72.少女はハンター資格1級の講習を受ける
少女はハンター資格1級保持者に必須の貴族対応講習を受講します。
ーーー 場面はアリースソン伯爵領主館
ユリアは自ら目覚めて洗顔や体調管理を終えた。椅子に座って少し待つとナリアが入って来て着替えの手伝いをしてくれた。
ナリアが言う。
「おはようございます。今日は何か楽しみなご予定がお有りのようですね。お顔がウキウキとして待ちきれないご様子ですよ。」
ユリアが言う。
「ナリアさん。おはようございます。そんなに顔に出てますか?でも、締まりのない顔を晒してしまっても、ナリアさんがやんわりと指摘してくださるから安心ですわ。今日はハンターギルドで1級資格者の講習を受けるのです。」
ナリアが言う。
「それは楽しみでございますね。どのような内容でごさいますか?」
ユリアが言う。
「今日は、お貴族様に対する礼儀作法の講習ですの。ギルド長が講師をされるのです。ギルド長のスサーナ様は、アリースソン伯爵夫人の従姉妹なのですよね。」
ナリアが言う。
「さようでございます。お二人はとても親しい間柄で、時々お茶会などされています。ソルフィーナお嬢様もお元気になられてからは、ご参加されてますよ。」
ユリアが言う。
「なるほどね。ギルド長が、わたくしのポーション作りの情報をどこで入手されたか分かりました。いろいろな情報源をお持ちのようですね。」
ナリアが言う。
「わたくしは、ローザンヌ様にお仕えするようになって、スサーナ様の事もお小さい頃からよく存じ上げております。スサ」
ユリアが遮るように言う。
「そこまでです。ナリアさん。それ以上は言わなくていいです。スサーナ様、いえ、ギルド長は、自ら情報を集めて的確なご判断をなさるお方とお見受けしました。わたくしも、そのお陰で3級から1級への飛び級受験できたし、合格も出来たのです。」
ナリアが言う。
「申し訳ございません。ユリア様。わたくしも、そのことをお伝えしようとしていました。そして、ユリア様はスサーナ様によく似ていらっしゃいます。」
ユリアが言う。
「えっ。そうなのですか?少し気をつけなければ。似たもの同士は反発し合うとよく耳にします。でも、あの時は、弓矢勝負に勝ってはしゃぐ私を大人の対応で許して下さいました。やはり年期が違うのですね。」
ナリアが言う。
「そういうことにしておかれるのがよろしいかと。あ、そうでした。近くお二人は、お茶会をなされるようですよ。ソルフィーナお嬢様もご参加されます。ユリア様もいかがですか?」
ユリアが言う。
「いいえ。わたくしは、たぶんお二人のお話しには付いていけないでしょう。わたくしがお茶会で楽しめるのは、エプロンをしたメイド姿でお茶をお煎れするときくらいです。大公殿下とのお茶会でそれを感じました。」
ナリアが言う。
「さようでございますか。残念です。そろそろ朝食のお時間ですよ。食堂までご一緒します。その足で騎士団に護衛を依頼して来ますので、食堂でお待ち下さいませ。」
ユリアが食堂で待っていると、聞き慣れた声が聞こえた。
「おはよーっす。ユリア師匠。今日もご一緒します。よろしくっす。」
ユリアが言う。
「おはよう。イーアン。今日は貴族様対応の講習だから、イーアンには退屈すぎると思うけど我慢してね。」
イーアンが言う。
「そんなことはないっすよ。ハンター資格1級の猛者ばかりの中に子供が混じったら、どんなことがおきるか、いまから楽しみっす。」
ユリアが言う。
「イーアンて、なんでも楽しみにしてしまうのね。私、いつか言おうと思ってたけど、今が言い時ね。アリースソン伯爵家の使用人や騎士団の人達って、皆さん、なんか楽しみが少なすぎじゃないの。娯楽や遊びをする暇もないくらい忙しいのかしら?ひょっとして、私やデイビードお父さんが居候してるからなの?それなら、私はもう少しでここを出て行くから一人分は楽になるわね。」
イーアンが言う。
「忙しいのは確かっすね。お客さんが居ればその分仕事が増えるのも確かっす。でもメイド達も賄いの時間はあるし、休憩もちゃんと取っていると思うっすよ。仕事が増えた分は、効率を考えてテキパキやるし、熟せない分は応援を頼むし、プロのメイドチームなんすよ。みんなで面白い楽しみのネタを探すのは仲が良い証拠っすね。」
ユリアが言う。
「イーアン、随分とメイドさん達のことに詳しいわね。さては特定のいい人がいるわねぇ?」
イーアンが言う。
「えっ。ばれちゃあ仕方ないっすね。キッチンメイドのメラニーっす。俺、彼女の落ち着いた雰囲気で頭が良くて顔も可愛いところにメロメロなんす。」
ユリアが言う。
「あぁ。メラニーさんって、私のことを聖女様って言った人ね。イーアンから言っといて。私は儚げでもないし過重労働を強いられてもいない、ただの元気な子供だってね。」
イーアンが言う。
「なんすかそれは。聖女様はただの例えっすよ。たぶん誰も本物の聖女様がどういう人かは知らないっす。だけど、人の病や怪我を無償で癒やして廻る女性に対して、神の領域の称号を贈るのは別に不敬でもないと思うっす。」
ユリアが言う。
「素晴らしい考え方ですね。何だか、イーアンに言いくるめられた気がします。これが取りも直さずメラニー効果というものなのですね。」
イーアンが言う。
「何を訳の分からん冗談言ってるんすか。ほら、もうハンターギルドに着きましたよ。俺はギャラリーサイドで見てますから。面白いところを見せて下さいっすよ。」
ハンターギルドの2階講習室には既に10人ほどがいて、数名ずつのグループで話しをしていた。ギャラリーサイドにも8名がいて見下ろしている。講師はまだ来ていない。
ユリアはなじみの顔を見つけて近づいて行った。副ギルド長のシルツビーもユリアに気がついて渋い顔で笑いかけた。
すると、そこに横から大柄で背の高い男が寄って来てユリアの上腕を掴んだ。
大柄の男は掴んだ手を離し、ユリアの前に立って言う。
「おう、嬢ちゃん。ここは子供の遊び場じゃねえぞ。どっから紛れ込んだんだ?子供はお外で元気よく遊ぶもんだぞ。それくらいのことも知らねえのか。」
((あれっ。もうこれは講習が始まっているのかな。言いがかりのさくら役の人ね。))
ユリアは言う。
「あら。レディの腕を掴んだりして乱暴な殿方ですこと。確かにここは子供の遊び場ではございませんね。でも大人の遊び場でもございませんことよ。そこをどいて下さらないかしら。わたくしはここで遊ぶつもりはありませんのよ。」
大柄の男は顔を真っ赤にして怒り狂った風で言う。
「なんだとぉ。このメスガキが。つまみ出してやるからそこを動くなよ。」
大柄の男が両手を広げて逃がさないようにユリアに迫ったとき、シルツビーが横から大柄の男の片腕を掴んで言った。
「そこまでだ。これ以上やるとお前の方が殺される。この人はワイバーン5頭連続撃ち落としのクロエ1級ハンターだ。次に同じような無礼を働くとお前の脳が焼け焦げるぞぃ。」
大柄の男は、シルツビーの言葉を聞いてスゴスゴと離れて行った。
シルツビーは言う。
「済まねえな。あいつも1級ハンターに成りたてなんだ。粋がってばかりでまったく躾がなってないが、今日のところは俺に免じて許してやってくれ。」
ユリアが言う。
「副ギルド長さん。危ないところを助けていただきありがとう存じます。危うく接近戦の秘技で喉元に槍の止めを刺すところでしたわ。はじめのうちは、これは講習の一環だとばかり思っていましたの。」
シルツビーが言う。
「いや。実際そうだったんだ。あの男にはお前に言いがかりをつける役を頼んだ。だがお前がビクつくどころか貴族の応対で来たから返す言葉がなくてパニックにでもなったんだろう。済まなかった。」
ユリアが言う。
「いいえ。お気になさらずに。わたくしも貴重な経験をさせていただきました。あまり挑発し過ぎるのも身を滅ぼす元になりかねませんもの。講習の始まりとしては秀逸の余興でございました。」
シルツビーが言う。
「いや。お前に対する講習はこれで終了だ。既に貴族家の客人で貴族の中で生活し、大公殿下とも渡り合うお前に、これ以上の貴族対応講習は必要ない。」
そこに、ユリアの背後から拍手しながらギルド長のスサーナが近づいてきて言う。
「いいえ、まだですよ。ユリア、いや、クロエ1級ハンター。貴女には、次のアリースソン伯爵夫人とわたくしとのお茶会に出席してもらいます。」
ユリアが言う。
「あ。ギルド長様。おはようございます。申し訳ございません。そのお茶会につきましては、メイドのナリアさんから聞かれて辞退申し上げたばかりでございます。」
ギルド長が言う。
「いいえ。これは、貴女に対する1級ハンター講習の一環です。辞退は許されません。明日の午後2時半から、アリースソン伯爵家のサロンテラスのガゼボですよ。
設定は、貴女は伯爵夫人の末娘でソルフィーナの妹です。間にほかの兄弟姉妹はいません。わたくしとは、初対面で、わたくしの素性も知りません。二人も教えてくれません。貴女が主導する話題でわたくしを引き込んで退屈させないこと。いいですね。しっかり訓練しておくのですよ。」
ユリアは少し慌てて言う。
「ああっ。すみません。少し質問よろしいでしょうか?」
ギルド長が言う。
「少しだけならいいですよ。」
ユリアが言う。
「ありがとう存じます。ひとつ目、ギルド長にも何か人物設定があるのですね?ふたつ目、自己紹介の機会は与えられますか?みっつ目、目下の者、特に子供は、通常、上位者から話しを振られない限り発言が認められませんが、ギルド長からわたくしに話しを振って下さるのですか?」
ギルド長が言う。
「ひとつ目はYESです。ふたつ目もYESです。みっつ目は場合によります。」
ユリアが言う。
「ありがとう存じます。」
ギルド長が言う。
「さて、クロエ1級ハンターはもう帰ってもいいですよ。しっかり準備しておくのですよ。」
ユリアはイーアンを伴って帰路を急いだ。明日のお茶会のことがずっしりと重くのしかかっているようだ。
イーアンが言う。
「師匠。あの大男は結局なんだったんすか。」
ユリアが言う。
「あの人はギルド側が仕込んだ言いがかり付け役のさくらだつたの。でも、演技下手で臨機応変の対応力もなかったから、私の貴族対応にパニックになったみたいよ。副ギルド長が止めてくれなかったら、私、あの人の喉を切り裂くか脳味噌を焦がしたかも。私も、もっと冷静に対応しなきゃね。明日はギルド長を迎えて伯爵夫人の末娘役でRPGお茶会ですって。まったく脳味噌が焦げそうよ。」
イーアンが言う。
「今後もそんな輩が突っかかって来ると思いますよ。気をつけて下さいっす。それにしても、1級ハンターともなると貴族対応があるから大変っすね。でも、デイビード殿とソルフィーナお嬢様との婚姻がなれば、師匠は伯爵夫人の孫娘になるんすよ。ひと足先に孫娘から昇格して末娘になるだけじゃないすか。より近しくなってアリースソン伯爵家に確固とした基盤を築くのもいいっすね。」
ユリアが言う。
「イーアン。お気楽でいいわね。ギルド長に、末席の身でお茶会の話題をリードせよという理不尽な課題を突き付けられたのよ。ギルド長も架空の人物を演じるというし。何も情報がない相手の興味を引いて話を続かせるなんて、イーアンにしかできない芸当ね。」
イーアンが言う。
「いやーぁ。それほどでもないっすよ。要するに、話題の種類や内容というより師匠自身に興味を持つように仕向ければいいんじゃないすか?どうせ伯爵夫人の末娘という設定自体が架空の人物ですから、どうとでもなりますって。もっとも、ずっとお屋敷で箱入り娘をやっていたというのは最悪っすよ。もっとドラマチックな展開を予想させるんすよ。例えば、小さいときにあの悪徳筆頭執事に人買い組織に売り払われたけど、うまく森に逃げ込んでデイビード殿に助けられたとか、取っ掛かりとして最高っすね。これで興味を引かないご婦人はいませんて。」
ユリアが言う。
「イーアン。なんて素晴らしい提案でしょう。今日はイーアンの頭が冴えまくっていますね。その案、そっくりいただきますよ。結果についてはわたくしが全責任を持ちます。それにしても、メラニー効果って凄すぎですね。私もメラニーさんに会って薫陶を受けたいです。」
イーアンが言う。
「だからぁ。メラニー効果って何ですか?メラニーはキッチンで働いているっすから、行けばすぐに会えるっすよ。ただし、行くときに言ったように、結構忙しいから休憩時間か賄の時間にいくのがいいっすよ。」
ユリアは言う。
「そうするわ。イーアン。今日はありがとうね。早速、伯爵夫人やソルフィーナお嬢様に末娘物語の仕込みをしなくっちゃ。」
翌日の午後2時半少し前。ユリアはソルフィーナとともに、サロンの丸テーブルで伯爵夫人の両隣りの席に座ってゲストの到着を待っていた。ほどなくしてギルド長スサーナがサロンに入ってきた。
((さあ。ここから勝負よ。))
伯爵夫人が、ユリアを自分の末娘だとスサーナに簡単に紹介した後、スサーナを久しぶりに会う旧友のスザンナだと簡単に紹介した。
そして、ユリアに自己紹介を促して言った。
「ユリア。わたくしのお友達にしっかりご挨拶しなさい。」
ユリアは一歩前に踏み出してスザンナの前でカーテシーをして言う。
「お初にお目にかかります。ローザンヌが末娘のユリアと申します。わたくし、実は数年前に人買いにさらわれまして、ついひと月ほど前に森から生還したばかりでございます。教育期間が短くご挨拶の作法も未熟ではございますが、どうぞよろしくお願い申し上げます。」
ギルド長ことスザンナが言う。
「はいユリア。楽にしていいですよ。スザンナです。名前で呼んで下さいね。貴女のお母様の古い友人です。いま、ひと月の急拵えとは思えないご丁寧な挨拶をいただきましたわ。お茶会の席で詳しく伺ってもよろしいかしら?さらわれた経緯とか森での生活や帰還に数年かかった理由などをね。」
ユリアはローザンヌとソルフィーナをちょっと見遣って言う。
「はい。もちろんでございます。少し当家の恥を晒す事になりますので、母や姉には話しづらいこともあろうかと存じます。でもわたくしは、さらわれた件こそ当事者ですが、数年の空白期間で第三者の立場で話す事が出来ます。母からも姉からもスザンナ様にきかれたことは隠さず話して良いと許可を得ております。」
4人はサロンからテラスのガゼボに場を移した。ローザンヌとギルド長ことスザンナが対面に座り、ソルフィーナとユリアがその間に座った。
ローザンヌが話しの口火を切った。
「スザンナ。随分久しぶりね。貴女とはたまに手紙をやり取りしていたけど、この家で起きていた異変のことはなにも書かなかった。けれど、ユリアが挨拶で衝撃的なことを口走っちゃったわね。ユリアにきっちりと責任を取らせるから、貴女が知りたいことがあったらユリアに聞いてね。」
ギルド長ことスザンナは、してやられたとでもいう顔で言う。
「そうね。でも、当初のユリアを困らせる計画は、ユリアに完全に返り討ちにされて意味をなさなくなったわ。早くも降参して役回りの設定はお終いにしましょう。では、わたくしのことをあまり知らないユリアのために、正直ベースで自分のことを簡単に話すわね。
わたくしは、ローザンヌと一緒に最後の淑女教育を受けた数日後に家を飛び出して、ハンターとして放浪の旅に出たの。身を守る術は弓術と火魔法と身体強化魔法と護身術よ。これだけあれば女一人でもなんとかなると思ったの。あちこちの国で獣を狩ったり魔物を討伐しているうちにハンター資格がどんどん上がっていったわ。今は久しぶりに帰ってきたこの国のこの街でハンターギルド長をしているの。どうかしら、ユリアの興味を引いたかしら?」
ユリアが言う。
「伯爵夫人、ソルフィーナお嬢様。人物設定は解けてしまいましたが、わたくしが話をしてもよろしいでしょうか?」
伯爵夫人とソルフィーナが頷いて承諾する。
ユリアが言う。
「スサーナ様。お話はわくわくしながらお聞きしました。先日の弓矢勝負では生の腕前を拝見いたしました。確かにあの凄腕があればどこに出ても怖いものなしですね。ここで、スサーナ様の名誉のために告白いたします。実は、あの勝負でわたくしは一発必中かつ百発百中の秘術を使ってしまったのです。これを使わなければ半分は的から外れていたでしょう。」
スサーナが言う。
「わたくしもそんな気配は感じていたわ。あの時のわたくしのスコアは過去最高点だったのよ。それを軽く上回り黒丸を一本も外さない技量など、もはや神の領域であるとさえ思う。人にそのような秘術が使えるとは、思い出してみれば一度だけ噂に聞いたことがあるわ。シングラーツ王国ヴィルダー辺境伯領に一発必中かつ百発百中の称号をもつ騎士がいるとね。」
ユリアが言う。
「その噂の人物こそ、わたくしの仮の父親のデイビード・ヴィルダーその人です。わたくしはデイビードお父さんに森で拾われました。そして、仮の娘かつ一番弟子として厳しい教育訓練を受けてその秘術を習得いたしました。そのほか、ポーション調合や、狼の群れとの接近戦の秘術も習得しました。」
スサーナが言う。
「ある程度は知っているわ。ガスゴーシュが手紙に書いてきたのよ。狼の群れをバッタバッタと倒していく二人連れに助けられたこと。ひとりはまだ年端もいかない幼女だと。
しかも、護衛騎士の重傷者に対してなんの惜しげもなく高価なポーションを使って神の領域の治癒を施したとあったわ。ガスゴーシュは、そのときソルフィーナのことを考えたに違いないのよ。あ奴の鋭い勘と素早く思い切った対応には恐れ入るしかないわね。
ところで、ユリアは今後どうするつもりなの。既にハンター資格1級を持っているから、どこの国に行っても歓迎はされるけど。」
ユリアが言う。
「わたくしもスサーナ様と同じように、世界を股にかけてハンターをやっていこうと考えています。でも、これから1年ほどは蝗害対策とオスムール帝国の復旧に少し関わるつもりでいます。
スサーナ様は、オスムール帝国の東部乾燥地帯には行ったことがございますか?」
スサーナが言う。
「わたくしは一度だけ行ったことがあるの。見渡す限り広く起伏の少ない平坦地となっているわね。乾燥地帯と言っても短い雨期には背丈の低い草は生えるようです。そこが蝗大発生の始発点というわけだね。でも広すぎて大発生場所を特定することが難しそうな気がするわ。」
ユリアが言う。
「そうでしょうね。わたくしは大発生場所を特定する方法を既に推測しています。周囲よりも少しだけ低くて窪んだ部分で、乾季になっても最後まで表土の下に水が残りそうな場所です。蝗の成虫はここに集まって来て卵を産み付けます。卵が孵って幼虫が密集して群生することで性質が変わり飛翔能力も高くなるという推測をしています。だから、幼虫の段階で焼き払う蝗幼虫殲滅作戦を実行させてくれるようにオスムール帝国に交渉中なのです。」
スサーナが言う。
「ガスゴーシュからの手紙で知っているよ。ユリアがシングラーツ王国ヴィルダー辺境伯家を動かしたのが現在の2国共同体交渉団の始まりだとね。既に、幼虫焼き払い作戦も考案し、ポーション大量製造の基盤も作ったというではないのよ。これ以上、何をすることがあるのかしら?」
ユリアが言う。
「はい。蝗幼虫殲滅作戦で焼き払った後の焦土を耕作地に変えて食糧を増産するのです。今年の窮乏には間に合いませんが、将来的に3国の友好協力体制を構築する基礎とするのです。耕作地を作るための基礎的手段は、既にアリースソン伯爵家の建設土木部門の研究者に伝授済みです。彼らが開墾や用水路開削向けの効率の良い手段を開発してくれるでしょう。」
ローザンヌ伯爵夫人が言う。
「ユリアの大望を実現するには、有力な貴族家や国家機関を動かすことが必要のようですね。そのためユリアには、ハンター資格1級保有者としてだけでなく、貴族家の令嬢としても、もう少し本格的な淑女教育を施す必要がありそうに思いますわ。いかがかしら。スサーナ。」
スサーナが言う。
「そうだね。そこまでの大望なら、現状では不足かも知れない。ローザンヌ、頼めるかな?」
ローザンヌが言う。
「まかせてちょうだい。王侯貴族に通じる淑女に育て上げます。」
((ええーっ。なんか藪蛇だったみたい。わたくし、ほんとに、田舎村の貧乏農家の子供なんですけど。大望の実現方法では有力者や権力者を動かすのが一番効率良くて速いのは分かりますよ。でも、それって、見かけよりも疲れそう。))
少女は講習会のハプニングを難なくやり過ごしました。その後のお茶会での話題主導課題も課した相手を返り討ちにしてしまいました。大望を話したらなぜか淑女教育が飛び出しました。どうなるのでしょう?それではまたお会いしましょう。




