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70.少女はハンター資格1級を目指す

少女はハンター資格1級の取得のため試験を受けにハンターギルドに行きます。

ーーー 場面はアリースソン伯爵領主館


 ユリアは自ら目覚めて洗顔し体調を整えて椅子に座って考え事をしていた。そこに、メイドのナリアが入ってきて挨拶をしながら着替えの手伝いをする。


  「おはようございます。ユリア様。このところよい睡眠がとれていらっしゃるようですね。今日もすっきり顔で朝から元気一杯に見えますよ。」


 ユリアが言う。


  「おはようございます。ナリアさん。一昨日と昨日の新魔法技術の開発試験が予定通り上手く出来たので、気分が晴々しているのです。」


 ナリアが聞く。


  「まあ。それはようございました。でも、騎士団訓練場にはいらっしゃらなかったようでしたが。どこで試験なさったのでしょう?」


 ユリアが言う。


  「建設土木部門の試験場なのです。ソルジエン副団長さんに相談したら、魔法の用途に合致する部門をご紹介いただいたのです。ナリアさんには無駄足を踏ませたようでごめんなさい。」


 ナリアが言う。


  「いいえ。ちっとも問題ありませんよ。ところで、新魔法技術はどんなものなのでしょう?」


 ユリアが言う。


  「食糧増産のための用水路開削用途の魔法技術です。新農地の開墾にも応用できます。建設土木部門の研究者ビルメルクさんが、研究開発が一気に実用段階に入ったと喜んでくれました。」


 ナリアが言う。


  「さようでございましたか。ユリア様のご貢献はもはや留まるところを知らない勢いでございますね。最初がソルフィーナお嬢様の全快、次がお家騒動の暴露、更にポーション製造技術の供与、そして食糧増産向け魔法技術開発と続いています。貢献範囲も、この領主家、この領地、この国へと広がっています。ユリア様はもう既に聖女様を超えた存在におなりです。」


 ユリアが言う。


  「ナリアさん。わたくしは、お見かけ通りのただの幼児ですからね。たぶん、まだ聖女様のご年齢を超えてはいないし、聖女様の行いの上をいく仕事もしていません。決して聖女様を超えた存在などではございませんよ。それに、今日はこれから子供らしくわがままを致します。あしからず。」


 ナリアが言う。


  「はい。承知致しました。ユリア様がご年齢を引き合いに出されるのは、ユリア様一流のご謙遜の表現と存じております。ところで、今日のわがままとは、どのような事でございますか?」


 ユリアが言う。


  「もう。ナリアさんにはかないませんわね。今日はハンター資格1級の受験を考えています。朝食後に直ぐハンターギルドに行って、帰りは夕方です。ただ、受験させて貰えるかは微妙です。3級からの飛び級ですから。」


 ナリアが言う。


  「なるほど。そのような特例措置があるかは存知ませんが、ご幸運をお祈りいたします。それでは食堂までご一緒します。わたくしは、騎士団に護衛を一人依頼してきますので、食堂でお待ち下さいませ。」



 ユリアが朝食を終えて待っていると、聞き慣れた声でイーアンが挨拶した。


  「ユリア師匠。おはようーっす。今日も何か面白いことになりそうっすね。よろしくお願いしまっす。」


 ユリアが言う。


  「あ。イーアン。おはよう。今日はハンターギルドに行くだけだよ。残念だけど面白いことは何もないと思うよ。でも規則のようだから護衛お願いね。それじゃ、早足で行くわよ。」


 イーアンが言う。


  「もちろんっす。1級受験出来るといいっすね。」


 ユリアが言う。


  「そうね。でもこればかりは運頼みしかないね。」


 イーアンが言う。


  「ユリア師匠は強運を引っ張り込む人だからね。今日はどうなるかなって、みんなそこが一番の関心事で面白いところなんすよ。」


 ユリアが言う。


  「まさか、みんなで賭けの対象にしているんじゃないでしょうね。」


 イーアンが言う。


  「正に、その通りっす。勝たせて下さいよ。」


((やっぱりこの伯爵家の人達って娯楽や楽しみが少なすぎだわ。私に出来ることって、いまのところ楽しみのネタになってあげることくらいかしら。))


 ユリアが言う。


  「まっ、イーアンがどちらに賭けているか知らないけど、私は自分の望みを叶える(かなえる)方向に頑張るだけよ。」



 ユリアとイーアンは話しながら早足で歩き、すぐにハンターギルドに着いた。ドアを開けてホールに入ると、20人ほどいたハンター達の全員の視線を浴びた。ワイバーン討伐の噂が広まっているようだ。


 ユリアが、いつもの受付窓口のカウンターに取り付いて受付職員に依頼する。


  「受付のお姉様。今日はご相談があって参りました。」


 受付職員が言う。


  「はい。どのようなご相談でございますか?」


 ユリアが言う。


  「実は、まだハンター資格3級ですがハンター資格1級の受験のための魔物討伐経験数を達成したのです。そこで今日即日で3級のまま、ハンター資格1級の能力確認試験を受験させてもらえませんかというご相談です。」


 受付職員が言う。


  「はい。承知致しました。この受付窓口では、魔物討伐経験数を証明者2名で確認出来れば、ギルド幹部である副ギルド長に手続きを回せます。」


 ユリアが言う。


  「あっ。2名必要なのですね。分かりました。これからソルジエン様を呼びに行って出直します。」


 そこまで言ったところで聞いたことがあるだみ声でシルツビーが言う。


  「嬢ちゃん。帰る必要はないぜ。俺がもう一人の証人だ。こっちで相談を受けてやるぞ。ほら、相談室に行くぜ。ただし、俺が通してもまだギルド長の関門があるからな。」


 ユリアが言う。


  「ありがとうございます。シルツビー副ギルド長さん。よろしくお願いします。」


 シルツビーが言う。


  「申し込み書を見せろ。うむ。特例措置希望欄も問題ないな。さすがだぜ。よし。俺の確認サインは済んだ。あとは、ギルド長の審問だ。それが通れば受験出来るぞ。上手くやれよ。」


 ユリアが言う。


  「シルツビー副ギルド長さん。ありがとうございます。わたくしが自分で申し込み書類を持って行くのですか?」


 シルツビーが言う。


  「ああ。ここではそうなっている。」


 ユリアは頷いて、ギルド長室のドアを叩く(たたく)。


  「ギルド長様。ユリアと申します。本日、即日でハンター資格1級の能力確認試験を受験させていただきたく、お願いに上がりました。」


 部屋の中から声がする。


  「あら。分かりました。お入りなさい。いまちょうどお茶にしようとしてたところよ。」


 ユリアがドアを開けて部屋に入る。


  「失礼致します。お初にお目にかかります。ユリアと申します。ハンター資格登録名はクロエです。どうぞよろしくお願いします。」


 ギルド長が言う。


  「これはご丁寧な挨拶をいただきました。わたくしは、ギルド長のスサーナ・フランソワールです。一応、皇帝陛下の姪ですが、親からとうの昔に勘当(かんどう)されて今はここにいます。スサーナと呼んでね。よしなに。


 さて、3級からの飛び級で1級受験申し込みですか。それでは、お茶をいただきながらお話を伺いましょう。ユリア、貴方がお茶を煎れるのですよ。」


 ユリアは少し戸惑ったが、すぐにお湯ポットと茶葉とカップを確認しながら言う。


  「スサーナ様。お茶は少し熱めがお好みでございますね。この茶葉の風味と口当たりが最も楽しめる熱さですもの。はい。どうぞお試しくださいませ。」


 ギルド長が言う。


  「あら。貴方、ハンター志望の割にはお茶に詳しいのかしら?いただくわ。・・・ふーん。なかなかやるじゃない。ここまでおいしいのは、自分でもめったに煎れられないわ。何か秘密の修行経験でも積んだのかしら?」


 ユリアは言う。


  「特に秘密ではございませんが、アリースソン伯爵家で一度、大公殿下にお茶を煎れさせていただいた経験がございます。」


 ギルド長が言う。


  「ふーん。クリューソス伯父様にねぇ。おいしいって言われたでしょう?あのお方は人を貶す(けなす)ことがないの。」


 ユリアが言う。


  「確かに、おいしいとお褒め下さいました。」


 ギルド長が言う。


  「他には何が出来るのかしら?ハンター資格1級だと貴族や皇族との面会やお付き合いが必要なのよ。」


 ユリアは少し考えて言う。


  「歌や横笛とバイオリンの演奏などの音楽が出来ます。相手のドレスやお召し物を褒めることが出来ます。カーテシーは形だけ出来ます。行政政策や災害対策などの議論や具体的立案が出来ます。」


 ギルド長が言う。


  「これはまた大きく出たわね。でも自信たっぷりに言ったところを見ると、何か実経験が有りそうね。今の蝗害対策かしら。じゃあ、出来ないことは?」


 ユリアが言う。


  「ダンスは踊ったことがありません。お酒は飲めません。」


 ギルド長が言う。


  「まあ、見たところ、それは無理そうね。


 いいでしょう。貴方がここでハンター資格3級を受験したとき、能力確認筆記試験は満点、能力確認実技試験の魔法攻撃威力確認は1級レベル以上、物理防御と魔法防御の耐性確認も1級レベル以上で問題ないから免除するわ。あっ。以前、貴方には2級以上と教えたけど慢心しないようにとの配慮だからね。


 ほかに2級以上で必要な能力にポーション調合があるけど、既に実績があるようだからこれも免除ね。


 あとは、対魔物の接近戦を模擬した対人戦闘の実技試験ですが、飛び道具でもない槍でワイバーンを撃ち落とせる受験生に、我こそはと対峙できる試験官がいません。強制的にやらせるのもかわいそうじゃない?だからこれも、受験資格取得用の実戦で実力証明済みとして実技試験免除するしかないわね。


 と言うわけで、ギルド長権限でハンター資格1級試験合格とします。その代わりと言っては何だけど、わたくしと弓矢の勝負をして貰いますからね。わたくし以上のスコアを出すこと。いいわね。何か一つでも実力確認試験をやらないと周りがうるさいのよ。」


 ユリアが言う。


  「分かりました。弓矢は得意です。勝負が必要とあれば喜んでお受けいたします。」


 ギルド長が部屋を出てユリアを伴って半地下の弓術訓練場に行く。副ギルド長のシルツビー、護衛のイーアンが続き、ホールにいた全員がぞろぞろとついて行く。


 弓術訓練場に着いてギルド長が言う。


  「クロエ受験生。ルールを説明します。ここの100mブース2つを使います。1ラウンド10射ごとにブースを交代し、10ラウンド合計100射します。ラウンドごとに的も新しいものに取り替えます。


 スコアは中央の黒丸3点、中のリング2点、外側リング1点とします。各10射の合計点をスコア表に記入します。各ラウンドの最高点30点、10ラウンドで300点満点です。最後まで各自にスコアは知らされません。いいわね。」


 ユリアが言う。


  「分かりました。よろしくお願いいたします。ギルド長様。弓の違いはどうされますか?それも交代でと言われますと、わたくしは、ギルド長の弓ではたぶん100mも飛ばせません。」


 ギルド長が言う。


  「それでは、各自愛用の弓だけで全射通すことにしましょう。クロエ受験生の弓はそれですか?おおっ。それは小さいけど物凄い強弓だわね。いいわねぇ。それじゃー、いくぞー。」


 ユリアがいつもの癖で呼応した。


  「おぉー。」

 

 二人とも矢を放ち始めた。二人ともほぼ3秒間隔で淀みなく放ち続ける。


 ユリアの矢は、すべて的の中心の黒丸に互いに隙間を空けず次々に刺さっていく。


 ギルド長の矢も、すべて的に当たるが、黒丸の中心の周りに隙間を空けて少しばらついて刺さっていく。


 第1ラウンドのスコアは、ユリア30点、ギルド長25点であった。それを見たギャラリーがおおーなどと驚きの声を上げた。勝負をしている二人には周りの声は聞こえない。


 第2ラウンド、ブースを交代して二人が10射を終えた。第2ラウンドのスコアは、ユリア30点、ギルド長27点であった。


 そして最終第10ラウンド、ユリア30点、ギルド長30点であった。


 合計スコアは、ユリア300点、ギルド長が282点であった。ギャラリーから大きな歓声や悲鳴のような騒音が上がった。


 ギルド長がスコアボードを見て言う。


  「うえっ。クロエ受験生はなんで満点なのよーぉ。わたくしも結構手応えを感じていたのよ。絶対に勝てたと思っていたのにぃ。悔しすぎますわよ。」


 ユリアが跳び上がらんばかりに言う。


  「やったー。これで名実ともに一発必中かつ百発百中だわ。しかも的距離100mでよ。イーアン、見てた?私、やったわ。これでデイビードお父さんに追いついた気がする。あっ。ギルド長。はしゃぎすぎました。申し訳ございません。」


 ギルド長が言う。


  「いいわ。許します。子供はそれぐらいがちょうどいいのです。クロエは年恰好に似合わず落ち着きすぎですよ。でも、精進を怠らないでね。わたくしももっと修行して挑戦者としてチャレンジさせて貰うわよ。首を洗って待っててね。」


 ユリアが言う。


  「何だか、不穏な言葉が聞こえた気がしましたが、今日は大変ありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします。」


 イーアンが言う。


  「さすが師匠っす。弓矢の凄腕、しかと見させて貰ったす。今度また魔物討伐に誘って下さいよ。」


 副ギルド長のシルツビーが言う。


  「なるほど。分かったぞい。この弓矢の腕前があるからだなぁ。火を吹きながら急降下して襲ってくるワイバーンと自分の弓矢との相性で勝ちを確信したんだな。それにしても並の心臓じゃねえ。普通の人間じゃ、急降下で襲ってくるワイバーンとなんか対峙すらできねえぞ。」


 ギルド長が言う。


  「わたくしも分かりました。わたくしの判断もシルツビー副ギルド長の判断も、どちらも正しかったのです。たぶん、史上最年少のハンター資格1級のギルド会員証保有者の誕生です。おめでとう。クロエ殿。」


 ユリアが言う。


  「ありがとうございます。ところで、1級は特別な義務があるようですが、講習会のようなものはありますか?」


 ギルド長が言う。


  「ひとつ目は、貴族に対する礼儀作法の講習です。わたくしが講師を務めます。1級保有者をまとめて行いますので、掲示板の日程表を確認してくださいね。ふたつ目はダンジョン攻略の基礎講習です。ベテランの1級保有者が講師となります。これを受講しないとダンジョン攻略パーティーのリーダーになれません。あとは、後進の面倒をよく見てあげることくらいですね。」


 ユリアが言う。


  「ギルド長様。本日は急な即日受験希望に応じてくださいまして、感謝申し上げます。」



 ユリアはイーアンとハンターギルドを後にして、街中を速足で歩きアリースソン伯爵家の領主館入口に着いた。ユリアはここでイーアンと別れ、ひとりで昼食を取りに食堂へ行った。そこには、たまたまデイビードとソルフィーナがいて配膳を待っていた。


 ユリアは許可を得て側の席に同席して言う。


  「デイビードお父さん。ソルフィーナ様。わたくし、本日ハンター資格1級のギルド会員証保有者となりました。お父さんよりも上位のハンターになってしまってごめんなさい。」


 デイビードが言う。


  「ユリア。おめでとう。これで私が教育や指導することは何もなくなった。これからは、大抵のことはお前の意思で行動するのだ。いいな。」


 ユリアは言う。


  「はい。分かりました。まだ短剣術や護身術が残っていたように思いますが、それはナリアさんとかほかの人からでも習います。


 ところで、わたくしは、お父さんに謝らなければなりません。


 実は、昨日、食糧増産に貢献するため、建設土木部門の研究者たちに、一家相伝魔法を応用した用水路掘削用の魔法を指導しました。二人で棒を持って一家相伝魔法の魔力を放射し、もう一人が棒に土魔法の魔力を実体化放射するものです。これにより、従来より100倍以上も効率的に溝掘削ができてしまいました。つまり、一家相伝魔法がもはや陳腐なものになってしまう可能性を内在しています。


 申し訳ございません。わたくしの意思で行動できる範囲を逸脱して、先走った行動でお父さんの実家に大変な不利益を与えたかもしれません。」


 デイビードは言う。


  「なんだ。改まって言うから何かと思えば、そのことか。それは何も問題はないのさ。既に、昨日のうちに建設土木部門のゼルジブ殿と研究者のビルメルク殿が参られて、お前の貢献にお礼を言われてしまった。


 国は違っても、私の実家のヴィルダー辺境伯家と、このアリースソン伯爵家とは親戚同士となるのだ。今後、騎士団長のネイトビアス殿が期待されたように、ヴィルダー辺境伯家側の魔法技術が次々に公開解禁となるだろう。


 既に、マジョルーサ殿から通知が来たように、超特級ポーションの製造技術も国レベルで技術公開された。お前が既に開発したものやこれから開発するものも同じように両国内で共有されるようになるだろう。お前のことだから、武器転用ができない仕掛けはつけてあるのだろう?」


 ユリアが言う。


  「それは秘密です。でも、安心しました。先走りすぎたと少し心に引っかかっていたんです。お父さんが両家や両国をつなぐ架け橋のような立場になるんですね。わたくしも嬉しいです。」


 ソルフィーナが言う。


  「ユリアさん。よかったですね。さあ。料理が冷めないうちにいただきましょう。」




((ハンター資格1級の試験が別にあるかと思えば、ほとんどが3級試験の成績で代用できたのはよかったな。ポーション作りも前からやってたし。接近戦の戦闘実技試験の試験官候補者がいないなんて、私は既にデイビードお父さんの次くらいに強くなっていたんだわ。それにしても、ギルド長にはあれを発奮材料にしてほしいな。))


ハンター資格1級のギルド会員証はすんなり取得出来てしまいました。秘伝魔法が公開されていく機運が出てきたようですね。少女はあと何をするのでしょうか。それではまたお会いしましょう。


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