8.少女は狩人に必死に事情を説明する
少女は小屋の中で男から厳しい尋問を受けます。
ユリアは、男に背中を押されるままに小屋の中に戻り、男から勧められた椅子に座って早口の説明口調で一気に話した。
「寛大なるお取り扱いに感謝いたします。今年はサンガルス村が蝗害のため大飢饉で私の家は既に食糧が底をつき、働き手として不要で普段から家族に疎まれている私が口減らしの対象となったのです。幸いに事前に事態を察知したので、殺される前に夜陰に紛れて家から逃げ出しました。
この小屋の場所は、あなた様がサンガルス村に肉類を売りに来られた時の話しぶりを聞いて推定していました。森の道は山菜取りで何度も通って慣れていたのと、従前から家族にいずれ殺されると予想して森で生きるために必要な装備を準備していたので、わりと障害なくここまで来られました。」
ユリアは話の内容を補足するように、背負子から装備品類を出してテーブルに並べた。
男は、ユリアの話を聞きながら、この小屋の場所を知られるようなことを人にしゃべったか記憶を探った。男は、ふと我に返ってテーブルの上に目をやると、ユリアが話しながら背負子から次々に出してくる装備品にあっけにとられたが、気を取り直して言った。
「そうか、それは大変に難儀な状況に陥ったものだな。私は、今は君の言う通りこの小屋を拠点にして狩人を生業としている。君に同情すべき事情があることは分かったので君をここに住まわせてもよい。
ただし、身の回りのことは君自身で完結してもらうし、食糧や水や薪についても、いくばくかの自助努力をしてもらう。また、追っ手が来た場合に逃がす助力をするかはその時の状況次第だ。
ところで、君の大人顔負けの物言いや行動内容が、君の幼い外見と全く釣り合っていないのはなぜだ?」
((あちゃー、またその話かぁー。))
ーーー 少女はいよいよ佳境?に入った尋問を必死にはぐらかす
ユリアは、少し困惑した表情をみせて言った。
「少し前にも同じようなことを聞かれたことがあります。私がこのような話し方なのは、たぶん、サンガルス村教会の神父様の影響だと思います。私は子供教室で神父様とよくお話ししていましたので、自然に神父様の話し方を真似するようになったのでしょう。」
((この人はしつこくないといいなぁー。))
デイビードは、一応納得したが、さらに問うた。
「なるほど、話し方については分かった。たがそれは、私の問いの半分しか回答していないぞ。君の落ち着いた様子と状況判断の的確さや用意周到な準備と実践力には長年の経験を感じるが、その点はどう説明する?」
((あー、やっぱり。))
ユリアは、自分の方こそ教えてもらいたいぐらいで答えようがないので、問いの言葉尻をとらえてはぐらかすように言った。
「・・・私はいま6才半ですが、村人としゃべり、大人と連れ立って山菜取りなど森での行動をするようになったのは3才になってからです。それからの3年半の経験は十分ではないですか?」
((これでどうだぁー。))
デイビードは、うまくはぐらかされたのを感じて、言いたくないのか知らないのかを確かめるようにユリアを見て、ユリアの話に乗ってやった。
「そうだな。何年の経験があれば十分かは人によるだろう。幼すぎる時期とはいえ、君にとってその3年半の経験はおそらく今回の逃避計画を成功させるのに十分であったのだろう。
ところで、君は以前に同じようなことを問われたといったな。そんなことを問うたのはどんな人物だったのだ?」
((えぇー、そっちも聞くのぉー?))
ユリアは、はっとして少し躊躇うように考えて言った。
「す、少し前に、サンガルス村の飢饉の状況を視察に来られた方です。すみませんが、お名前を明かすのは差し控えさせてください。」
デイビードは、いたずらっぽく笑い顔で言った。
「うーむ、悪いが、その答えでその人物が誰であるか見当がついてしまった。そうかそうか、あいつかぁ。今度帰ったら、なぜユリアを放置したのかを厳しく問い詰めてやる必要があるなぁー。」
ユリアは、しまった、言い過ぎたとでもいうように口を両手でふさぎ、エドアルドがデイビードに糾弾される様子を思い浮かべて言った。
「あぁーっ、お願いでございます。その方に会われても私のことで責めないでください。そ、その時はまだ切羽詰まった状況ではなかったのです。」
ユリアは話しながら、この狩人がただものではなく領主家にゆかりのある偉い人であることに即座に思い至った。そして、自分の家族運の悪さとはまるで反対で、都合よく続く好意的な大物人物との幸運な出会いに、運命の悪戯を感じつつ神に感謝した。
((あいつなんていうから私もあなた様の見当がつきました。))
少女は男の尋問に耐えて一応認められそうですね。だがまだ油断は禁物です。少女はどうなるのでしょうね。心が休まる時が来るのでしょうか。それではまたお会いしましょう。




