が、曲の解釈を深めて演奏技術や音楽性を高めた演奏を披露した。講師のローザンヌ夫人は、わずか1回の演奏と2時間ほどの議論と練習で、2回目の演奏技術が格段に向上したのをみた。そして、先ほど皆優秀だと言った自分の言葉が、単なるお世辞にならなくてよかったと、なぜかほっとした。


 子供たちも、音楽授業で仲間同士で議論して考えながら進めると、練習に反映しやすくて学習効果が高いことを実感として認識した。



 午後の淑女教育はダンスだった。ダンスといっても、ユリアはまだ年齢が低いため、歩き方やカーテシーの基礎訓練段階だ。ユリアが男女ペアでステップなどを踏む訓練は、まだ先の話しのようだ。


 ケイトリンは8歳であり、もういくつかの基本ステップの練習を始めているという。


 フランクル9歳とエルリック8歳も基本ステップの練習では、ケイトリンや他の同年齢の令嬢達との練習をしているようだ。


 ローザンヌ夫人はフランクルとケイトリンでペアを組ませ、基本ステップの練習曲2曲分を掛け声と手拍子で踊らせてみた。二人ともよく練習しているようでステップを踏み間違えることなく踊りきった。


 ローザンヌ夫人が言う。


  「フランクルとケイトリン。とってもお上手でした。ステップを一つも間違えないでリードする側とされる側の動きのタイミングも息ぴったりでした。」


 ケイトリンがローザンヌ夫人を見た後ユリアを見て言う。


  「先生。ありがとうございます。ユリア。今の見てた?どうだったかしら。わたくしはダンスだけは得意なのです。貴女はまだステップは踏めないでしょう。ユリアに勝てるものがひとつ有ったわ。まだ数年間は大丈夫ね。」


 ユリアが言う。


  「ケイトリン。とてもお上手でした。同じ年頃の子供のお手本になるくらいだったわよ。ところで、わたくしはハンター資格1級保持者として王侯貴族に対して礼を失しない作法やダンスの腕前を求められているのよ。それは年齢には関係ないから今からダンスもしっかりと練習しておきたいの。」


 ケイトリンが言う。


  「そうなのね。でも、お気の毒ね。ここには貴女の背丈に会う男の子がいなくて練習できないでしょう。」


 ユリアが言う。


  「確かにその通りですわ。でも、相手がいなくてもステップの練習だけなら一人で出来ますわよ。というわけで、ケイトリン。悪いけど貴女のステップをつぶさに見させてもらったわ。わたくしの習得方法をご存じないでしょう。良い言い方で言うと人の技を見て覚えることで、普通に言うと人の技をつぶさに見て盗み取ることなの。」


 それを聞いていたローザンヌ夫人が言う。


  「あら。そうなのですね。それでは、ユリアに一人で今の2曲分のステップを踊ってもらいましょう。」


((今の伯爵夫人のお言葉は、称賛に基づくものと受け取りますので。))


 ユリアが言う。


  「先生。ありがとうございます。それでは行きます。」


 ユリアはペアの相手がいる想定で、ホールドの姿勢と両手の形態を決めてステップを踏み出した。ターンの動作でも、まるで相手がいるかのように完璧に手足を動かした。ローザンヌ夫人は掛け声と手拍子で3拍子のリズムを作り、ユリアがステップを踏みやすくしてくれている。結局、ユリアは2曲分を踊り切った。


 ローザンヌ夫人が言う。


  「ユリア。良く踊れました。今の踊りはペアの男性がリードしてくれる前提でも、自らリードする形態でもどちらにも応用が利きます。でも、貴女と背丈がつり合う男の子では、貴方ほどうまくステップを踏めないでしょうね。当分は一人でステップの練習ですね。」


 ケイトリンが言う。


  「ユリア。何よ今のステップは。わたくしのステップを完璧にコピーしたとでも言うの?いいえ。相手はいないけど、わたくしよりも上手なステップに見えたわよ。ユリアに勝てる唯一のものだと思ったのに、また勝てるものがなくなっちゃったじゃないの。どうしてくれるのよ。」


 午後の淑女教育ダンスの時間は、ケイトリンの淑女らしからぬ嘆きの叫び声で終わった。



 ユリアは、ダンスの時間の後の空き時間で、ガスゴーシュ宛の手紙を見切り事項を含めてあらかた書いてしまった。フランソワール帝国のアリースソン伯爵家から抽出した40名+3名の災害復興ボランティア作業隊を組織したことと、火山灰被害の耕作地の土壌改良方法と現地で石灰石の事前準備をしてほしい旨などである。


 手紙は、明日の午前中いっぱい待った後で、飛翔便で特急配送してもらうことにした。




((なんだか急に忙しくなってきたわ。2国共同体交渉団がオスムール帝国に入国して、もうすぐ交渉が開始されるのね。交渉開始前にボランティア作業隊のことを書いた手紙が届きますように。))


少女はボランティアの荷物持ちをするようです。えっ。責任者も兼任ですか。淑女教育も順調です。淑女教育の終了とともにかの帝国の被災地復興のため弁当とテント持参でボランティア活動するのですかね。それではまたお会いしましょう。


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