74.少女は淑女教育で子供たちを鍛える
少女は仲良しになった子供3人組と一緒に難問の課題に挑みます。
ーーー 場面はアリースソン伯爵領主館
淑女教育の初日、ユリアは淑女教育を受けるほかの3人と一緒に食堂で朝食を食べた。食べている間に少し話しをした。
ユリアが言う。
「フランクルは宮廷で既に帝王学の教育が始まっているでしょう。学友とかいらっしゃるのかしら?」
フランクルが言う。
「ああ。始まってはいる。学友もいる。でも僕の皇位継承順位は第3位だ。上にはまだ祖父と父上がおられる。そのためか、講師たちも学友達もあまり切迫感がなくて真剣さが足りない。
祖父は、若返りをほのめかして下の者たちの気の引き締めにかかっておられる。具体的には先にご自身が皇太子位を父に譲り、その後に皇帝が父に帝位譲位するという計画だ。
それを受けて、近く皇太子位の変更は実施されるだろう。だが、皇帝の帝位譲位はこの難局を乗り切ってからになるだろうな。」
ユリアが言う。
「フランクルも、この難局を乗り切るお手伝いができるといいね。もちろん、子供だけでは何もできないかもしれないけど、わたくし達4人組でいい考えを創出して大人たちを動かすのよ。対象となる大人は、例えば、現皇太子様とか、クリューソス大公様とか、身近で大きな発言力を持っている人が狙い目ね。」
フランクルが言う。
「君は既に実績があるからできるかもしれないけれど、僕たち3人は無理だな。それに、僕の立場だと自由に動けないんだ。」
ユリアが言う。
「わかったわ。わたくしがあなたたちの検討の時間を作ります。ナリア講師から提示される課題の形でね。例えば、週に3回各2時間だけ、3人が集まってわたくしの素案を詳細案にする検討の時間よ。そして、詳細案を基にした提言を少なくとも聞いてもらえる環境を作るのよ。
交渉相手はクリューソス大公様よ。お友達だもの聞いてくれると思う。皇帝様だって、貴方たちを送り出した狙いがそこにあるなら、少なくとも教育成果は確認されるでしょう。どうかしら?」
フランクルが言う。
「週に3回各2時間というのは結構難しいかもな。でも、これまで自分たちが主体的に動いて実務上の行動案をまとめたり実際に行動する教育というのは、講師たちからも親たちからも勧められた経験がない。ユリアの協力があれば、僕たち子供でも発言力を持てるようになるかもしれないな。僕はやってみる価値はあると思う。君たちはどうだ?」
エルリックが言う。
「わたくしもぜひやってみたいと思う。ユリアが既に大人たちに認められて実績を上げているのを見ると、わたくし達も何かやらなければという焦りを感じる。」
ケイトリンが言う。
「わたくしは令嬢だからちょっと立場が違うわ。だけど、将来の嫁入り先で家人の掌握や家計の采配や領地経営などに腕を振るいたい気持ちはあるわ。そのための基礎固めとしてとても有効な教育手段だと思うから、わたくしも賛成よ。」
フランクルが言う。
「よーし。これで全員一致だな。ユリアはこの後も宮廷には来ないというから手紙での参加で、子供組3プラス1の結成だ。さて、これから淑女教育に乗り込むぞ。どうも教育名称がしっくりこないが、まあいいさ。」
フランクルの侍女を先頭に子供たち4人が講義室に入った。室内には既にナリアがいて講師机の前に座って資料を捲っていた。子供たちは講師と向かい合わせに最前列の二人机ふたつに、男女に分かれて座った。
ナリアが始めの挨拶をして言う。
「さて、わたくしのことは座学講師とお呼び下さい。今日から淑女教育を開始いたします。男子のお二人には淑女教育の名称は不評のようですから、一人前の青年と認められるための飛躍教育とお考え下さい。」
フランクルが言う。
「一人前とは発言が重んじられる事だとすると、逆に重んじられる発言が出来るほどに飛躍せよということか。面白い。僕達にどうやって重んじられる発言をさせるのか、導き方に注目だな。」
ケイトリンが言う。
「わたくしは既にお城で淑女教育を受けているけど、まだ礼儀作法とか家計の基礎とかダンスばかりだわ。ここの座学の内容はいろいろな話題についていけるように組んであって楽しみです。」
エルリックが言う。
「わたくしも一緒に飛躍したいです。宮廷では課題を与えられて解決策を提示しても、ただ受け取るだけで評価も指導もされたことがない。少なくとも自分の足りていないところを指摘してくれなきゃ伸びようがないよ。この教育には期待したいです。」
ナリアが言う。
「初めの科目は、このフランソワール国内の現在の地理と貴族家と領地配置及び派閥と力関係です。これらの内容を一つ一つ説明は致しません。これらの内容を理解した上で次の課題の解決策を提案していただきます。
グループAは男子組で課題は蝗害対策の予算捻出策と不満抑制策です。
グループBは女子組で課題は蝗害に伴う反皇帝派閥切り崩し策と勢力再編安定化策です。
これらの課題は当然国家レベルで議論され対策も打たれています。あなたたちがそれらを知っていて、最善策だと考えるならその通り提案すればよろしい。少し違うならその理由を示して代案を提示しなさい。
解答期限は明日の午後の時間この場所で。早く終われば早く回答と解説をいたします。よろしいですね。今日と明日はこの部屋を占有していいです。図書室で資料を集めても結構です。それでは始めてください。」
フランクルが言う。
「これは帝王学でも僕より4年以上高年齢向けの内容だ。しかも帝王学では関係資料は全部提示されるぞ。導き方に注目だなんて言ったけど、導きをすっ飛ばしていきなり実務レベルの行動が要求されている。最初に言った未経験ゾーンの教育に違いないけど、この課題はとんでもない難問だぁ。」
ケイトリンが言う。
「ねえ。ユリア。座学講師はちゃんとフランソワール帝国語でしゃべっていたぁ?わたくし、ちっとも理解できなかった。ユリアには分かつたの?」
ユリアが言う。
「大丈夫よ。ケイトリン。簡単に言うと、皇帝様や大公様たちを嫌っているご貴族様たちの集団を仲違いさせること、そのうちの一部のご貴族様たちを、皇帝様と仲良くさせることよ。
その集団というのは、蝗害からの復旧策や防止対策が気に入らないご貴族様達なのよ。だけど、そのご貴族様たちも、みんなが同じ内容の不満や思惑ではないところが集団を壊す鍵になるはずだわ。」
ケイトリンが言う。
「なーんだぁ。そう言ってくれれば少しは分かるわ。課題の方はね。でも解決策なんてサッパリ浮かばないわよ。不満や思惑の内容をどうやって知るのよ。」
ユリアが言う。
「それをこれから考えるのよ。しっかり頑張ろうね。」
フランクルが言う。
「女子組の課題は、表に出ない政策だけに一から考える必要があって難しいだろう。こちらの課題は、既に実行中の政策だから人に聞いてそれをベースにする手もある。」
エルリックが言う。
「座学講師。資料の意味には人の証言も含まれるのですよね。現在実行中の政策をベースにしても構いませんか?」
ナリアが言う。
「資料はどんな物でも言葉でもいいですよ。貴方たちがそれでいいと思うなら。」
エルリックが言う。
「分かりました。解答の提示は明日の午後だから帝都に手紙を出しても間に合わない。でもここにはアリースソン伯爵がおられる。聞き出せる限りの情報を引き出して、それをベースにして自分たちの考えを纏めるやり方が一番効率的じゃないかな。」
ユリアが言う。
「ナリアならではの課題の出し方ですわね。」
ケイトリンが言う。
「ユリア。それどういうこと?ナリア座学講師ならこんな課題の出し方がお得意だってこと?」
ユリアが言う。
「ケイトリン。それは、経験者のわたくしが日常的に感じた事実ですの。ナリア座学講師はわたくしが自分で気づくまで何も教えてくれません。
とにかく、この国の地理と貴族領の配置、派閥と力関係が分かる資料を集めましょう。貴族年鑑なんてあるかしら?あっても派閥まではかいてなさそうね。その情報は伯爵様に聞きましょう。
そうだ、わたくしが持っている本に各領地の産業構造や鉱物資源の分布が書いてあったわね。」
ユリアは収納魔法から全7冊の部厚い書籍を取り出してそれぞれ該当ページを広げた。
ユリアが言う。
「フランクル。わたくしが持っている本なら貸して上げるから、読んで必要な情報を引っ張り出して。ケイトリン。わたくし達も情報を探り出すわよ。」
フランクルが言う。
「なんだこれは。ユリアは収納魔法持ちだったのか?それにこの本は大学生向けの参考書じゃないか。それも最新版だぞ。政治と地政学、経済と経営、歴史と宗教、土木と治水、工業農林漁業、医療と薬学、鉱物資源の全7冊あるぞ。」
ユリアが言う。
「そうよ。デイビードお父さんに買ってもらったの。わたくしにとってはとても高価な本だから必死に勉強したのよ。」
フランクルが言う。
「高価って。そっちか?それは高度な内容を詳しく解説した良書で、大学生ならだれでも欲しがると噂される幻の本だろう?」
ユリアが言う。
「そうなのですね。そう言われるとラッキーだったわ。たまたま一揃いの売れ残りがあったのよ。とにかく、詳しく解説してあるなら、今回の課題に関係する記載もあるかもしれなくてよ。しっかり読むのよ。」
ケイトリンが言う。
「ユリア。わたくしには、こんな高度な内容の文章はとても読めないわ。どうしよう。」
ユリアが言う。
「ケイトリン。大丈夫よ。課題に関係する記載を拾い読みするだけだから。わたくしが内容を思い出して記載ページを言うから、そこを開いて読んでちょうだいね。政治と地政学の86ページの25行からよ。」
ケイトリンが言う。
「えーと。フランソワール帝国には、15の貴族領地と4の皇帝家直轄領地と5の親族領地がある。そのうちの11の貴族領地は、歴代の皇帝と反目してきた反皇帝派閥である。反目の内容は内戦の敗北以来、皇帝家の身内偏重が過ぎて領地が生産力の低い南部に押し込まれていることだ。・・・って、何かこれ派閥の事を書いているんじゃない?」
ユリアが言う。
「ケイトリン。ありがとう。よく読んでくれました。確かに派閥が皇帝に反目する理由の半分は分かりましたわね。あと、反目の理由には、蝗害の被害状況と復旧支援と対策費用の負担の割合に不満があるからなのではないかしら。」
ケイトリンが言う。
「それって、男子組の課題とも密接に関係するんじゃない?だって、対策予算捻出では貴族家にも応分の負担を求めているはずよね。それに不満を抱く貴族家もいたんじゃない。ユリア。この課題は男子組と一緒に考えるほうが効率良さそうよ。」
ユリアが言う。
「ケイトリン。よく気がついたわね。男子組の課題は蝗害対策の予算捻出策と不満抑制策で、まさに女子組の課題の蝗害に伴う反皇帝派閥切り崩し策と勢力再編安定化策と重なる部分があるわね。」
ケイトリンが言う。
「その通りだわ。男子組に共同検討を申し入れるわよ。フランクル。もう気づいているだろうけど女子組と一緒に検討した方が良さそうよ。どうする?」
フランクルが言う。
「ああ。僕達もそれは考えていた。僕達グループAがこれまでにアリースソン伯爵から手に入れた情報だ。エルリック、頼む。」
エルリックが言う。
「はい。蝗害対策の予算捻出では、前年の納税額に応じた負担額で決まりました。不満抑制策では、大きな被害を受けた領地が負担に耐えられないことに考慮して、5年間の延べ払いとすること、その分を皇帝家と親族で多く負担する、ということだ。」
ユリアが言う。
「なるほど。とてもいい予算捻出策と不満抑制策だと思うわ。グループAはそれらをどう評価するの?」
フランクルが言う。
「僕達グループAは、素晴らし政策だと評価し、これ以上修正も追加も必要ないと判断した。」
ユリアが言う。
「ケイトリン。貴女はグループAの判断をどう思った?何も不足はない?それで現在から将来に渡って不満を抑えられるかしら?冷静に考えてみて。」
ケイトリンが言う。
「ええーっ。男子組の課題も考えるのぉ。ユリア、厳し過ぎない?冷静にねぇ。うーん。納税額は大まかには生産高や取引高で決まるのよね。だけど領主家の蓄えや資金の収支なんかは納税額とは比例しないんじゃないかしら?わたくし、家政学で習った覚えがあるわ。」
ユリアが言う。
「つまり、ケイトリンは、現状の政策では不満が出る可能性があると言いたいのね?」
ケイトリンが言う。
「グループAの判断に異議を唱えるつもりじゃないのよ。ちょっと引っかかるところがあるだけなの。」
フランクルが言う。
「僕達も少し違和感を感じてアリースソン伯爵に食い下がったのだよ。だけど、それが伯爵が知る全てだと言われてしまったのさ。」
エルリックが言う。
「その違和感の内容が何なのかグループAで考えたんだ。だけどケイトリンが言った蓄えや資金収支の違いには考えが及ばなかった。」
ユリアが言う。
「ケイトリン。凄いわ。今の考え方をグループAの2つの課題に当てはめたらどうなるかしら?」
ケイトリンが言う。
「えーっ。わたくしが言うよりグループAの誰かが言う方がいいんじゃない?」
フランクルが言う。
「そうだな。えーと。ケイトリンの蓄えや資金収支を考慮すると、予算捻出策は前年の納税額だけでなく領主家の資金供出余力も考慮すべしということになる。」
エルリックが言う。
「そうすると、不満抑制策も同様に領主家の生産量と資金供出余力を考慮した延べ払いということだね。」
ケイトリンが言う。
「領主家の資金供出余力って、生産量も関係するけど平常時の支出の傾向によって変わるわよ。例えば、再生産や生産量増大の投資の支出もあるけど、贅沢品購入が多い支出などもあるわね。」
フランクルが言う。
「それなら、全領主家の財務状況を調査した上で、領主家の前年の納税額と支出傾向に応じて負担額を決めるといいだろう。生産量増大のための投資が必ずしもすぐに成果が出るわけではないからね。また、支出抑制して蓄財していた領主家が多く資金供出してくれるなら将来の生産量増大に便宜を図るとかね。」
ユリアが言う。
「はい。これでグループAの課題は大体片付いたわね。グループAはそちらでまとめていいわよ。グループBはこれから考えるわ。反皇帝派閥の構成員が、歴史的な経緯の反目領主家のほか、負担額に不満があって反目する領主家もいるかもね。」
ケイトリンが言う。
「負担額に不満がある領主家には、フランクルが最後に言った、将来の生産量増大に便宜を図るとかの支援を約束できるといいわね。そうすれば、こちらに靡いてくれて反皇帝派閥の切り崩しにも、勢力再編安定化策にもなり得るんじゃない?」
ユリアが言う。
「ケイトリン。なんて頭がいいの。頭脳明晰で冴えすぎだわ。」
ケイトリンが言う。
「ユリア。それはわざとらしいわよ。問題が残っているでしょう。約束できる支援の中身が問題なのよ。」
ユリアが言う。
「ケイトリン。鋭い指摘よ。でも、農業生産の増大に関しては、既に目途が立っているの。新たな用水路開削や農地の開墾や土壌改良等に使える魔法技術が開発されて実用化間近なのよ。近いうちに実際に見て実感するといいね。」
ケイトリンが言う。
「ユリア。凄いわ。是非見てみたい。その魔法技術を生産量増大の支援策に使えば、どんな領主も反目を止めて反皇帝派閥から離反するはずよ。派閥の切り崩しにも勢力再編安定化にもなるわ。これでBグループの課題も解答が書けるわね。わたくしが書いていいかしら?」
ユリアが言う。
「ケイトリンが始めに考えたことだから当然だわね。魔法技術の詳しい内容が必要だったら言ってね。わたくしも少し書くから。」
淑女教育のグループAとグループBは、共に今日の昼過ぎに解答書を提出した。
ナリア座学講師は、両グループの解答書を採点して批評を開示した。
「皆さん。予想以上の早さで解答書を提出できました。採点結果と批評を開示します。グループA採点結果100点。グループB採点結果100点。両グループ共同200点。
アリースソン伯爵には、子供たちの問い合わせに対して一部のみを答えるよう頼んでいました。実際の政策は解答書の通りです。グープAは未知の部分をよく考えついてまとめました。
グループBも懐柔策によって反目派閥にくさびを打ち込むことや、その懐柔策として将来に渡る生産量増加が可能な技術提供の約束をすることによく考えつきました。現在確定しているのは農業生産力の増大のみですが、これにはユリア受講生の開発成果がすぐに役立つものとなっています。」
ケイトリンが言う。
「ユリア。凄いわ。わたくし達も100点をもらえたのよ。ユリアにヒントをもらいながら、自分の経験や学習したことを思い出して必死で考えたのよ。淑女教育初日からうまく課題を熟せてうれしいわ。」
フランクルが言う。
「ケイトリンもエルリックも、気を緩めるなよ。教育はまだ始まったばかりだ。今後、どんな難問課題が出るか分かったものではない。」
ナリア座学講師が言う。
「皆さん。お疲れさまでした。今回の課題は予定より1日半も早く終わったので、その時間はフリーの時間とします。ただし、4人でまとまって行動することとします。街への外出は禁止です。領主館の城郭内であれば、どこでも見学可能です。」
エルリックが言う。
「わたくしは、ユリアが言ってた用水路開削や農地開墾や土壌改良の魔法技術の開発現場を見学したいな。ナリア座学講師。許可をもらえるでしょうか。」
ナリア座学講師が言う。
「承知いたしました。先方へは試験中の状況を見学できるように先触れを走らせます。建設土木部門の試験現場まで、わたくしが先導してご案内いたします。」
((ナリアさん。座学1日目からすごい課題を出しましたね。さすがによく教育されたお三方でした。課題に対してよく考えて情報を入手してきましたね。このまま行けば、数十年後?のこの国も安寧安泰です。))
少女は子供3人組を座学で鍛えました。おかげで1日半の余裕時間が作れました。子供3人組は農地開墾や用水を開削の物凄い魔法技術に腰を抜かすでしょうか。それではまたお会いしましょう。




